国税庁「インボイス制度に関するQ&A」に学ぶ適格請求書の取り扱い
2023年10月以降の請求書はどうなるのか?消費税インボイス制度導入まで1年を切りました。
このインボイス制度について、日本商工会議所が2022年9月に発表した調査によると「準備を行っていない事業者」が全体の4割います。
情報収集はしていても具体的に着手していない事業者まで含めると、企業の9割近くがまだ準備しきれていないという結果でした。
- 請求書等発行システムや経理・受発注システムの入替・改修等を行っている:7.0%
- 情報収集は行っているが、具体的には取り掛かっていない:34.3%
- 情報提供を受けたことはあるが、どのような準備が必要か分からない:15.7%
- 特に何もしていない:42.2%
(出典)日本商工会議所│日商ニュース(2022年9月8日)
「消費税インボイス制度」と「バックオフィス業務のデジタル化」等に関する実態調査結果について
もちろん、この調査以降、どの会社も着々と準備を進めていることと思われますが、インボイスについてなにかと疑問に思うこともあるかもしれません。
そこで、国税庁がまとめた「インボイス制度に関するQ&A」から、インボイス(適格請求書等)の取り扱いについて基本となる論点を解説してみました。
なお、それぞれの会社ならではの細かい疑問はあることと思いますが、ここでは比較的どの会社でも関係がありそうな代表的なQ&Aを取り上げます。
「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(国税庁) |
※本稿では以下、上記Q&Aを「インボイス制度に関するQ&A」、また適格請求書等を「インボイス」と表記します。
目次
軽減税率商品を扱っていない会社でもインボイスは必要?
当社は、軽減税率対象品目の販売を行っていませんが、適格請求書発行事業者の登録を必ず受けなければなりませんか。
「インボイス制度に関するQ&A」問11
消費税10%対象商品・サービスしか扱っていない企業も少なくないでしょう。
そこで、複数税率を記載する意味がないのだから、わざわざインボイスの発行事業者になる必要はないのでは?という疑問です。
ポイントはお取引先・お客様への対応です。
Q&Aで指摘している例でいうと、インボイスを発行してもらえないと、お取引様は仕入税額控除を行えないという問題があります。
インボイス制度が自社に関係なさそうでも、お取引様にとって必要であるなら適格請求書発行事業者の登録をしないわけにはいかないでしょう。
ただし仕入税額控除の必要がない消費者だけがお客様だという場合にはインボイスを発行する必要がありません。
というわけで、自社だけでなくお客様都合も考慮したうえで、適格請求書発行事業者に登録するかどうかを検討した方がよさそうです。
取引先からインボイスをもらったとして、その登録は確認できますか?
適格請求書発行事業者の情報は、どのような方法で公表されますか。
「インボイス制度に関するQ&A」問20
2023年10月以降は自社が発行するだけでなく、お取引先様からインボイスを受け取ることにもなるでしょう。
疑うわけではありませんが、万が一にそなえ、お取引先様が適格請求書発行事業者である証拠となる登録番号が間違いないかどうか確認したい場合もあるかもしれません。
そんなときは「適格請求書発行事業者公表サイト」(国税庁)をご覧ください。
登録事業者の番号はすべてここで公表されます。
適格請求書発行事業者公表サイトでは登録番号で検索すると、その適格請求書発行事業者の名称、所在地あるいは登録日を調べることができます。
もし、番号で検索してエラーが出たとしたら、その番号が誤りか、その番号を提示した企業が適格請求書発行事業者として未登録なのかもしれません。
なお、一般的な法人であれば登録番号は「T+法人番号(13桁)」です。
そこで、法人番号公表サイトと組み合わせて調べると、お取引先様等が適格請求書発行事業者に登録されているかどうかも自分で調べられるでしょう。
インボイスはどんなときに交付しなければならないのか
適格請求書発行事業者は、どのような場合に適格請求書の交付義務が課されるのですか。また、交付義務が課されない場合はあるのですか。
「インボイス制度に関するQ&A」問23
簡略化していうと、課税事業者との商取引において相手方から求められたらインボイスを交付しなければなりません(適格請求書発行事業者の義務です)。
相手方にしてみれば、仕入税額控除をするためにはインボイスが必要です。
したがって相手が消費者や免税事業者でないかぎり、インボイスの交付を求められるでしょうから交付しないわけにはいきません。
ただし、以下の5点についてはインボイスを交付しにくいものであることから交付免除が認められています(それぞれ細部の条件あり)。
- 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
- 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売
- 生産者が農業協同組合、漁業協同組合または森林組合等に委託して行う農林水産物の販売
- 3万円未満の自動販売機および自動サービス機により行われる商品の販売等
- 郵便ポストに差し出された郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス
交付免除については「インボイス制度に関するQ&A」問34以下で、それぞれ詳しく回答されています。
該当しそうな企業様はそれぞれのQ&Aにてご確認ください。
手書きの領収書でもインボイスと認めてもらえますか?
