Q1.パート社員にも賞与は支給しないといけないのでしょうか?
同一労働同一賃金で注意したい人事設計Q&A2021年4月1日に大企業から先行された同一労働同一賃金の対応を求めるパートタイム・有期雇用労働法が、いよいよ中小企業にも施行されました。
この同一労働同一賃金は、同一企業内において正社員と非正規社員との間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることを禁止しています。
では、具体的にどのような点に注意し、非正規社員の処遇を検討していけばよいのでしょうか。
企業の実務上のポイントを同一労働同一賃金ガイドラインと裁判例を参考に、われわれ社労士の実務経験を交えてQ&A方式(全6問)で解説していきます。
Q.今まで正社員にしか賞与を支給していませんでしたが、パートタイマーにも賞与を支給しなければならないのでしょうか?
A.必ずしも支給する必要があるというものではありませんが、従業員の貢献度合いに応じて支給しているのであれば、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた賞与を支給するよう社内で検討しましょう。
ガイドラインにおける賞与の待遇差に関する見解
賞与に関する待遇差の原則的な考え方について、ガイドラインではこのように示しています。
賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない。
同一労働同一賃金ガイドライン8頁
大阪医科薬科大学事件の概要と判断
おもにアルバイトに対する賞与の支払いについて争われた事件である大阪医科薬科大学事件において、2020年10月に最高裁が判断を示したことから、その判決も参考にすることができます(図表参照)。
結論 | 支給目的 | 性質 | 職務の内容 | 配置の変更の範囲 | その他の事情 |
---|---|---|---|---|---|
正職員と相違があることは不合理であるとまでいえない | 正職員としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図るなどの目的 | 賞与の支給基準となる基本給は、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有する | 一定の相違があったことは否定できない | 一定の相違があったことは否定できない | 契約職員および正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が存在した |
とはいえ、この最高裁判決の結果だけで「アルバイト=賞与の支給不要」と考えるのではなく、個別事案として背景や経緯も踏まえて検討することが必要です。
実務上のポイント
以上を踏まえると、実務上の対応として次のような方法が挙げられます。
- 「職務の内容」、「人材活用の仕組み」等の違いに応じて、パートタイマーに対して正社員とは異なる掛率、支給月数、金額水準で支給する。
- パートタイマーは正社員と比べて簡易な定型業務に従事することが多く、貢献度合いを一律で測ることができる場合には、定額の一時金(たとえば5万円、10万円等)を支給する。
実際にパートタイマーに対する賞与に関しては、待遇差をめぐる紛争リスクや説明義務を踏まえて処遇を見直し、(1)(2)のように正社員とのバランスに応じて支給する企業が増え始めています。
パートタイマーへの不支給を継続する場合は、賞与の支給趣旨を明確にしたうえで、自社の正社員とパートタイマーとの「職務の内容」、「人材活用の仕組み」等の違いを待遇差の説明理由として整理し、「不合理」な待遇差をつけないようにしておきましょう。
【参考】キャリアアップ助成金のご紹介
同一労働同一賃金対策にあたり、正社員と同様の仕事に従事し、大きな貢献を果たしている非正規社員のコストアップが想定されたとしても、優秀な人材であれば正社員に登用し、能力発揮を促し育成していくことが望ましいと言えます。
国は、非正規社員を正社員に転換させる企業を後押しし、積極的に処遇改善に取り組む企業に対し助成金を支給しています。
キャリアアップ助成金は、非正規社員の正社員転換に加え処遇改善に取り組む企業を支援しています。
詳しくは、厚生労働省のホームページを確認のうえ、ぜひ活用してください。
キャリアアップ助成金[厚生労働省]
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
2016年3月、社会保険労務士法人和(なごみ)に入社。2016年12月社会保険労務士登録。2019年4月特定社会保険労務士付記。「お客様に寄り添う」をモットーとし、多岐に渡る業種の人事労務相談業務を中心に就業規則・諸規程の策定、各種助成金のコンサルティング業務など幅広い業務に携わっている。
JASDAQ上場商社にて、主に給与計算、社会保険手続き、新入社員研修の人事労務業務に9年間従事。その後、社会保険労務士法人和(なごみ)に入社し、2016年に社会保険労務士資格を登録。現在は二児の育児休業を経て、多店舗展開する飲食業の労務管理を強みとし、きめ細かく丁寧なサービスの提供をモットーとしている。
同一労働同一賃金で注意したい人事設計Q&A[全6回]
Q1.パート社員にも賞与は支給しないといけないのでしょうか?
Q2.パート社員にも慶弔休暇を付与しないといけませんか?
Q3.定年後再雇用者の待遇はどこまで変えてよいのでしょうか?
Q4.派遣社員の同一労働同一賃金対策は派遣元と派遣先のどちらで行うのですか?
Q5.同一労働同一賃金に違反すると罰則はありますか?
Q6.同一労働同一賃金の処遇を決めるのに間違えやすいポイントはありますか?