×

記事検索

商品検索

印紙税が必要になる文書とその判断のポイント

経理に配属されたら知っておきたい
 

会計に詳しい経理担当者でも、印紙税の判断には迷うことが少なくないようです。
本記事では印紙税の実務上のポイントについて、初めて印紙税を扱う方にもわかりやすく解説をします。

どのような文書に印紙が必要になるか?

印紙が必要になる文書は、20種類の文書に限られます。これを「課税文書」といいます。この20種類の文書にあたらない場合には、印紙は不要です。

そこで、まずはどのような文書が20種類の文書にあたるか把握する必要があります。
もっとも、通常の会社で問題となる文書は限られていますから、最初は下表のマーカーを引いた文書に印紙が必要になることを押さえるのが肝要です。

名称 該当する文書
第1号の1文書 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶もしくは航空機または営業の譲渡に関する契約書
第1号の2文書 地上権または土地の賃借権の設定または譲渡に関する契約書
第1号の3文書 消費貸借に関する契約書
第1号の4文書 運送に関する契約書(用船契約書を含む)
第2号文書 請負に関する契約書
第3号文書 約束手形または為替手形
第4号文書 株券、出資証券もしくは社債券または投資信託、貸付信託、特定目的信託もしくは受益証券発行信託の受益証券
第5号文書 合併契約書または吸収分割契約書もしくは新設分割計画書
第6号文書 定款
第7号文書 継続的取引の基本となる契約書(契約期間の記載のあるもののうち、当該契約期間が3か月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものを除く)
第8号文書 預貯金証書
第9号文書 倉庫証券、船荷証券または複合運送証券
第10号文書 保険証券
第11号文書 信用状
第12号文書 信託行為に関する契約書
第13号文書 債務の保証に関する契約書(主たる債務の契約書に併記するものを除く)
第14号文書 金銭または有価証券の寄託に関する契約書
第15号文書 債権譲渡または債務引受けに関する契約書
第16号文書 配当金領収証または配当金振込通知書
第17号の1文書 売上代金に係る金銭または有価証券の受取書
第17号の2文書 金銭または有価証券の受取書で第17号の1文書に掲げる受取書以外のもの
第18号文書 預貯金通帳、信託行為に関する通帳、銀行または無尽会社の作成する掛金通帳、生命保険会社の作成する保険料通帳または生命共済の掛金通帳
第19号文書 第1号、第2号、第14号または第17号に掲げる文書により証されるべき事項を付け込んで証明する目的をもって作成する通帳(第18号に掲げる通帳を除く)
第20号文書 判取帳

ここでいくつか覚えておきたい基本的なポイントを挙げます。

  1. 「不動産」の売買契約書は第1号の1文書にあたりますが、「動産」の売買契約書はこれにあたりません。
  2. 「土地」の賃貸借契約書は第1号の2文書にあたりますが、「建物」の賃貸借契約書はこれにあたりません。
  3. 「請負」契約書は第2号文書にあたりますが、「委任」契約書はこれにあたらず、印紙は不要です。
  4. 金銭消費貸借契約書は法人間、個人間のいずれの場合も第1号の3文書にあたります。
  5. いわゆる「基本契約書」は第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)にあたらないか検討する必要があります。
    たとえば、第7号文書にあたるためには基本契約書が営業者間で交わされることが必要ですが、地方公共団体は営業者ではありません。そのため、市との間で清掃業務に関する基本契約書を締結したとしてもこれが第7号文書にあたることはありません。
  6. どのような名目であれ金銭の受取書は、第17号文書にあたります。

どのような文書が「契約書」にあたるか?

印紙が必要になる20書類の文書を注意深く見てみますと、いくつかの文書は「~に関する契約書」となっていることに気づきます。
つまり、その文書が「契約書」にあたる場合に限って印紙が必要になります。
たとえば、ある文書に請け負った工事についての記載があったとしても、それが「契約書」にあたらない限りは第2号文書にはならないのです。

文書の表題が「●●契約書」となっていれば判断に迷うことはありません。
しかし、文書の表題が「●●契約書」となっていない文書であっても、実務上は「契約書」にあたることがあります。

過去、この点を誤解したために、多額の納付漏れを指摘された例が後を絶ちません。
「契約書」の判断については要注意です。

「契約書」について覚えておきたい基本的なポイントを挙げます。

  1. 文書の表題が念書、請書、承諾書、覚書、約定書、協定書となっている文書は、基本的には「契約書」にあたります。
  2. 最初に交わした契約書だけでなく、あとから契約内容を変更したり、補充したりした場合の文書も「契約書」にあたります。
  3. 請書のように契約当事者の一方が他方に渡す文書も「契約書」にあたります。つまり、両当事者の署名や押印がなくとも「契約書」にあたる場合があります。

印紙代はどのようにして決まるか?

