税務署の「反面調査」にはこう対処すればOK
慌てず事実のみを伝える反面調査とは、税務調査の手法の1つで、調査対象者の取引先等に対して実施される税務調査のことです。自社が反面調査を受けた際の対処法や留意点を紹介します。
反面調査は、直接の調査先(以下、「本調査先」といいます)の帳簿を調査しただけでは実態の解明が困難な場合のみ行なわれるものです。
反面調査によって不正行為が発覚し、取引先との関係が悪化するケースも少なくありません。
反面調査の対象は取引先だけではなく、従業員やその家族、さらには退職した元従業員やその家族にまで及ぶことがあります。
ここでは、反面調査の意味を再確認するとともに、自社が反面調査を受ける際にどのように行動すればよいのか考えていきます。
目次
どんなときに実施されるか
反面調査は、本調査先で脱税が見つかったり、脱税の疑いをもたれてしまった場合は当然ですが、次のような場合でも実施されることがあります。
- 非協力的な態度をとる(帳簿の提示を拒む、質問に答えないなど)
- 不誠実な態度をとる(質問には答えるが偽りの答弁をする、何度も要求されないと帳簿を提出しないなど)
- 帳簿や証憑の不備(保存していない、記帳が不正確など)
調査官に非協力的な態度で臨み、帳簿の提示を拒んだり質問に答えなかったりすると、税務調査そのものが成り立ちません。
この結果、調査官が「この会社だけでは調査は完了できない」と判断して、反面調査が実施されます。
また、調査官の質問に対し、企業が明らかにウソとわかるような答弁を繰り返したり、提出を求めた帳簿がなかなか出されないと、調査官はその会社を信用できなくなります。
帳簿や証憑が保存されていなかったり、記帳が不正確な場合も、調査官は十分な調査ができないと判断します。
このような場合でも、反面調査の可能性が高くなります。
反面調査は拒否できるか
税務調査の対処法を紹介する書籍やホームページなどでは、「納税者の了解のない反面調査は違法」「納税者の了解のない反面調査は認められない」といった記述をよく見かけます。
しかし実際には、反面調査は法人税法154条ほかの規定による質問検査権(2013年1月1日以降は国税通則法に根拠規定が置かれます)によるもので違法ではありません。
また、東京高裁の判決では、「反面調査は、諸般の事情にかんがみ客観的な必要性があり、かつ社会通念上相当な限度にとどまる限り、その時期・程度については、権限ある税務職員の合理的な判断に委ねられる」とされ、納税者の了解を伴わない反面調査を認めています。
最近の他の判例でも、同様の判断が下されています。
したがって、単純に「取引先に迷惑がかかる」「取引先の信用を失う」といった理由のみでは、反面調査を拒否できないことになります。
とはいえ、国税庁の税務運営方針には、「反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行なう」と定められています。
この運営方針に忠実であれば、反面調査の範囲はかなり制限されるはずです。
しかし、企業側からみて「客観的」であることはまれで、実際には調査官の主観によることが多いように感じます。
なお、反面調査を拒否したり、口裏合わせ等の虚偽の答弁をした場合は、法人税法等の規定により1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
反面調査にはどのように応じるべきか
一般の税務調査であれば、3日~1週間ほど前に調査に入る旨の事前通知がありますが、反面調査が行なわれる際には電話連絡もなく、いきなり来社することがほとんどです。
なぜなら調査官は、本調査先と反面調査先が口裏を合わせたり、証拠書類を改ざん・隠蔽されることを極端に警戒するからです。
反面調査の必要性が高いほど、その傾向は強くなります。
事前に連絡のない反面調査ですが、その場ですぐに応じなければならないのでしょうか。
これは本調査と同様ですが、あくまでも調査よりも企業活動が優先されます。やむを得ない事情がある場合は、当然に延期を申し出ることができます。
たとえば、代表者など調査に対応する者が、出張や会議のため不在の場合などです。
ここで気をつけておきたいのが、代表者等が不在の際は、調査官は用件を告げずに帰ることがあることです。
調査官が来社するのは、何か理由があるときだけです。必ず身分証明書の提示を求め、所属、氏名を確認するとともに、来社理由を尋ねましょう。反面調査の場合は、その取引先、取引年月日、取引内容等を確認してください。
そして、調査官の名刺を必ず受け取るようにしたいものです。
ときとして調査官は、反面調査には関連のない書類の提出まで要求することがあります。
さらに調査官は、企業担当者の目を盗んで本調査先以外に関する資料についても収集しようとすることがあります。
これは、明らかに質問検査権を逸脱した行為です。
このような行為が行なわれないよう、調査官の行動に目を光らせる必要があります。
ベテラン調査官になると、その取引先名と取引内容等を記憶し、席をはずした際に手帳に控えるようなこともあります。
