10%の値引きはいくらの損? 売上と値引きと利益の微妙な関係
10%の値引きは利益にどれほど影響するのか
【問】
10,000円(仕入値8,000円)の商品を10%引きで販売したところ、通常100個売れる商品を1.5倍の150個販売することできました。
この値引きは成功でしょうか?
10%引きしなかった場合と10%引きした場合、それぞれの売上を計算してみましょう。
値引きなし:価格10,000円×100個=売上1,000,000円
値引きあり:価格9,000円×150個=売上1,350,000円
売上で見ると、10%値引きをした方が値引きしなかった場合に比べて
・販売数量で50%アップ
・売上で35%アップ
ということで成功のように見えます。
では利益はいくらでしょうか。
値引きなし:売上1,000,000円-(仕入値8,000円×100個)=利益200,000円
値引きあり:売上1,350,000円-(仕入値8,000円×150個)=利益150,000円
利益で見ると値引きした方が50,000円のダウン。
10%の値引きによって利益率25%のダウンということになりました。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
もともと利益は2,000円(価格10,000円-仕入値8,000円)でした。
そこに商品価格の10%=1,000円を値引きしたということは
価格10,000円-仕入値8,000円-値引き1,000円=1,000円
という計算式が成り立ちます。
利益だけで見れば2,000円-1,000円=1,000円で半額となるわけですかから、50%引きに等しいことになります。
したがって冒頭の設問においては、売上で35%アップしても利益の減少割合が大きいため、販売数量が1.5倍になったくらいでは、その減少幅を補いきれなかったのです。
この設問の場合だと、10%の値引きをして200個(通常の2倍)販売することでようやく利益が200,000円得られます。
つまり、値引きするなら数量で2倍以上販売しないと、効果がなかったということになります。
あるいは仕入値が7,000円だったなら、10%値引きして150個販売したとき、値引きあり・値引きなしそれぞれの利益が300,000円で一致するところでした。
現実にはこれほど簡単な算式で割り切れるようなケースばかりではありませんが、わずかな値引きでも利益に与えるインパクトが思いのほか大きくなるということがわかります。
もちろん、お客様との価格交渉のなかで値引きを求められることもあるでしょう。
ですから、値引きがいけないということではなくて、どこまでなら値引きしても利益が取れるのかを検討してみることが大切だというところでしょうか。
それでも値引きした方がいい場合がある?
利益が取れなくても値引き販売したほうが良いと考えられる場合もあります。
たとえば商品の劣化・陳腐化に直面したときです。
改良品やニューモデルが発売されると、旧製品は売れなくなってしまいます。
1個も売れなければ当然、売上も利益もゼロということになってしまうのですから、値引いてでも販売してしまう方が利益を見込めるというものです。
仕入れや製造コストは回収できないかもしれませんが、不良在庫を抱え、最終的に処分してしまうのであれば、少しでも現金化しておいた方がよいという考え方もあります。
身近なところでいうと、夕方になるとスーパーの総菜に値引きシールが貼られるケース(いわゆる見切り品)をイメージするとわかりやすいでしょうか。
あるいは競合ブランドに対抗するためにあえて値引き販売を行うことで市場シェアを確保する(競合に顧客を奪われない)目的によるというケースもあるでしょう。
「他店よりも1円でも安く」というフレーズを目にすることがありますが、小売店のように同一商品を扱っている競合店舗が林立しているなら、値引き販売によって集客するということも、ひとつの手ではあります。
値引きではなく、オマケを付けたら利益はどうなる?
それでは、1個10,000円(仕入値6,000円)の商品があったとして、次のケースではどちらが利益になるでしょうか。
- [A]値引きはせず、10個買ってくれたら1個オマケする
- [B]11個買ってくれるなら10%値引きする
どちらにせよ、お客様には11個お渡しすることになります。
ではそれぞれ計算してみましょう。
[A]値引きはせず、10個買ってくれたら1個オマケする
売上 :10,000円×10個=100,000円
仕入値:(販売数10個+オマケ1個)×6,000円=66,000円
利益 :100,000円-66,000円=34,000円
[B]11個買ってくれるなら10%値引きする
売上 :10,000円×11個×10%引=99,000円
仕入値:販売数11個×6,000円=66,000円
利益 :99,000円-66,000円=33,000円
[A]34,000円>[B]33,000円となり、このケースであれば1個オマケしたほうが利益になることがわかります。
それぞれの条件によって、どちらが得かというのは変わりますが、ひとつの視点として持っておいてもよい発想ではないでしょうか。
値引きのリスク:参照価格が決まってしまう
値引きそのものは販売戦略上ありうることなので、一概に否定すべきものではありません。
何をどう値引くのかという問題はありますが、ある程度の利益を見込めるという試算のもとであれば、販促策のひとつとして選択することもありえます。
ただ、リスクも付きまとうことには注意しておきましょう。
ここでは一例として「参照価格」という観点から値引きのリスクを検討してみます。
参照価格とは・・・
消費者が商品やサービスを購入する際に、基準とする価格のこと。
この参照価格によって消費者はモノの値段が「高い」とか「安い」と判断する。
過去に支払った価格の記憶や購入時の期待など主観的評価に基づく「内的参照価格」と、希望小売価格や店頭表示などの客観的指標に基づく「外的参照価格」がある。
たとえば昼食にいつも500円の弁当を買っている人からすれば、700円の弁当はいささか高いと感じます。
ところが、普段1,000円のランチを食べに出かけている人からすれば、700円のランチは安いと感じることでしょう。
あるいは普段500円の弁当を買っている人にとっては1,000円のランチを食べに行くのは抵抗があるかもしれません。
一方、1,000円のランチを食べに出かけている人にとっては「今日は“節約して”500円のお弁当で済まそう」と考えることがあるかもしれません。
値引き販売にもこの「参照価格」が影響します。
値引き販売が頻繁に続くと、消費者にとっての参照価格が正規の価格・定価ではなく、値引きされた価格に固定されます。
そうすると本来“値引いた”価格であるはずなのに、値引き価格が基準となってしまい、正規の価格を「高い」と感じてしまいます。
したがって値引き販売をやめた途端に、同じ商品であるにもかかわらず消費者にとっては「高い」と感じられ、購入に対する抵抗感が大きくなるかもしれません。
セールを多用しすぎた結果、消費者が「セールにならないと買わない」という問題を抱えるという事態も現に起こっています。
まとめ
値引き販売は売上を伸ばすための施策のひとつではありますが、冒頭の設問のように、たとえ10%の値引きでも利益に対するインパクトが大きいという場合もありうることでしょう。
値引き分は仕入値ないし製造原価から差し引くわけにはいきませんので、当然、利益として得られる分から差し引かざるを得ません。
値引き交渉の場では「いくらの売上が期待できるか」だけでなく「いくらの利益が回収できるか」も計算することを忘れないようにしたいところです。