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「非定型うつ病(新型うつ)」に会社はどう対処するか

特に若手の間で増加中
 

若手社員を中心に増加中の非定型うつ病(新型うつ)。
上司や同僚等からみれば「仮病?」と不信感を募らせるケースも少なくありません。
その対応策を確認します。

若手社員を中心に、従来のうつ病のカテゴリーに属さないタイプの非定型うつ病が増えてきており、企業の人事・労務担当者を悩ませています。

このなかに、単なるわがままなのか病気なのかの区別が難しいタイプがあり、巷では「新型うつ」と呼ばれています。具体的には、

  • 会社の仕事は思うに任せないのにプライベートでは元気
  • 自責感に乏しく、他罰的(不調を仕事のせいだと主張する等)で、何かと会社や上司とトラブルを起こす

などが典型例で、本人は体調不良を訴えますが、上司や同僚から見れば「仮病ではないか?」と疑いたくなるようなケースです。

ここでは非定型うつ病のなかでも特に新型うつに焦点をあて、その症状や会社としての対処方法について解説します。

なお、新型うつへの対応は、企業の方針や個々の事例の状況により変わってきます。

私が産業医として関わる場合にもアドバイスの仕方はケースバイケースですが、本稿では、発症した社員の精神構造やバックグラウンド、発症原因を客観的に分析し、「相手の立場に立った」うえでどのように対応することができるか、という視点で記述したいと思います。

新型うつの概要と主な症状・特徴

まず、この「新型うつ」は「新型うつ病」ではありません。
うつ病学会でも正式な「病気」としては認定されていません。
症状が人によって様々であり、「さぼり」や「怠け」に見える、抗うつ薬も効かず、根本的な原因が本人の性格や人格形成の未熟性によるもので、「病気ではない」との見方があります。

しかし、抑うつ、意欲の低下、不眠や睡眠過多等の「うつ症状」によって出勤できなくなるため、病院を受診すると「うつ病」の診断書が出されます(おそらく非定型うつ病との診断)。

病気かどうかははっきりしないがうつ状態にある、しかし、これまでのうつ病の人とは明らかに様子が違う、会社としても対応がすごく難しい---ということで「新型うつ」という状態名で社会的問題になっています。

従来型のうつ病は、働き盛りの労働者が過重労働のため疲労が蓄積してエネルギー切れしたり、仕事上の困難やストレスにさらされて燃え尽きる形で発症するのがパターンでした。

仕事に対する姿勢は粘り強く、自分を犠牲にしてでも会社のために一生懸命働きます。何事にもきっちり取り組み、きまり事や秩序を大事にします。
その割に(そのせいか)自分の不調には気づきにくく、燃え尽きてうつ症状が出て、仕事のパフォーマンスが落ちても「できない自分が情けない」と自分を責めます。

このような定型的うつになりやすい性格を「メランコリー親和型」や「執着気質」といいます。

産業医が病院受診を勧めても、「仕事を休めない」「家族に心配をかける」と言って、なかなか言うことを聞いてくれません。

これに対し、新型うつは若い世代に多く、性格的には自己愛が強いのが特徴です。
自分の気持ちや事情を重視し、会社の立場を考えません。
自分の会社への貢献度もあまり気にせず、「会社が自分に何をしてくれるか?」を常に気にしています。

自己中心的でわがまま、依存心が強い、自己顕示欲・自尊心が強く、傷つきやすい、思ったことをハッキリ口にする等の特徴があります。

このような性格を「ディスチミア親和型」といい、非定型うつ病になりやすい病前性格とされています。

両者の特徴の違いをまとめると下表にようになります。

新型うつの人は自分の「うつ病」の診断に協力的です。
具合が悪くなると、自分で病院を受診し、診断書を書いてもらい、「うつ病になったので会社を休みます」と言うケースが多いようです。
自責の念がなさそうで、自分の体調不良の原因を、会社や他人のせいにする傾向があります。

どのような原因で発症するのか

発症の原因は、前述した発病前の性格によるところが大きいと考えられます。

逃避と他罰的な感情、「嫌なことから逃れたい」という心理がベースにあります。
ストレスや辛いことを我慢し、受け止め続けて疲弊するのではなく、「ここから逃れたい」という心理が先に立ち、うつ症状を発症するのです。

