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スムーズな職場復帰のための「リワーク施設」活用ガイド

メンタル不調者をサポート
 

中小企業でもメンタル不調者(休職者)が増えているのに伴い、「リワーク施設」に対する注目度が高まっています。

中小企業の総務・人事部門に勤務する担当者向けに、リワーク施設の概要と活用法を解説します。

本稿で取り上げるリワークとはreturn to workの略で、メンタルヘルス上の不調を理由として休業した労働者に対し、一定のプログラムを提供して職場復帰への援助を行なうことをいいます。

リワークは、厚生労働省が公表する「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」にも事業場外資源として記載されています。

リワーク施設にはいくつかの形態がある

リワークを行なう機関には図表1のようなものがあります。

最も多い機関は医療機関です。メンタルクリニックや精神科病院等で治療の一環として行なわれる医学的リハビリテーションで、健康保険を利用して1日当り3~10時間ほどのプログラムが提供されています。

障害者職業センターは、各都道府県に1か所(東京は2か所)あります。もともと身体障害者や知的障害者を中心とした職業リハビリテーションを実施していましたが、メンタルヘルス不調による休職者の増加に伴いリワーク事業をスタートしました。企業と連携を図る点に特徴があります。

また、数はあまり多くないですが、民間企業やNPOでリワークプログラムを提供している組織もあります。

どんなプログラムが提供されているのか

リワークプログラムの内容ですが、施設数が最も多い医療機関を例に見ていきましょう。

医療機関で実施しているリワークプログラムは、産業医の経験が豊富な精神科医をはじめ、看護師や臨床心理士、精神保健福祉士など多職種のスタッフがチームを組み、総合的な視点から病気の回復と同時に職場復帰や再発、再休職予防の支援を行ないます。

多くの施設では、参加日数や時間、プログラムの内容を高度にして、負荷を少しずつ増やし病状の安定性を確認します。

各医療機関で実施しているプログラムを実施形態により大きく分けていくと、次の5つのカテゴリーに分かれます。

第1はオフィスワークと呼ばれるプログラムが該当します。レポート作成やパソコン作業など文字や数字、文章を扱う机上における作業を実施するなかで、主に集中力・作業能力・実践力の確認や向上を目的としています。

第2は、認知行動療法など心理学的な手法を用いた治療プログラムです。うつ病の人によく見られる考え方の偏りを修正するための方法を学びます。

第3は、症状を自己管理するために、自身の病気のことを理解するための教育プログラムです。

第4は、職場という集団の場に戻ることを想定し、グループにおける協働作業や役割分担、対人スキル向上を目的としたプログラムです。

最後の第5は、体力向上を目指した軽スポーツや個人面談、その他、これまでの4つのプログラムに該当しないプログラムを区分します。

中小企業が適切な機関等を選ぶときのポイント

大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず、一昔前に比べ、うつ病などメンタルヘルス上の不調のため休職する人は増えています。

では、中小企業がリワーク施設の活用を検討する場合、どのような機関を選べばよいでしょうか。

まず、活用する際の大前提として、「自社はどのような目的で利用するのか」という点を明確にする必要があります。すなわち、

  1. 休職中の社員の治療を目的とするならば医療機関
  2. 病状が回復してきて復職も近くなり、職場復帰に向けた準備をしたいなら障害者職業センター
  3. 主治医から復職可能の診断書が発行された、職場復帰を希望する社員の復職可能性の評価を目的とするなら民間企業といった違いがあります。

医療機関のリワークプログラムを利用する場合は、所在地のほか、プログラムの内容、種類(家族向け、復職者向けフォローアッププログラムも含む)、実施曜日や時間を事前に調べることも大切なポイントになります。

候補医療機関のホームページやうつ病リワーク研究会のホームページのほか、直接電話で問い合わせて確認することが可能です。

なお、民間企業のリワークは治療を目的としていません。会社に代わって職場復帰させてよい病状の回復度であるかを評価することと、休職者にとっては復職直前の“慣らし”としてスムーズに業務に戻れる状態にあるかを見極めることを目的としているためです。

