改正育児介護休業法Q&Aから気になる質問をわかりやすく解説
2022年改正内容について実務で注意したい質問をピックアップ今年4月から段階的に改正されている育児介護休業法。
育児休業に関する制度も変わり、どうしたらよいか悩んでいる方も少なくないようです。
そこで、厚生労働省がまとめたQ&Aから気になる質問をピックアップしてご紹介。
育児休業について、どの会社でも気になりそうな質問を抜き出してみました。
【厚生労働省】育児・介護休業法についてより
「令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&A」参照
みなさまのご参考になれば幸いです。
※以下の質問文末のアルファベット・数字は「令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&A」に記載されている質問番号です。
目次
育休を希望しない社員にも周知・意向確認は必要か
妊娠・出産報告の時に、「育休を取得するつもりはない」「制度周知は不要」と言っていた労働者にも個別周知及び意向確認を行わなければならないのですか(Q2-3)
周知・意向確認は会社の義務なので、行わなければなりません
産後パパ育休によって男性もさらに育児休業しやすい環境になります。
ですが、「育休は不要だ」という社員もいらっしゃるでしょう。
それでも会社は説明を行わなければいけないのですね。
ただ、当の社員が周知も意向確認も不要だという意思表示をしたとします。
その場合はあえて面談をしないで、書面を渡すだけでも良いとのことです。
令和4年10月以前に出産の申し出があった社員に産後パパ育休を説明すべきか
出生時育児休業は令和4年10月から施行されますが、それ以前に妊娠・出産等の申出があり、出産予定日が令和4年10月以降の場合は、個別周知の際に、出生時育児休業についても周知する必要がありますか(Q2-5)
子どもが令和4年10月以降に生まれる予定であれば、伝える方が望ましい
子どもが生まれる社員に対して周知や意向確認を行います。
ただし、出生時育児休業(いわゆる産後パパ育休)は令和4年10月から始まる制度です。
そのため産後パパ育休について説明するのは、令和4年10月になってからでよいということになります。
つまりたとえば、令和4年9月に申し出があったとして、その時点で産後パパ育休について説明しなければならないわけではありません。
とはいえ、10月以降に子供が生まれることがわかっているなら、あらかじめ社員に産後パパ育休の説明をしてあげる方がよいでしょう、ということです。
また、産後パパ育休は9月までの「パパ育休」とは制度が異なります。
社員が間違えないよう、会社から産後パパ育休について説明してあげる方が混乱しないかもしれません。
育休を取りそうな社員がいない会社はどうする?
育児期の社員がおらず、また、採用する予定もない場合でも、雇用環境整備をする必要はありますか(Q3-8)
育児期の社員がいないとしても
・育児休業の対象になる子どもに養子縁組等も含まれていること
・義務の対象となる事業主を限定していないこと
から、すべての事業者が雇用環境整備を行う必要があります
仮に社員が全員60代(配偶者含め)であったとしましょう。
それでも養子を迎える可能性がある以上は雇用環境を整える必要があるということでしょうか。
そうでなくても、全事業者に義務があるので整備はしておかないといけないようです。
育児介護休業法においては、たんに「子どもが生まれる」ということだけではなくて養子縁組まで想定されているのが興味深いところです。
ちなみに、この養子縁組に着目すると、制度の意外な一面が見えてきます。
せっかくですので、次のQで見てみましょう。
産後パパ育休は女性でも取得できる?
出生時育児休業は、男性だけが取得可能ですか(Q5-3)
この新制度の対象は主に男性になりますが、女性も養子の場合などでは対象となります
女性の場合、自身が出産するのであれば産後8週間は産後休業に入ります。
そのため、出生時育児休業(産後パパ育休)についてはあまり意識しないかもしれません。
そうでなくても、産後パパ育休と呼ばれるので男性社員限定のように見えます。
ところが、養子を迎える場合は女性でも対象になるのだそうです。
育休と産後パパ育休の振り分けはどうする?
