交際費とは?税務調査官が狙う交際費否認のポイント
隣接費用と適切に区分できないと納税額が増えることにも!目次
交際費課税の趣旨
企業が支出する交際費は、事業遂行上、必要な費用のひとつです。
企業会計上、支出した交際費は営業上の費用として販売費及び一般管理費へ表示されます。
たとえば大きな受注があって無事納品もでき企業収益に貢献したので、その御礼として得意先を接待することがあります。
これから収益を確保するために得意先を接待することもあるでしょう。
これら企業収益に貢献した、または貢献するために得意先を接待することは、健全な企業活動です。
それを法人税法では損金不算入としています。
昭和29年に租税特別措置法として、「もはや戦後ではない」と高度成長に向かって日本経済が大きく邁進していくときに創設された規定です。
当時は企業の利益が出て税金を払うくらいなら飲んでしまえと、社用族が出現したときでもあります。
企業利益が法人税として納められず、接待飲食費として支出されてはたまらないとばかりに、企業が支出する交際費を損金不算入にしたのです。
交際費課税が創設された昭和29年当時、この課税の趣旨は、企業の資本の充実と冗費・濫費の抑制でした。
しかし現在、湯水のごとく会社資金を濫用することなどありません。
企業は費用対効果を重視し、ムダなお金は使いません。
必要最低限の交際費を支出し、その効果は支出額を上回ることが要求されています。
したがって、この交際費課税は時代錯誤の規定といってよいでしょう。
それでも法律として規定されている以上、従わざるを得ません。
このような経緯で今に至ることをご理解ください。
交際費課税の概要
では、支出した交際費のうち、いったいいくらが損金不算入になるのでしょうか。
これは企業の資本金の額に応じて、次のように規定されています。
- 資本金が100億円を超える法人
→支出した交際費の全額 - 資本金が100億円以下の法人
→交際費のうち飲食代の50%相当額を超える金額 - 資本金が1億円以下の法人の特例
→交際費のうち以下のいずれかの額を超える金額
①飲食代の50%相当額
②年間800万円相当額
このように資本金の額の大きさにより損金不算入額が異なります。
なぜ資本金の額により区別しているのかは不明ですが、大企業には100%課税を、中小零細企業には年間800万円までか、または飲食代の50%を無税とするものです。
飲食代だけで1,600万円支出することは少ないと思われます。
一般的には、年間800万円までなら課税されないと思っておけばよいでしょう。
ここで注意しなければならないことがあります。
それは上記「3.資本金が1億円以下の法人」の場合です。
「②年間800万円相当額」を適用するときは、必ず法人税申告書に別表15「交際費等の損金算入に関する明細書」を添付しなければならないということです。
何もしなくても中小法人なら年間800万円までの交際費は課税されないわけではありません。
資本金1億円以下の法人は原則、100億円以下の法人に該当しますので、飲食代の50%までは損金となりますが、それ以外は損金不算入となります。
そこに特例として、申告書に別表15を添付することによって、飲食代も含めて年間800万円までは損金と認められるようになるのです。
年間800万円を損金算入できるというのは特例措置であるということを絶対に忘れないでください。
あくまで例外規定なのです。
交際費の範囲
交際費とは次のものとされています。一般通念上の用語より範囲が広くなっていますので注意してください。
- 交際費、接待費、機密費その他の費用で、
- 法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係する者等に対する
- 接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために
- 支出するもの
- ただし、次のものを除く
①もっぱら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
②飲食等のために要する費用のうち、1人あたり5,000円以下の費用
③カレンダー、手帳、手ぬぐいなどを贈与するための通常要する費用
④会議に際して通常要する費用
⑤新聞、雑誌、番組等の座談会などのために通常要する費用
