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組紐ロープの技術を応用 水質浄化など環境分野で成長(ティビーアール株式会社 社長 福井宏海)

キラリと光るスモールカンパニー

掲載内容は取材当時のものです。
現在の情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。


豊橋市の伝統産業である組紐技術を活用し、組紐ロープの国内シェアトップを誇るティビーアール株式会社。

漁業用ロープを皮切りに、顧客の要望に応えて様々な組紐ロープを開発してきた。

一方でロープの繊維が様々な物質を吸着する性質に着目し、河川や排水の浄化、海藻・海草育成から、レアメタルや放射性物質の吸着まで応用分野を広げている。

◇    ◇    ◇

紐は古代から人間にとって貴重な道具であった。1本では切れやすい紐も、何本か束ねて撚れば丈夫になる。撚るだけでなく、編んで複雑に紐を絡み合わせれば、さらに強度は増し、色違いの紐を使えばデザイン性も高まる。このようにして編まれた紐を「組紐」と呼ぶ。組紐は1400年前に大陸から伝わったといわれ、鎌倉時代以降、武士の鎧や兜に使われて普及し、愛知県豊橋市一帯はその一大産地だった。

伝統を引き継ぎながら、組紐技術を深化させ、顧客の要望に応えて様々な機能性ロープを開発し、水質浄化やレアメタル吸着用など環境分野にまで機能を広げてきたのがティビーアール(以下、TBR)だ。

同社4代目の福井宏海社長(56歳)はこう語る。

「かつてはロープをつくる同業が全国で2,800社もありましたが、いまでは400社前後しかありません。また同業といっても、他社のほとんどは撚ることで太くするロープですが、当社のロープは編んで太くする組紐タイプのもので、業界でも珍しい存在です」(以下、発言は同氏)

組紐ロープのほうが撚り紐より強度は高いが、そのぶん、手間が掛かり、コストも高くつく。そのため、TBRは専用の製造機を開発してコストを低減させ、付加価値の高い製品をつくって単価を上げることにより生き残ってきた。組紐ロープでは国内シェア1位である。

TBRはもともと漁業用ロープの製造が主体だった。一口に漁業用といっても種類は様々で、漁網に取り付けるネッティングロープ、おもりを編み込んだ沈子(ちんし)コード、浮きを編み込んだ浮子(ふし)コード、ホタテやカキなどの養殖用に貝を吊すループコード、あるいは海藻・海草類を育てるロープなど多岐にわたる。

とくに1980年に開発した養殖用ループコードによって、ホタテの稚貝の耳に小さな穴を開け、吊して育てる「耳吊り養殖」の作業効率や生産効率が一気に上がった。ホタテの価格が手の届くものになったのは、このループコードのおかげだ。

このとき、TBRは通産省技術改善補助金(当時)を受け、「枝縄を有する組紐ロープの新製造法に関する研究」を行ない、その成果として特殊な専用機の開発に成功した。枝縄とはロープから等間隔に飛び出した枝状の紐を指す。

組紐加工に精通する同社の技術の強みは、ロープから様々なタイプの枝縄を特定の間隔と長さで編み込むことができる点だ。多くの新製品はこの技術の応用である。枝縄を飛ばしたり、長さが違ったりするだけで、製品としては使いものにならなくなるので、不良率をいかに下げるかが肝心だ。同社では不良が発生した際に、コンピュータ制御で機械を止める工夫がなされており、不良品を量産してしまうことはない。

85年に開発したネッティングロープも、特徴的な枝縄を編むことで漁網の着脱をワンタッチで可能にし、操業効率を大幅に高めた画期的商品だ。ロープから枝状に飛び出した大小2類のループ状の枝縄を交互にくぐらせながら漁網に取り付けて固定する構造で、このアイデアにより、同社は世界18か国において特許を取得している。

