〈インタビュー〉役員報酬の支給相場は税務調査で説得する武器になります
同業他社の役員報酬と比較するのが重要です!「役員報酬・賞与・退職金」中小企業の支給相場(以下『役員報酬の支給相場』) は、2020年に全国の中小企業を対象にアンケート調査を実施し、役員報酬・退職金等の実支給額をまとめたデータ集です。
本書は中小企業経営者・経理担当者にはもちろん、多くの会計事務所にも支持されています。
では、税の専門家である税理士にとって、中小企業の役員報酬・退職金の支給金額を調査した『役員報酬の支給相場』はどのような価値があるのでしょうか。
当社主催セミナーでもたびたびご登壇いただいている税理士の平山憲雄先生に伺ってみました。
2023年2月、最新調査版発行!
「役員報酬・賞与・退職金」「各種手当」中小企業の支給相場』
中小企業の役員報酬相場がいくらなのか知っておきたい
○『役員報酬の支給相場』をご覧になっていかがでしょうか?
会計事務所なら1冊持っておくべきでしょう
会計人にとっては、喉から手が出るくらい欲しい資料ですね。
裁判例でもよく目にしますが、税務署は調査にあたって、調査対象のある地域の同業他社の支給データを持ってきます。
法人税法の条文を読むと役員報酬は「同業他社の支給状況に照らして」過大な額は損金不算入だと書いてあるのですが「でもどうやって調べるの?」というと、これがわからない。
税務署は全国各地から集められた申告書に記載された詳細な数字を見ていますから、裁判になるとどうしても税務署が有利になってしまいます。
そこで納税者としては、中小企業がアンケートで答えてくれた『役員報酬の支給相場』を使って、税務署に交渉していくことになります。
訴訟になる前、税務調査の段階で「役員報酬が高いのではないか」と指摘されたときに、『役員報酬の支給相場』を持ち出してその場で反論していくわけですね。
税務調査の段階でこのような資料がないと弱いんです。
ですから『役員報酬の支給相場』は、税理士が税務調査の段階で理論構成して説得するのにいちばんの資料だと思います。
会計事務所には常に1冊あっておかしくない資料ですね。
役員報酬の支給相場を知ることが税務調査の武器になる
○普段はどうやって役員報酬の支給額を調べるものなのでしょうか?
客観的データがないと税務署に太刀打ちできない
東京で開業していますので、わたしなら東京のなかでの相場観ですよね。
地方にいる友人の税理士に聞くと相場は全然違いますから。
自分のお客様のところの役員報酬額は頭に入っています。
それに加えて友人税理士との情報交換ですね。
「税務調査でどんなことを指摘された?」「その企業はどんな業種で、売上はどれくらい?」「勤続年数は何年?」「調査の結果は?」ということを情報交換しながら、相場観を養っていきます。
『役員報酬の支給相場』がないとこういう方法しかないですね。
わたしのように何十年と税務調査を経験していれば、調査官が何と言ってくるかおおよそわかります。それを踏まえて自分のお客様にアドバイスしていくわけですが、ただそれだけでは説得力がありません。
そこで自分の経験で持ってきたものではない、このような第三者機関が作成したデータで主張することになります。
法人税法施行令第70条に書いてあるとおり、役員報酬は同業他社の支給金額で判断するわけですからね。
「これが条文に書かれていることではないのですか?」というように。
調査官に指摘されたときに『役員報酬の支給相場』のコピーを出す、というのが税務調査のいちばんのテクニックではないでしょうか。
役員退職金は相場で見るのか、功績倍率で見るのか
○退職金なら功績倍率も見ていくものですが……
役員退職金も支給金額で見ることが大切です
みなさん「功績倍率は3倍」と言いますが、「なんで言われているのかな?」というのは実務的にはありますね。
役員退職金が過大かどうかを判断するのも同業他社の支給実績で見るものですから。
たとえば社長の役員報酬が月額500万円だとして、在任年数10年、功績倍率3倍で計算したら、役員退職金は1億5000万円です。
これが認められるかというと認められないでしょう。
同業他社の役員退職金と比較しますから。
退職金から逆算していって「おおよそ功績倍率は3倍」というのが許容されたのかもしれませんが、3倍以上出したらアウトだよということではないと思います。
わたしの知るかぎり、判例のなかには功績倍率7~8倍でもセーフというのがありましたし、逆に2倍でアウトという例もありました。
いままでの判例を読む限り、たんに「功績倍率が3倍なら安全」というのは違うように思います。
もちろん、われわれも役員退職金規程に功績倍率を書きますが、それは社内ルールとして決めているだけであって、損金算入に認められるかどうかは別です。
やはり金額ですよね。
わたしの経験でも税務調査官は金額で指摘してきます。
法人税法施行令第70条には功績倍率なんてどこにも書いていないんですから。
同業他社の実績から判断されるので、『役員報酬の支給相場』に掲載されているような相場で示さないといけないんです。
平山憲雄税理士事務所所長。東京経済大学卒業後、1978年に税理士試験合格。82年に独立開業後は、中小企業経営のコンサルティングを中心に、執筆活動、講演等でも活躍。著書に『社長!こんな税理士が会社をダメにする―税理士が書いた「できる税理士・できない税理士」の見分け方』(日本実業出版社)がある。
2023年2月発行 最新版
全国の中小企業を対象にアンケート調査を実施!
最新全国調査「役員報酬・賞与・退職金」「各種手当」中小企業の支給相場
全国197社の中小企業の個別データを掲載。各企業の資本金、従業員数、業種、同族関係の有無、在任年数といった具体的な情報を集計しました。事業規模等から比較して支給金額を決定するのにお役立ていただいております。
【参考条文】
法人税法 第三十四条第二項(役員給与の損金不算入)
内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
法人税法施行令第70条(過大な役員給与の額) ※一部抜粋 強調は編者
法第三十四条第二項(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、次に掲げる金額の合計額とする。
一 次に掲げる金額のうちいずれか多い金額
イ 内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した給与(法第三十四条第二項に規定する給与のうち、退職給与以外のものをいう。以下この号において同じ。)の額(第三号に掲げる金額に相当する金額を除く。)が、当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額(その役員の数が二以上である場合には、これらの役員に係る当該超える部分の金額の合計額)
ロ (中略)
二 内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与(法第三十四条第一項又は第三項の規定の適用があるものを除く。以下この号において同じ。)の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額