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夢のあるユニークな製品開発に励む“静電気”専門企業(株式会社グリーンテクノ・社長 田中實)

キラリと光るスモールカンパニー

掲載内容は取材当時のものです。
現在の情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。


従業員26人ながら、“静電気”を扱わせれば右に出る者がない専門企業がグリーンテクノだ。静電気を応用した特殊な粉体塗装装置をOEM供給し始めたことをきっかけに、短い繊維状物質を植える静電植毛やナノファイバー生成装置など、ラインナップを広げた。さらには、火花による刺激でキノコを増産させるユニークな装置まで開発した田中實社長に聞いた。

◇    ◇    ◇

「雷が落ちた場所には、キノコがよく生える」という言い伝えがある。実は単なる口伝ではなく、キノコの菌床に高電圧の火花を放電すると、キノコの収量が最大で2倍に増えたという岩手大学の高木浩一准教授による実験データもある。

グリーンテクノは、高電圧火花を使ったキノコ増産装置「らいぞう」を2010年10月に発売した。もちろん、日本初だ。

装置の先端から10万ボルトの人工雷を発生させ、3秒程度の電気刺激を2~3日間で数回、菌床に与えると収量が少なくとも20%増え、生育期間も短縮されるという。価格は48万円だ。同社の田中實社長(64歳)は次のように語る(以下、発言は同氏)。

「いままでにない製品ですからデモ機を40日間貸し出したうえで、効果を実感された方に販売しています。これまでに18台売れました。電気刺激を与えたキノコと与えないキノコとで比較しないと効果がわかりませんし、それ以前に栽培方法の違いによって、2.5倍も増えたケースから数10%増の場合までバラツキがある。今後は栽培農家にも協力を得て、誰でも増産できるように改良していきます。それほど売れるものではないと思っていますが、夢があっていいじゃないですか(笑)」

グリーンテクノは、静電気を活用した装置を開発する専門メーカーだ。静電気といえば、乾燥した時期に金属製のドアノブなどに素手で触ると、「バチッ」と電気が走る迷惑な現象だ。産業界では応用範囲が広く、帯電と放電の現象を利用している。

帯電とは、物質に電荷を与えることであり、たとえば静電気を帯電させることで材料同士を接着したり、仮固定できる。異物の選別や分別も可能で、微細なナノファイバーを生成する技術にも用いられる。
電流を流す放電は、着火装置や機器のノイズ試験に活用されている。キノコ増産装置も放電現象の応用だ。

グリーンテクノは、静電気を発生させる高電圧電源を2000年から販売しており、高電圧だが安全な微弱電流用電源では市場をほぼ独占している。

「小型高電圧電源は大学などの研究機関から企業まで、幅広く研究開発に用いられています。ただ、企業秘密もあるので、どんな使われ方をしているのか、実は当社は把握していないんです」

火花放電でキノコを増産

こうした特殊な電源を扱っていたためだろう、09年夏、愛媛県中予地方局産業振興課の職員から「シイタケの増産のため火花放電を起こす高電圧電源を借りたい」という問い合わせが同社に届いた。

もともと愛媛県はシイタケの一大産地だったが、海外輸入品に押されて年々減少する生産量を復活させたいのだという。田中社長は、雷がシイタケの生長を促すことすら知らなかった。

「安全性を考えると開発に数年はかかると思い、当初、二の足を踏んだのですが、その職員がとても情熱のある方でした。予算は3万円しかないと言うのですが、はじめから『できない』と言わないのが私のモットーです。雷とシイタケの関係も面白く引き受けることにしました」

田中社長は、既製品にケーブルをつないで放電させる簡易装置を作成し、1か月後に愛媛県の職員に送った。安全な使い方を十分に説明して実験してもらうと、なんと1.5~2倍の増産が確認されたという。

