金融機関の「リスケ対応」のいまと今後を検証する
円滑化法終了から2年中小企業金融円滑化法が終了して2年が経過しました。
この間、中小企業に対する融資状況は、どのように変化しているのでしょうか。現状を検証します。
中小企業金融円滑化法(以下「円滑化法」といいます)は、中小企業がリスケジュール(返済条件等の変更。以下「リスケ」といいます)の申込みを行なった場合、金融機関はできるだけ柔軟に対応するよう努力義務を定めた法律でした。
円滑化法の終了が近づくにつれ「円滑化法が終了すると金融機関が態度を急変させ、リスケに応じてもらえない中小企業が急増するのでは?」と倒産増を懸念する声が聞かれるようになりました。
平成25年3月31日に円滑化法は終了しましたが、その後も金融庁から「貸付条件の変更等や円滑な資金供給に努めること」「他の金融機関等と連携し、貸付条件の変更等に努めること」が金融機関に求められ、中小企業を支援する姿勢に変化はありませんでした。これは、実質的な「延長」ともいえます。
このため、円滑化法の終了後もリスケ実行率は高い数字を維持しています(図表1)。
むしろ終了後のほうが高率となっており、依然としてリスケの実行は容易なようにみえます。
ただし、図表1のとおり申込件数は緩やかに減少しているものの、大きく改善されるには至っていません。業績が回復している中小企業も一部みられますが、その多くは業況が不安定であり、繰り返しリスケを申し込まざるを得ない状況にある企業も少なくないといえます。
大手信用調査会社からは倒産件数は低水準で安定していると公表されていますが、これは景気回復によるものではなく、国や金融機関が倒産の急増を避けたい狙いから、リスケによる延命で倒産を免れているケースが多いためと推測されます。
目次
経営改善計画の策定支援
金融庁が平成25年3月に公表した資料では、円滑化法を利用している中小企業は30万~40万社と推計されます。複数回のリスケを行なう企業は約8割にのぼり、特に事業再生・転廃業が必要な企業は5万~6万社とみられています。
ここから類推するに、円滑化法を利用しているうちの約1割は事業継続が困難な企業、約2割がリスケ卒業の見込みが十分にある企業、残りの約7割が再生の可能性をすぐには判断できない企業と考えられます。
本来、リスケを実行する場合は、本格的な経営改善計画書を作成し、それを金融機関に提出することが求められています。しかし、前述の7割の企業のうちの多くは計画自体をつくれない(あるいは、簡易なものしかつくれない)、そして支援する専門家がいない企業と考えられています。そこで現在では、中小企業に対して次のような支援策が用意されています。
認定支援機関による経営改善計画策定支援
認定支援機関(経営革新等支援機関)とは、中小企業の再生や経営革新を支援する専門家です。自社だけでは本格的な経営改善計画の策定が困難な中小企業は、認定支援機関の力を借りて経営改善を行なうことができます。
経営改善計画の策定やその後のフォローまで対応してもらえますが、専門家に依頼するとある程度の費用が発生してしまうため、その費用を補助する制度(費用の3分の2を補助、上限は200万円)を利用することができます。資金的余裕がない場合には、ぜひ利用したい制度です。
暫定リスケによる支援
リスケによる支援を受けている中小企業の多くは、早期に業績を回復させることがむずかしく、せめて現状維持が精一杯のケースが多いのではないでしょうか。
こうした現状を踏まえて中小企業再生支援協議会(以下「再生支援協議会」といいます)では、円滑化法終了後の支援措置として、3年間の暫定リスケという手法で中小企業の再生支援を行なっています。
暫定リスケは、本格的な経営改善計画でなくても3年程度のリスケを認め、事業に専念できる時間の確保、経営者の意識改革、企業体力の強化などを図る狙いがあります。そして、再生支援協議会という第三者機関の場で、金融機関が全行足並みをそろえて対応する点が特徴です。
図表2は、再生支援協議会で取り扱われた再生計画策定完了件数の推移です。
平成24年度から急増していることがわかりますが、その支援内容のほとんどが暫定リスケです。暫定期間中に財務改善に取り組み、成功すれば本格的な再生計画に移行し、失敗すれば事業の継続可能性が認められないと見極める目的もあります。
しかし、経営改善計画策定支援も暫定リスケも、中小企業の経営改善支援策として十分なものとはいえません。
認定支援機関による支援事業はようやく利用件数が増えてきましたが、リスケを受けている企業の数から考えると利用率は低いといわざるを得ません。
また、再生支援協議会の再生計画策定完了件数は急増しましたが、その多くは暫定リスケによるものです。迅速かつ簡易に計画が策定されることから、必ずしも抜本的な収益回復策にはなっていないと思われます。
