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「資金繰り表」の作成と分析にまつわる実務ポイント

ワンランク上を目指そう
 

資金繰り表は、自社の資金繰りが適正に行なわれているか否かを表わす経営の羅針盤ともいえる資料です。
ここでは、より実態に即した資金繰り表を作成するための実務とその分析・活用のコツを紹介します。

資金繰り表の3つのスタイル

中小企業では事業資金を潤沢に保有しているケースはまれで、資金繰りで常に頭を悩ませている企業は少なくないでしょう。
約束どおりの支払い・返済を続けることは自社の信頼維持のためにも特に重要で、経理担当者は入出金を常に注視していなければなりません。
資金計画が予定どおりに進捗しているか確認するためにも、資金繰り表の作成は必要不可欠といえます。

ここでは、資金繰り表の3つのスタイルを紹介します。

月次資金繰り表

資金繰り表といえば、1か月ごとに管理するスタイルが一般的です(図表1)

エクセルなどを使って自社でオリジナルの表を作成してもよいですし、ひな形等を流用して使ってもよいでしょう。

インターネット上からでも資金繰り表のフォーマットを手に入れることができますし、最近は金融機関がホームページで公開するケースも見られます。
それらを参考にして、自社用にアレンジしてもよいでしょう。

日繰り表

資金繰りがきわめて厳しい企業の場合は、月ごとに管理していたのでは不十分といえます。

たとえば、売上入金は月末に集中して、毎月25日に給与を支払っている企業であれば、月末では現預金残高がプラスであっても、25日から月末まではマイナスになっている可能性もあります。
そのようなときは、毎日の資金繰りを管理するために、日繰り表を利用するとよいでしょう。
特に、月末の現預金残高が月商以下になることが多い場合は、日繰り表での管理を検討してみてください(図表2)

キャッシュフロー計算書をベースとした資金繰り表

資金繰り表を作成するのであれば、単に入出金を把握するだけでなく、資金繰りの問題点を見つけやすいスタイルがよいでしょう。

そこで、キャッシュフロー計算書をベースとした資金繰り表を考えてみます。
キャッシュフロー計算書は、会計期間におけるキャッシュの増減を営業活動、投資活動、財務活動ごとに区分して表示する表です。
これと同様に、営業収支、投資収支、財務収支の3つに分けて資金繰りを集計するのです(図表3)

営業収支は本業での収支を表わしていて、決算書でいう損益計算書です。
投資収支は、機械や車両、建物等の固定資産の購入や売却、そしてそれ以外の投資活動に関する収支を表わしています。
財務収支は、資金の調達や返済に関する収支となっています。

以下、キャッシュフロー計算書をベースにした資金繰り表をもとに解説します。

資金繰り表を実際に作成する

実績資金繰り表

会計ソフトを使って会計処理を行なっている企業が増えていますが、多くの会計ソフトには資金繰り表を作成する機能があります。
このため、会計データをきちんと入力していれば、実績資金繰り表は簡単に作成できます。

もしも、会計ソフトを使っていなくても、作成すること自体はさほど難しいことではありません。
多少手間はかかりますが、現金出納帳、預金出納帳、伝票等の帳簿記録などから現預金の増減取引を抽出して集計すれば、実績資金繰り表を作成できます。

予定資金繰り表

実績資金繰り表に比べてその作成がやや面倒なのが、予定資金繰り表です。将来の資金繰りを予測するのは多少難しい部分もあり、作成を苦手とする担当者が多いようです。
特に売上高の入金予定については、今月や来月くらいは予想できても3か月以上先となると途端に難しくなり、予測精度も下がるため「予定資金繰り表など作成してもムダ」と考えがちです。

しかし、それでも予定資金繰り表は作成しましょう。今後の資金繰りが厳しくなると見込まれれば早めに対策を打てますし、金融機関との交渉にも重要な役割を果たすからです。
予定資金繰り表は3か月~1年先を目安に作成することが多いので、翌月や翌々月は数字の精度が高いものの、それ以降は徐々に低下する傾向は否めません。
それでも、予測と実績に差異があるのは当然、との割り切りも必要です。

 資金繰り表の作成手順

図表3を見ると、記入すべき項目が非常に多いように感じます。
しかし、毎月発生する、あるいは発生が見込まれる項目は次のとおりで、実際には作成が難しいわけではありません。

(再掲)

A. 借入金返済・支払利息

現在ある借入金の返済額と支払利息を記入します。金融機関から届く返済予定表から数字を拾うだけですので、難しいことはないでしょう(図表3のA)。

B. 人件費・諸経費

人件費や諸経費(家賃、リース料、保険料、水道光熱費等の費用)は、増減があっても大きな変化は少ないので、昨年の実績値、あるいは最近の数値を参照して記入します(図表3のB)。

