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「帰宅困難者対策」で考えるべきこと・やるべきこと

すぐにも対応したい
 

首都直下地震などの災害を想定して、東京都は帰宅困難者対策を条例で定め、他の自治体も様々な対策を打ち出している。帰宅困難者が発生した場合に備えて、企業に求められている対策をまとめる。

首都圏で求められる帰宅困難者対策

東日本大震災は東北地方を中心に大きな被害をもたらした。
一方で、首都圏では帰宅困難者の問題がクローズアップされるようになった。

首都直下地震、たとえば東京湾北部地震(M7.3)が起きたと想定すると、死者約9,700人、負傷者14万7,600人、うち重傷者が2万1,900人の規模になると言われている。
この想定で生じる避難者は339万人、帰宅困難者は517万人にもなると推定される。

「そうした状況になった場合、安全の確認もせず従業員を帰宅させるのは、極端にいえば災害発生後72時間が勝負の救助活動を妨害することになります」

と、東京都総務局総合防災部事業調整担当課長・萩原功夫氏は言う(以下、発言は同氏)。

東日本大震災のときには少なくとも電気は使え、街灯が消えたりはしなかったし、コンビニも開いていた。しかし、首都直下地震が発生すれば、電気が使えなくなることも想定される。
電気の復旧には1週間以上、ガス・水道の復旧には30日から60日はかかると言われている。

東京都は2011年9月に国と共同で「首都直下地震帰宅困難者等対策協議会」を立ち上げた。

その議論を踏まえて、「自助」「共助」「公助」の考え方に基づき、「東京都帰宅困難者対策条例」を制定し、2013年4月に施行した。

「東京都は、都内企業の半数に帰宅困難者対策が導入されることを目標にしています。経団連の加盟企業の多くは対策を取っていますし、東京商工会議所の調査でも会員企業の55%が備蓄など何らかの災害対策を導入しています」

従業員を帰そうとして、もし途中でその従業員が二次災害に遭って亡くなったとしたら、遺族から「なぜ危険が想定されるのに帰したのか」と訴えられるかもしれない。
帰宅困難者対策を整備する企業が増えているなか、やるべきことをやっていなければ、安全配慮義務違反を問われる可能性がより高まっている、と指摘する法律家もいるという。

帰宅困難者対策はBCPの一環と捉える

「帰宅困難者対策はBCP(事業継続計画)の一環として重要であると考え、中小企業にも積極的に取り組んでいただきたい」

この条例が都民や事業者(企業)に求める取組みを整理したのが図表1である。

企業には「施設の安全を確認したうえで、従業員を事業所内に留まらせること」「必要な3日分の水や食料などの備蓄」が求められている。

会社に災害用の物資を備蓄できていたとしても、家族と連絡がつかないと、多くは帰宅したがるはずだ。安否確認ができれば、しばらく社内に留まることができる。そして事業を継続させるためにも、社内に一定の人数を留めておく必要がある。

従業員と会社、従業員同士、従業員と家族---。連絡が取れてそれぞれの居場所と無事が確認できれば、落ち着きが取り戻せる。冷静に情報を集めることができれば、問題なく帰宅できるのか、危険を伴うのでしばらく会社にいたほうがよいのか、といった判断もしやすくなるだろう。

「3・11当日も、携帯電話がつながらなくなるなどして、90%の人が会社や家族と連絡を取るのに支障を来しました。そこで、通信の代替手段を複数確保することを第一に考えてください」

いまサービスが提供されている、非常時に安否情報を共有するための通信手段の例を示したものが図表2だ。

このほか、通信キャリア各社の災害用伝言板や、報道機関、企業・団体が保有する安否情報をまとめて検索・確認できるWeb共同サイトとして「Janpi」(http://anpi.jp/)の連携・運用が始まっているので、チェックしておきたい。