このように、得意先にかぎらず、仕入先や自社の社員、役員、株主に対する支出も交際費とされることがあります。
また行為としては接待の飲食だけでなく、プレゼントなどの贈答も交際費とされます。
さらにその支出の範囲ですが、たとえば接待場所までのタクシー代とか、お帰りの際のお車代も交際費とされます。
これは「3.接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために」から読み取れます。
また勘定科目も販売費及び一般管理費の科目だけでなく、売上原価項目や資産の取得費や前払費用に該当するものまでも含まれます。
これらは勘定科目ではなく「1.交際費、接待費、機密費その他の費用で」から読み取れます。
また交際費から除かれるもので1人あたり5,000円の飲食代があります。
これには参加者名簿などを記載した書類を保存しておくことが要件となっていますのでご注意ください。
交際費と類似費用は適切に区分しているか
支出交際費の額が年間2〜300万円程度なら、交際費と類似費用をあまり気にすることはないでしょう。
ですが、年間800万円にも近い金額なら、類似費用との区分は要注意です。
というのも、税務調査で新たに交際費と指摘されるものが出現し、損金算入限度額800万円を超過してしまうことも考えられるからです。
「交際費課税の概要」でも述べましたが、年間800万円まで損金となるのは、あくまで申告書に別表15が添付されているからで、当然に認められるものではありません。
そこで800万円に近い場合には、税務調査の指摘により交際費額が増加しないよう、その支出内容にじゅうぶん留意することが肝要となります。
どうしても税務調査官は「交際費に該当して800万円を超過すれば追徴税が取れる」という意識が働きますので、きちんと反論する必要があります。
もし交際費に該当しないと納税者に反論されたら、税務調査官の意識のなかには、「江戸のかたきを長崎で」ではありませんが、それなら役員報酬に該当しないか、給与に該当しないか、寄附金に該当しないかという考えが働くことでしょう。
これらはすべてなんらかの増差税額となります。
役員報酬なら損金不算入であり源泉徴収漏れとなります。給与は源泉徴収漏れ、寄附金は損金算入限度額があります。
また仮装隠蔽とされたら重加算税がかかってきます。
ましてや使途秘匿金とでもされたときには、その40%が別途加重されてしまいます。
税務調査官は、はいそうですかと引き下がるのではなく、なんとか増差税額を取ろうと考え、できることなら重加算税も取れないかと虎視眈々と狙ってくるでしょう。
そうならないためにも以下に主な費用と交際費の区分、またその留意点について検討してみたいと思います。
交際費とその他の主な費用の区分
給与と交際費の区分
給与と交際費は一見関係ないように見えますが、税務調査官は、交際費にカムフラージュして、本当は社長個人の経費を会社経費に付け込んできているのではないか、と考えます。
もしそうだとすると、役員賞与は全額損金不算入であるし、また賞与なので源泉所得税の徴収漏れの告知処分もできます。
さらに、カムフラージュしているので、35%の重加算税も取れます。
重加算税は仮想隠蔽と犯罪に近い行為により法人税を逃れたときに課される最も重いペナルティーです。
税務調査官にしてみれば、一粒で三度美味しいものとなるので、がぜんファイトを燃やしてきます。
納税者としてはたまったものではありません。
給与、特に役員給与と交際費との区分の場合は、個人的費用かどうかが問われます。
たとえば、一般的には役員個人が負担するであろう費用を、会社が負担しているとします。
この場合、費用収益対応の原則から見て、会社がその費用を負担することによって、収益つまり売上が増加しているかどうかと考えればわかりやすいと思います。
つまりその費用を負担することによって、法人にメリットがあるということが判断ポイントとなるでしょう。
理屈上、社員は雇用契約であり、社員が負担すべき費用を会社が負担した場合には、会社からの指揮命令があったかどうかが問われます。
しかし役員の場合はもっと厳しくなります。
会社の事業目的からその費用を負担すべき合理的な理由が問われます。支出に経済合理性があるかどうかです。
税務調査官はこのあたりを否定してきますので、それに対抗できる説明や資料をきちんと揃えておくべきでしょう。
