役員報酬が損金算入される要件とは
これだけは知っておきたい!役員報酬の決め方の勘どころ[第1回]取締役や監査役など会社の役員に対する報酬は、使用人(従業員)に対する給与と異なり、一定の要件を満たしていないと、会社の課税所得の計算上、損金の額に算入されず、法人税の負担が大きくなります。
このため、役員報酬をどのように定めるのか、改定する場合になにを注意すればよいのかは、会社経営では重要なポイントとなります。
そこで、今回は、この役員報酬についての税務上の要件と留意点を解説します。
目次
法人税における役員報酬の取り扱い
会社法は、役員報酬を定款の定めまたは株主総会の決議で定める(会社法361条)こととしています。
役員報酬の支給上限額を定めているのであれば、取締役会などで具体的な金額を決定することになります。
株主総会を経るにせよ、会社の決議だけだと、業績に応じ、事業年度中に役員報酬が恣意的に支給されるおそれがあります。
その結果、法人税が適正に課税されない、という問題も生じます。
そこで法人税法において、役員報酬の額のうち、以下の3つだけが損金の額に算入できると定められています(法人税法34条)。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
いずれにも該当しないものは、損金の額に算入されません。
ただし
(a).退職給与(退職慰労金)で業績連動給与に該当しないもの
(b).(a)以外のもので、使用人兼務役員に対して、使用人職務に対するものとして支給するもの
には、このルールは適用されません。
また、会社が事実を隠蔽し、または仮装して経理し、役員に対して支給するものは損金の額に算入されません。
法人税法上の「役員」の範囲
法人税法における役員とは、取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、および清算人を指します。
そのほか、役員ではないものの、経営に従事していると認められるつぎの者も含みますので、ご注意ください(法人税法2条、法人税法施行令7条、71条、法人税基本通達9-2-1)。
役員ではないものの、経営に従事していると認められる者- 職制上、使用人の地位を有している者以外で、経営に従事している者。
たとえば、取締役ではない会長、持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)の業務執行社員、相談役や顧問などで、実質的に経営に従事していると認められる者。 - 職制上、使用人の地位を有している同族会社の使用人のうち、一定の要件をすべて満たし、経営に従事している者。
役員報酬を損金算入できる3つの支給方法と要件
定期同額給与
定期同額給与とは、
・1か月以下の一定の期間ごとに支給される定期給与であり、
・その事業年度の各支給時期での税込または手取額による支給額が同額であるもの※
をいいます。
※手取額による支給額が同額であるものとは、源泉徴収される所得税、地方税、社会保険料などの合計額を控除した額が同額であるものです。
たとえば、役員に対して毎月、同額を支給する定期給与が、この定期同額給与にあたります。
しかし、事業年度中に役員報酬を変更する必要が生じることもあるでしょう。
期中に定期給与を変更したとしても、後述する要件(4.定期同額給与の改定要件)を満たせば定期同額給与に該当します。
事前確定届出給与
あらかじめ定めた時期に、確定した額を支給する給与で、定期同額給与または業績連動給与にあたらないものであり、事前確定届出給与に関する届け出をしているものは、事前確定届出給与にあたります。
たとえば、夏と冬に役員に対して賞与を支給したいときに、あらかじめ支給額を定め、税務署に届け出をし、届け出通りに支給することで、損金の額に算入することが認められます。
事前確定届出給与の届け出は、つぎの日のいずれか早い日までに、税務署に提出しなければなりません。
- 株主総会などの決議※により定めた場合は、その定めた日から1か月を経過する日。
ただし、その定めた日が役員としての職務執行を開始する日の後である場合は、職務執行を開始した日から1か月を経過する日。※定款の定めまたは株主総会の決議により支給総額を定め、その範囲内で役員それぞれの支給額を取締役会で定める会社では、取締役会での決議が含まれます。 - 事業年度開始の日から4か月(確定申告書の提出期限が延長されている会社は、延長月数プラス3か月)を経過する日。
なお、新設法人では設立日以後2か月を経過する日までに税務署に届け出を提出しなければなりません。
