傾聴力を強みに変えるコミュニケーションのポイント
リーダーが身につけたい聴く力リーダーになると、なにかと面談する機会が多くなるはずです。
わたし自身は、適切な面談ができるよう、面談を3つのタイミングに分けています。
- 面談準備
- 面談序盤
- 面談終盤
面談準備:聴く相手をイメージする
まず「相手のスタイルをイメージしておく」ことが重要です。
これから、皆さんに紹介するこの手法は「ソーシャルスタイル」といって非常に応用範囲の広いものです。
ソーシャルスタイルはもともと営業・販売の技法です。
お客様を見た目で4つのタイプに分け、対応することで成約率を高めようとするものです。
わたしの支援先でも、この手法を導入して30%以上成約率を向上させています。
ポイントは、他人から観察できる行動傾向(つまり『見た目』ですね!)をもとに、アプローチしていくやり方なので、わかりやすく誰にでも適用できるのが特徴です。
今回面談する部下は、話を[聞く]タイプなのか、[しゃべる]タイプなのか。
[クール]なタイプなのか、いつも[ニコニコ]しているのか。
2軸から、4つのタイプに分けられます。
右下から時計回りに、タイプA→B→C→Dと呼ぶことにしましょう。
ヨコ軸:自己主張度
判断決断のスピードに比例します。
右のタイプ(AとD)は判断決断のスピードが早く、左のタイプ(BとC)は判断決断のスピードがゆっくりです。
タテ軸:感情表現度
これは関心の領域を意味しています。
上のタイプ(CとD)は事実・データに関心があり、下のタイプ(AとB)は人に関心があるのです。
では4つのタイプでいちばん優柔不断な人は誰でしょう?
正解はタイプB[ニコニコ・聞く]です。
このタイプは、常に周りの人のことを考えています。
タイプBの人はとても協調性に富みます。しかしなかなか自分では決められません。
だから、暖かく包み込むように対応するとよいでしょう。
「大丈夫ですよ! お手伝いします」等々のキーワードを多用すると効果的です。
Bの対角線にあたるタイプD[クール・しゃべる]は、反対に自分で決めたい人です。
いくつか選択肢を示してあげるのも良いやり方です。
右下のタイプA[ニコニコ・しゃべる]は、とにかく自分が話したい人です。
ですから質問を多用するとよいのです。
また人に頼られたり、「あなただけです!」等と持ち上げられたりしても悪い気はしないでしょう。
最後のタイプC[クール・聞く]は、数値・データを中心に、自分のペースでじっくりと決めたい人です。
こういう人はあまり急かさない方がよいのです。
このように、ソーシャルスタイル理論を活用して、今日面談するメンバーは、このタイプだから、こう対応しよう、と事前準備=イメージすることがたいへん重要です。
面談序盤:聴く力が試される!
いよいよ面談です。まずは、意識して「聴く」ことです。
では皆さん、こんなとき、どう対応されていますか?
『●●がうまくいかず、相談があるのですが?』
- 回答例①:原因を聞いてみる
- 回答例②:自分の体験談を話してあげる
これらは悪い対応ではないのですが、ベストな受け答えとはいえません。
特に相手が、ある程度仕事ができる場合ではなおさらです。
では、どうしたらよいのかというと「鏡」のように聴くことです。
部下もある程度、仕事ができるようになってくると、心のなかに自分なりの「答え」を持つようになります。
ですから極論すれば、うまくいかない原因を聞いたり、アドバイスしたりすることは不要なわけです。
特に現代のビジネスでは、リーダーだからといって正解を知っているわけではありません。
ところが多くの上司達は──わたしもそうなのですが──「上司らしいアドバイスをしてあげないと……」とか「自分の体験談を語れば参考になるはず……」などと余計なことをしゃべりたがります。
これを『フィルター』といいます。
- (判 断)相手の言っていることに賛成か、反対かを言う
- (犯人探し)「いったい原因はなんだろう?」と原因究明をする
- (自分物語)自分の過去の体験や似たケースを話す
- (課題解決)自分の考えやアドバイス、あるいは解決策を言う
「鏡」のように聴くわけですから、面談やフィードバックの序盤では、フィルターをかけて聴くことは厳禁です。
聴くことに障害となる可能性があるからです。
ではどうすればよいのか?
