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定年退職者に対する再就職支援の進め方

 

定年を迎える社員にもその後の生活があります。継続雇用を希望せず、新たな道に進みたいという社員もいるでしょう。
そうした場合に会社として再就職活動をどう支援するか、上手に進めるポイントを解説します。

平成25年4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行され、段階的に希望者全員を対象とした65歳までの高年齢者雇用確保措置が義務づけられました。

具体的な高年齢者雇用確保措置としては、定年廃止・延長ではなく、いったん定年とし、その後の継続雇用制度を導入しているケースがほとんどですが、労使協定や就業規則によって継続雇用の対象となる労働者を限定する方法がとれなくなりました。

一方で中小企業にとって、高年齢社員の人件費をどこまで負担するかは経営にも影響を及ぼす問題です。継続雇用ではなく、再就職をしたいという社員がいれば、会社としても積極的に後押しをしていきたいところです。

再就職支援の第一は「情報提供」

平成23年の独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると、55~59歳層では、定年到達時に継続雇用を希望するかどうかを決めていない人が33%を超えていました。

また、同じ調査で、65~69歳層では定年に到達して会社を退職した人のうち39%近くが再就職(転職)し、男性では44%弱が「第二の職業人生として自分に合う仕事を探していた」という結果が出ています。

定年退職後、他の職業に就きたいというのであれば、少しでも早い時期に準備を始めることが本人のためにもなります。

そのための情報提供を行なうことが、高年齢社員への手助けとなるでしょう。

特に、55~59歳層の3分の1の人が、定年到達時に継続雇用を希望するかどうか決めかねているという現状を考えると、企業が継続雇用以外の働き方にどのようなものがあるかを選択肢として示すことは有用でしょう。

本人にとっても充実したセカンドライフを考えることにつながるうえ、結果的に高年齢社員を雇い続けることによって生じる人件費負担の軽減が実現できるのではないかと考えられます。

セカンドライフのための説明会を開催する

60歳で定年を迎えた後の生き方には、様々な選択肢が考えられます(図表1)。

まずは、定年後の生活設計としてどのような選択肢が考えられるのか、また、それぞれにどういうメリット・デメリットがあるのか、説明会を開催するとよいでしょう。

60歳定年制の場合、55歳ごろから遅くとも59歳に到達するまでには、説明会に参加する機会をつくるべきです。

説明会の主体として、人事担当者が行なうのが簡便ですが、「継続雇用したくないのか?」という印象を与えてしまうのは本意ではありません。
そこで、「ハッピーリタイアメント」等のテーマを設定し、外部講師に依頼して開催する方法があります。

1社では講師を呼ぶほどの対象者がいない場合は、外部で開催されている講座等に参加させるとよいでしょう。

説明会の内容

継続雇用以外の選択肢として、主に次のようなセカンドライフがあること、それぞれの生活設計について情報提供しましょう。

再就職(他企業への転職)

転職先を探す方法として、

  1. ハローワークでの求職
  2. 知人や友人の紹介
  3. 人材紹介会社への登録
  4. 求人誌や求人サイトの活用
  5. 人材派遣会社への登録

などが考えられます。

現実的な転職先としては、

  1. 関連会社
  2. 取引先や知人の会社
  3. 職業紹介機関の紹介による新たな会社

などが考えられます。

また、フルタイムで働くか、短時間(社会保険に加入しない)で働くかによって、年金の受給額が変わる場合があります。

そうした情報もあわせて提供すると、判断材料になります。

独立(起業)

独立(起業)には、

  1. いままでの経験を活かして独立する
  2. 新たに資格を取得して独立する
  3. 第一次産業(農業や漁業等)に個人事業主として従事する

などが考えられます。

リタイア

長年の勤務を終え、「今後は少しゆっくりしたい」と、リタイアを考える人もいるでしょう。

生活の基盤が確保されていれば、完全にリタイアして、趣味に打ち込むことも可能です。

社会との関わりを保ちながら生活したいという高年齢社員には、ボランティア活動を勧めるとよいかもしれません。

説明会は複数回行なう

退職者にとって、退職後の進路は大切な問題です。1回の説明会では必要な情報が十分伝わらない場合もあります。

また、同じ話を聞いても、退職が近づくにつれ、受け取り方が変わってくることもあります。

そこで、50代以降の社員を対象とする任意参加の説明会を定期的に実施する、55歳からは毎年参加を前提にスケジュールを調整するなど、複数回の参加ができるように設定するとよいでしょう。

再就職を考えたり行動する時間を与える

情報提供の次に行ないたいのが、ゆっくり考えたり再就職活動をしたりできるよう、時間的な余裕をつくってあげることです。

具体的には次のような方法が挙げられます。

定年退職前休暇制度

本人の進路が決まったら、その支援のために、長年の勤務に対する報奨を兼ねて、ある程度まとまった休暇を与える、という方法が考えられます。

再就職先を探すため、あるいは独立の準備をするために、休みが欲しいと望む退職予定者は多いはずです。

長期休暇制度

セカンドライフの準備をするための、ある程度まとまった長期休暇を与えます。

もっとも、長期休暇制度の導入にあたっては、休暇中の給与は全額支給するのか一部減額とするのか、そもそもそのコストを負担できるだけの企業体力はあるのか、休暇中の代替人員の確保をどうするのかなど、様々な課題が想定されます。