とはいえ、うつ病などの精神疾患は体調の急変など状態の変化が多いため、民間企業を選ぶ場合は医療機関と緊密な連携がある組織を選ぶ必要があります。

中小企業においては産業医を選任していないケースもありますが、可能であれば会社のメンタルヘルスに精通した精神科医との顧問契約や産業医契約を結ぶとよいでしょう。
復職判定面談やその後のフォローなど、専門的なアドバイスを受けることができます。

費用や利用期間等はどうなっているか

医療機関の場合

医療機関の費用はプログラムの実施時間によって異なりますが、健康保険、自立支援医療制度(精神医療を続ける必要がある病状の人に、通院のための医療費の自己負担を軽減する制度)が利用できます。費用の目安は図表2を参考にしてください。

自立支援医療制度を利用する場合、月の支払い上限額が所得に応じて異なります。詳しくは区市町村の障害福祉課や保健福祉課等の窓口へ問い合わせてください。
利用期間は施設ごとに違いがありますが、3か月~7か月程度のプログラムを基本的な期間と定めているところが多いです。

障害者職業センターの場合

障害者職業センターは公的サービスのため無料ですが、公務員は利用できません。標準的な支援期間は3か月となっています。

ただし、無料ということで利用希望者が多く、数か月間待機しなければならない場合もあります。

リワーク支援についての説明、見学、希望者には個別相談をする説明会を定期的に行なっています。
休職者本人とその家族、事業所担当者、産業保健スタッフ等、誰でも参加可能です。

詳しくは障害者職業センターへ問い合わせてください。

民間企業の場合

民間のリワーク施設は種類・内容が多岐にわたるため、費用はまちまちですが、企業との契約によりサービスが提供されるので、社員側にとっては無料となります。

利用期間は施設ごとに違いがありますが、目安は1か月~6か月になります。

会社は休職者や施設とどう連携を図ればよいか

ここからはうつ病で休職した社員が医療機関のリワークプログラムに参加し、復職したケースを例示のうえ、会社側が押さえたいポイントを時系列で確認します。

【休職前の社員の状況】

業務量が非常に多いにもかかわらず人員がなかなか増えない部署に所属している。

あるとき部内で大きなトラブルが発生し、それをカバーするため業務量が急激に増加。
連日残業が深夜の時間帯にまで及び、自分の業務をこなすことができなくなっていったが、同僚も自分と同じように残業しているためSOSを出すことができなかった。

そこへ、もともと折り合いの悪かった上司より強く叱責を受ける。会社に出社することが辛くなり遅刻が増えたが、ある日とうとう朝起き上がることができなくなった。
メンタルクリニックを受診したところうつ病と診断され、要休職の診断書が発行された。

会社側が押さえておきたいポイント

  • 管理監督者は安全配慮義務に基づき、部下の体調管理をしなければならない
  • 体調不良者が判明したときは管理監督者1人で抱え込まず、人事労務担当者や産業保健スタッフに報告し、今後の対応を相談する
  • 休職になったときは休職時に必要なこと(給与、社会保険料、休職日数、休職期間中の連絡先、復職手順など)を書面などで連絡する

【リワークプログラム参加前】

メンタルクリニックに週1回通院し、服薬しながら家で静養。休職してから2週間ほどで日中少し活動することができるようになったため、家の周りを散歩するようになった。

休職して1か月ほど経過した頃、主治医より生活リズムを整えるため午前中に図書館へ行くようにと指導を受け、図書館で読書ができるようになった。
午後は軽い運動をするようにとも指示があったので、無理をしない程度に運動も実行した。