面談やフィードバックの序盤では、3つのことだけを意識しましょう。
『聴く』3つのポイント:①復唱、②うなずく、③要約
この3点を意識するとたとえば、こんなやり取りになります。
部下:最近、新規の営業活動がうまくいっていないんです 上司:うまくいっていないのか←復唱 部下:そうなんです。訪問件数は昨年より2割増になってはいるのですが…… 上司:(大きくうなずきながら)なるほどな←うなずく 部下:特に部長クラスの方との面談では歯がたたない感じなんです 上司:そうか。決定権者との新規営業活動がうまくいっていないんだね←要約 |
面談やフィードバックの序盤では、意識して『聴く』ことが重要です。
聴き続けることで、部下は「わたしの話をよく聞いてくれる」「今日は何を話してもいいんだ」と感じてくれます。
そうなると、部下に安全を提供することも可能になります。
以上を図にすると、こういう原理です。
上司のフィルターを通さずに部下の言うことを受け止め、鏡のように反射していきます。
すると、部下の内面にある答えにたどり着くのです。
面談終盤:聴き上手は質問上手
ここまで部下の話を聴き続けてきました。
いよいよ面談も終盤。最後のステップは、意識して「質問する」ことです。
ずばり質問する意義は何でしょうか?
それは部下に考えさせることです。
考えさせるといっても、大きな質問※をしてはダメです。
※「最近どう?」とか「忙しい?」などの質問。
特に若いスタッフが相手の場合、質問を投げかけても返事らしい返事が返ってこない、と感じることがありませんか。
心当たりのある方は、『大きな質問病』にかかっています。
『小さい』ピンポイントな質問をしてみましょう。
『小さい』ピンポイントな質問の例
①現状を考えさせる質問- 数値化⇒「今、何時間かかっている?」
「10点で、今、何点ぐらいですか?」 - 比較する⇒「同期と比較してどう?」
- 鏡で見せる⇒「お客様に何て言われることが多い?」
成約率が上がらず、悩んでいる営業スタッフには、「最近どう?」ではなく、「先週1週間、何軒くらい訪問できた?」と、『小さい』ピンポイントな質問をすることです。
そうすると部下は「12件です」と答えながらも、「訪問件数が少なかったかなぁ……?」と心のなかで考えるはずです。
こういうやり取りをしながら、面談終盤では、部下に考えさせることがポイントです。
- 数をあげる⇒「3つあげるとしたら?」
- 優先順位⇒「そのなかで一番は何?」
原因をたくさん出しておくと、このあとの対策のバリエーションが広がるはずです。
③対策を考えさせる質問- 周囲の支援⇒「手伝ってくれる人いないの?」
- 上司の支援⇒「何か力になれることない?」
- クイックヒット⇒「明日からできることがある?」
「まず自分ひとりで始められることは?」※
「予算1万円以下でできることある?」
※すぐできることをたくさん挙げてもらいます
このようなロジックを頭に入れて、部下とやり取りしていくことで、自然と部下には考える力=問題解決能力がついていくわけです。
おわりに
皆さん、いかがでしょうか。
部下との面談には上司の傾聴力が試されます。
- 面談準備
- 面談序盤
- 面談終盤
傾聴力を生かすためにも、このように面談を3つのタイミングに分けて、流れのなかでコミュニケーションを図っていくことが重要です。
人事政策研究所代表。ユニ・チャーム株式会社人事部で採用・研修の実務を経験。1992年独立以来、中堅企業の人事政策面を徹底支援。「行動」をベースにした独自の理論を駆使し、“できる人”を着実に増やし、成果につなげている。実際の支援先は30年間で400社を超える。著書に『1万人の部下をぐんぐん成長させたすごいノート術 部下ノート』(アスコム、共著)など。