キャリアデザインで主体的に人生を設計する自律型人材になる!
自分の個性や強みを見つめ直し、充実した人生を歩みだそう目次
すべての人に必要な「キャリアデザイン」
「キャリアデザイン」とは、その名の通り、「キャリア」を「デザイン」することです。
では、キャリアをデザインするとはどういうことでしょうか。
「キャリア」とは、もともと馬車の轍(わだち)を指す言葉です。
轍(わだち)がその馬車の通ってきた道や向かう先を示すように、その人がどんな人生を歩み、どんな軌跡を描くのか。
つまり、職業キャリアのみならず、人生そのものを主体的に設計(デザイン)することこそが「キャリアデザイン」だといえます。
自分のライフ&職業キャリアを主体的に設計する「キャリアデザイン」は、現代のすべての人に必要であり、実りある人生を生きるうえで、非常に重要なものです。
なぜキャリアデザインが注目されるのか
キャリアデザインが注目されるようになったのは、少子高齢化やグローバル化による社会情勢の大きな変化により、企業や個人のキャリア感も大きく変わってきたことが関係します。
社会情勢の変化によるキャリア意識
旧来の日本型雇用(終身雇用制、年功序列など)の維持が難しくなり、成果主義や中途採用の一般化など、人材の流動化が起こりました。
一億総活躍社会の実現に向けて「働き方改革」が推進されるなか、「ワーク・ライフ・バランス」を見直す機会が増え、働くことに対する個人の考え方も多様化してきました。
さらには雇用形態も複雑化し、在宅・兼業・副業・フリーランスなど、働き方も大きく変化しています。
また、平成28年(2016年)4月1日に施行された改正職業能力開発促進法では、「労働者はみずから職業生活設計(キャリアデザイン)を行い、これに即して自発的に職業能力開発に努める立場にあること」が規定されました。
つまり、これまでは会社主体でキャリア形成を行ってきましたが、今では労働者主体でキャリアデザインして実現する「自律型人材」が求められるようになった、ということでもあります。
同時に、この労働者の取り組みを促進するために、「セルフ・キャリアドッグ※」の導入や活用など、企業においても、労働者個人のキャリアデザインへの取り組み支援が求められています。
※企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取り組み、またそのための企業内の仕組みのこと
このような社会の変化により、みずからのキャリアをしっかりと積み重ねていきたいと思っている社員にとって、会社がそれをどのように支援してくれるのかが重要視されるようになりました。
転職することへの抵抗感も少なくなっていることもあり、若手社員の離職率の高さや、育児・介護休業者の職場復帰率の低さが問題になっている会社も多いのではないでしょうか。
中堅社員の方はというと、管理職に昇進しない従業員が著しく増加傾向にあり、昇進・昇格や昇給を中心としたキャリアアップの方策が機能しにくくなっています。
そこで、むしろライフキャリアの充実に視点をシフトした対策が求められています。
また人生100年時代が到来し、65歳までの雇用確保義務に加えて70歳までの就業確保が努力義務になりました。
企業には定年延長や定年廃止、定年後再雇用など高齢者の就業確保に向けた取り組みがいっそう求められています。
社員が抱くキャリア感の変化
労働者にとっても、長期的なビジョンを持ってキャリアデザインを考える重要性が増しています。
現に年齢によらず長期に働き続けたいというシニア社員が増加しているわけですから、長い生涯キャリアを有意義に、豊かに送るには、いくつになっても仕事で成長を実感し、充実感を持って仕事ができることが重要です。
その一方で、2021年秋の経済同友会のセミナーでサントリーホールディングス社長が「45歳定年制を強いて、会社に頼らない姿勢が必要だ」と言及し、SNSなどで波紋を広げました。
これは長寿化で雇用延長が進むなか、新時代に向けて「会社を去るのか残るのかを若いうちに選択し、自分のキャリアで戦える人材になりましょう」と呼びかけているのかもしれません。
もっとも、定年まで会社が存続する保証がないという現実も垣間見えますが……。
かつての日本においては、「学ぶ」「働く」「引退する」という3つのステージで進んでいましたが、今やそのサイクルでは語れなくなりました。
「働く」のステージに立ちながら学び直し、キャリアアップをはかる人も増えています。
大きく時代が変化しているなか、どの年代層にとっても、あらためてみずからの人生を主体的に設計する「キャリアデザイン」が重要となっています。
キャリアデザインのメリット
個人にとっては、キャリアデザインを考えることで、自分の人生を考え直し、充実した人生に向けて歩き出せるようになることが最大のメリットです。
主体的に自分の人生を捉え直すことで、自分らしさとは何なのか、何のために働き、何を実現したいのか、自己実現に向けて考えていきます。
自分の価値観や判断の「軸」を再確認することにより、変化の激しい時代においても、前向きに取り組むことができるようになります。
つまり、キャリア意識や仕事に対するモチベーションの向上と、キャリアの充実をはかれるわけです。
またその過程で、ビジネスパーソンとしての自分の強みや個性が明確になります。
それは将来の目標に向けて戦略を練る材料となりますし、失業しないためのスキルの習得や転職時のリスクヘッジにもなります。
企業にとっては、人材の定着や活性化を通じて、組織の活性化につながります。
企業が個人の「キャリアデザイン」を支援することで、成長意欲を持つ社員が増えることが見込め、また、そのような関わりを提供する企業へのエンゲージメントが高まります。
そうすると企業と個人がともに成長し合うこととなり、組織は活性化されます。
キャリアデザインの方法
どのような人生を送るのかという観点や、自身と家族の基本的生活設計の観点等のライフプランを踏まえて、職業キャリアのプランを考えます。
それをもとに中長期的な目標や展望を設定し、そこに向けた短期的な目標を設定して実行していきます。
キャリアデザインの目標を考える
まずは理想・目標を考えることから始めましょう。
これから先、どんな人生を送っていたいですか?