このため、調査が始まる前に「ほかの取引先の取引内容を控えて帰るようなことはしないでください」などと釘を刺しておくことも有効でしょう。
取引先から口裏合わせを依頼されたら
反面調査先の企業にとって最も悩ましいことが、取引先から口裏合わせ等を依頼された場合ではないでしょうか。
税務調査を受けている取引先が、反面調査の兆候を事前に察知し、口裏合わせや書類の改ざん・隠蔽を依頼してくることはよくある話です。
たとえば、会社が50万円の応接セットを購入した場合、これを一時の損金で落とせるよう10万円未満の少額な品物を複数買ったかのように請求書や納品書を書き換えてもらうことがあります。
さらに、経営者が個人的に購入したスーツや宝石類が、作業服や工具といった会社の経費として計上されているケースもあります。
これらは立派な脱税で、手法としては最もポピュラーなものの1つです。
取引時にこのような不正加担の依頼を受けている反面調査先は、気が気ではないでしょう。
口裏合わせを依頼された際の対応は、それぞれの判断に委ねるしかありません。
もともと調査官は、その取引自体に大きな不信感をもって反面調査を実施するわけですから、改ざんや隠蔽が発覚してしまう可能性は高いといえます。
口裏合わせや書類の改ざん・隠蔽が発覚すれば、その反面調査先は税務署から「不正加担者」として名簿に登載され、後々までブラック企業として評価されてしまうことでしょう。
その点を十分考慮して対応してください。
「当初から不正への加担をしない」「すぐに露見するウソはつかない」という姿勢が大切なのはいうまでもありません。
反面調査を取引先等に連絡すべきか
次に悩ましいのが、反面調査が実施されることを取引先等に連絡すべきかどうかでしょう。
調査官によっては「自分たちが来たことは取引先には絶対に連絡しないでください」と言うかもしれません。
しかし、調査官にはそれを強制する権限はないので、自社で連絡の必要性を判断すればよいでしょう。
私見では、やはり今後の取引等に影響が及ぶことも十分考えられますので、ひと言、先方に連絡を入れたほうがよいと思います。
ここで注意したいのは、調査官の目の前で電話をしないことです。
調査官に聞かれたくない話になるかもしれませんので、絶対に声が聞こえない場所から連絡をとりましょう。
帳簿等のコピーや確認書等の提出を要求されたら
調査官は、証拠保全のため帳簿類や証憑等のコピーを要求することがありますが、任意調査ですから、原則としてコピーの要求には応じる必要はないでしょう。
ただし、本調査先から反面調査には協力してほしいという連絡があった場合等、コピーの要求に応じても差し支えのないケースであればこの限りではありません。
コピーの要求に応じる場合は、自社でコピーを2通とり、1通は手元に残すようにしましょう。そうしないと、どの書類が税務署側に渡っているかがわからなくなり、後の対応に苦慮する可能性があるからです。
また、調査官は取引に対する「確認書」や「申立書」を提出するよう求めることがあります。これは、本調査先から税金を徴収するための証拠を保全することが狙いです。
決まった書式はありませんが、たとえば、いつ、誰から何を依頼され、依頼の理由を知っていたか否か、このような取引がほかにもなかったか否か等、また、実際に証憑類を書き換えていたのなら、正しい日付、品名、それに係る金額等を記載して、反面調査先の担当者が税務署長あてに交付する形になっています。
ただし、これも任意ですから、提出する必要はありません。
また、こうした文書の代わりに調査官が「聴取書」を作成することがあります。
聴取書とは、調査官が本調査先との取引について質問を行ない、会社側が回答した内容を、一問一答形式で文書に残すものです。
実際の面談時には調査官の誘導質問が多いのですが、できあがった文書では誘導的な表現は省かれています。
安易に署名押印してしまうと、実際の取引内容が歪められ、本調査先に迷惑をかけることがあるかもしれません。
納得いかない部分があれば「調査官が私に質問した内容と私の回答を正確に表現してください」と書き直しを要求しましょう。また、署名押印もあくまで任意ですから、必ずしも行なう必要はありません。
反面調査にどう臨むべきか
最近は、調査官の調査技術の低下のためか「とりあえず反面調査でも」という安易な姿勢で実施されるケースが増えています。本調査先で非違事項の発見ができないと、「客観的な必要性」がないにもかかわらず反面調査が実施されることもあります。
つまり、反面調査があったからといって、取引先が不正行為をしているとは限りませんし、また、自社の税務調査の際も、反面調査が実施されることで取引先に迷惑をかけることがあるかもしれないのです。
反面調査は、「お互い様」と思っている企業がほとんどなので、不正行為がなければ丸く収まることが少なくありません。
反面調査が実施されても、慌てず騒がず、誠実に対応することが肝要です。
月刊「企業実務」 2012年9月号
真鍋輝彦(税理士)