C. 売上入金と仕入支払の予測

予定資金繰り表の作成で、最も慎重に考えなければならないのは売上です。
仕入率は、業種や企業によってある程度決まっているはずですから、自動的に仕入分も予測できます。
過去3期程度の実績値を確認すれば、おおまかな予測数値がつかめるでしょう(図表3のC)。

次に、予定した売上がいつ入金されるか、そして仕入分をいつ支払うかについてですが、どちらも回収または支払サイトがある程度決まっているはずですから、それに従って資金繰り表に落とし込んでいきます。

D. 予測と実績の差異の検証

予定売上の入金予測を除けば作成自体はそれほど難しいわけではありませんが、面倒なのが更新作業です。
たとえば、4月の予定資金繰り表については、5月になるとその実績が出てきます。実績と予測に差異があるはずですから、なぜその差異が発生したのかを検証し、5月以降の予定数値を修正していくのです。
この作業こそが経理担当者の重要な業務であり、予測→実績→差異の原因分析→再予測を繰り返していけば、資金繰り表の精度を高めていくことができます。
また、これにより経営上の問題点が明らかになると同時に、経営改善につなげることが可能となります。

資金繰り表作成の注意点

毎月発生しない支出の計上モレ

資金繰りを予測する際に忘れがちな項目として、まず賞与が挙げられます。賞与は多額の資金流出を伴いますので、必ず予定額を組み込んでおきましょう。

次に忘れやすいのが税金です。
給与に対する源泉所得税は、毎月納付なら忘れることはありませんが、年2回納付の企業の場合、1月と7月に計上モレがないか注意が必要です。
さらに、法人税等(法人税、法人住民税・事業税等)と消費税のどちらも納付期限は決算期末後2か月以内で、前期の税額によっては予定納税が必要となります。
忘れやすく、納税額も大きい場合がありますから注意してください。

試算表等との整合性

資金繰り表はお金の動きを網羅した表ですから、試算表や貸借対照表の数字とも連動しています。
したがって、資金繰り表を金融機関等に提出するときには、月末残高が試算表や貸借対照表の数字と一致しているかどうか確認するようにします。

売上予測の妥当性

売上の予測が難しいからといって、直感で決めるようなことは絶対に避けましょう。
売上予測の方法も業界や企業によって様々ですが、経理担当者だけで考えるのではなく営業部からもヒアリングを行ないましょう。

また、取引先別や商品別等にできるだけ細分化して、予定売上を算出するようにしてください。

資金繰り表の確認ポイント

以下、資金繰り表の確認すべきチェックポイントを紹介します。

(再掲)

営業収支はプラスか

本業での資金収支を表わしている営業収支の部分は、資金繰り表のなかで最も重要なチェック項目です(図表3の①)。
納税や賞与等の支出がある月はマイナスになることはあっても、3か月~1年といった一定期間の営業収支はプラスになることが必要です。
ここがプラスでなければ、設備投資や借入れの返済ができません。

営業収支が経常的にマイナスの状態が続けば金融機関からの借入れに依存しなければならず、それもできなくなったときは、会社が危機的状況を迎えてしまいます。

現預金残高は月商以上を維持しているか

月商程度の現預金というのは目安に過ぎませんが、資金繰りのことを気にせず経営に集中するためには、少なくとも月商以上の残高は必要といえます(図表3の②)。

理想的には利益を出して現預金を増やすべきですが、それでは時間がかかり過ぎるため、現実的には金融機関からの資金調達を検討することも必要でしょう。
予定資金繰り表を作成してみて、月末現預金残高がきわめて少ない状態になることが予想されるなら、早めの対策が必要です。

営業収支がプラスと見込んでいたところ、予定していた売上債権の入金遅れや予定外の出費等によりマイナスになることもあり得ます。
したがって、予定に反して営業収支がマイナスになっても、それを吸収できるだけの現預金残高が必要となるのです。

借入金返済が営業収支を上回っていないか

現在は現預金残高に問題がなく営業収支もプラスであるものの、借入金の返済額が営業収支を上回っており、毎月の収支がマイナスになっている企業が少なくありません(図表3の③)。

この状況が続くと、現預金残高がマイナスになってしまうので、営業収支が返済額を上回るように資金繰りを改善しなければなりません。

また、金融機関から資金調達を行なうことも手段の1つですが、常に応じてもらえるとは限りません。
その場合は、リスケジュール(返済条件の変更)等で対応してもらい、返済額が営業収支内に収まるよう財務収支を改善することが必要となります。