新たに制度を導入しようとする場合、慎重に検討する必要があります。

所定休日増加制度

週休2日制の場合、週休3日にするなど、所定休日を増やす方法もあります。休日増加制度についても、長期休暇制度同様、慎重な検討が必要です。

労働時間の短縮

休暇制度の導入がむずかしい場合、勤務時間を短くする方法も考えられます。

時短勤務制度の導入の際には、多様な働き方の支援を通じた組織の活性化等、会社と退職する人のどちらのためにもなる制度設計を考えましょう。

時短制度を導入する場合も、給与を減額するのか、対象期間を退職前のいつからにするのかなど、様々な課題があります。

企業の実情に合わせて、無理のない制度を導入してください。

一般とは別の始業時刻・終業時刻を決めるほか、フレックスタイムを導入する、というような制度設計が考えられます。

時短デー制度

毎日ではなく、週のうち○曜日、月のうち○日など、時短を適用する日を設ける制度です。

  1. 毎週○曜日を時短デーとして固定する
  2. ○曜日は5時間勤務、□曜日は6時間勤務とするなど、業務の繁閑に合わせる
  3. シフト表によりその都度時短デーを設定する

というような様々な制度設計が考えられます。

フレックスタイム制度

フレックスタイム制度を導入して、時間の使い方に自由度を与える、ということも支援策になります。

こうした制度についての就業規則の規定例が図表2です。

図表2 支援制度についての就業規則の規定例
第○条特別休暇(定年退職前休暇)
1 勤続10年以上で定年退職1年前の社員には特別休暇を付与する。

2 この休暇は、定年退職後の準備のために与えるもので、当該休暇の意義をよく理解して有意義に活用しなければならない。

3 休暇の取得を希望する者は、休暇取得開始希望日の6か月前までに申し出て、業務に支障をきたさないよう休暇前に調整を図らなければならない。

4 休暇を認める期間は、勤続年数により、下記のとおりとする。

  ・勤続年数10年以上20年未満:○○日間
  ・勤続年数20年以上:○○日間

5 特別休暇中の賃金については賃金規程の定めによる。

第○条短時間勤務
1 第○条(始業・終業時刻)の規定にかかわらず、定年退職後再雇用を希望せず、退職1年前以降短時間勤務を希望する社員は、所定労働時間を短縮して勤務することができるものとする。

2 短縮した所定労働時間については個別に決定し、書面にて通知する。

3 短時間勤務の賃金については賃金規程の定めによる。

休暇制度や時短制度の導入がむずかしい場合は、定時退社ができる環境を整備したり、有給休暇の取得を促進したりして、少なくとも検討できる時間的な余裕を与えるようにしましょう。

資格取得の後押しも再就職支援となる

退職する社員が再就職や独立のために資格取得を希望する場合、必要な費用負担の軽減や休暇の付与、企業内研修を行なうとよいでしょう。

教育訓練給付金の活用

雇用保険の被保険者には、厚生労働大臣の指定する講座を受講した時にハローワークから教育訓練給付金が支給されます。
この制度を周知して、資格取得講座の受講を促します。

給付金を受けるにはいくつか要件があります。制度の存在を伝えて、ハローワークに問い合わせるよう、アドバイスしましょう。

企業独自の支援金

企業独自の資格取得支援金を支給することも考えられます。

教育訓練給付金に上乗せする、教育訓練給付金の指定講座以外の受講者に支援金を出す、などの方法が考えられます。

資格取得休暇制度

資格取得講座の受講に必要な日数、あるいは試験前の1週間など、資格取得を後押しするための休暇を与えます。

この制度については退職前の社員に限定せず、全世代に共通して適用できる休暇制度としてもよいかもしれません。

企業内研修の実施

退職予定者の多くが同じ資格取得を希望している場合は、企業内研修を行なって支援する方法もあります。

講師を招いて企業で研修を行なうことで、仕事への支障も最小限に抑えることができます。

再就職支援のために企業が活用できる助成金

退職予定者にどういう支援をするにしろ経費がかかりますが、その手助けになるのが助成金です。

労働移動支援助成金(再就職支援奨励金)

事業規模の縮小等(希望退職応募や勧奨退職も含まれます)により離職を余儀なくされる労働者等に対し、再就職援助計画等を作成したうえで、再就職支援を職業紹介事業者に委託した場合〔再就職支援〕、もしくは求職活動のための休暇を付与した場合〔休暇付与支援〕に支給される、活用しやすい助成金です(図表3)。

ハローワークで、職業紹介事業者に委託して「労働移動支援助成金」を活用した再就職支援を検討している旨、相談をするとアドバイスが受けられます。

ハードルの高い助成金ではありませんが、委託契約は再就職援助計画認定後に行なう必要がある点には注意が必要です。

このほかにも、自治体によって様々な助成制度が設けられていますので、調べてみる価値はあるでしょう。

以上、いくつかの視点でまとめてきましたが、一緒に働いてくれた社員の定年退職にあたって、その第二の人生のスタートを、企業としてサポートしていく参考にしてください。

月刊「企業実務」 2014年8月号
望月由佳(特定社会保険労務士)

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