熱・空気・水のハイテク企業へ新規事業を次々に育てるコロナ社長・内田力
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三条鍛冶の伝統をひく金属加工業で知られる新潟県三条市。信越線三条駅からほど近いとある工場で、ここ数か月、石油ストーブや石油ファンヒーターといった暖房機器の生産が急ピッチで進められている。
「例年だと、12月いっぱいで暖房器具の生産をほぼ終え、来夏に向け冷房関係へシフトするのだが、この冬の場合、需給が逼迫しており、1月どころか2月まで生産に追われるかもしれない」
そう語るのは、石油ファンヒーターではダイニチ工業と、石油ストーブではトヨトミと国内市場をほぼ二分するコロナ関係者だ。
3月11日の大震災と東京電力福島原子力発電所の停止は、電力の供給不足、節電意識の高まりを惹起し、今夏、扇風機などの大幅需要増につながった。今冬もまた電力不足が懸念されており、電力を使わずに暖房可能な石油ストーブ、あるいは節電型石油ファンヒーターの需要が急増している。すでに被災地近辺の大型家電量販店では、これらの暖房器具が売り切れてしまったところも出ている状況だと聞く。
いかにも技術畑出身らしく、内田力・コロナ社長は実直な口振りでこう語る。「震災後、弊社では石油ストーブを2,200台ほど被災地にお送りし、大変喜ばれた。で、4月に入り生産計画を立てるにあたり各販売先に情報をいただいたのだが、注文台数は昨年比大幅増となった。もっとも具体的数字は東証に叱られるので、現時点では明らかにできないが」
コロナは内田社長の実父である鐡衛前社長が創業した会社だが、同時に業界では加圧式石油コンロや石油ストーブを日本で初めて開発した会社としても知られている。つまりコロナは石油系暖房機器のパイオニア企業なのである。とはいえ、震災直前までは寒冷地などを除きこれらの石油暖房機器の需要は先細り気味だった。コロナも前11年3月期こそ、寒波の襲来と震災以降の需要増でこれら暖房機器が18%強の売上増となり、長年主力事業として育成してきた住設事業の堅調さもあって、売上高800億円超、経常利益27億円超と増収増益決算となったが、それ以前は三期連続減収減益となっている。
既存事業にこだわり、故郷・新潟にこだわる
「石油ストーブ、石油ファンヒーターともに、かつては大手家電メーカーも生産していたが、今は多くが撤退した。対してうちは節電型、省エネ型を追及し、これらの事業を金のなる木にしてきた」
もちろん機器の改善・革新だけでなく、さまざまなコストダウン対策も講じてきた。たとえばコロナの事業でもっとも収益面で厳しいのはエアコン事業だが、「二毛作生産」と呼ぶ独自の生産システムを採って生産性向上を図り、事業継続を企図している。
「正直、エアコンは苦戦している。家電さんはコストの安い海外で生産しているのに対し、うちはすべて国内生産。そのハンディを補うために、当社では二毛作生産、つまり同じ製造ラインで夏秋は石油ファンヒーターを、冬春はエアコンを生産、コストダウンにつなげている。加えてエアコンの場合、生産品目をオンリーワン商品だけに絞り込んでいる」
このように、コロナでは企業の基盤を作った商品群を、時代のニーズ、技術革新に合わせて変化させつつ、事業としては継続する経営を選択してきた。企業としてのこだわりである。
こだわりは、工場配置にも見ることができる。すべて国内、しかもすべて新潟県内なのだ。
「うちの商品はメード・イン・ジャパンならぬ、メード・イン・ニイガタ。新潟が私どもの故郷だから、ここでの雇用をなくすわけにはいかない。それだけでなく、工場を海外に移すと開発・生産・改良という循環が断ち切られる。(グループ会社含め)県内八工場を機能的に連携させていけば、災害等のリスクにも対応できると考えており、今後ともこれを変える気はない」
2004年7月の集中豪雨、同年10月の中越地震、07年7月の中越沖地震など立て続けに起きた災害で工場にも被害が出たが、商品供給に大きな問題を発生させることはなかった。これがメード・イン・ニイガタにこだわる内田の自信の根拠となっているようである。
アイデンティティーを守りつつ新規事業進出を恐れない
こう書いてくると、コロナは過去の主力商品にこだわり、新潟という地域にこだわる古い体質の企業のように思われるかもしれない。だが、注目すべきは一方で新たな事業分野へ積極的に進出を図ってきた点だ。
創業者の鐡衛前社長は、「石油コンロ、石油ストーブを発明しただけでなく、次々に時代に先駆けて新商品を出していった。チャレンジ精神の旺盛な男だった」。内田自身もそうした性癖を引き継ぎ、自らアイデアを出し、「開発優先」の姿勢を崩さず、次々と新規事業に手を染めてきている。
現在の主力事業であるエコキュート、石油給湯機などの住設関連事業は内田が社長に就任して以降、育ててきた事業である。
さらに今、4本目の柱を目指してコロナ独自のナノミストサウナを中核にアクア・エア事業に注力中だ。このナノミストサウナだが、「(技術的な)ミソの1つは、ミストがごく微細なこと。雨粒と大きさを比べると、東京ドームと米粒ほどの差がある。ドライサウナと違い温度は39度前後と低く、幼児、女性、虚弱体質の人にも負担が少なく、それでいて発汗量が多いため体内の老廃物、重金属を皮膚から汗として排出する。これらは、新潟大学大学院の安保徹教授(免疫学)との共同研究で実証された。水分子マイナスイオンを大量発生させるので、癒し効果もある」
加えて、コロナはここへきて米どころの企業らしく農業分野へも進出を図っている。「私どもは熱、空気、水を扱うハードウエアメーカーだったが、水と空気そのものも商品化したいと考えている。その関係で県内の農事法人が提唱する自然微生物農法を導入、農薬、化学肥料を使わない米の生産に踏み切った。現在は社員食堂で用いているが、耕作放棄地も多いことから営農面積を増やし、将来は外販も考えたい」という。また微生物由来の「天然バイオ水」の商品化などにも挑戦している。
エネルギー需給という難題を横目に、内田はコロナの「熱と空気と水のハイテク企業」への変身を目指し、意欲満々だ。
月刊「ニュートップL.」 2011年11月号
清丸惠三郎(ジャーナリスト)
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