漁業以外にも、農業、レジャー用、縄跳びなどスポーツ用、落下防止ネットを結束する土木建築用など、組紐ロープは幅広い業界で使用されている。

究極のエコ浄化を『バイオコード』が実現

ネッティングロープと同年に開発した『バイオコード』がTBRが環境分野へ進出する契機となる。バイオコードとは、ロープの周囲に細かい繊維をモール状に加工したものだ。繊維の隙間に微生物が付着し、微生物の働きによって汚れた水を浄化するしくみをもつ。

バイオコードのモール状の構造は隙間が多いため、目詰まりしにくく、多様な微生物が同時に生息できる。汚泥がこびりついても剥離しやすい素材のため、メンテナンスの手間もかからない。紐状なので施工も簡単で、湾曲部など様々な場所に設置できる特徴がある。

バイオコードは電気などを使って汚水を濾過するわけではなく、ただ水中に入れておけば、河川や湖沼などが本来もっている力で水質を浄化できる。砂礫や水草などに生息している微生物がバイオコードに付着し、有機物を分解、微生物は水中の虫などの餌となり、それを魚が食べる。この食物連鎖により、バイオコードもフレッシュに保たれる。究極的なエコシステムといえるだろう。

バイオコードは用途によって様々な形状、素材がラインナップされており、食品・化学工場の排水処理用としてもニーズが高まっている。この他、下水、農業排水などの処理、上水前処理、陸上養殖などの濾過にも活用されている。

全国の河川300か所以上で活用された実績が評価され、96年にはニュービジネス大賞「環境賞」を受賞、97年には科学技術庁長官賞を受賞した。

バイオコードを組み込んだ浄化システムや水リサイクルシステムなど、一連のシステムとして設計・施工する場合もある。海外展開も順調で、現在、中国、韓国、台湾、インドネシア、オーストラリア、カナダ、アメリカ、パキスタンなどでも水質浄化に使われている。

バイオコードの、物質が付着しやすいという構造は様々な製品に応用可能だ。タンカーの座礁などによる油流出事故が起きたときのために、油を吸着する「オイルキャッチャーロープ」も開発した。従来のオイル吸着マットに比べて、効率的に運搬・施工でき、回収も容易である。工場でも機械や加工時の油吸着用としても活用されている。

微生物が付着しやすいということは、魚の卵や海藻類の生育にも最適ということで、ロープ状の産卵用人工藻、海藻・海草育成用ロープも開発する。各地で磯焼け※や漁場回復の取り組みに活用されている。

(※磯焼け…海藻の多くが死滅することにより、それをエサとする生物が減少し、漁業に打撃を与える現象のこと。)

たとえば、2005年には愛知県水産試験場と共同で、三河湾で激減するアラメ(アワビなど貝類の餌となる海藻)の育成実験を実施。11年には伊勢湾でコンブの一種、サガラメを再生するプロジェクトが始まり、TBRの「生分解性海藻育成ロープ」が使われた。サガラメが定着するころにはロープが自然に分解するので海を汚染することもない。また、福井社長自らも「海の森づくり推進協会」というNPO団体の理事を務めており、コンブなど海藻を再生する事業を行なっている。

もともと同社は三陸地方や北海道に得意先が多かったことから、東日本大震災後は東北地方の漁業や農業の復興にも協力している。

海中のレアメタル・放射性物質を回収できるロープ

物質を吸着する特性をさらに活かし、レアメタルや放射性物質の回収用ロープも開発した。

99年に日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)などと共同で、レアメタルを吸着する組紐ロープの開発に取り組み、10年に「レアメタル吸着用モールコード」を開発した。

チタン、パラジウム、金、ニッケル、タングステンなど20種以上の物質の吸着に成功。しかも狙った金属だけを効率的に回収できるようになった。同様にカドミウム、鉛、ヒ素などの有害な物質も吸着できる。吸着させたあと、酸に浸せば物質がはがれ落ち、回収も容易だ。

吸着するしくみは、「量子化学グラフト重合法」という製法で、電子線やガンマ線を繊維表面に照射して分子に化学変化を起こさせ、そこに特定の金属を吸着する官能基(吸着機能)を接ぎ木(グラフト)するというものだ。1種類の官能基を導入すれば、ねらった金属だけを吸着し、複数の官能基を導入することも可能だ。すでに海洋からの回収実験も行ない、成果が上がっている。