嫌なことや苦しいことを回避して自分を守るために、自分の失敗や都合の悪いことはすべて「他人のせい」「会社のせい」と他罰的感情を抱きます。

精神的に弱く不安定なため、自分の責任を受け止められず、自分を「正当化」「合理化」しているともいえます。

心理的な逃避が原因ですから、「自分のやりたいことは元気にできるけど、やりたくないことはできない」「会社には行けないけど、ショッピングには行ける」といった状況が生じ得ます。

発症の主なきっかけとして、上司からの叱責と人事異動があります。具体例は下表に示したおとりですが、以下、補足します。

【1】上司からの叱責
Aさんは、仕事でミスをした際、上司に叱責され、それをきっかけに出社できなくなりました。
上司としてはそれほど厳しく言ったつもりはなく、自分にミスがあったときの謝罪の仕方や今後の対応の仕方など、顧客との接し方について指導したつもりでしたが、本人は自分を否定された気持ちになり、また顧客に謝罪することに対してもかなりの抵抗があるようです。

【2】人事異動
Bさんは、就職以来1人でできる(チームワークの必要があまりない)比較的単純な指示のもとにこなせる仕事をしていました。
人事異動により複数名で共同作業を行なう部署に配属になり、上司や同僚は丁寧に仕事を教えたつもりでしたが、なかなか仕事を覚えられず、Bさんはある日突然休んでしまいました。
人事担当者に対しBさんは、「自分が仕事ができないのは周りの教え方が悪いせい」「上司と合わない」「元の部署に戻してくれたら仕事はできる」と言ったそうです。
■新型うつの発症事例

【1】上司からの叱責

Aさんの例でいうと、「会社に行くとまた責められ、自分が傷つけられる。耐えられない。仕事に行きたくない」ということであれば単なる「甘え」なのですが、会社への拒否感から「身体が鉛のように重く動けない」「仕事に行こうとすると激しい動悸や吐き気、呼吸困難が起きる」という症状が出だすと、もう立派な病気とみなされます。

【2】人事異動

Bさんの事例はちょっと複雑で、産業医として関わる際は、次のような目で診ていきます。

  • 職場環境の変化による「適応障害」の可能性を念頭に置く
  • 他罰的であるという自己愛的甘えの側面が見られることも押さえる
  • 「そもそもコミュニケーション能力がどの程度備わっているのか?」を探る(コミュニケーション能力が根本的に備わっていない発達障害の可能性もある)

新型うつ的な、未熟な人格によりコミュニケーション能力が低いのであれば、根本的にそこを教育・改善しなければ、この問題は解決しません。

社員のコミュニケーション能力を企業側としてどう受け止めていくつもりなのか等についても考える必要があります。

病前性格を理解すれば取るべき対策が見えてくる

会社としての対応ですが、新型うつになりやすい人の性格やその心理構造を客観的に理解することです。
要約すると、「自己愛的(他人のせいにする)で未熟な人格(試練に弱い、逃げる)と同時に強い対人過敏性(他人に叱られることに弱い)」に尽きます。

新型うつになりそうな、この病前性格を理解できれば、おのずと取るべき対策が見えてきます。
主なポイントは以下のとおりです。

【1】お説教は役に立たない

新型うつの人と接していると、「それくらい乗り越えられなくては社会では通用しない」「自分がやっている仕事にもっと責任を持て」などと言いたくなります。

しかし、逃避がベースですので、そんなお説教は何の効果もありません。
それどころか「自分を否定された」と思い、ますます具合が悪くなります。
頑張り過ぎて燃え尽きた従来型うつ病の人に「頑張れ!」と言っているようなもので、逆効果です。

まずは、ありのままの本人を受け入れる姿勢で接することが必要です。
彼ら彼女らなりの思いや傷つきに気づくことで次の対処法が見えてくることも多く、相手との信頼関係も築くことができます。

