障碍者雇用の拡大のためにも発熱しないLEDを普及させたい(株式会社HRD・社長 原田 宜明氏)
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太陽光に近い波長を再現しながら、発熱を抑えた「お陽さまLED」が注目されている。
開発したのは、「国内最小」のLEDランプメーカー・HRDの原田宜明社長。障碍者雇用にも取り組む原田社長が、その経営観を語る。
人工光のみで野菜などの植物を栽培する「植物工場」は、現在、全国に64か所設置されている(平成23年・農水省調査)。農作物の安定供給に役立つと注目されたが、期待されたほど増えていないのは採算性が低いからで、高コストの要因は主に光源にある。蛍光灯もLED(発光ダイオード)も発熱が大きいため、放熱板や排熱のための空調設備に多額のイニシャルコストを必要とするのだ。加えて、空調や光量維持のための消費電力が大きく、ランニングコストも負担となっていた。
だが、HRD(鳥取市)の原田宜明社長の主導によって開発に成功した「お陽さまLED」は、発熱そのものを抑制して、太陽光に近い波長の光を実現。排熱設備が不要なため、大幅なコスト削減が可能で、植物工場のほか農家や個人客への普及も期待されている。
この技術力が評価され、同社は2011年度「ふるさと企業大賞」総務大臣賞を受賞。ことし3月には、鳥取県などが主催する「ビジネスプランコンテスト」で最優秀の鳥取県知事賞に選ばれた。
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一般的に、LEDは蛍光灯に比べて発熱が少なく、消費電力も低いので、幅広い分野で活用されるようになってきました。ただ、太陽光に近い波長の光を再現しようとすると、特殊なLEDが必要になります。これが、ものすごい発熱をともなうんです。素手では触れないくらいに熱くなってしまうんですね。
発熱には、様々なデメリットがあります。まず、空調のコストですね。放熱板など、排熱のための設備も必要です。また、葉の色が変わってしまう「葉焼け」の危険があるので、それを避けるために植物との距離を保つ必要がある。そうなると、ある程度のスペースを確保しなければいけませんし、距離が遠いぶん、大きな光量が必要になって、消費電力も増えてしまいます。とにかく、植物工場の成否は排熱に掛かっていると言ってもよいくらい、光源の発熱は大きなテーマでした。
私どもの「お陽さまLED」は発熱がありませんから、そうしたコストがいっさい不要になります。また、植物に光源を近づけることができるので、スペースも消費電力も抑えられる。日産10キロ程度のプラントの場合、従来のプラントに比べてイニシャルコストは5分の1くらいで済みます。
加えて、従来のLEDより短期間で育成でき、病気にも強くなるというデータもあります。手前味噌ながら、私どもとしては絶対的な自信作なのですが、残念ながら、まだまだ情報発信力が弱くて、このメリットをお客様にお伝えしきれていない状況です。
付加価値の高い「機能性LED」で勝負
LEDランプのメーカーは大手企業が多くて、国内には20社程度しかない寡占市場なんですね。ですから、私どもはおそらく国内最小のLEDランプメーカーだと思います。
しかも、鳥取の会社ですから、県外に出て行って「鳥取でLEDをつくっている会社です」と言っても、話すらなかなか聞いていただけない。従来のLEDが抱えていた弱点の印象が強くて、「植物工場にLEDは使えない」と思い込んでしまっている方もいます。
そういった、ある種の「常識」を覆して、「鳥取の会社だって、やれるんだ」ということを証明したいというのが、私どもの念願でもあるんです。
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HRDは、1972年、現会長の原田進氏によって創業された。当初は弱電気部品の組立加工専業で、主に家電製品の材料を発注元から支給され、それを組み立てて納品するという内職仕事がほとんどであった。
徐々に従業員も増えて経営が成長軌道に乗ると、76年に法人化し、84年にはLEDの製造を開始。以後、現在も組立加工の仕事は続けているが、将来性を見込んだLEDの分野に軸足を移し、自社製品の開発に取り組んでいった。
創業の年、進氏の次男に生まれた原田社長は、98年に帝京科学大学を卒業。同年、大阪で建築関係のプランニング会社に就職した。ここでプランニングや営業、経理、総務などをひと通り経験し、2年後、家業を継ぐべく退職。語学習得のための米国留学を経て、2002年、帰郷してHRDに入社した。そして、翌年には進氏が会長に退き、2代目社長に就任した。
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2つ年上の兄は昔から別の道を歩むと決めていて、実は私も継ぐ気はなかったんです。LEDとは畑違いの会社に入ったのも、あこがれていたインテリア関係の仕事がしたかったからなのですが、鳥取では工場の2階が自宅でしたから、小学生のころには、休日になると内職仕事を手伝ったりして、会社は身近な存在でした。でも、あまりに身近すぎたのかもしれませんね。休む暇もないほど働く両親の姿を見ていましたから、いつしか絶対に継ぎたくないと考えるようになっていました。