放射性物質の吸着も可能で、水中のヨウ素やセシウムなどを吸着するモールコードも開発、実験では容器中の濃度10ppmのセシウムがわずか10分間でほぼゼロになった。今後は、福島第一原子力発電所の汚染水対策などにも活用が期待される。

現在、TBRの売上高は7億2,000万円だが、その内訳は漁業、陸上、環境用がそれぞれ3分の1ずつになっている。海外売上高比率も3割を超え、バランスよく成長している。このように、多分野に展開してきた理由は、顧客のニーズに応えた結果でもあるが、漁業が衰退してきたことも大きな原因だ。

「漁業用だけでは生き残れないので、そのころから新製品開発に力を入れ始めました」

福井社長の伯父に当たる先代社長の伴辰三氏が積極的に新分野への進出を模索し、80年に入社した福井社長がもっぱら1人で開発に従事した。

「先代は昔から循環型社会の重要性を訴えていました。そして、20数年前に地球規模の危機の可能性として、13個のテーマを掲げ、当社の新製品における開発課題としたのです」

13個のテーマとは、水飢饉、食料危機、海洋環境の悪化、化学汚染、温暖化、廃棄物処理などで、最後の13個目には「小惑星の衝突」まで掲げている。

「12個目まではその通りになりました。先代は目に見えないニーズに取り組めとよく言っていましたが、その哲学はいまも会社に受け継がれています」

感激してもらうことが自社の使命

新製品や付加価値の高い製品は現在も国内で生産しているが、量産品はコスト競争が激しくなってきたため、95年に中国上海に現地法人を独資で設立、陸上で使われる組紐ロープを中心に生産している。

上海TBRは従業員108人を数える。税務申告が社員1人当たり2万元を超え、01年に優秀企業として表彰された。地元学校に本やパソコンなどを寄贈し、上海市でわずか35社にしか与えられていない「慈善之星」という栄誉も受けた。

08年には南京大学と共同で研究室を設立、排水処理や湖沼浄化の研究などのプロジェクトを推進している。TBR本社で採用した博士号をもつ中国人技術者を核として、日本からも交代で技術者が派遣されている。10年には新たにTBR上海事務所を開設し、環境事業の研究開発を本格的に展開し始めた。

かつては福井社長1人で新製品の研究・開発を行なっていたが、当初はなかなか売れなかったという。営業が売りにいっても売れないが、福井社長が自ら出向いて何が付加価値で、何が新しいのか説明すると売れる。「製品ではなくソフトを売っているのだ」と、そのとき気づいたと福井社長は言う。現在では技術者が6名おり、それぞれがテーマをもって日々研究に取り組みながら、同時に顧客先にも自ら出向き、営業マンとしても機能している。

営業部員は30名で、地域ごとに分担しているが、彼らも独自に複数のテーマをもって活動している。たとえば、ロープの軽量化や、いろいろな海藻の育成用ロープの開発などである。営業でも技術面の勉強は欠かせないわけだ。福井社長は営業と技術がお互いの領域をまたぐ経営を、意図的に行なっている。

それは、自らその価値を信じ、理解していなければ、新製品が生まれないと考えるからだ。福井社長がTBRの商品はソフトであると言うのも、リスクと責任を自分で取る覚悟がないと新製品開発はできず、売れるものにもならないからだ。

「当社の社是は『夢と感動を世界へ』です。皆さんに感激してもらうことが使命ですから、守りに入ったら終わりです。現状を肯定せず、疑問視して開発、改善し続けていくことが生き残る道だと思っています」

13個目のテーマである「小惑星の衝突」防止まではいかないが、TBRでは宇宙ゴミの回収用ロープや、ロボット向けの新製品も検討している。組紐ロープはさらに進化しそうだ。

月刊「ニュートップL.」 2014年5月号
吉村克己(ルポライター)


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