設備投資が資金繰りを悪化させる原因にならないか

工場や店舗の建設、機械等の購入は、いずれも多額の資金が必要となります。

金融機関からの借入れで設備投資を行なったにもかかわらず、投資額に見合うだけの売上や利益に結びつかなかった場合は、資金繰りを大きく悪化させ、しかもそれが長期間続くことになります。
設備投資を検討するときは、売上や利益を慎重に予測しなければなりません(図表3の④)

悪化した資金繰りを改善させるには

資金繰り表を作成してみて資金不足が想定されるなら、その原因を把握し、早急に対策を立てることが求められます。
ここでは、資金繰りの改善策を紹介します。

回収・支払条件の改善

回収や支払条件については、まずは取引先ごとの条件を確認してください。
一度決まった取引条件が長期間、継続されていることが多いものですが、明らかに不利な条件であれば、条件変更の交渉を検討してみましょう。

ただし、このことが自社の信用不安につながると予想されれば、新規の取引先から取り組むようにするなど、少しずつでも改善していきましょう。

取引先の信用管理

中小企業の多くが、新たな販売先の開拓や売上増加が実現できずに悩んでいることでしょう。
こんな状況を打開しようと、信用面に不安のある取引先と知りながら売上債権を増加させ、結果的に経営破綻から不良債権化させてしまうこともあります。
資金繰りに重大な影響を与えますから、こうした事態は何としても避けなければなりません。

取引先の信用管理は、調査会社の活用に加えて、営業担当者に取引先を日々チェックさせることも大切です。

在庫管理の厳格化

資金繰り改善のためには、在庫管理の厳格化も有効です。
過度の仕入抑制は販売の機会損失にもつながるため注意が必要ですが、在庫が過大になっていないかどうかを回転期間によりチェックすることができます。

従来に比べて回転期間が長期化している場合は、資金繰りが悪化するだけでなく、不良在庫の発生等が懸念されます。

経費の見直し

赤字の場合は、何とか黒字化しようと必死に経費削減を実行している企業が多いものですが、まれに経費削減が徹底されていない企業も見受けられます。

たとえば、事務所賃料の周辺相場が下がっているのに、高いままで改定がされていない場合は交渉してみるべきです。

また、会社が加入している各種の保険は本当に妥当な内容なのか、交際費や広告宣伝費は売上増加に貢献しているのか、などを検証します。
なお、人件費の削減については社員のモチベーション低下により、かえって業績を悪化させる可能性があります。

人件費を削減する場合は、まず役員報酬から手を付け、社員の給与については原則として一番最後と考えましょう。

借換保証制度を利用する

中小企業の場合、信用保証協会を利用していることが少なくありません。
信用保証協会の制度として、現在借り入れている保証付き融資を新たな保証付き融資で借り換える「借換保証制度」があります。
借換えにより返済期間が長くなることや複数の保証付き融資を一本化することにより、月々の返済額が軽減されます。

借換保証制度は元金の返済額を軽減する意味ではリスケジュールと同様の効果がありますが、この制度は純粋な借換えですので、自社の財務内容等に問題がなければ返済履歴に影響を及ぼすこともありません。

ぜひ、活用を検討してみてください。

●資金繰りをチェックする指標

3期程度の決算書あるいは試算表を使って、以下の回転期間を計算してみましょう。
回収・支払条件が悪化していないか、適正在庫を維持しているかチェックが必要です。

  • (a)売上債権回転期間=売上債権(受取手形、売掛金)÷平均月商
    売上債権の回収がどれくらいの期間でなされているのかを見る指標です。この指標が長期化していたら、回収不能や回収遅れが発生している可能性がありますから、資金繰りが悪化します。逆に、指標が短くなっていたら、自社の資金繰りは楽になります。
  • (b)仕入債務回転期間=仕入債務(支払手形、買掛金)÷平均月商
    仕入債務が月商の何か月分あるのかを表わし、どれくらいの期間で決済されているのかを見る指標です。この指標が短くなると、資金繰りは悪化します。
  • (c)棚卸資産回転期間=棚卸資産÷平均月商
    月商の何か月分の棚卸資産を保有しているかを表わす指標です。売上債権回転期間と同様に、この指標が長期化していると資金繰りは悪化します。

※実務では売上高(平均月商)を使うことが多いですが、より正確に回転期間を求めるためには売上原価を使うようにしてください。

月刊「企業実務」 2014年5月号
瀬野正博(銀行融資コンサルタント)

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