【2】「認める」&「褒める」

新型うつになる人の多くは、褒められた経験が少ないか、本人が褒められたことが少ないと感じながら成長してきています。

国民皆高学歴指向時代に、親の期待を背負って勉強し、テストで90点を取れば間違った10点を責められる、そういう育てられ方だった人が少なくありません。

一方で、「いい子」を演じてきたため叱られた経験が稀薄です。
人格は失敗と成功の体験を繰り返すことで成長しますが、こうした体験が乏しいのかもしれません。

本来、企業が面倒を見るべきことではないかもしれませんが、困難なことに対しては「しっかりしろ!」という叱咤激励ではなく、「よく頑張ってきたよね」「なかなか上達してきたじゃないか」という、肯定的な見解をベースに話をする姿勢が有効です。

ただし、甘やかすのではありません。
表現方法を「ダメ出し・反省・反発心から向上心を引き出す」ではなく、「褒めて、小さな成功体験を積み重ね、やる気を生み出す」という方向に変えるだけです。

【3】一定の距離を保つ

新型うつの人は感情の起伏が激しく、その言動が周囲を振り回すことが多いようです。

新型うつの人の感情に同調し過ぎると、聞いているほうも具合が悪くなってしまうことがあります。
上司としても、自分自身の仕事も大変ななか、必要以上に部下管理にエネルギーを消耗する余裕はないでしょう。

相手の立場になってものを考えながらも、感情に巻き込まれることなく、一定の心理的距離を保って客観的に事象をとらえることが大切です。
遅刻や欠勤、業務遂行能力の低下については、「メンタル不調だから」と腫れ物に触るような対応ではなく、人事労務管理の枠組みで対応していく姿勢も大切です。

産業医や社労士との連携も検討する

主治医による病休や復帰に関する判断は、基本的に本人から聞き取った言葉をもとに行ないます。
そこで、産業医がいる企業の場合は、必ず産業医に客観的な意見を求めるようにしてください。
本人の状況・事情を優先した判断ではなく、職場の状況や上司の意見、職務内容も把握したうえで、復帰についての判断や必要な配慮事項についてのアドバイスが受けられるでしょう。

以前の産業医は、「専門が精神科ではないから」とメンタルの対応に及び腰な人も多かったのですが、社会でのニーズの増加に伴い、また事例も積み重ねることにより、対応可能な産業医が増えてきています。

また、社会保険労務士も相談相手としては有用です。
人事労務管理のプロですし、メンタルの絡む困難事例を数多く経験し、積極的に相談に乗っている人もいます。

管理職世代の価値感覚にとらわれないことが大切

最近のゆとり世代の若者には、少なからず新型うつ的傾向があると思われます。
しかし、若者が皆、「甘えていて、すぐ他人のせいにする」「責任感が小さい」という先入観を持つのは危険です。

人間はみなアイデンティティーを保ち、自己肯定感をある程度保たないと存在が危うくなります。

皆が「自分自身で責任を持って仕事に取り組み、逆境にも立ち向かい乗り越えることで成長し、アイデンティティーを確立」していければよいのですが、そんな強い人間ばかりではありません。

逆境に弱い人間がアイデンティティーを確立するには、「逃避する姿勢がベースにあるが、仲間との連帯や上司の支援で成功体験を積み重ね成長していく」ことも有効なのです。

管理職世代にとって未熟な若手世代は腹立たしく、理解しがたい部分もあるかもしれません。しかし、相手の人格と発達段階を理解せずに指導していると、弱い部分を攻撃し過ぎてしまい、発病に至るリスクが生じます。

「自分はこうしてきた。こうするべきだ」ではなく、「この部下の特性を鑑み、どの程度の逆境が有効で、どういう支援が必要なのか」という視点で見ていく必要があります。

企業にとって人材はなくてはならない大事な資源です。
メンタル不調という疾患管理の面だけでなく、人事労務管理、人材育成の面からも新型うつ的性格についての分析と対応が、今後さらに重要になってくると思われます。
若手の特性を踏まえてどのような育成方針を取っていくか、管理職世代の価値感覚にとらわれることなく、根本的に見直すことが必要でしょう。

月刊「企業実務」 2013年9月号
茅嶋康太郎(産業医科大学/産業医実務研修センター副センター長)

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