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財務会計との対比で考える これからの経理に欠かせない管理会計の視点

会計は英語で(accounting)といい”活動を記録し報告”するという意味があります。
企業会計はその報告する相手や内容で大きく2つに分けることができます。

ひとつは「財務会計」といって、会社に出資する株主・投資家や融資する銀行等の利害関係者に対して財政状態や経営状況を報告することを目的としています。
もうひとつは「管理会計」といって、経営者や幹部社員に対して意思決定に必要な情報を提供することを目的としています。

  提供・報告の相手 目的
財務会計 株主、投資家、銀行 財政状態、経営状況を伝える
管理会計 経営者、幹部 意思決定に必要な情報を与える

今回は「財務会計」と「管理会計」の違いについて、事例を用いてご紹介します。

財務会計と管理会計で結論が異なる製品別採算分析

それでは、このような事例で考えてみましょう。

(事例)
当社では「甲」「乙」の2つの製品(どちらも売価100円)を製造販売している。
工場の生産能力は月20,000個で、現在は甲製品と乙製品を10,000個ずつ生産している。

収益力を高めるために製品の一本化を検討したところ、次のように意見が分かれた。
当社はどちらを選択すべきか。

財務会計的アプローチ

製品別の原価と粗利益は甲製品が「原価80円、粗利益20円」、乙製品が「原価95円、粗利益5円」だった。

甲製品(100円) 原価 80円 粗利益 20円
乙製品(100円) 原価 95円 粗利益 5円

[粗利益]甲製品:20円>乙製品:5円

粗利益が高い「甲製品」に一本化すべきである。

管理会計的アプローチ

製品別原価の内訳は甲製品が「変動費70円、固定費10円」、乙製品が「変動費5円、固定費90円」だった。
売価から変動費を除いた限界利益は甲製品が「限界利益30円」、乙製品が「限界利益95円」となる。
※限界利益については後述(管理会計とCVP分析

甲製品(100円) 変動費 70円
固定費 10円
限界利益 30円
乙製品(100円) 変動費 5円
固定費 90円
限界利益 95円

[限界利益]甲製品:30円<乙製品:95円

限界利益が高い「乙製品」に一本化すべきである。

なぜ「財務会計」と「管理会計」とで結論が逆になってしまったのでしょうか。
考え方の違いを具体的にみてみましょう。

財務会計における全部原価計算と問題点

製品原価を計算する手続きは「原価計算」といってさまざまな手法が存在しますが、「財務会計」では伝統的に「全部原価計算」が採用されています。
「全部原価計算」とはその名のとおり、一定期間に発生した材料費・労務費・外注加工費・経費をすべて製造原価とする手法のことです。
考え方はシンプルでわかりやすいのですが、いくつか問題点があります。

全部原価計算の問題点:固定費をどう取り扱うか

ひとつは「固定費」 の取り扱いです。
「固定費」とは生産量にかかわらず一定の金額が発生する費用のことです(一方、生産量に比例して金額が増減する費用を「変動費」といいます)。
全部原価計算ではこの「固定費」がとても厄介な存在となっています。

たとえば家賃100万円/月を固定費とする工場があったとします。
製品を月10,000個生産すれば1製品あたりの家賃相当原価は100円となりますが、製品を月1個しか生産しなければ1製品あたりの家賃相当原価は100万円になってしまいます。

このように「全部原価計算」は「生産量によって1製品あたりの原価が変わってしまう」という欠点を抱えています。
製品別採算分析を行うさいも生産量の増減による影響を考慮しないと判断を誤る可能性があります。

全部原価計算の問題点:間接費をどう割り振るか

「全部原価計算」のもうひとつの問題が「間接費の配賦(費用の割り振り)」です。
「間接費」とは工場全体の水道光熱費や家賃といった製品ごとのひもづけが不明確な費用のことです(一方、特殊な原料や部品といった製品ごとのひもづけが明確な費用を「直接費」といいます)。

全部原価計算では間接費も含めて計算するので、複数の製品を製造している場合は間接費をなんからの配賦基準(割り振りルール)で製品ごとに割り振る必要が出てきます。

理想をいえば費用ごとに完璧な配賦基準を選ぶべきですが、種類が多かったり工程が複雑だったりすると現実的ではありません。
そこで、実務上は客観的でわかりやすい配賦基準から選ぶこととなりますが、この選び方がまた難問です。

たとえば家賃100万円/月の工場で製品A、Bをそれぞれ10,000個ずつ製造しているとします。
作業者の人数比が5:5、作業場の面積比が1:9だったとして、配賦基準を人数比にすると家賃相当原価はA、Bいずれも50円ですが、面積比にすると原価はそれぞれA10円、B90円と大きく異なります。

このように「間接費の配賦基準によって1製品あたりの原価が変わってしまう」というのが「全部原価計算」のもうひとつの欠点です。
そのため製品別採算分析を行うさいは配賦基準の妥当性を検証する必要が出てきます。