図書館通いを始めて3週間ほど経過したとき、主治医より職場復帰に向けてリワークプログラムに参加するよう話があった。

会社側が押さえておきたいポイント

  • 休職期間中は1か月に1度程度、休職者の負担にならない程度に診断書を提出してもらうタイミングで面談するなど状況確認をする。その際は上司もしくは人事労務担当者など窓口を一本化し、面談のつど対応が変わることのないように注意する
  • リワークプログラムへの参加は、「日常生活や睡眠のリズムが整い、朝からリワーク施設に通って一定のプログラムに参加してから帰宅することを毎日繰り返しても体調を崩さない程度に状態が回復したところ」で主治医から許可される

【リワークプログラム参加中】

リワーク施設を事前に見学のうえ、週2日リワークに参加することにした。最初は帰宅後ぐったりと疲れたが、電車に乗って施設に通うことにも慣れてきた。

自分と同様にうつ病で休職した人と会うのは初めてだったが、同じ境遇のせいか自然と打ち解け、よく話をするようになった。

リワークに参加している途中も時々体調を崩すことがあったが、スタッフにいろいろと相談に乗ってもらえたため、何とか通い続けることができた。

そのうち、リワークの参加日数が週3日、4日、5日と増えるようになった。

同時に様々なプログラムを通して自分の体調を管理するポイントや病気に対する理解、周囲とのコミュニケーションのとり方、うつ病にありがちな考えの偏りを修正する方法など、再発予防に関することを学び、復職の準備を進めた。

会社側が押さえておきたいポイント

休職期間中、リワークプログラムの参加状況や回復状況を確認したい場合は本人の同意を得たうえで主治医から聞くことができる(具体的な方法は各医療機関によって異なる)

【職場復帰時】

週5日のリワークの参加が数週間経過した頃、主治医よりかなり回復してきたので会社に連絡して復職の準備をするよう話があった。
そこで会社に連絡し、復職に向けた手続きを確認した。

その後、主治医から復職可能の診断書を発行してもらい、会社で精神科の産業医と復職判定の面談を行なった。
リワークプログラムに参加していたときの状況など現在の体調について話をした。
復職できるかどうかの結果と復職後の配属先については、来週連絡があるとのことだった。

会社側が押さえておきたいポイント

  • リワークプログラムを行なっている医療機関では、休職した社員のプログラムの参加状況等に関する報告用資料を用意しているところが多い
  • 「この社員は退職するだろう」と予測していたところ、休職期間満了ぎりぎりで復職の意思を示され、慌てる企業も多い。休職期間満了ぎりぎりまで放置することのないように、定期的に休職者の状況確認をするなかで、会社として各場面を想定した準備をしておくとよい

【職場復帰後】

職場復帰が決定し、もともと所属していた部署とは違う部署に配属されることになった。
初めての仕事も多く、なかなか慣れないため休憩時間や仕事が終わるとどっと疲れる。
まだ本調子ではないため、無理をせず仕事を抱え込まないよう上司へ報告・相談をなるべくするようにしている。

しばらくは服薬が必要なため医療機関には定期的に通院しているが、リワーク施設については土曜日、復職後のストレスが多くなる時期をサポートするフォローアッププログラムに参加している。

施設で、復職したばかりのリワークプログラムの元参加者やスタッフと話をすることが、ストレスをためこまないようにすることに役立っている。

会社側が押さえておきたいポイント

  • 復職直後は疲れやすい。何度も食事に誘うなどの過干渉は本人にとってさらに疲れる元となる場合がある
  • 歓迎会等の飲み会については、服薬中(数か月〜年単位)はアルコールの摂取が禁止のため、企画しないほうが本人のためになる

うつ病は再発しやすい病気なので、休職した社員がスムーズに復職するためにもリワークプログラムを活用することは重要です。
まずは地域のリワーク施設について情報収集を始めてみてはいかがでしょうか。

月刊「企業実務」 2013年7月号
林俊秀(うつ病リワーク研究会事務局長/メディカルケア虎ノ門事務次長)/五十嵐良雄(うつ病リワーク研究会代表世話人/メディカルケア虎ノ門院長)

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