Q6.同一労働同一賃金の処遇を決めるのに間違えやすいポイントはありますか?
同一労働同一賃金で注意したい人事設計Q&A2021年4月1日に大企業から先行された同一労働同一賃金の対応を求めるパートタイム・有期雇用労働法が、いよいよ中小企業にも施行されました。
この同一労働同一賃金は、同一企業内において正社員と非正規社員との間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることを禁止しています。
では、具体的にどのような点に注意し、非正規社員の処遇を検討していけばよいのでしょうか。
企業の実務上のポイントを同一労働同一賃金ガイドラインと裁判例を参考に、われわれ社労士の実務経験を交えてQ&A方式(全6問)で解説していきます。
Q.同一労働同一賃金の処遇決定の過程で、間違えやすいポイントはありますか?
A.顧問先から受ける相談のなかで散見されるのが、非正規社員の待遇を引き上げるかわりに正社員の待遇を引き下げ、待遇格差を解消させるケースです。
正社員の合意がないにもかかわらず、一方的に労働条件を引き下げることは「不利益変更」となるため、安易に行うべきではありません。
では、正社員と非正規社員の賃金制度を見直す場合、どのように待遇差を是正したらよいでしょうか。具体的には以下の方法があります。
目次
【賃金を構成する各種手当を整理する際のポイント】
事例1.廃止する手当を基本給に統合するケース
非正規社員には支給していない「皆勤手当」を廃止する場合、手当を基本給に統合し、従前の総支給額が減額しないよう調整します。
事例2.廃止する手当の原資を回収し、再配分するケース
扶養する家族の人数に応じて変動する家族手当は、図のように、回収した原資の平均額を再配分し、基本給に組み込んだ企業の例もあります。
事例3.「調整給」を新設し、段階的に廃止するケース
廃止の見解に至った手当は、3年程度の経過措置期間を設け、段階的に減額していく「調整給」に移行させてもよいでしょう。
正社員・非正規社員の待遇差是正のためのベストな方法は、非正規社員の処遇改善に他なりません。しかし、人件費確保の観点からも理想と現実にギャップがあるのが実情でしょう。
前述したように、一方的な正社員の労働条件引き下げは不利益変更に当たります。
やむを得ず不利益が生じる場合は、対象者本人の合意が得られるよう、不利益の損失をいかに最小限に抑えるかに加え、話し合いの機会を重ね、真摯な対応を心掛けることが大切です。
【参考】キャリアアップ助成金のご紹介
同一労働同一賃金対策にあたり、正社員と同様の仕事に従事し、大きな貢献を果たしている非正規社員のコストアップが想定されたとしても、優秀な人材であれば正社員に登用し、能力発揮を促し育成していくことが望ましいと言えます。
国は、非正規社員を正社員に転換させる企業を後押しし、積極的に処遇改善に取り組む企業に対し助成金を支給しています。
キャリアアップ助成金は、非正規社員の正社員転換に加え処遇改善に取り組む企業を支援しています。
詳しくは、厚生労働省のホームページを確認のうえ、ぜひ活用してください。
キャリアアップ助成金[厚生労働省]
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
2016年3月、社会保険労務士法人和(なごみ)に入社。2016年12月社会保険労務士登録。2019年4月特定社会保険労務士付記。「お客様に寄り添う」をモットーとし、多岐に渡る業種の人事労務相談業務を中心に就業規則・諸規程の策定、各種助成金のコンサルティング業務など幅広い業務に携わっている。
JASDAQ上場商社にて、主に給与計算、社会保険手続き、新入社員研修の人事労務業務に9年間従事。その後、社会保険労務士法人和(なごみ)に入社し、2016年に社会保険労務士資格を登録。現在は二児の育児休業を経て、多店舗展開する飲食業の労務管理を強みとし、きめ細かく丁寧なサービスの提供をモットーとしている。
同一労働同一賃金で注意したい人事設計Q&A[全6回]
Q1.パート社員にも賞与は支給しないといけないのでしょうか?
Q2.パート社員にも慶弔休暇を付与しないといけませんか?
Q3.定年後再雇用者の待遇はどこまで変えてよいのでしょうか?
Q4.派遣社員の同一労働同一賃金対策は派遣元と派遣先のどちらで行うのですか?
Q5.同一労働同一賃金に違反すると罰則はありますか?
Q6.同一労働同一賃金の処遇を決めるのに間違えやすいポイントはありますか?