テレワークの普及拡大で注目される「つながらない権利」とは?
仕事とプライベートの線引きを明確に!世界的な新型コロナウイルス感染拡大に伴い、世界中でテレワーク導入が広まりました。
アフター・コロナにおいても継続してテレワークを実施したいと考えている企業もあり、新たな働き方として、よりいっそう定着していくのかもしれません。
その一方でテレワークによる弊害も顕在化しています。
そこで注目されているのが「つながらない権利」です。
つながらない権利とは
「つながらない権利(The Right to Disconnect)」とは、業務時間外に業務の連絡を受けない、つまり業務時間外には会社と“つながらない”権利のことです。
したがって、この権利を行使できれば、業務終了後に会社からの業務連絡があっても拒否できるということになります。
テレワークが普及することで、電話だけでなくメールあるいは各種チャットツールなどさまざまな方法で、いつでも、どこにいても社員が連絡を取り合えることが当たり前になりました。
特にLINEやChatworkのようなチャットツールはスマートフォン片手にいつでも気軽に見られるので、業務時間外でもついつい業務関連の連絡を取ったり指示をしたりということが起こりえます。
ましてテレワークは自宅で仕事ができるからこそですので、当然「自宅だから仕事ができない」ということが想定されていません。
そうなると、どこでも仕事ができるということで仕事とプライベートの境が曖昧になり、そのうえ終業後であるにもかかわらず業務指示が届く結果、長時間労働が増えてしまうケースも少なくないようです。
【参考】
日本労働組合総連合会による調査(2020年6月)を見ると、テレワーカーの半数以上で時間外労働に問題を抱えていたことがうかがわれます。
・通常の勤務よりも長時間労働になることがあったと半数超(51.5%)が回答
テレワークに関する調査2020(PDF)
・時間外・休日労働をしたにも関わらず申告していない回答者が 6 割超(65.1%)
この問題を解消するために注目されているのが「つながらない権利」です。
世界各国で「つながらない権利」が法制化へ
フランスでは他国に先駆けて、2017年1月に「つながらない権利」が法整備化されました。
後を追うかのように、いまや世界各国で整備される動きを見せています。
日本でもたとえば「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」(2020年12月25日)で言及されており、このさき時間外労働を抑制したり、プライベートの侵害を予防したりと、企業は対応を求められることになるのかもしれません。
フランスでは、労使交渉において、いわゆる「つながらない権利」を労働者が行使する方法を交渉することとする立法が2016年になされ、「つながらない権利」を定める協定の締結が進んでいる。テレワークは働く時間や場所を有効に活用でき、育児等がしやすい利点がある反面、生活と仕事の時間の区別が難しいという特性がある。このため、労働者が「この時間はつながらない」と希望し、企業もそのような希望を尊重しつつ、時間外・休日・深夜の業務連絡の在り方について労使で話し合い、使用者はメールを送付する時間等について一定のルールを設けることも有効である。
「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」報告書(PDF)
このような検討会での審議などを踏まえてか、2021年3月に改訂されたテレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインでも長時間労働対策として「時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効」という表現が見られます。
「つながらない権利」という言葉そのものが使用されていないにせよ、時間外の業務指示については企業もよくよく注意することが求められるのでしょう。
つながらない権利を実施する意義
労働者としては仕事とプライベートのオンオフを明確にする意味でも、「つながらない権利」を行使したいところでしょう。
たんに公私のメリハリをつけるというだけでなく、ワークライフバランスという観点からも権利行使したいという方は多いのではないでしょうか。
他方、事業者としても、
・予期せぬ時間外手当の発生
・労災リスク(終業後ではなく業務時間内と認められる、あるいは過重労働による)
・時間外労働の上限規制に反する
といった問題を抱えることになるので、「つながらない権利」を意識した制度を設計しておくことが望ましいかもしれません。
一連の「働き方改革」の流れのなかで、時間外労働の上限規制や月60時間超の割増賃金率の引上げ(中小企業で2023年4月施行)など、時間外労働への目は厳しくなりつつあります。
テレワーク下では社員一人一人の勤務形態が把握しづらいこともあり、不用意な過重労働を防ぐためにも「つながらない権利」の制度化を検討してみるのもいかがでしょうか。
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