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消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)の概要と登録時の注意点

いよいよ登録申請スタート! いまから始める消費税インボイスの実務対応[第1回]
 

適格請求書等保存方式(インボイス制度)とは

適格請求書(インボイス)とは、売手が買手に対し、正確な適用税率や消費税額等を伝達する手段であり、一定の事項が記載された請求書や納品書および、これらに類する書類のことをいいます。

売手の立場からみたインボイス制度

令和5年(2023年)10月1日からインボイス制度が始まります。

インボイス制度導入後、商品販売やサービス提供といった「課税資産の譲渡等」を行った適格請求書発行事業者(「適格請求書発行事業者登録のための手続きとスケジュール」参照)である売手は、課税事業者である買手から求められた場合には適格請求書を交付する義務があります。

※バスの運賃や郵便切手を貼ってハガキを投函したときなど、適格請求書を交付することが困難な取引の場合は免除されます。
国税庁:インボイス制度に関するQ&A「問32.適格請求書の交付義務が免除される取引」 

さらには、適格請求書の写しを7年間保存しなければなりません。

買手の立場からみたインボイス制度

課税事業者である買手の立場でいうと、適格請求書発行事業者から渡された適格請求書の保存が仕入税額控除の要件となります。

原則として免税事業者や消費者からの課税仕入は、適格請求書が発行されないため、仕入税額控除の対象となりません。

適格請求書発行事業者登録のための手続きとスケジュール

適格請求書を交付するためには、所轄の税務署長に対し登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者として登録を受けなければなりません。

登録申請書は令和3年(2021年)10月1日から提出することができます。
書面によるほか、e-Tax を利用した電子による提出も可能です。

登録が済むと後日、登録番号が通知されます。
e-Taxを利用して登録申請書を提出し、かつ電子での通知を希望した場合は、e-Taxソフトのメッセージボックスに登録番号等が記載された登録通知書が送られます。
その他の場合は書面により、登録番号等が記載された登録通知書が届きます。

電子での通知は、

  1. 税務署での処理後、速やかに電子通知が行われるため、書面でもらうより早期に登録通知書を受領できる(書面の場合は約1か月、e-Taxの場合は約2週間)
  2. メッセージボックス内にデータ保管されるため、登録通知書を紛失するおそれがない
  3. メールに登録通知のデータを添付して取引先等に連絡することができる

というメリットがあります。

なお、適格請求書発行事業者として登録された事業者は

  1. 氏名または名称および登録番号
  2. 登録年月日
  3. 法人の場合は本店または主たる事務所の所在地

などの情報が国税庁ホームページ「適格請求書発行事業者公表サイト」(令和3年10月より運用開始)において公表されます。

課税事業者はいつでも適格請求書発行事業者の登録を受けることができますが、適格請求書等保存方式が導入される令和5年10月1日に登録を受けるためには、原則として令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。

ただし、令和5年3月31日までに登録申請書を提出できない困難な事情がある場合には、令和5年9月30日までに一定の手続きを行うことで令和5年10月1日に登録を受けたこととみなされます。

適格請求書発行事業者申請スケジュール

免税事業者が適格請求書発行事業者になるためには

ところで、適格請求書発行事業者として登録を受けるためには、消費税の課税事業者であることが前提です。

したがって、消費税の申告・納税義務のない免税事業者のままでは登録を受けることはできません。
免税事業者が登録を受けたければ、課税事業者になってからということになります。

なお、免税事業者が課税事業者となって適格請求書発行事業者の登録を受ける場合の留意点は次の通りです。

登録日が令和5年10月1日の属する課税期間中である場合

令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受ける場合には、登録日から課税事業者となる経過措置があります。
この場合、課税事業者選択届出書の提出は必要ありません。

たとえば、個人事業者のように課税期間が令和5年1月1日から同年12月31日である場合を考えてみましょう。

免税事業者が令和5年10月1日に登録を受けると、令和5年1月1日から9月30日までの期間は免税事業者ですが、令和5年10月1日から12月31日までの期間は適格請求書発行事業者となります。

したがって消費税の課税事業者となりますから、申告および納税義務が発生します。

適格請求書発行事業者申請スケジュール

登録日が令和5年10月1日の属する課税期間の翌課税期間以後の場合

令和5年10月1日の属する課税期間の翌課税期間以後に登録を受ける場合には、課税事業者選択届出書および登録申請書を提出する必要があります。

課税事業者となる課税期間の初日から登録を受ける場合には、その課税期間の初日の前日から起算して1か月前の日までに登録申請書を提出しなければなりません。

たとえば、免税事業者である個人事業者が令和6年1月1日から課税事業者となることを選択し、同日に適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合では、どうでしょうか。

この場合、令和5年12月31日までに課税事業者選択届出書を提出し、登録申請書を令和5年11月30日までに提出することが必要です。

免税事業者の申請スケジュール2

適格請求書発行事業者の登録はしなければならないのか

課税事業者だからといって、適格請求書発行事業者の登録が強制されているわけではありません。

販売先が消費者や免税事業者に限られるのであれば、適格請求書を交付する必要がないからです。
そこで事務負担を考慮し、登録申請をあえて行わないことも考えられます。

しかし、販売先に課税事業者が存在する場合はよくよくご検討ください。

課税事業者である販売先からしてみれば、適格請求書を交付してもらえないと、原則として仕入税額控除を受けることができないということになります。

仕入税額控除を受けられないということはその分、税負担が増えるということです。

そのため、インボイス制度導入後も適格請求書発行事業者に登録しないのであれば、販売先から消費税相当額の値下げを要求される可能性があることを想定しておくべきでしょう。

従前の取引価額を維持できるかどうかは売手と買手の交渉や力関係によって決まると思いますが、値下げに応じると粗利益は減少するため、経営に少なからず影響が生じます。

また、適格請求書発行事業者以外の事業者と取引を行っても仕入税額控除が認められないという理由で、取引から排除されることも考えられます。

商品等に非常に強い競争力がある場合や代替性が極めて低い場合などは別として、取引継続のためにも適格請求書発行事業者として登録を受けておくべきでしょう。

山口拓 氏(税理士)

山口拓税理士事務所所長。
経営改善・消費税節税のスペシャリストとして、顧問先の経営指導や消費税の還付申告に取り組む。消費税の還付申告については過去に税務署に否認されたことが一度もないという実績を持つ。また、顧問先の税務調査の負担軽減のために書面添付制度の活用も積極的に行っている。

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