たとえば、「実現したいことから」「好きなことから」「仕事や働き方から」など、自分が考えやすいところからイメージを広げてみてください。
人生100年時代を生きることを考えたとき、自分が情熱を注ぐことができるものは何でしょうか。
どんな人生を過ごせたら充実感や満足感を得られるのでしょうか。
ぜひいろいろな視点から自分に問いかけてみてください。
- 自分の人生のなかに、仕事をどのように位置づけますか?
- どのような仕事をしていますか?
- 何歳まで働きたいですか?
- どのような働き方をしていますか?
- 仕事をしている場所はどこですか?
- 収入はどの程度でしょう?
- 仕事以外で実現したいことはありますか?
自分自身のことはもちろんですが、そのとき、家族など周りの状況はどうでしょうか。
自分の年齢と家族の年齢を併せて書き出してみると、多くの方が驚きます。
私たちは生まれてから死ぬまで、さまざまなライフロール(役割)を演じます。
ドナルド・E・スーパー氏のキャリア理論「ライフキャリアレインボー」では、私たちは9つの大きな役割「子ども」「学生」「余暇人」「市民」「労働者(職業人)」「配偶者」「家庭人」「親」「年金生活者」を演じており、多くの人は、同時に複数の役割を各ライフステージで果たしているといいます。
たとえば、あるサラリーマンは、会社では「労働者」ですが、仕事を終え自宅に戻れば「家庭人」であり、休日になればレジャーを楽しむ「余暇人」になります。
結婚していれば「配偶者」の役割を演じ、子育て中の方なら「親」という役割も大きくなるでしょう。
子どもが幼いうちは「親」の役割が大きいかもしれませんが、子どもが成長するにつれて、「親」の役割は小さくなっていきます。
逆に、親の介護を考える年代では、あらためて自身の「子ども」としての役割が大きくなってくるかもしれません。
ライフキャリアレインボーで考えると、仕事以外の要素が見えたり、視野が広がることで、その人の生き方やあり方の輪郭が捉えやすくなったりします。
人にとって重要な家庭人、配偶者、余暇人といった役割をないがしろにせず、仕事と同様に考えることで、より充実した人生を描くことができるでしょう。
キャリアデザインの目標を達成するには
理想や目標が決まったら、その達成手段を考えます。
自分が描いた未来から逆算しましょう。
- そのキャリアデザインを実現するためには、いつごろ、どのような経験やスキルが必要ですか?
- いつごろ、どんなポジションにいるでしょうか?
- どんな人の協力が必要でしょうか?
- どのようなプロセスをたどると、その未来が実現できるのでしょうか?
理想や目標の達成を考えるためには、現在の状況を整理することも必要です。
興味・能力・価値観を中心に整理してみましょう。
今まで、どんな経験をしてきたでしょうか。
その経験のなかで、どんなことを考え、何を大切にしながら、どんな行動をしてきましたか?
自分自身が持っている能力・技能・知識等について、上司や同僚などを巻き込み、客観的な視点も含めて整理しましょう。
キャリアデザインは、夢物語を描くものではありません。
主体的にみずからの人生を設計し、実現に向けて進むことが大切です。
自分が理想とする生き方・働き方から逆算して、その理想を実現するための具体的な行動計画を立て、実行することが大切です。
理想実現に向けて、戦略を練りましょう。
キャリアデザインの注意点
キャリアデザインは自分の理想の実現に向けて進んでいくものですが、固執しない柔軟性も大切にしてください。
VUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)時代だからというだけでなく、仕事を進めるうえで、自分の思いだけではどうにもならない問題も多々生じます。
自分の気持ちが変化することもあるでしょう。
キャリアデザインは状況に応じて、柔軟に軌道修正することも大切です。
ジョン・D・クランボルツ氏によって提唱されたキャリア理論「計画的偶発性理論(プランドハップンスタンスセオリー)」では、「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」としています。
つまり、変化の激しい時代において、計画したキャリアに固執することは非現実的であり、すべきでないという指摘です。
クランボルツ氏はキャリアデザインを実践するために必要な行動指針として、次の5つを掲げています。
- 好奇心:たえず新しい学習の機会を模索し続けること
- 持続性:失敗に屈せず、努力し続けること
- 楽観性:新しい機会は必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること
- 柔軟性:こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
- 冒険心:結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと
自分がどんな人生を歩みたいのかという「軸」を大切にしながらも、これら5つの行動指針をもちながら進むことが、「キャリアデザイン」を考え実行するうえで、非常に重要なのです。
株式会社ビジネスプラスサポート人財育成プロデューサー。
大学の事務局総務職員、会社社長秘書として勤務するなかで、業務効率化・標準化を実践し、チームの生産性向上を実現。独立後はライフビジョンの構築を中心に企業研修講師としても活動の幅を広げ、社内でのキャリア面談やキャリア開発研修等の分野で活躍する。
1級キャリアコンサルティング技能士(国家検定)として、「自分らしく輝く笑顔あふれる社会を創る」をミッションに、人が持つ成長欲求を大切に、充実した人生の実現に向けての支援を展開している。またキャリアコンサルタントの養成・育成にも携わる。