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資金調達力で大量在庫を可能にしOPP袋の短納期を実現する(ワークアップ株式会社・社長 遠藤 周一氏)

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掲載内容は取材当時のものです。
現在の情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。


様々な分野で包装材に用いられるOPP袋。その国内加工にこだわるワークアップは、インターネット販売によってニッチな市場で存在感を増している。遠藤周一社長が、その経営における工夫と独自の人材観を語る。

ダイレクトメールの封筒やワイシャツの包装袋、小売店で商品を吊り下げて陳列する丸い穴の空いた袋など、パリパリとした感触の透明な包装材をOPP袋という。

OPPとは、二軸延伸ポリプロピレンと呼ばれる合成樹脂のことで、透明度が高く、強度も優れていることから、ケーキフィルムや花束のラッピング材など、袋のほかにも様々な分野の包装資材に用いられている。

ワークアップの遠藤周一社長は、原材料の大量購入と協力工場への大量発注、インターネット販売によってOPP袋の低価格を実現。また、大量の在庫をコントロールすることで、常時、およそ250種類の規格品に対応する。売れ筋商品に関しては、100枚単位の小口注文から10万枚まで、即日発送が可能。低価格、高品質、多品種、短納期などの特徴が評価され、2008年の設立以来、着実に業容を拡大させてきた。

その成長はインターネット販売の成功事例としても注目され、同社はことし、経済産業省「中小企業IT経営力大賞」審査委員会奨励賞を受賞。「関西IT百撰」優秀企業や京都府「元気印企業」にも選出されている。

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現在、個人のお客様が4割で、法人が6割くらいになりますでしょうか。法人のお客様ですと、たとえば大学などからご注文をいただくのですが、学生さん向けの大学案内などを封入する透明な袋がありますね。あれがOPP袋です。最近は、コスト削減のために自分たちで資料の封入作業もなさる学校や会社が増えているようです。

従来、安価なOPP袋といえば中国製品が多かったのですが、中国は鷹揚なお国柄ですから、細かいところにはあまりこだわらないのでしょうね。コンテナで日本へ運ばれてくる過程で、袋の端が折れてしまったり、袋を閉じるノリが変質してしまうような不具合が生じて、それがお客様からのクレームにつながるケースが少なくなかったんです。

OPPのフィルムそのものは、中国でつくっても東南アジアの国々でつくっても、国産と遜色がないほど技術力は向上しています。ところが、それを袋などに加工する工程には、やはり日本人の几帳面さが必要なんです。私どもでは、海外産のフィルムであっても、加工については100%、国内の協力工場にお願いしています。さすがに、そういった種類のクレームはありません。

銀行を辞め起業するも三か月で挫折

問題はコストですが、その点でも、近ごろは中国製品に対抗することは十分に可能です。人件費が多少、安かったとしても、中国からの輸送料や倉庫代、検品にまつわる費用などを考えると、国内で加工するコストとほぼ変わらないレベルになりました。それほど、中国での製造コストが上がってきたとも言えるでしょうし、国内のデフレが進んだ結果でもあるでしょう。

ただ、低価格も高品質もさることながら、私どもの最大の強みは短納期だと思います。たとえば、最もポピュラーなA4サイズのOPP袋でも、たいていの場合、10万枚注文すると納期まで2週間程度はかかります。ところが、私どもでは即日発送が可能なんですね。手前味噌ではありますが、それほどの大量注文に即日、対応できる会社は、そう多くないと思います。当然、大量の在庫を抱えなければいけないからです。

言うまでもなく、在庫を抱えるほど資金繰りが圧迫されて、経営に悪影響を与えます。ところが、私どもは金融機関から低利で資金調達できたおかげで、在庫を武器へ変えることができました。銀行員時代に勉強させてもらった経験が、活きていると思います。

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遠藤社長は、1972年、京都市内のサラリーマン家庭に生まれた。94年、立命館大学を卒業し、京都銀行に入行。府下の支店に配属され、集金からATMの修理まで、当初は地道な銀行業務に従事した。

その後、行内の研修制度に応募して日本興業銀行(当時)のバンコク支店(タイ)に1年間、研修生として赴任。帰国後、再び機会を得て、東京三菱銀行(当時)の上海支店(中国)に研修生として赴任した。上海では、京都銀行上海駐在員事務所の開設を命じられ、開設後は同行の駐在員として、引き続き駐在。研修生時代も合わせて、上海での勤務は3年半に及んだ。

06年、帰国して間もなく退職し、中国からの輸入雑貨卸会社を起業。若い女性を対象とした雑貨や小物など、低価格商品を中心にインターネットで販売したが、わずか3か月後に清算。販売自体は好調だったものの、包装や商品の不具合で返品が相次ぎ、不良在庫を大量に抱えたからだった。このときの経験で遠藤社長はOPP袋に着目し、クレームを教訓として国内加工の重要性を痛感することになる。