産後7週~10週の休業申出があった。産後7~8週は自動的に出生時育児休業になるのか。または、8週のうち4週までの育児休業は全て出生時育児休業として取り扱うよう労使で取り決めてよいですか(Q5-7)
それぞれ別の権利なので、会社が勝手に決めることはできません
「育児休業」と「出生時育児休業(産後パパ育休)」は別の権利なので、どちらの権利を行使するのかは社員が決めます。
そのため、労使協定を結んだとしても会社が自動的に振り分けることはできません。
もし質問のようなスケジュールで社員から「育休を取得したい」と言われたら、育児休業と出生時育児休業のどちらにするのかを会社は確認する必要があるわけですね。
産後パパ育休中の就業の希望があった場合
休業中の就業は、労働者が希望すればいつでもできるのですか(Q6-1)
産後パパ育休中に社員が働くためには
・労使協定を締結している場合にかぎり
・社員と事業主が合意した範囲内で
・事前に調整している
ことで可能になります。
「令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&A」によると、これを成立させるための手続きとして以下の流れが紹介されています。
- 労働者が就業してもよい場合は、事業主にその条件を申し出る
- 事業主は、労働者が申し出た条件の範囲内で候補日・時間を提示する
(候補日がない、あるいは就業させることを希望しない場合はその旨を提示) - 労働者が同意する
- 事業主が通知する
育児休業する社員の要望を受け入れるにしても手順を踏む必要があるようです。
では、手順を踏んだとして、働くのはいつでもよいのでしょうか。
産後パパ育休中に働くのは何時でもいいのか?
出生時育児休業中に就業する場合、契約上の勤務時間以外の時間を労働者が申し出てもよいのですか(勤務時間外の夜間の2時間でテレワークであれば勤務可能など。)(Q6-4)
所定労働時間内に限ります
たとえば9:00~18:00が1日の所定労働時間だとしましょう。
そうすると、所定労働時間外である20:00~22:00の2時間でテレワークを行うのは認められないということになります。
育休取得を強要するのもハラスメントです
育児休業制度等を利用していない労働者に対して、育児休業等の取得率の向上等を目的として、当該制度の利用を強要することはハラスメントに当たりますか(Q8-3)
制度の利用を強制するために、上司等が当該労働者に対して人格を否定するような言動をするなどの精神的な攻撃等をした場合には、パワーハラスメントに該当すると考えられます
育児休業を取ることに対しての嫌がらせは、マタニティハラスメントあるいはパタニティハラスメントとして避けなければならないことはご承知のことと思います。
ですから「育休を取るな!」と言うのが、ハラスメントに当たるのは想像がつきます。
ところが「育休を取れ!」と言って、それがハラスメントになるかもしれないというのは気づきにくいかもしれません。
育休取得を強制する言動というのは寡聞にして存じませんが、たとえばこんな発言でしょうか。
「このご時世に育児休業を取らないなんて、家族をないがしろにしてひどい奴だ」
まとめ
今回の改正育児介護休業法は
・社員が出産や育児を理由に退職することのないようにする
・希望に応じて男女ともに仕事と育児を両立できるようにする
ということを意図したものです。
社員にとっては育児休業しやすい制度に変わったともいえます。
他方、そのぶん企業が検討しておかなければならない問題も新たに発生しています。
今回取り上げた「令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&A(随時更新あり)」では他にも多くののQ&Aが掲載されています。
ここで紹介したもの以外にも、みなさまの疑問に答えるQ&Aがあるかもしれません。
それほどボリュームもないので、お手すきの際に覗いてみてはいかがでしょうか。
【厚生労働省】育児・介護休業法についてより
「令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&A」
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2022年8月号から月刊『企業実務』で連載スタート!
連載『総務担当者のための「産休・育休制度」の実務と勘どころ』
女性はもちろん、男性も育休を取得しやすく、仕事と育児を両立できる会社にするために、総務担当者にできること・やるべきことを実務に沿って解説します。
執筆:社会保険労務士法人名南経営 特定社会保険労務士 宮武貴美 氏
改正育児・介護休業法について、産後パパ育休や育休の分割取得などが順を追って学べます。
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