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ヒトの移動に付加価値を高め、地域の活性化に役立ちたい(株式会社コロプラ・社長 GM 馬場功淳氏)

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掲載内容は取材当時のものです。
現在の情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。


携帯ゲーム「コロニーな生活☆ PLUS」を運営するコロプラは、ゲームを通じたユニークな地域おこしでも注目されている。「位置ゲー」のパイオニアは、どのようにしてユーザーの支持を得てきたのか。

携帯電話の機能を利用したゲームに「位置ゲー」と呼ばれるジャンルがある。携帯電話端末の位置登録システムに対応したゲームのことで、移動距離や現在位置データを用いてゲームを進める。コロプラは、その代表格とされる「コロニーな生活☆PLUS」を運営する。

端的に言えば、これはユーザーが自分のコロニー(街)を発展させることを目的とするゲームで、コロニーに水や酸素、食料を設置すると人口が増える。ポイントは、コロニー(=携帯電話)が実際に移動した距離に応じて、ゲームで通用する通貨「プラ」が付与されること。移動距離が長いユーザーほど、ゲームを有利に進めることができる。また、近くにいるユーザー同士が交信することも可能で、互いがアイテムを交換し合うなど、コロニー間のコミュニケーションを楽しむこともできる。

現在、有効コロニー数は約200万コロニー。ユーザーの総位置登録回数は月間約4000万回で、アクセス数を示す月間総ページビュー数は25億ページビューを超える。馬場功淳社長が個人でサービスを開始した2003年5月以来、急速な勢いでユーザーを獲得してきた。

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おかげさまで多くのユーザー様にご支持いただいてきた要因は、主に3つあると考えています。

1つは、サービス開始当時、他に同様のゲームがほとんどなかったこと。物珍しさもあって、興味をもっていただいたケースが少なくなかったように思います。

2つめは、当時のDDIポケット(現ウィルコム)専用ゲームであったことです。iモード対応のゲームはたくさんあったのですが、PHSは契約者数も頭打ちで、携帯電話に比べれば大変に狭いコミュニティでした。ところが、同年にパケット定額サービスが開始され、ゲームを利用しやすい料金体系になったんです。その影響は大きかったでしょうね。ちなみに、現在はdocomo、au、softbank 各社の携帯電話と、iPhone、Android 各OSのスマートフォンに対応しています。

そして、3つめがバーチャルとリアルとの融合と言いますか、リアルとの連携を深めてきた点にあると思います。たとえば、09年から始めた「コロカ」は私どもが発行する「日本の逸品カード」のことで、全国の提携店で商品を購入していただくと、購入金額に応じてコロカがもらえます。そのシリアルナンバーを入力すれば、ゲームのなかで様々なアイテムが獲得できる仕組みになっています。

モノではなくヒトを動かす

全国には、各地の伝統や文化を受け継ぐ素晴らしいお店がたくさんあります。そうしたお店と提携することで、ユーザー様はゲームを楽しみながら各地の名産品や文化を再発見できる。毎月、300~400件ほど提携のお申し込みやお問い合わせを頂戴していますが、私どもの社員が実際に現地を訪問したり、社内で全社員が参加して試飲・試食をしたりして検討し、現在、全国の107店舗と提携させていただいています。

その他、旅行会社との提携によってゲームと連動したツアーや宿泊プランをご提供する「コロ旅」や公共交通機関とのタイアップキャンペーンなども実施して、ユーザー様の「移動」に、より大きな付加価値を実現させたいと考えてきました。従来のITベンチャーの多くがインターネットなどを通じてモノの移動に注力してきたのと異なり、私どもはヒトの移動を促してきたわけです。そうすることで少しでも地域の活性化をお手伝いできれば、社会的な意義も決して小さくはないと思います。

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馬場社長は1978年、兵庫県伊丹市に生まれた。父の転勤により宮崎県へ転居。小学生のころからテレビゲームに親しみ、パソコンと出会った中学時代にはプログラミングを覚えた。その後、都城工業高等専門学校を卒業し、九州工業大学へ編入。同大学大学院博士課程時代、アルバイト先のベンチャー企業でNTTドコモの携帯電話向けアプリケーション「iアプリ」の開発に取り組み、25歳のとき正社員に登用された。「コロニーな生活」を始めたのは、大学院を辞める前後のことだった。

新設された支店の支店長や本社の開発部長に抜擢される一方、ゲームの運営者であるゲームマスター(GM)としても、05年には「コロニーな生活☆PLUS」にバージョンアップ。口コミなどによって、コロプラのユーザーは着実に増えていった。

07年、BtoCの仕事を志望して別のIT企業に転職する。だが、その間にもコロプラのユーザーはますます増加。GMとしての仕事に専念するため、08年4月に退社し、同年10月、コロプラを設立した。

