「貸倒損失」のキホンがよくわかるQ&A
貸倒損失は、債権の回収ができなくなった際に、その損失金額を管理するための勘定科目です。
ここでは、実務上、貸倒損失として計上できるケース、できないケースについてみていきます。
貸倒損失の概要と実務上の取扱い
【Q】どんなときに貸倒損失として計上できるのか。
【A】法人がもつ金銭債権(売上債権、貸付金、未収金、立替金、前渡金など)について、たとえば取引先の業績悪化等で、法的に債権が消滅した場合や回収不能な債権がある場合、その金額を貸倒損失として計上します。
損益計算書における貸倒損失の処理方法としては、次の3つの方法があります。
- 営業上の取引に基づいて発生した債権に対するものについては、販売費として処理する
- 臨時かつ巨額のものについては、特別損失として処理する
- (1)(2)以外のものについては、営業外費用として処理する
【Q】税務上、貸倒損失に関する基本的な取扱いとは。
【A】貸倒損失の税務上の取扱いは、基本的に次のとおりとなります。
(1)法律の規定による貸倒れ
法人がもつ金銭債権について、図表1にある事実が発生した場合には、それぞれに掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入します。
(2)事実上回収不能の金銭債権の貸倒れ
法人がもつ金銭債権について、図表2にある事実により回収不能が明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができます。
(3)一定期間取引停止後、弁済がない場合等の貸倒れ
債務者について、図表3に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権について、法人が売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理することが認められます。
【Q】実務上、留意するポイントとは。
【A】貸倒損失について、実務上の処理についてポイントとなるのは、次のような点です。
(1)法律の規定による貸倒れに関する損金算入
法人がもつ金銭債権について会社更生法等の事実が発生し切り捨てられることが決定した場合には、その金銭債権はその時点で消滅したことになるので、その切り捨てられることとなった事業年度において、損金経理を要件とせずに強制的に損金算入されます。
(2)事実上回収不能の金銭債権の処理
債務者の資産状況、支払能力等からみて全額が回収不能であることが明らかになった事業年度において損金経理を行ない、損金算入することができます。
この回収不能が明らかになった事業年度において貸倒処理することは、会社法や企業会計上の考え方であり、これを利益操作に利用することは公正妥当な会計処理とは認められません。
(3)一定期間取引がない場合の貸倒処理
この場合の対象になる金銭債権は、営業活動により生じた売掛金や未収入金に限られます。
したがって、たまたま行なわれた固定資産の譲渡による未収入金、貸付金や未収利息などは対象になりません。
事例でみる貸倒損失の計上の可否
【Q】書面による債権放棄はどのように進めればよいか。
【A】たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
- 取引先A社に対して貸付金500万円を有している
- A社とはすでに取引を停止し、現在は貸付金だけが残っている
- A社は約3年ほど前から業績が悪化して債務超過の状態が続いているため、当社では、A社の業績回復の見込みがないと判断して、書面をもって債務免除を行なう予定
法人の有する金銭債権について、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合には、その債務者に対して書面により明らかにされた金額については、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒損失として損金の額に算入することができます。
この場合の「相当期間」とは、債務者の経営状態や資産状況をみて回収不能かどうかを判断するための合理的な期間をいいますから、形式的に3年間や5年間の債務超過の状態が続けばよいというわけではありません。
あくまでも回収不能である個別事情(たとえば、災害や主要取引先の倒産など)により、その期間は異なることになります。
A社については、債務超過の状態が3年間続いたことについて、客観的に回収不能と判断することができれば、債務免除して貸倒損失を計上することができます。
債務者に対する債務免除の事実は、書面により明らかにすることが必要になります。
この場合、必ずしも公正証書等の書面によることを要しませんが、内容証明郵便等により交付するのが妥当でしょう。
【Q】貸倒損失を翌期に計上できるか。
【A】たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
- 取引先のB社に対して売掛債権1,500万円を有している
- この売掛債権については、全額の回収ができないことが明らかになったので、担保として受け入れている上場有価証券の処分を行ない、残りを貸倒損失に計上する予定だった
- しかし、当社の業績が悪く今期は損失決算になりそうなので、貸倒損失は翌期に計上したい
法人の有する金銭債権について、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することにより、貸倒損失の計上が認められます。
したがって、損失決算になるからといって、利益操作に利用することは認められません。
【Q】貸倒損失を翌期に計上できるか。
【A】たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
- 取引先のB社に対して売掛債権1,500万円を有している
- この売掛債権については、全額の回収ができないことが明らかになったので、担保として受け入れている上場有価証券の処分を行ない、残りを貸倒損失に計上する予定だった
- しかし、当社の業績が悪く今期は損失決算になりそうなので、貸倒損失は翌期に計上したい
法人の有する金銭債権について、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することにより、貸倒損失の計上が認められます。
したがって、損失決算になるからといって、利益操作に利用することは認められません。
【Q】債務者が解散した場合、どのように処理するか。
【A】たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
- 取引先のC社に対して売掛債権700万円を有している
- C社が、株主総会の決議により解散することになった
- 売掛債権700万円について、貸倒損失として計上することができるか
債務者C社が、株主総会の決議により解散するという事実のみでは、貸倒損失として計上することはできません。
会社が解散すると、それまでの法律的・経済的関係を整理するために清算手続きを行ない、最終的に清算結了に至ります。
この清算手続きのなかで、残余財産の分配が行なわれることもありますし、株主総会の決議により解散する場合には、清算結了前であれば再び解散前の状態に戻して継続することもできます。
したがって、貸倒損失の計上にあたっては、解散という事実だけでなく、回収可能性の状況を勘案して判断することになります。
【Q】取引停止後も返済がない場合、貸倒損失にできるか。
【A】たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
- 人材派遣会社を経営している当社は、取引先D社の資金繰りの都合で、売掛債権の入金が遅延するようになった
- このため、1年以上前の平成25年1月に人材派遣の取引を停止した
- D社に対する売掛債権300万円について、弁済期日である平成25年3月において入金がなかったので、その後の交渉で毎月10万円ずつの支払いに合意してもらい、平成25年7月から12月までの半年間入金してもらった。
しかし、今年になってから入金がない - 6月決算である当社は、平成26年6月期においてD社との取引停止から1年以上経過しているので、売掛債権の残高である240万円を貸倒損失として計上することができるか
継続的な取引を行なっていた取引先に対して、取引を停止したあと1年以上経過した場合には、備忘価額を残して貸倒損失として計上することができます。
ただし、この取引を停止した時というのは、次のうちの最も遅い時になりますので、平成26年6月期の決算時には貸倒損失として計上できません(図表4)。
- 取引を停止した時
- 最後の弁済期
- 最後の弁済の時
【Q】担保物がある場合の貸倒損失はどうなるか。
【A】たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
- 取引先E社に対して1,500万円の貸付金を有しており、E社所有の土地を抵当権第5順位で設定している
- E社は取引先の倒産により債務超過の状態が3年以上続き、仮に土地を処分したとしても回収の見込みがない
- この場合でも担保物を処分したあとでなければ貸倒損失として計上することはできないのか
原則として貸倒損失の計上は、担保物がある場合は、劣後抵当権であっても、その担保物を処分したあとでなければ行なうことができません。
ただし、担保物の適正な評価額からみて、その劣後抵当権が名目的なものであり、実質的にまったく担保されていないことが明らかである場合には、担保物の処分前であっても貸倒損失の計上をすることが可能になります。
月刊「企業実務」 2014年8月号
岡本博美(税理士)