翌年、義父の個人事業である包装資材卸「ワークアップさかい」に参加。得意先回りや受発注、配送など、包装資材に関する知識とノウハウを義父から学び、ほぼ1年後、事業を引き継いで同社を設立した。

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恥ずかしながら、自分の実力を勘違いしていたんですね。もともと、いつか自分で商売がしたいと考えていて、銀行でお世話になったのも、将来、起業するときに備えて、金融や財務を勉強したかったからでした。銀行を辞めるころには、それなりに知識や経験を身につけたつもりでしたし、中国とのビジネスも理解した気になっていたんですね。

ところが、実際に自分で商売を始めてみると、わりと早い段階から売れだしたのですが、そのうち毎日、バンバン返品されてきて、クレームを頂戴するばかりですから、お手上げです。自分の世間知らずを思い知って、銀行を辞めたことを後悔しました。

でも、その経験がなかったらOPP袋に出合うこともなかったでしょうし、インターネット販売の可能性を実感することもなかったと思います。結局、輸入雑貨卸の失敗で100万円程度の損失になりましたが、その10倍も価値ある経験をさせてもらいました。

OPP袋って、見た目に美しいのはもちろんですが、しっかりとした強度があって、加工しやすいので、無限と言えるほど用途が広いんです。非常にニッチな市場ではありますが、商売にできたら面白いかもしれない。そう思っていたところ、義父の仕事を手伝わせてもらうことになって、扱う品物の1つにOPP袋がありました。

いろいろ調べるうち、OPP袋に集中して、必死にがんばったら、私にもチャンスがあるかもしれないと思うようになりました。協力工場への大量発注とインターネット販売によって、価格競争力が強まります。国内加工にこだわった商品をできるだけ多く在庫しておけば、短納期も実現できる。その際、資金繰りが問題になりますが、低利で融資してもらえれば、在庫は強みになると確信していました。

従業員が日本一健康な会社をめざす

銀行に勤めていたとき、資金繰りが悪循環に陥る中小企業をたくさん見てきました。単純な話で、決算内容が悪いからです。だから、銀行は高い金利でしか融資してくれない。すると、金利をたくさん支払うことで利益が少なくなり、さらに決算内容が悪くなって、ますます融資を受けにくくなる。

私どものように実績のない会社は、とくに数字が大切です。売上高を毎期、右肩上がりに伸ばすことですね。そして、ギリギリまで経費を削って、とにかく利益を上げること。そうすると、銀行からも評価されて、低利で融資が受けられますから、自然と資金繰りの好循環が始まるんです。

税金を払いたくないからと、決算調整で無理やり赤字に仕立てるような話も耳にしますが、そういう会社は間違いなく伸びないと思います。全力で売上を伸ばして、ムダは極力、抑えて、きちんと税金も払う。伸びる会社とは、そんなまっとうな会社だと信じています。

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従業員の健康維持に熱心なことでも、同社は注目されている。

パートを含む全従業員を対象として、年に二回、健康診断を実施。インフルエンザの予防接種は会社の全額負担で行ない、喫煙者が禁煙治療を受ける際には、三か月分の医療費を会社が全額、負担する。当然、社内は全面禁煙で、適宜、専門の医師を招いた禁煙セミナーなども実施している。

また、従業員の健康だけでなく、その日常生活の安定を保護する意味で、全従業員を対象として個人賠償責任保険や労災上乗せ共済に加入。従業員を守る姿勢を明確にすることで、人材の定着にもつなげている。

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本当は、給料が日本一高い会社になれたらいいんですけど、いまのところ、なかなか難しい(笑)。でも、「健康」なら日本一になる可能性があると思ったんですね。

そもそも、健康でなければ楽しく働くことなどできません。従業員が幸せでなかったら、お客様によいサービスをご提供することもできない。そう考えると、経営において最も大切なのは、従業員の健康と安定した日常生活を守ることなんです。

そのためなら、コスト負担が増えるといってもたいした話じゃなくて、たとえば健康診断なら一回あたり、一人につき一万円程度です。これをパートさんの時給に換算したら、本当に微々たる額でしょう。その程度のコスト増で福利厚生が充実するなら、私は意義深いと思っています。

ただ、それは現在の規模だからできることで、私どもがもっと成長して従業員の数が増えたら、そうも言っていられないのかもしれません。

でも、たとえ従業員が数百人になっても、この部分だけは継続したいですね。格好をつけるようですが、従業員の幸せを犠牲にしてまで利益を追求したくはありませんし、従業員の健康を軽視することで実現する成長など、意味がないと思っています。

月刊「ニュートップL.」 2012年6月号
編集部


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