当店は、現在、顧客に手書きの領収書を交付しています。
「インボイス制度に関するQ&A」問26
適格請求書等保存方式の開始後においても、その手書きの領収書を適格請求書として交付することはできますか。
インボイスは手書きかどうかにかかわらず、必要事項が記載されていれば問題ありません。
ここでいうインボイスの必要事項とは以下の6点です。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 課税資産の譲渡等を行った年月日
- 課税資産の譲渡等に係る資産または役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容および軽減対象資産の譲渡等である旨)
- 課税資産の譲渡等の税抜価額または税込価額を税率ごとに区分して合計した金額および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
適格請求書発行事業者名の記載はどこまで厳密に?
現在、当社は、請求書を交付する際に記載する名称について、屋号を使用しています。適格請求書に記載する名称も屋号で認められますか。
「インボイス制度に関するQ&A」問46
たとえばインボイスに電話番号を記載するといったことで、発行事業者であることが特定できるのであれば、屋号や略称でも問題ありません。
ところで名称ではなくコード番号で管理している場合だと、どうなるのでしょうか。
現在、当社は、名称に代えて、取引先と共有する取引先コード(取引先コード表により当社の名称等の情報を共有しています。)を請求書に記載しています。
「インボイス制度に関するQ&A」問47
取引先コードの内容に登録番号を追加することにより、適格請求書の記載事項を満たすことになりますか。
取引先コード表で管理している場合でも
- 登録番号と紐づけて管理している
- 取引先コード表を相手方と共有している
- 買い手も取引先コードから登録番号を確認できる
という場合にはインボイスの記載事項である「適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号」の記載があると認められます。
しっかりとした取引先コード管理ができているのであれば、社名を用いない方法で請求書を作成してもインボイスの要件を満たしていると考えられるわけです。
軽減税率対象商品を取り扱っていなくても8%税率はインボイスに記載すべきか
当社は、日用雑貨の卸売を行う事業者です。当社では、軽減税率の適用対象となる商品の販売がありません。軽減税率制度の実施後、買手の仕入税額控除のための請求書等の記載事項を満たすものとして、次の請求書を取引先に交付しています。
「インボイス制度に関するQ&A」問64
当社が交付する請求書を適格請求書とするためには、記載内容にどのような変更が必要でしょうか。
取り扱い商品が軽減税率の適用対象とならないものだけであれば、「軽減対象資産の譲渡等である旨」の記載は不要です。
つまり、消費税率10%商品しか取り扱っていない場合、登録番号や適用税率(10%)、消費税額等の記載をするだけで足ります。
税率10%対象商品について、しっかりとインボイスとしての記載要件を満たしているのであれば、わざわざ「8%対象0円(消費税0円)」のような記載をする必要はないということです。
10月1日以前から請求書に登録番号を記載してよいのか
当社は、令和3年10月に登録申請書を提出し、適格請求書等保存方式が開始される前(令和5年9月30日以前)に登録番号が通知されました。令和5年9月30日以前に交付する区分記載請求書等に登録番号を記載しても問題ないですか。
「インボイス制度に関するQ&A」問66
端的にいえば、問題ありません。
ところで10月に向けて、お取引様から登録番号を聞かれることも増えてくるかもしれません。
そういった場合を想定してあらかじめ請求書に登録番号を書き加えておくことで周知を図るのも、ひとつの方法かもしれません。
また、登録番号だけでなく、インボイスに必要な記載事項をあらかじめ盛り込んだ請求書を発行しておくのも差し支えありません。
というのも、インボイスに求められる記載事項は現在の区分記載請求書として必要な記載事項を満たしているからです。