総務が知っておきたいオフィスレイアウトの基本と応用
より快適な環境をつくろうオフィスレイアウトの基本は、安全かつ効率的な配置となっていること。1日の大半を過ごすことを考えると、人間工学的にも配慮したいものです。そこで、レイアウトを考える際に知っておきたいポイントを紹介します。
これから人事異動や新入社員の入社などの時期を迎え、オフィスレイアウトの変更が多く行なわれるシーズンとなります。
しかし、一般のオフィスで行なわれるレイアウトは「空いているスペースにデスクやオフィス家具を並べる」ことが多いもの。
レイアウト変更は、ひんぱんに行なうわけにはいかないので、十分に考慮したうえで業務効率が上がるようなレイアウトを目指したいものです。
ここでは、オフィスレイアウトについての基本的な考え方とその応用をご紹介します。
目次
どういうオフィスにしたいかを決める
まず最初に、「どういうオフィスにしたいか」という基本方針(オフィス・コンセプト)を決めましょう。
基本方針といっても、あまりむずかしく考える必要はありません。
たとえば、基本方針を「明るく開放的なオフィス」と決めたとします。すると「明るい」「開放的」といったキーワードがコンセプトとなるので、「オフィス全体の見通しがよく、フロア全体が広く感じられるオフィス」というイメージが導かれます。
そこで次に、そのようなオフィスをつくるにはどうすればよいかということを考えます。
いろいろな考え方があるとは思いますが、見通しがよいということを念頭に置けば「座っている状態で、壁際以外に目線より高い家具やものを置かず、広々と感じられるオフィス」という具体的なイメージが浮かび上がります。
このように、最初に基本方針を決めておけば、後々、レイアウトデザインについて迷った際でも、選ぶべき方向がみえてきます。
ゾーニングを考える
次に、ゾーニングを考えます。
ゾーニングとは、オフィスを構成する様々なゾーンを、オフィス全体にどう割り振るかを考える作業です。
このゾーニングに、オフィスレイアウトの成否がかかっているといっても過言ではないでしょう。
オフィスにおけるゾーンは、大きく3つに分けられます。
- 来客者(部外者)が立ち入れるゾーン
- 従業員のみが立ち入れるゾーン
- 従業員と来客者が共有するゾーン
この3つのゾーンがもつ違いは大きく、従業員や来客者の動線を考えつつも、全体とのバランスを保たなければなりません。
また、ゾーニングは、個人情報保護法に伴うプライバシーマークやISO27001を取得する際にも重要なポイントとなります。
まず、(1)~(3)の各ゾーンについて、具体的にスペースを割り振ります。
たとえば、次のとおりです。
- 受付、打合せコーナー、応接室など
- 総務、経理、営業などの各部署、倉庫、サーバールームなど
- 打合せコーナー、応接室、喫煙室など
そして、部門単位や来客者との関連性を考慮して、密接な関係をもつ部門・エリアを隣接させることで業務の効率化を図ります。
そのためには、部門・エリアごとの関連性を調べておくとよいでしょう。
下表にあるような部門別隣接マトリックスを作成し、隣接させたほうがよい部門、離したほうがよい部門を考慮してゾーニングを行ないます。
たとえば、来客を迎えたり、配達物を受け取るために受付スペースの近くに執務系の部門を配置したり、来客者との打合せが多い営業部と応接室などは隣接させるなどの配慮が必要となります。
一方、ゾーニングには、「機能スペース」という考え方を採り入れる方法もあります。
機能スペースとは、業務とそれ以外の生活に必要なスペースのことです。具体的には以下のようなものが考えられます。
(1) 一般執務スペース
オフィスのなかで最も面積を占めるスペースで、仕事に直接必要な機能をもつ場所
(2) 役員専用スペース
役員が専用で使う場所で、役員室や役員用会議室などが含まれる。役員席が一般執務スペースにある場合は考慮しない
(3) 業務支援スペース
仕事をサポートする場所で、会議室や応接室、受付やコピー・ファクシミリの設置場所などをいう
(4) 情報管理スペース
文書などを保管する倉庫やサーバールームなどをいう
(5) 生活支援スペース
社員食堂や喫煙室、リフレッシュルームなど日常生活に関わるスペースのこと
(6) 交通スペース
人が通るスペースで通路や廊下のこと
これらの機能スペースも考慮しながら、ゾーニングを行なうとよいでしょう。
オフィスの適正な通路幅
ゾーニングが決まったら、次にオフィスの通路幅について考えましょう。