雷とキノコの関係を調べ始めると、その過程で、冒頭で述べた岩手大学の高木准教授の研究結果を知った。早速、連絡をとって愛媛県の実験データを持参して訪ねると、高木准教授がもつデータと近いものであることがわかり、「これは商品になると思った」と田中社長は言う。

開発そのものは順調に進んだが、安全性には万全を期した。感電事故を防ぐため、腰に装着するスイッチと電極の手元のスイッチを同時にオンにしないと放電しないように工夫した。万が一、電極から手が離れたら、瞬時に停止するという。

10年10月に新聞発表すると、すぐにマスコミが取り上げ、話題となった。問い合わせが殺到したが、まずは製品としての実証データを集めたいと田中社長は考え、数軒のシイタケ農家の協力を得て、実際に使用してもらった。割合にバラツキはあったものの、総じて20%以上の増産効果を確認できた。

「台湾の大学からも研究したいと依頼があったので先日、らいぞうを1台、送りました。実は振動もシイタケの生長に効果的だという話もあるので、振動装置も製品化したいと思っています。栽培農家によっては増産より、大きくて形のよいシイタケを望むケースもあります。電気と振動の刺激をどのように与えればいいのか、研究を進めているんです。高木先生の研究では、周波数の高い電圧を与えると細胞の働きが変わることがわかり、その原理からガン細胞のアポトーシス(自殺)を究明するなど、様々な派生技術が生まれる可能性がある。これから楽しみですよ」

勉強嫌いの少年がものづくりで才能開花

田中社長は子供のころから好きなことには熱中するが、関心がないとまったく手につかない性格だったという。

「5人兄弟の末っ子で、勉強が嫌いでね。いくら勉強しても頭に入らないんですよ。親からはせめて高校に進んでほしいと言われたんですが、無理なものは無理。親もあきらめたようです。好きなことをしろと言われ、中学卒業後に就職しました」

東京電力系のメーカーに入社すると、ブレーカーづくりに携わった。旋盤やフライス盤などを使って加工するのだが、これが田中少年の心をとらえた。面白くて仕方がない。

「異種金属の溶接などをするのですが、やることなすこと何でも面白かったですね。そのうち、本来嫌いだった数学が仕事に活かせること、たとえば三角関数などが役に立つことに気づいたんです。そこで、夜間高校に通わせてもらいました。機械や材料の専門雑誌もよく読んでいましたよ」

そのメーカーには15歳から21歳まで勤めたものの、可愛がってくれた先輩たちが独立することになり、田中社長も誘われて、1969年、8人でヤコー通信工業を設立した。

だが、すぐに仕事があるわけではなく、松下通信工業(現パナソニックモバイルコミュニケーションズ)の開発部に田中社長を含む5名が出向して、ラジオやテレビの試験装置の製作にあたったという。一所懸命に働く田中社長は開発部長に気に入られ、以降、7年間、その部長のもとで様々なことを学んだ。

「各部門の技術者だけでなくデザイナーなどとも一緒に仕事をさせてもらいました。社員と同様に扱ってくれて、大組織のしくみも学びましたね。松下通工では経営トップが朝礼で前月の売上高や計画との比較などを社員に伝えるんです。これには感銘を受け、経営者になってからは当社でもガラス張り経営をめざし、実践しています」

75年、事業が軌道に乗り始めた自社に復帰した。当時のヤコー通信工業は、測定器や自動計測器などの下請けをしており、増産のために現在の地に新設した工場の生産体制に対応するためだった。

静電気による粉体塗装機を開発

80年、田中社長は小野田セメントからの依頼で静電気を応用した粉体塗装装置の設計・開発に携わった。それ以来、静電気との長い付き合いが始まったのである。

粉体塗装とは、塗料の粉に高電圧をかけて静電気を帯電させ、塗装対象に吹き付けて吸い付かせ、そのまま炉で過熱して固着させる塗装法だ。ただ、仕上がった塗装面がゆず肌のようにデコボコになることもあり、美観にこだわる傾向が強い日本では、塗装全体のなかで粉体塗装の割合は1%程度にすぎないが、実利主義のヨーロッパでは、20%を占めている。