でないと税務調査官にとって一粒で三度美味しい結果となってしまいます。
寄附金と交際費の区分
寄附金も交際費と同じく、税務上一部が損金となりません。
寄附金と交際費の大きな違いは、事業関連の費用性(対価性)があるかどうかです。
交際費はなんらかの反対給付(対価)を期待できますが、寄附金は対価性のない一方的な利益の供与となる支出です。
別の見方をすれば、事業に関係のない者に対して支出されるものともいえます。
ですから上記の給与のところでも述べたように、費用収益対応の原則からみればわかりやすいでしょう。
神社等への寄附、政治団体への寄附など現金で支出されるものは、原則、交際費ではなく寄附金とされています。
福利厚生費と交際費の区分
税務上の交際費の支出相手先には社内の従業員や役員も含まれます。
いわゆる社内交際費です。
本社から出張で来た役員を支店長が接待する費用などはこれに該当します。
これに対して社員や役員の福利厚生を目的として支出されるものは交際費には該当せず福利厚生費として費用処理されます。
特定の従業員や役員に対して施されるものは交際費に該当しますが、すべての社員に対して一律に施されるものは福利厚生費とされます。
- もっぱら従業員の慰安のために支出していること
- 運動会や旅行、宴会等であること
- 通常要する費用であること
これらに該当すれば交際費とされることはないでしょう。
③の「通常要する費用」ですが、一般的な常識人からみて特に高額でなければ問題になることはないでしょう。それが通常要する費用ということです。
少額の手土産は交際費か
得意先などへ訪問する際に、2~3,000円程度のお菓子類を持参することは、よくあることです。
この手土産代は交際費に該当するのでしょうか。
「交際費の範囲」に掲げた(1)から(5)に該当するでしょうか。
【再掲】- 交際費、接待費、機密費その他の費用で、
- 法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係する者等に対する
- 接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために
- 支出するもの
- ただし、次のものを除く
①もっぱら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
②飲食等にために要する費用のうち、1人あたり5,000円以下の費用
③カレンダー、手帳、手ぬぐいなどを贈与するための通常要する費用
④会議に際して通常要する費用
⑤新聞、雑誌、番組等の座談会などのために通常要する費用
(1)から(4)までには該当します。そうすると交際費に含まれることになります。
しかし、(5)はどうでしょうか。
得意先へ訪問して打ち合わせ会議をしてくると思われます。
会議に行くのですから(5)「④会議に際して通常要する費用」に該当し、金額も高額ではありません。
そう考えると、交際費に該当しない、会議費として処理してよいものと思われます。
使途不明金・使途秘匿金と交際費
その使い道が不明な支出を使途不明金といいます。
交際費で計上していても領収書を紛失してしまったり、接待の記録がなかったりすると、使途不明金になります。
使途不明金は青色申告要件である正規の簿記の原則に反しているともいえます。
本来であれば青色申告を取り消される素因になり、会社としては、あってはならない支出です。
これに対して、支出先は判明しているが公表できないものが使途秘匿金です。
相当の理由がなく、相手方の氏名等を帳簿書類に記載していない交際費は使途秘匿金になります。
この使途秘匿金については、通常の法人税のほかに、その支出額の40%を加算して納めることになります。
通常の法人税とは、この使途秘匿金を全額、損金不算入として計算した金額です。
つまり使途秘匿金相当額を損金不算入としたうえで、さらにその支出額に対して別途40%の加算をするものです。
支出した金額とほぼ同等の税額となるでしょう。
平山憲雄税理士事務所所長。東京経済大学卒業後、1978年に税理士試験合格。82年に独立開業後は、中小企業経営のコンサルティングを中心に、執筆活動、講演等でも活躍。著書に『社長!こんな税理士が会社をダメにする―税理士が書いた「できる税理士・できない税理士」の見分け方』(日本実業出版社)がある。