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中学生のころから、漠然とではありましたが、将来はコンピュータに関連した仕事に携わりたいと思ってきました。自分でプログラムを組んだものがコンピュータのなかで実現されるということが、単純に面白かったんです。「コロニーな生活」の開発もそうした気持ちの延長線上にあって、もちろん多くのユーザー様に楽しんでいただければ達成感もあり、私自身もうれしいのですが、ああでもない、こうでもないとアイデアを考えながらつくっている過程そのものが面白いんですね。当時は家庭用ゲーム機のソフトを移植したようなものがほとんどだったものですから、PHS(携帯電話)ならではの特色を活かしたゲームを開発したいと考えていました。

そうして試行錯誤しているときも、個人サイトでサービスを始めてからも、仕事以外の時間はほとんどコロプラ三昧です。夜中に帰宅するとコロプラのサポートやメンテナンスをして、寝るのは朝5時くらいでした。そして、8時には起きて出社する。休日も睡眠時間はほとんど変わらず、自由になる時間はすべてコロプラに費やす毎日で、そうした生活は会社勤めを辞めるまで続きました。

でも、時間が足りないとは感じていたものの、そういう生活が特別に苦しいとも感じませんでした。時間の配分が結果としてコロプラに偏っていただけのことで、お酒を飲んだり、布団に体を横たえる時間をコロプラにあてていたに過ぎないんですね。実は、いまでもできるだけコンビニで買った食事で済まそうとしているのですが、それも時間配分の問題で、一般的に毎日、3食で3時間かかるとしたら、私はそれを30分にして、残りの時間を他に振り分けているという感覚です。

「好き」にならなければ質のよいものは生まれない

とはいえ、それほどに時間と手間をかけたことがコロプラを誕生させたとも言えないと思うんです。

たとえば、芸術的に価値の高い絵画は、画家が寝食を忘れるほどカンバスに向かうなかから生まれるとは限りませんよね。徹夜で描いたり、死ぬほどたくさん描いたとしても、優れた絵画が生まれない可能性はいくらでもある。しかしながら、いつ見ても絵具にまみれているような画家でなければ、評価される絵画が描けないのもまた事実なんですね。そうした画家に、なぜ優れた絵画が描けたのかと尋ねたら、おそらく「描き続けてきたから」とは答えないはずです。「描くのが好きだから」と答えるのではないでしょうか。

僭越なたとえかもしれませんが、私どもの世界でも、同じことが言えるような気がします。

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移動距離が長いほど有利にゲームが楽しめるという特性もあり、「コロニーな生活☆PLUS」のユーザーは20~30代が中心。40代のサラリーマンも多く、他の「位置ゲー」に比べれば年齢層は高い。

ユーザー登録は無料。収益は、主にアイテム販売やリアルアフィリエイト(成果報酬型広告の一種)などで成り立っている。リアルアフィリエイトとは、実店舗への来店や購買により成果報酬が発生する仕組みを指す。

ことし6月、東急百貨店吉祥寺店で開催された「日本全国すぐれモノ市―コロプラ物産展2011―」では、コロカ提携40店が出店。7日間で4万人以上が来場し、通算売上は約7000万円に達した。同店における同規模会場(55坪)の催事としては、過去最高の売上であったという。

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最初に提携していただいた栃木県日光市の老舗煎餅店「石田屋」さんでは、サービス開始2か月間で1000人以上の来店効果がありました。

地域が元気になれば企業としても成長する

とにかく、ヒトが動けば地域が元気になり、日本全体としても活性化します。私どもはその動機づけに貢献して、地域が元気になったとしたら、そこから少し報酬をいただく、という考え方なんですね。ですから、地域が元気になればなるほど、企業としても成長できる。そのためにも私どもが力を入れるべきは、リアルとの連携をより深めていくことと、コロプラというバーチャルな世界を居心地のよい環境に整えていくことだと思っています。

高校2年生の夏休み、祖父母が住む伊丹市に滞在しながら神戸市のポートアイランドにあったテーマパークでアルバイトをしました。ある日、大勢のカップルでにぎわう夕方になると、観覧車の回転が少し速くなっていることに気づきました。時間帯や混雑の状況に応じて、回転が微妙に調整されているんですね。そのことを自分の目で発見したとき、新鮮な喜びを感じたことをいまも覚えています。そして、お客様に満足していただこうとするなら、表面的には見えにくいようなところにまできめ細やかな配慮をしなければいけないことを学んだように思います。

コロプラもテーマパークと同様で、ユーザー様に居心地のよさを感じていただくには、やはりそのときどきの状況をしっかり観察して、微妙にカスタマイズしていく必要がある。実際、これまでもコロプラは常にユーザー様からのアドバイスや要望を取り入れながら、少しずつ改良を重ねてきました。そうした意識と柔軟さを忘れないことが、コロプラの可能性を広げていくことになると思います。

月刊「ニュートップL.」 2011年8月号
編集部


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