ところが、サラリーマンとして働いていると、なんとなく違和感のようなものを感じ始めたんですね。同僚たちと同じように日常的な仕事をしていても、私だけは原価率とか時間効率とか、どうしても数字が気になってしまう。そういった考え方のクセのようなものを自覚するようになってきたんです。
そして、そもそも「働く」ということに対する考え方が、周囲とまったく違っていました。実際に命懸けで働いている零細企業の経営者夫婦に育てられたわけですから、それも当然なのでしょうけれど、そういう自覚が積み重なって、気持ちがだんだんと家業へ向かっていったのかもしれません。父から再三、戻ってくるよう説得されていたこともあって、結局、継ぐことになりました。因果なものです(笑)。
社長を継いだのは入社の1年後ですから、まだ経験不足で、業務知識もほとんどありませんでした。でも、売上の柱の1つであった組立加工の仕事がごっそりと中国に流出している時期でしたから、とにかく人事を刷新して、新たに出直す必要に迫られていました。あれこれ考える余裕もないなかで、まず大方針として打ち出したのは、やはりLEDに力を入れて、付加価値の高い製品づくりに取り組むということでした。
これは私の造語なのですが、私どものような規模の会社は、「機能性LED」で勝負するしかありません。汎用的な照明器具としてのLEDは、大手さんの市場です。就任直後から、大手さんが手を出さない分野にしか活路はないと確信していました。幸い、父の代から基礎的な技術力は積み重ねていたので、それを応用し、発展させるかたちで開発に取り組みました。
もう一つ、幸運だったのは、鳥取県産業技術センターが地元企業を積極的にサポートしてくださったことです。LEDの開発に必要な試験装置や研究機器が充実している点で、同センターは全国でも有数の施設なんですね。実際、県外からわざわざ利用しに訪れる企業もあるくらいで、その充実した施設を存分に活用させていただけたことは、私どものような規模の会社にとって大変にありがたいことだったと思います。
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前述の「ふるさと企業大賞」では、同社が取り組んできた地域への貢献も評価された。02年から毎年、12月に開催されている鳥取砂丘のイルミネーションイベントでは、諸々の事情で一時期、存続が危ぶまれたものの、同社がLEDを提供することで無事、イベントの継続が決まった。その後も、協賛企業の1つとしてイベントの支援を続けている。
また、先代から引き続いて重視してきたのが障碍者雇用で、現在、同社では3名が働いている。そして、障碍者雇用を目的とした関連会社HRD iDEALを11年に設立。同社は「障がい者自立支援法」にもとづく就労継続支援A・B型事業所で、全従業員28名中障碍者が21名を占める。ちなみに、障碍者と雇用契約を結ぶのがA型、B型は非雇用型の事業所で、同社はそのいずれにも対応する。
この関連会社では、HRD本社工場内の空きスペースで「お陽さまLED」を活用した植物工場を手がけ、レタスなどの葉物野菜を生産している。
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言葉でいろいろ説明するより、「お陽さまLED」を使った植物工場で実際に野菜を栽培したほうが、その性能が伝わりやすいでしょう。業務内容も、障碍者雇用に適していますので、電子部品の組立加工など、従来の作業と組み合わせながら、栽培する野菜の管理や収穫、加工などを行なってもらっています。
そうして栽培した野菜は、地元の飲食店さんに販売するほか、市場にも卸していて、より多くのご家庭で味わっていただけるように、販路を広げていきたいですね。
社会的弱者を納税者へ変える
私どもでは、父の代から障碍者雇用に取り組んできました。といっても、別に何か特別な意気込みでやってきたわけではなくて、ふさわしい方に、ふさわしい職場で働いていただくというだけなんですね。その意味で、障碍者であろうと健常者であろうと、私どもの仲間であるという点で何も違いはありません。
実際、作業内容によっては、健常者以上の能力をもった人もいます。得意なことと不得意なことがあるのは、健常者でも同じでしょう。そう考えると、障碍者と健常者を分けているのは、あくまで便宜的な線引きの1つでしかなくて、何か絶対的な違いがあるわけではない。職場にいろんな人がいるのは、自然なことだと思っています。
ただ、障碍者が社会的に弱い立場であるのは事実で、そもそも働き口がたくさんあるわけではない鳥取では、残念ではありますが、障碍者に門戸を開いた職場が少ない。その現実を踏まえて、何らかの形でお役に立つべきだとは強く思い続けてきました。
障碍者雇用は、障碍者が働く場を得るという点でだけ意義深いわけではありません。報酬を手にすることで、消費者として地域経済に参加できるんですね。さらには、納税者にもなって積極的に地域に貢献できる。そのことは、障碍者個人にとってはもちろん、地域社会にとっても非常に意義深いと思います。
障碍者雇用を拡大するためにも、「お陽さまLED」をより多くの方々に認めていただけるように努めます。
月刊「ニュートップL.」 2012年5月号
編集部
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