また、災害対策はすべて防災担当者任せといった状態では、いざというときに機能しない。

災害時に防災担当者が指揮命令できる状態にあるとは限らない。そこで、災害時は誰もが防災担当者の役割が務められるよう、避難方法などの手順を共有しておきたい。
何をすべきかをまとめた、東京都が発行する「帰宅困難者対策ハンドブック」(東京都のHPから入手可能)などの携帯性の高い資料があると役に立つ。

1回30分程度でもよいので、防災対策の研修を定期的に実施し、確認していくことも大切だ。

もちろん、「帰宅しなくていいようにする」だけが帰宅困難者対策ではない。

ここで必要なのが、業務を最低限維持するために、「残るべき人」と、「安全に帰ることができるなら帰ってもよい人」をあらかじめ分けておくことだ。

職務上どうしても外せない従業員のほか、たとえば通勤ルートごとに「どの交通機関が止まったら何人に影響が出るか」といったことも考えてみる。

そこで、どの程度の人数がいれば営業(事業継続)が可能になるのかをシミュレーションしておくことも大切だ。

できる範囲から手をつける

施設内待機ができるようにするための備蓄の目安を示したものが図表3である。

すべてを1度に揃えるのがむずかしければ、できる範囲から手をつけていくことが大切だ。

東京都の条例では、水や食料の備蓄は従業員数×3日分を目安としているが、必ずしもこの数字にこだわらなくてもよいという。

「まず、1日を乗り切るために最低限必要なものは何かを検討し、揃えておくことです。それを少しずつ増やして2日分、3日分にしていくことです。さらに、余裕ができれば近隣の人たちなどのために、備蓄を多めに持っておくことも考えてほしいです」

1日分は会社で確保し、残りの水や食料は従業員本人に準備させるという方法もある。当初は個人の備蓄で急場をしのぎ、それがなくなってから会社の備蓄を出す、といった考え方だ。

また、どこで被災するのか予測できないということから、懐中電灯、携帯ラジオなどについては日常的に鞄の中に入れて持ち歩くことを勧めている。

「LEDの懐中電灯などはコンパクトでかさばらないので持ち歩いても負担になりません。
また、どこで電源が切れるかわからないですから、携帯電話やスマートフォンの予備バッテリーや充電器など、緊急時の電源調達手段を確保しておくことが重要です」

当たり前と思えることを着実に行なう

「従業員に『半分は残ってくれ』と言うためには、そのための安心の根拠を企業側で用意できなければなりません。防災の備えは、貯金のように考えてほしいです。非常食を備蓄し、鞄に最低限のものを入れておき、家族や会社との間の連絡方法を複数確保しておくなど、1つひとつは当たり前のことです。そうした常識的なことを確実に積み上げていけば、備えが強固になります」

帰宅困難者対策として求められていることはシンプルだ。自宅の防災対策が万全であれば不安は軽減する。たとえば家具の転倒防止をきちんとしておけば、「これだけ揺れていれば倒れているのではないか」という心配も軽減されるからだ。

従業員の心を落ち着かせるために、安否確認方法などの情報を提供し、個人レベルでも備えを考えさせていきたい。

「帰宅困難者対策を含めた防災対策は、従業員を守るためのものです。それは企業にとって社会的責任ともいえます。その責任を果たすために、どこからどこまで手をつけるか、ということはそれぞれの企業ごとに考えていただければ結構です」

とにかくスタートして、実践(防災訓練)と検証を繰り返すことが、万が一が起こったときの被害を最小限に抑えることにつながると、萩原氏は言う。

「『防災対策の必要性が感じられない、わからない、お金がない、被災の想像ができない』と言って及び腰の企業もあるようです。取り組まないことに理屈はつけやすいのですが、必要なことは明確なのですから、積極的に取り組んでいただきたいですね」

図表4に災害発生時の帰宅困難者対策の流れと企業が行なうべき行動を示した。

大規模災害がいつ来るかはわからない。企業規模を問わず、いますぐできる対策をスタートさせることが求められている。

月刊「企業実務」 2013年6月号
編集部

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