レイアウトを考える際は、デスクや家具の配置を中心に考えがちですが、実は適正な通路幅を確保することが、よいレイアウトの決め手となります。
ここでは、壁面とデスク間やデスクサイド間など、6パターンに分けて紹介します。
メインとなる通路
オフィスのメイン通路(多くの人が利用する通路)と、間仕切りや背の高い書庫に面した通路は、人がスムーズにすれ違える広さを確保します。
人の標準的な肩幅は45センチとされているので、ある程度の余裕(男性2人がすれ違える幅)を考えて、最低でも120センチ以上は必要となります。
災害発生時にもメイン通路となるので、この幅は、できるだけ広く取ることをお勧めします。
壁面とデスク
片側が壁面で片側が座席の後ろを通る場合の通路幅です。デスクワークで着座した場合、デスクから約45センチ程度の着座スペースが必要となります。
実際のチェアの可動距離はもう少し広いのですが、あくまでもデスクワークをしている場合で算出します。
メイン動線ではない場合、約140センチ確保すれば円滑な動線が確保できます。
役職者の後ろなどで人を通したくない場合はあえて通路を狭くすることもあります。その場合、デスクの後ろは80~90センチが基準となります。
デスクとデスクの間
日本のオフィスで最も普及している対向式レイアウトでオフィスをデザインした場合に必要な幅で、スムーズに人が通れるスペースとして180センチあれば円滑に機能します。
両サイドが着座してデスクワークをしている場合に、人が1人スムーズに歩ける幅です。スペースに余裕がない場合でも140センチは確保したいところです。
人が通るたびにチェアを引くようでは、集中力も途切れてしまい、機能的なオフィスとはいえません。
デスクサイドとデスクサイドの間
スクール式レイアウトで配置した場合に必要となる通路幅です。デスクとデスクに挟まれた通路は比較的圧迫感がないことから、一般的に90センチあれば十分とされています。
ただし、メイン通路にする場合、前述のように120センチは必要になるので、全体のレイアウトを考慮して通路幅を決める必要があります。
デスクとデスクサイドの間
デスクとデスクサイドの間の通路幅は、チェアの可動範囲を考慮すると120センチ必要とされます。
通路を歩いている人とチェアに座っている人が、お互い妨げにならないように考慮した幅ということになります。
なお、デスクとデスクサイドをメイン通路にするようなレイアウトでは160センチくらいは必要となるので、オフィスのスペースにゆとりのあることが必要です。
デスクと収納の間
ワーカーの背面に収納がある場合、収納を取り出している際に人の通れるスペースを確保することが重要となります。
オフィスで使用する収納の奥行は40~50センチです。ラテラル書庫(引き出し書庫)をいっぱいに引き出した際のスペース(約40センチ)や扉を開いて作業している人のスペース(約45センチ)を考慮すると、180センチは確保したいところです。
執務スペースのデスクレイアウト
次に行なうのが、執務スペースのデスクレイアウトです。機能スペースのところでも述べましたが、オフィス全体では執務スペースの占める割合が最も大きいので、このレイアウトをどうするかは大変に重要です。
ここでは、オフィスでよく使われる4つのレイアウトをご紹介します。
それぞれの業務形態に合わせたレイアウトにすることで、業務の大幅な効率アップが図れます。
対向式レイアウト
最もオーソドックスなレイアウトで、長手方向に向かい合ってデスクを配置します。
チームワークやスペース効率を重視したレイアウトで営業部などに最適です。
ただし、プライバシーの確保がむずかしいので、必要に応じてデスクトップパネルなどで仕切る工夫をしましょう。
スクール式レイアウト
学校の教室のようにデスクを同一方向に並べるレイアウトで、金融機関などのように来客者に向かっていることが必要とされる場所に適しています。
管理者は、全体を見渡せる後列に配置することが多いので、このレイアウトは管理型になりやすいという特徴もあります。
一方で、通路が多くなるのでスペース効率はあまりよくありません。
背面式レイアウト
グループ内の人がお互い背を向けて座ります。
デスク前面にパーティションを立てプライバシーもある程度確保しつつ、チェアを回転させ後ろに向くことでグループ内のコミュニケーションも容易にとれます。
コミュニケーションとプライバシー確保を両立しやすく、ある程度の集中とチームワークを必要とされる企画グループ等に適したレイアウトです。