印紙が必要な文書にあたる場合、次にその金額を検討する必要があります。

印紙の金額がどのようにして決まるかは20種類の文書ごとに異なりますが、大きくは、
①文書に記載されている金額が大きくなるほど印紙代も高くなるもの
②一律の印紙代となるもの
の2つのグループに分けられます。

たとえば、第2号文書の請負に関する契約書は、請負代金の金額が高額になるほど印紙の金額も高くなりますので、①のグループです。
他方、第7号文書は一律4,000円の印紙となりますので、②のグループです。

①のグループの印紙の金額に関しては細かなルールが定められており、このルールに基づいて検討する必要があります。

具体的には、印紙税法基本通達第23条から35条までです。

すべてを覚える必要はなく、①のグループの印紙の金額を検討する際に、その都度、国税庁の該当ページを確認すれば足ります。
印紙税法基本通達 第5節 記載金額(第23条~第35条)(国税庁)

20種類の文書の複数にあたる場合はどうするか?

文書によっては20種類の文書の複数に当てはまる場合があります。

たとえば、土地の賃貸借契約書に敷金を受け取った旨の記載がある場合、この文書は第1号の2文書の土地の賃借権の設定に関する契約書であるとともに第17号文書の金銭の受取書にもあたります。

このように、ある文書が20種類の文書の複数にあたる場合、一定のルールに基づき、いずれか1種類の文書だけにあたるものとして扱われます。
このルールを定めているのが印紙税法基本通達第11条です。検討する際、その都度、国税庁の該当ページを確認されるとよいでしょう。
印紙税法基本通達 第3節 文書の所属の決定等(国税庁)

例外的に印紙が不要な場合はどのような場合か?

ある文書が20種類のいずれかの文書にあたったとしても例外的に印紙が不要な場合があります。

このような文書は「非課税文書」と呼ばれます。
どのような文書が非課税文書になるかは、特例的な場合を除き、印紙税法第5条に定められています。

基本的には次の場合が非課税となります。

  1. 国や地方公共団体等が作成した文書
  2. 文書に記載された金額が一定の金額未満の文書

たとえば、請負に関する契約書では、請負代金が10,000円未満の場合には非課税になります。また、いわゆる「領収書」は第17号の1文書にあたりますが、50,000円未満は非課税となります。

誰が印紙を貼らなければならないか?

通常の契約書のように当事者の双方が署名、押印するような文書の場合には、作成した文書の原本のすべてに両者が共同して印紙を貼る必要があります。
実務上は、各自が1通ずつ原本を保管するのであれば、各自が1通ずつ印紙代を負担することが一般的でしょう。

なお、貼り漏れの文書があれば、当事者の双方が納付漏れをしたことになります。
つまり、「連帯責任」となることに注意してください。

他方で、請書や領収書のように一方が他方に渡すような文書の場合には、文書を渡す者が印紙を貼る必要があります。
文書を受け取る者は印紙を貼る必要はありません。

印紙税実務で参考にすべき国税庁の取扱いや文献

印紙税の実務上のポイントはこれまで解説したとおりですが、気になる点があれば国税庁の取扱いや文献を確認する必要があるでしょう。

国税庁の取扱いとしては、「印紙税法基本通達」「タックスアンサー」「質疑応答事例(印紙税)」が挙げられます。いずれも国税庁のウェブサイトから閲覧可能です。

実務上、特に参考になる文献としては、森田修編『問答式実務印紙税』、川﨑令子編『印紙税法基本通達逐条解説』(以上、大蔵財務協会)、馬場則行編『書式550例解印紙税』(税務研究会出版局)、佐藤明弘編『印紙税実用便覧』(法令出版)が挙げられます。

文書に大きな金額が記載された場合やその文書をひな形文書として大量に作成する場合は、印紙代も高額となるため、特に印紙税の判断を慎重にする必要があります。

印紙代(印紙税)は法人税の計算上、損金算入が認められています。
しかし貼り漏れとなった場合には、それは「過怠税」として法人税の計算上、損金算入することができません。
法人税の観点からも最初から適正な印紙税を納付することが重要です。

山田 重則 氏(弁護士)

鳥飼総合法律事務所所属。
一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。
企業等からの印紙税の相談対応や社内研修の実施など、印紙税に関する幅広い業務を行う。新日本法規出版株式会社・鳥飼コンサルティンググループ主催の印紙税検定<中級篇>、弁護士ドットコムオンラインセミナー「弁護士が知っておくべき印紙税のポイント」にて講師を務める。
著書に「迷ったときに開く 実務に活かす印紙税の実践と応用」(新日本法規出版)がある。

『企業実務』見本誌申込受付中
お買い物カゴに追加しました。