“右手にロマン、左手にソロバン”北海道から日本を元気にしたい(ヤマチユナイテッドグループ・代表 山地章夫氏)
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建材販売、インテリアショップ、介護デイサービス・・・
トータルライフスタイル企業をめざし、様々な事業を展開するヤマチユナイテッドグループ。同グループを率いる山地章夫代表は、“多角化”と“連携”をキーワードに独自の経営スタイルを貫いてきた。
輸入建材商社ナンバーワンの実績を誇る「ハウジング山地」を主軸に、輸入住宅販売、インテリアショップ、イベント企画、ホテルチェーンなど、ライフスタイル関連事業をトータルで展開しているヤマチユナイテッドグループ(札幌市中央区)。創業者である実父の跡を継ぎ、2代目経営者として同グループを率いる山地章夫氏(56歳)は、100人のリーダーを育て100の事業を起こす「THE 100 VISION」を掲げ、社員の事業意欲を引き出しながら責任ある仕事を任せ、異例ともいえる早さで業容を拡大してきた。
いまや、グループ年商は約100億円、従業員290名を抱える企業集団だ。
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「THE 100 VISION」は、04年に始めたことなんですが、やっと半分まできたところです。私自身、常日頃からアイデアが湧いてくるものの、それまではなかなか具体的なカタチにできなかった。だから、自分自身を鼓舞する意味でも、思いきって宣言したんです。
すると、不思議なことに、様々な人や情報が集まるようになりました。ふだんから広くアンテナを立てて、現場の仕事は思いきって社員に任せて丸投げすることで、私自身は経営者としての仕事に専念できた。自分で何もかも手がけるより、企業として成功する可能性も高まって、成長のスピードも早まったと思います。
ただし、100の事業というのは、あくまでもひとつの目安にすぎません。事業ならなんでもいいというわけではなく、「自分たちにしかできないこと」「誰もやっていないこと」、そして「やっていて楽しいこと」、この条件を満たすものに絞っています。
“多角化”と“連携”で広がるビジネスの可能性
私の経営スタイルは“多角化”と“連携”が大きなキーワードです。個々の企業や事業部門が完全に独立し、主体性をもっていれば、そのシナジーはより大きなものになる。また、多角的に事業の根が広がることによって、会社が倒れにくくなるという強さもあります。
たとえば、年商100億円というと、一見ハードルが高そうですが、1億円企業を100個つくると思えば、できそうな気がしませんか。そして、グループ内の人事交流や情報共有を活発化させ、連携を強化すると、あちこちでシナジーが起きて加速度的に成長を始め、2億円企業や5億円企業が次々と育つようになる。
言うなれば、スケールメリットを活かした“連邦型経営”ですね。リスクも増えるけれど、それぞれが10億規模になれば、グループで年商1000億円も夢ではありません。まだ道半ばですが、いま、身をもって実感しています。
もちろん、儲かればいいというわけじゃないですよ。私は、北海道をはじめ、日本が元気になるようなビジネスがしたい。トータルライフスタイル企業として、人々の生活を豊かにしたいんです。
経営者として利益を出すとか合理的に考えることは必要だけれど、そこには情熱やロマンがなければ楽しくないでしょう。反対に夢ばかり語っても、現実が伴わなければ路頭に迷うことになる。言うなれば“右手にロマン、左手にソロバン”で、そのバランス感覚が大切なんです。
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ヤマチグループが手がける事業は、海外まで含めると現在50以上ある。不況下でも事業創造の動きは止まらない。今年に入り、LED事業やWEB事業、介護デイサービスなど新たな事業が加わった。“丸投げ経営”によって人材が育っている証だが、山地氏の幅広い人脈と行動力も多角化を支えている。