シンナーなどの溶剤を使わず、吸い付かなかった塗料を回収して、そのうちの95%を再利用できるため、環境面で優れているのである。防錆効果や耐久性も高く、水回りや厳しい使用環境に適しており、自動車のサスペンション、冷蔵庫、エアコンの室外機、ガードレール、フェンス、スチール家具などの塗装に用いられているという。

小野田セメントでは、工場内で舞い上がるセメントを回収するために静電気を活用した電気集塵機を導入していたため、それを応用した粉体塗装装置を開発しようと考えたわけだ。

田中社長は試行錯誤を重ねて開発に成功し、小野田セメントにOEM供給することで、ヤコー通信工業の屋台骨を支えるようになった。ピーク時には売上の約八割を占め、国内の粉体塗装装置のシェア35%を獲得していたという。

赤字に陥った会社を引き継ぎ、再建

順調に業績を伸ばしていった同社をバブル崩壊が襲った。90~91年度は2期連続で赤字に陥り、3割近く売上を落とした。そうした状況のなか、田中社長は92年に前社長からバトンを引き継ぐと、役員給与を4割カットし、従業員の協力を得て経費削減に努め、組織全体の体質改善を図った。1年で赤字を解消し、同社の建て直しに成功したのである。

96年、突然、小野田セメントが粉体塗装事業を表面処理剤のトップメーカーである日本パーカライジングに営業譲渡した。同社はヤコー通信工業の株をもつことを要望し、500万円を増資して株主になった。

翌97年、リサイクルなど環境面に配慮した会社をめざしてグリーンテクノに社名を変更。OEMや下請け仕事だけでなく、オリジナル商品をもつ会社に脱皮したいという田中社長の思いも込められていた。

その第1弾が、粉体塗装装置の電源部分を活用して製品化した小型高電圧電源である。他社の静電気の電源は、電圧が不安定なものが多かったが、同社の製品は電圧を一定に保つことができるのが強みだった。自社ホームページを立ち上げて製品を掲載していたところ、東京大学内にある研究所から注文を受けたという。

「当初は、正直、どのように利用されるかがわからなかったのですが、懇意にしていた小野田セメントの従業員の方が『必ずニーズはある』とアドバイスしてくれて製品化しました。専門の研究機関が必要とするなら、いけると思いましたね」

同社の小型高電圧電源は、口コミで評判が広がり、安定的な売上を上げるようになった。いまでも大学関係が注文の2割近くを占めているという。

その後、同社は静電気を利用した製品群を生み出し始めた。たとえば、簡易静電植毛装置はプラスチックや木、紙、布、金属などの立体物に短繊維を植毛する。立体物に接着剤を塗布し、短繊維に静電気を帯電すると、自然に立ったまま吸い付くのである。コールテンのような布地をつくったり、ぬいぐるみのように毛で覆ったり、研磨剤を吸い付ければサンドペーパーができる。自動車の内装の一部にも活かされている。

ほかにも、均一に塗膜を形成する装置や対象物の電位差で選別する装置、ガンタイプの帯電装置など様々だ。ナノファイバー製造装置の電源としても使われている。さらに産業用装置だけでなく、子供の理科離れを防ごうと静電気を使った教材も開発しており、田中社長自ら、ボランティアで小中学校に出向いて出前授業を行なっている。

岩手大学の高木准教授との縁を通じて、芝浦工業大学、東京海洋大学、九州大学などとの産学連携も広がっているという。

「小さな会社でいいから、自分たちで考えた新しくて面白い商品を常につくり出していきたいと思っています」

好きなことに熱中して楽しむ田中社長の気持ちは、いまも昔と変わらない。

月刊「ニュートップL.」 2013年1月号
吉村克己(ルポライター)


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