管理会計とCVP分析(損益分岐点分析)

管理会計は社外への報告を目的としていません。
そのため、社内の経営判断に役立てられるよう、さまざまな手法を採用することができます。

たとえば「財務会計」の固定費の問題を解決する手法として「CVP分析(損益分岐点分析)」があります。
CVPとはCost(費用)-Volume(生産量)-Profit(利益)という意味で、損益分岐点となる売上高や生産量等を分析する手法です。

具体的にはまず製造原価を変動費と固定費とに分けます。
売上高から変動費を差し引いたのが「限界利益」です。

変動費は「生産量に比例して金額が増減する費用」と述べました。
つまり限界利益は1個販売するごとに得られる利益のことで、販売総量の限界利益が大きくなればそのぶん固定費も回収しやすくなるということになります。

そして、製造原価にあたる固定費を1個あたり限界利益で割ると、損益分岐点となる生産量が求められます。

損益分岐点を計算して比較する

冒頭の事例にある甲製品と乙製品で計算してみましょう。

(再掲)
工場の生産能力は20,000個/月で、現在は甲乙それぞれ10,000個を生産している。

甲製品(100円) 変動費 70円
固定費 10円
限界利益 30円
乙製品(100円) 変動費 5円
固定費 90円
限界利益 95円

※固定費総額は甲10,000個×10円+乙10,000個×90円=1,000,000円

それぞれ単独で販売するとして──

【甲製品】
変動費70円
(1個あたり)限界利益=売上100円-変動費70円=30円
損益分岐点=固定費1,000,000円÷限界利益30円=33,334個(端数切り上げ)

甲製品の損益の分かれ目(分岐点)は33,334個です。33,334個以上販売してはじめて利益が得られます。

【乙製品】
変動費5円
(1個あたり)限界利益=売上100円-変動費5円=95円
損益分岐点=固定費1,000,000円÷限界利益95円=10,527個(端数切り上げ)

乙製品の損益の分かれ目(分岐点)は10,527個です。10,527個以上販売してはじめて利益が得られます。

以上の計算から、甲製品の販売に一本化しても20,000個製造するだけでは利益が出ないことがわかります。

CVP分析のグラフ化

なお、CVP分析はグラフに表すとさらにわかりやすくなります。
たとえば事例のケースをCVP分析でグラフ化(縦軸に金額、横軸に生産量)するとこのようになります。

CVP(損益分岐点)分析

甲・乙それぞれの製品を何個販売すれば限界利益が固定費のラインに届くのかを視覚的に見ることができます。
そして固定費と限界利益の交差する点が損益分岐点になります。

このグラフを見てみると、乙製品は損益分岐点が10,527個であるのに対して、甲製品は20,000個生産しても損益分岐点に達しないことが一目でわかります。

管理会計には他にも「間接費の配賦」の精緻化を目指す「活動基準原価計算(ABC原価計算)」や、部門別採算計算のひとつである京セラの「アメーバ経営」、需要量や生産能力といった制約条件を考慮して製品別採算分析を行う「最適セールスミックス」といったさまざまな手法があります。

今回の事例では「乙製品」に一本化した方が粗利益が多くなりました(下表参照)が、実際に管理会計で製品別採算分析を行う際は会社の実態に合わせて適切な手法を採用しましょう。

「現状の生産計画」

  甲製品 乙製品 総額・合計
生産量 10,000個 10,000個 20,000個
売価/個 100 100
売上高 1,000,000 1,000,000 2,000,000
変動費/個 70 5 750,000
限界利益/個 30 95
固定費/個 10 90 1,000,000
配賦基準 10% 90%
原価計/個 80 95
製造原価 800,000 950,000 1,750,000
粗利益/個 20 5
粗利益額 200,000 50,000

250,000

「甲製品のみ生産」

  甲製品 総額・合計
生産量 20,000個 20,000個
売価/個 100
売上高 2,000,000 2,000,000
変動費/個 70 1,400,000
限界利益/個 30
固定費/個 50 1,000,000
配賦基準 100%
原価計/個 120
製造原価 2,400,000 2,400,000
粗利益/個 △20
粗利益額 △400,000 △400,000

「乙製品のみ生産」

  乙製品 総額・合計
生産量 20,000個 20,000個
売価/個 100
売上高 2,000,000 2,000,000
変動費/個 5 100,000
限界利益/個 95
固定費/個 50 1,000,000
配賦基準 100%
原価計/個 55
製造原価 1,100,000 1,100,000
粗利益/個 45
粗利益額 900,000 900,000
平井満広 氏(税理士)

平井会計事務所 所長。企業の総務部で経営管理業務に従事したのち、落合会計事務所に勤務。税理士試験に合格後、コンサルティング業界に転職し、コンサルタントとして管理会計の導入を支援する。現在は平井会計事務所を開業し「会計を通じて人を幸せにする」をモットーに、中小企業の経営改善や税務相談に力を入れている。

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