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経営の世界ではとかく“選択と集中”が叫ばれていますが、私はちょっと違う気がします。たしかに、自分の強みを発揮できないジャンルからは手を引いて事業をコンパクトにするのは常道だけれど、市場が縮小していくような時代には、先行投資で何か新しいことをやり続けていかないと、企業としては先細るばかりです。
今後、中小企業の成長に“多角化”と“連携”は、ますます重要になってくる。経営者一人ができることは限られていても、様々な人の智恵や情報を活かせば、その何倍も新しいことにチャレンジできますから。実際、偶然の出会いから生まれた事業も少なくありません。
たとえば、春にグループに加わった「XMEDIA AGENT(クロスメディアエージェント)」は、もともと当社のWEBサイトの制作を依頼していた会社でプロジェクトリーダーを務めていた優秀な女性が独立して起業すると聞き、それなら、とチームごと移籍してもらって起ち上げた部門です。彼女は社会人7年目というのに、家業の土建屋を立て直した経験から経営知識も豊富で、移籍後は毎月連続で黒字を叩き出し、他の部門にもよい刺激を与えてくれています。
また、ことし2月から機能訓練専門のデイサービスを提供する「きたえる~む」を札幌市内でスタートしましたが、これもある出会いがきっかけでした。ゴルフコンペで知り合った方がリハビリ機器の卸業者で、すでに似たサービスをしていた柔道整復師の方を紹介してくれたんです。その先生にノウハウはあったけれども、チェーン展開ではなかったので「フランチャイズとしてうちでやりましょう」と申し出たところ快諾いただき、ビジネスがスタートしました。
ちょうど、私の身内に要介護でリハビリの必要な者がいて、「通常のデイサービスでは、風呂に入ったり、食事をしたりで一日拘束される」と愚痴をこぼしていたため、短時間でできるデイサービスはないかと模索していた時期でもありました。
そもそも、医療機関が行なうリハビリは、急性期の症状回復が一番の目的で、退院後の身体の機能改善に対する専門機関は非常に少ないのが現状です。そこで、もっと気軽にリハビリがしたいという需要に応えようと、機能訓練にストレッチやマッサージを取り入れた短時間のデイサービスプログラムを組みました。
やる気のある入社3年目の女性にプロジェクトリーダーを任せ、初めは様子見だったんですが、半年経って60名以上と順調に利用者を増やしているので、道内の厚別、手稲にもオープンし、さらに11月には室蘭でもスタートする予定です。今後は全国でフランチャイズ化を進め、3年で30店舗ほど展開したい。すでに沖縄や愛知などから引き合いがあり、高齢化が加速しているいま、成長が楽しみな事業の1つとなっています。
仕事にプライベートに忙しく全国を飛び回る山地氏だが、大学時代には長期の世界放浪を決行したことがある。「自分に自信がなかった」ことから、いまでいう“自分探し”のために単身アメリカへ。その後、各国でのホームステイを繰り返しながら放浪を続けて帰国。世界の住文化、ライフスタイルに強い影響を受けた経験から、「日本の住空間環境を変えたい」という思いが募り、現在の仕事の発想へとつながってゆく。
大学卒業後は、大手の経営コンサルタント会社に就職。「企業の付加価値の大切さ」を痛感した山地氏は、97年、拓銀の経営破綻によって大打撃を受けたヤマチグループの再生を父から託される。翌年に社長就任。経営者として最初に取り組んだのは、生き残りをかけた組織の大幅な改革だった。やむなく人員整理をする一方で、グループ内外の連携を強め、人材を育てて新規事業を創出する仕組みづくりに着手。これが「THE 100 VISION」の源流となっている。
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会社としてギリギリの状態だったとはいえ、人に辞めてもらうというのは本当に辛かったですね。もう二度としたくありません。あの頃は正直、自分たちのアイデンティティが見つからず、単なる建材の運び屋のような存在価値に嫌気がさしたこともありました。でも、経営者だから逃げるわけにもいかない。ならば、自分のやりたいように会社を変えようと心を決め、それからは徐々に状況も好転していきました。