つまり、本格的な経営改善計画を策定し、実行できる中小企業が依然として少ないのが現状です。
「リスケ対応」の今後の見通し
以上のような状況を踏まえて、今後はどのように推移するのでしょうか。
金融機関のコンサルティング機能の発揮
金融機関は大手行を中心に、倒産に備えて貸倒引当金を十分に積み立てているとみられますが、リスケ支援を打ち切って倒産企業が増えれば、自行の経営にも悪影響を及ぼしかねません。
そのため、金融機関がコンサルティング機能を発揮して中小企業の経営改善支援にも関与するケースが増えており、今後もさらに力を入れていくと思われます。
金融庁も、中小企業への資金繰り面での支援継続を求めるのと同時に、経営改善・事業再生にも力を入れるよう求めています。
金融庁は現在の金融検査で、金融機関が融資先企業に対して適切な経営コンサルティングを行なっているか、そして財務状況や将来性等企業の経営内容をしっかりと把握し、融資等で前向きな支援を行なっているか、についても重視しています。
現実的には高度なコンサルティング能力は期待できないかもしれませんが、金融機関は積極的に経営改善計画の策定支援や計画の進捗状況をモニタリングしてきます。このため、中小企業も定期的に経営状況を報告して、お互いのコミュニケーションを深めるように努めましょう。信頼関係がいっそう深まれば、経営改善や資金繰りの面でプラスになることは間違いありません。
過去の高いリスケ実行率に油断しない
思うように経営改善が進まず、リスケを繰り返す中小企業は多く存在します。ただし、金融機関も経営改善が一向に進まない中小企業に対しては、いつまでもリスケ等の支援には応じてくれません。
今後、金融機関は、計画内容とその進捗状況から判断して、支援を継続する企業としない企業の選別を明確にしてくるはずで、支援を打ち切られる中小企業が増えることが予想されます。
またリスケの際も、最近は中小企業側の要求を簡単には受け入れないケースや、計画内容が不十分等の理由から安易な条件変更には応じないケースが散見されるようになってきました。
つまり、ほぼ無条件でリスケに応じてきたいままでが特殊な状況なのであって、円滑化法施行前の本来の状況に戻りつつあるといえるのです。
金融機関は徐々に対応の修正を図ってくるでしょうから、過去の高いリスケ実行率に油断してはなりません。
今年は、暫定リスケを利用している中小企業のなかには、経営が改善しているか否かを見極められる年となるケースもあるでしょう。暫定期間終了後は本格的な再生計画を策定・実行することが求められますので、今年が正念場という企業は多いはずです。
昨今の原材料費や労務費等の上昇によって経営改善がスムーズに進まない可能性もあり、低水準で安定傾向にあった倒産件数が増加に転じることも懸念されます。
中小企業が採るべき対応策
中小企業の再生は、実効性の高い再生計画を経営者が中心となって策定し、それを確実に実行できるか否かにかかっています。経営者が適切な判断を行なうための情報提供ができる体制づくりが重要となりますが、そのサポートを行なうのが経理部門です。
経理部門の具体的な役割として、次の2つが挙げられます。
月次試算表や資金繰り表を作成する
まずは、月次試算表をすぐに作成できる体制にしましょう。計画どおりに進捗しているか確認するため、前月の試算表を当月10日から遅くとも20日までには作成するようにします。税理士事務所等に依頼しているなら、早期に作成してもらうよう依頼します。
また、資金繰り表も重要です。経営者や営業担当者から販売の見込み等をヒアリングして、実績のみならず予定の資金繰り表を作成し、金融機関から求められたらすぐに提出できるようにしましょう。経理部門としては、タイムリーに資金繰りの状況を集計する能力が求められます。
部門別会計を導入する
毎月、月次試算表や資金繰り表を作成していても、実際には会計データを入力しているだけで、それを経営に生かしきれていない中小企業が非常に多いものです。会計データを集計するのであれば、それを経営にも生かせるようにしましょう。
中小企業の多くは、部門ごとに収支計画を立案し、計数管理に基づいた経営がなされていないのが実情です。そのため、経営改善に取り組むにしても、業況の悪化要因を把握することがなかなかできないのです。
経営を強化するためには、部門別の収支状況を把握したうえで実効性の高い経営改善計画を立案し、実績との比較・検討を行ないながら事業を遂行することが必要不可欠です。
主要な会計ソフトであれば部門別会計の機能が備わっているはずですから、多少手間はかかっても、部門別会計によって部門別の損益がわかるようにしましょう。
月刊「企業実務」 2015年5月号
瀬野正博(銀行融資コンサルタント)