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BCP策定に着手するときに考えておくべきポイント

「つくっておわり」にさせない実効性のあるBCP対策を!
 

大地震に台風水害、新型感染症のまん延……。
災害が多発し、その規模や激しさが増している今日、多くの企業がBCPの必要性を感じていることでしょう。

以下では実効性あるBCPを策定するための事前の知識として、「どこから手をつけ」「何を検討すればよいのか」について要点を解説します。

BCPの意義とメリット

BCPとは何か?

 BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)は、火災や自然災害など、円滑な事業活動を損なう事態から従業員やお客様を守り、たとえ被災してもすばやく復旧するための方法や対策を取り決めた計画のことです。

よく「当社には防災計画があるからBCPはいらない」という声を聞きますが、防災計画では事業停止後のことまでは考慮されません。
仮にあなたの会社の復旧に3か月かかるとして、その間ずっと休業していられるでしょうか。

事業停止したままでは、顧客や取引先との関係が途絶えてしまいます。
そうなると、資金繰りの悪化や従業員の解雇といった新たな問題も発生します。

BCPは防災だけでなく、このような事業停止以降のリスクを回避するための計画でもあるのです。

BCP策定のメリット

BCPを策定するメリットは主にふたつあります。

ひとつは経営上のメリットです。
BCPがあれば、顧客や取引先から「防災力の高い企業」という評価を得られます。
現にサプライチェーンや金融機関などでは、参入や取引の条件として相手がBCPを策定しているか否かを考慮することが多くなっています。

もうひとつは災害時のメリット。
あらかじめ決められた手順に従って迅速に対応すれば、早期復旧も期待できるため、顧客や取引先に対する影響も最小限にとどめることができます。
信頼とブランドの維持といってもよいでしょう。

危機に対処するための体制づくり

「だれかが動いてくれる」では解決しない

災害時は、避難誘導係や炊き出し班といった現場レベルの役割ももちろん大切です。

しかしながら、非常時に意思決定と指揮命令を行う上層部の機能や役割が決まっていないと、現場が混乱します。
その結果、必要な活動が停滞し、無用な労力やコストが発生してしまいます。

そこでBCPでは、経営者から中間管理層までのメンバーで構成される、いわゆる「危機対策本部」の役割と責任を明確にします。

どんな災害にも対処できる実践的な組織を

BCPで想定するリスクは多種多様です。
対策本部の役割を決める際にも、たとえば次のように、災害の種類を問わずフレキシブルに対処できる機能をもたせることが大切です。

  • 統制管理と意思決定:いわゆる対策本部長の役目です
  • 情報収集・計画立案:安否や被害情報の収集、対応計画の立案、広報など
  • 現場対応:初動(避難誘導や安否確認等)、優先業務や復旧活動の現場指揮
  • 調達・手配:人員の補充や物資の手配を行う
  • 総務・経理:経費・労務管理や資金調達など

BCP策定にあたって考えるべきこと

BCPの目的を明らかにする

BCPに着手する前に、まず「BCPを通じて何をやり遂げるのか?」を自問自答してみましょう。

「従業員やお客様の命を守る」、「自社の主力商品やサービスを提供しつづける」、「従業員の雇用を守る」など、事業者としての責務や使命はもっとも基本的なものです。

自主的な意志で、あるいは行政と連携して地域の災害活動に貢献することも、もうひとつの目的になるでしょう。

BCPを組み立てるための4つの視点

BCPの目的が決まったら、次の4つのステップでBCPを具体化します。

  1. 会社として警戒すべきリスクを理解する
    自然災害の危険を確認できるハザードマップや新型感染症に関する各省庁・自治体の最新情報は、すべてインターネットから入手できます※。
  2. そのリスクを予防・回避する対策を検討する
    私たちにできることは限られています。基本的で実行可能な対策を考えることが大切です。
  3. 災害が発生したときの対処手順を検討する
    リスクはいつ何時、災害として顕在化するかわかりません。
    万一の場合にどう対処すればよいのか、前もって手順を組み立てます。
  4. BCPの目的を達成する方法を検討する
    会社が被災したとき、どんな方法でその影響を最小化し、BCPの目的(事業者としての責務・使命)を成し遂げるのか、アイデアを持ち寄って方法を考えます。

※参考
ハザードマップポータルサイト(国土交通省)
感染症情報(厚生労働省)

BCP文書は3つのブロックに分けて作成する

前掲の4つの検討結果がBCP文書の原案となりますから、あとは文書としての形を整えるだけです。

文書構成については次の3つを参考にしてみてください。

  1. BCP本編
    ここにはBCP全体をカバーする上位の方針や目的のほか、対策本部メンバーの参集リストと運営概要、主力製品・サービスを提供するための必要条件、復旧に必要な資源などを規定します。
  2. 緊急対応プラン
    初動対応手順のことで、避難の手順や安否確認、被害状況の確認、帰宅困難者対応などの方法を規定します。
    地震や水害といった災害の種類に応じた緊急対応手順や対策についても、このなかに含めます。
  3. 補助ツール
    「BCP本編」や「緊急対応プラン」を実行に移す際の業務を効率化し、社内で共有するためのシート類を用意します。
    具体的には緊急連絡網や安否確認シート、被害状況確認シート、復旧スケジュール表などを指します。

BCPを定着させるためのポイント

なぜBCPが絵に描いた餅で終わるのか

BCP文書の完成がゴールになって、その後のフォローができていない企業が少なくありません。

その結果、人事異動にともなう対策本部要員の交代がBCP文書に反映されないといった不都合が起こります。
また、災害に対する社員の意識づけや行動力がともなっていなければ、いざというとき迅速に動けません。

BCPさえ完成すればリスクは封じ込めるのだと勘違いしている企業があまりに多いのが現状です。

はじめてBCPに着手する企業はこうした間違いをしないように注意してください。

BCPを継続的に活用していくために

では、BCP文書が完成したら、どのような形で定着させればよいのでしょうか。

BCP定着のポイントは以下の3つです。

  1. 訓練
    従来の防災訓練以外に、安否確認訓練や机上演習なども加えてみましょう。
  2. アップデート
    BCP文書は放置しておくと内容が古くなりますから、人事部門の協力を得て定期的に更新しましょう。
    主力商品やサービスといった経営方針の変更にも留意します。
  3. リスクの見直し
    年に一度は対策本部メンバーが集まって、既存のリスクの見直しや新たなリスクの有無を検討する機会を設けてください。

BCPを作ろうかどうしようか思案しているあいだにも、危機はすぐそこまで来ているかもしれません。
「あのときBCPを作っておけば……」とならないように、明日からでも最初の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

昆 正和 氏

BCP/BCM策定運用アドバイザー、一般社団法人日本リスクコミュニケーション協会理事。主に中小企業向けBCP策定支援、研修セミナー・講演活動に従事。主な著書に『今のままでは命と会社を守れない! あなたが作る等身大のBCP』(日刊工業新聞社)、『コンサルティング営業につながる事業継続計画(BCP)策定支援講座(通信教育講座テキスト)』(銀行研修社)など。寄稿・コラム連載多数。

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