このほか、つぎの場合には、事前確定届出給与の届け出をしなくても、事前確定届出給与として損金の額に算入されます。
- 定期給与を支給しない役員に対して、同族会社に該当しない法人が金銭による給与を支給する場合
- リストリクテッド・ストックなど、将来の役務の提供に関して、要件を満たした株式または新株予約権による給与を支給する場合
業績連動給与
会社の持続的成長のために、役員に対してインセンティブとなるよう、会社の業績に関する指標に連動して支給する給与を業績連動給与といいます。
この業績連動給与を損金の額に算入することができるのは、同族会社でない会社、もしくは同族会社以外の会社と完全支配関係がある会社(上場会社の完全子会社など)に限られます。
また、指標については、利益・株式の市場価格・売上高の状況を示す指標を基礎とした客観的なものとされており、社内の報酬委員会等で算定方法を決定するなど適正手続きを経て、有価証券報告書等により開示されていることが必要です。
このため、業績連動給与は、上場会社、これに準ずる会社で用いられています。
定期同額給与の改定要件
以上3つの給与のうち、定期同額給与では、一事業年度中の支給時期ごとの支給額が同額である必要があります。
しかし、定時株主総会で役員報酬を改定する場合、代表取締役の急逝により後任者が就任し報酬を改定する場合、会社の業績が急激に悪化し金融機関の支援を受けるために役員報酬を減額する場合など、定期給与の改定が必要となることもあります。
そこで、定期給与の改定が必要な場合、つぎの要件を満たせば、定期同額給与として認められます。
- 事業年度開始日から3か月(確定申告期限が延長されている会社では、延長月数プラス2か月)を経過する日までに、定期給与を改定していること
- 臨時改定事由
役員の職制上の地位の変更、役員の職務の内容に重大な変更があった場合などにより定期給与を改定したこと - 業績悪化改定事由
会社の経営状況が著しく悪化したなどにより、定期給与を減額する改定をしたこと。 この業績悪化改定事由にあたるかどうかについては、第三者との関係でやむなく定期給与の改定を要する場合と考えられており、会社の利益が減少し赤字になりそうであるなどは、業績悪化改定事由として認められません。
なお、新型コロナウイルス感染症による業績への影響に伴う業績悪化改定事由については、業績悪化の見込みから、今後の経営の悪化が不可避の場合に減額改定が認められています。
なお、事前確定届出給与でも、臨時改定事由、業績悪化改定事由により、一定の要件のもとで、届出後の改定が認められています。
役員報酬に含まれる経済的利益とは
会社が役員報酬として支給したものではなくても、役員に対して供与した経済的利益は、会社がどんな勘定科目で処理しようと、税務上は役員報酬として取り扱われます。
(例)税務上、役員報酬として取り扱われるもの- 会社から役員に資産を贈与した場合の、その資産の時価
- 会社から役員に対しての貸付金債権の免除をした場合の、その債権の免除額
- 役員に対して貸し付けた社宅について適正な社宅家賃を徴収していない場合の不足額
- 役員を被保険者及び保険金受取人とした生命保険契約の保険料を会社が負担した場合の、負担した保険料の額
- 役員の私的な費用を会社が負担したときの、その額
ただし、所得税法上、課税されない経済的利益であり、会社が給与として経理しなかったものは、給与として取り扱いません。
また、使用人兼務役員に対して供与した経済的利益については、社宅家賃を除き、他の使用人に対する供与と同程度である場合には、使用人としての職務に係るものとして損金の額に算入されます。
なお、この経済的利益が毎月おおむね一定額であるものは定期同額給与として扱われます。
しかし、会社が事実を隠蔽し、または仮装して経理したものは定期同額給与にはあたりません。
まとめ
このように、事業年度中に要件を満たさない役員報酬の変更を行ったり、賞与として追加支給をしたりすると、法人税の負担が増えます。
また、役員に対する経済的利益が給与と判断されると、その分の源泉所得税も追加で納付することになります。
役員報酬の支給は、よくよく計画的に行いましょう。
1998年、税理士登録(税理士高岸俊二・直樹事務所)。上場会社からベンチャー企業まで、ニーズに応じた税務実務、経営を指導する一方、大学では会社法や金融商品取引法講義の教鞭をとり、税務と企業法務の両分野に精通。月刊誌『企業実務』を始め、租税、会社法、企業経営をテーマとした執筆多数。二松学舎大学国際政治経済学部で教授を務める(会社法、事業再生論)。