やりがいがあれば、簡単にギブアップなどしない。情熱があれば、成功の確率も高まる。いかに社員が楽しく働ける環境にするか、そんなシナリオを思い描く一方で、コンサルタント会社での経験から、後継者は自社のダメなところばかり見ているものだと冷静に分析していた面もあって、自分でゼロから起業することに比べれば、たとえ赤字でも、社員がいて事業が存続しているだけでもラッキーじゃないかと思えるようになったんです。
以来、大きな壁にぶつかったり、失敗しても、それを次へのチャンスだとマインドリセットできるようになりました。いま思えば、貴重な経験でした。
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独創的な経営手法で成功を収めた山地氏だが、これまで失敗は数え切れないほどしたという。「趣味は新規事業の立ち上げ」というほど新しい挑戦をするなかで、たとえば、中国でのラーメン店のチェーン展開やアメリカ企業への資本参加など、果敢に海外進出を試みたものの、いずれも撤退。失敗の要因は様々だが、根本的に「人脈もなく、能力も未熟だった」と山地氏は振り返る。
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経験上、若いうちに不真面目で型破りなことをしておいたほうが立ち直りも早い気がします。打たれ強くなっていますから、転んでもただでは起きない(笑)。
失敗した要因をちゃんと分析すれば、その経験は必ず次に生きてきます。私の場合、失敗の後で大きなビジネスにつながることも少なくなく、たとえば、中国進出で出会ったメーカーとはいま、ジョイントで新規事業を立ち上げています。大事なのは引際でしょうか。これは絶対ダメだと思ったらスパッと諦めて次に進むことです。
ですから、若手社員にはいつも、「失敗したっていいんだぞ」と言うんですが、尻込みする者には、あえて大きなプロジェクトを任せてみたりします。私の役割は専ら、彼らに挑戦する場を用意し、リーダーとしての経験を積ませること。権限を与え、適正に評価しながら責任感とモチベーションを醸成し、事業を創造できる人材を増やしたいと思っています。
新しいビジネスがひらめく瞬間を逃さない
失敗までいかなくても、長い人生、誰しも壁にぶつかることはあるでしょう。しかし、その壁を乗り越えないことには、人として成長できません。だから、なるべく早い時期にいろんな経験をさせたいんです。
そのためには、事業とか組織も小分けにして責任あるポジションを与え、多くの機会を得られる組織にする。研修や座学だけではダメ。失敗も成功も、経験してこそ糧になる。経営者としては、それをどうマネジメントするかですね。
当社の場合、グループ化のメリットはここにもあって、グループ内留学や転属の制度を設けて、働く側の選択肢を拡げています。希望はしたけど実際には合わなかったとか、隣の事業部で挑戦したいなど、自己申告制による異動や仕事の兼任も可能です。スタートからモチベーションが違うので、飛躍的に結果を出す社員も少なくありません。
また、現実問題として、独立起業が難しい時代ですから、自立心旺盛な社員には、顧客企業との連携など、会社の経営資源の有効活用も薦めています。たとえば、若いうちは、アイデアがあっても実力や人脈が足りない。けれど、いろんな事業で揉まれているうちにお客様の困っていることが見えてきて、自分のアイデアとピタッと重なることがある。
「これをこのお客様にぶつけたら新規事業になるかも」と、ひらめく瞬間が来るんです。私自身もそうでした。それを実現できるのが、ヤマチグループのビジネスプラットフォームであり、新しいビジネスモデルを世の中にプロデュースしていくのが、企業としてのビジョンでもある。そんな社内起業のしやすさも、会社の魅力の1つになるのではないでしょうか。
日本はいま元気がなくなっていますが、若いリーダーや事業家がもっと生まれれば、雇用も増えて、経済も活性化されるはず。経済を動かしているのは、ほかでもない、私たち経営者であり、一人ひとりのビジネスマンです。そのことに誇りをもって、これからも新しい価値を創造していきたいですね。
月刊「ニュートップL.」 2011年11月号
編集部
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