ただし、パーティションを使用することが多いので、コスト面での課題と管理者の配置がむずかしいという欠点もあります。
クラスター式レイアウト
収納やテーブルなどを挟んで配置するレイアウトで、左右対称型ともいいます。
作業スペースと個人収納などの拡大が図れ、コミュニケーションもとりやすいレイアウトでありながら、ある程度のプライバシーも確保できるので作業に集中できます。
デザイン作業や設計部門に向いているレイアウトです。
デメリットとしては、スペース効率がよくないので比較的広いオフィスが必要となります。
セキュリティに配慮する
オフィスは大勢の人が集まる場所でもあり、万が一、地震や火災などの様々な災害が発生したときでも、人命への被害を最小限に食い止めることを頭に入れておかなければなりません。
オフィスで求められるセキュリティとして、次のようなものが挙げられます。
地震対策
家具の転倒による被害を防ぐ(転倒防止のための耐震施工など)
火災対策
火災による損害から貴重品を保護する(金庫や防炎製品の使用など)
盗難予防
盗難による被害から貴重品を保護する(防盗金庫の使用など)
情報流失防止
漏洩や盗難から情報を保護する
入退室管理
防犯を目的として部屋への出入りを制限する
これらを怠ると、会社にとって思わぬ被害が発生することも考えられます。
これらのすべてについて対策を施すべきですが、ここではオフィスのレイアウトに関わる地震対策と火災対策について説明します。
(1)地震対策
日本は世界でも地震の多い国です。
したがって執務中に地震が発生する確率も高いといえます。
地震発生時にケガをする主な原因として、転倒した家具類や棚からの落下物に当たる、逃げる際に転倒する、割れたガラスへの接触などが考えられます。
このことから、家具類の転倒、落下物の防止が、地震時の対策として重要となります。
オフィス家具は想像以上に重量があるものですから、それが倒れてくることをイメージすれば、危険を回避する方法を講じるのは当然のことといえるでしょう。
具体的な対策としては、以下のようなものが挙げられます。
- 壁面収納家具は上下左右の家具と連結し、壁や床に固定する
- 背の高い家具は部屋中央に置かない
- 書庫やデスクの引き出し、扉などは、ラッチ(飛び出し防止機能)付きを選ぶ
- 書庫の上にものを置かないようにする
- パーティションは転倒しにくい組合せにする
- パソコン、プリンタなど機器類は滑り止めや落下防止措置を施す
- 壁掛けのホワイトボードや時計はしっかり固定する
以上のことを実施すれば、家具類の転倒や落下物の防止にかなり役立ちます。
そのほか、避難通路を安全にするため、次のような点にも配慮しておきましょう。
- 床は避難の際に滑りにくく、転んでも安全なようにカーペットを敷く
- 避難通路にものを置かないようにする
(2)火災対策
火災への備えは建築基準法や消防法で定められており、防火区画、内装制限、廊下の幅、階段に至る距離、排煙設備、防炎壁、非常用照明などについて規制があります。
消防法では、消防設備の設置などについて取決めがあります。特に注意しなければならない点として、オフィス内にパーティションで部屋をつくる場合、新たにつくられた部屋にも火災報知器やスプリンクラーの増設が必要になることがあります。
また、オフィスのレイアウトを考える際は、避難通路(動線)の幅を含めて検討します。特に高層ビルに入居するオフィスでは、火災発生時の避難に困難が予想されるので、対策は慎重に行なう必要があります。
レイアウト完成時には図面を消防署に提出し、判断を仰ぎましょう。
消防法に違反していると消防署の検査が入った場合、改善命令が出ます。
それから、カーペット、壁クロス、チェアやローパーティションなど、オフィス内には布類を使用した家具や備品が、意外に多くあります。
これらについては、火災対策として防炎製品の使用が望まれます。防炎製品とは、繊維を燃えにくくする加工が施され(防炎薬剤で加工するなど)、繊維製品が火元となって発生する火災を予防し、火が付いても燃え広がらない性能がある製品のことで、日本防炎協会で認定されたものです。
万一の事態に備えて、消火器やヘルメット、懐中電灯、軍手などもわかりやすい場所に置いておき、すぐに使用できるようにしておきましょう。
月刊「企業実務」 2011年2月号
小林修一(オフィスネット・ドットコム株式会社/オフィス管理士)