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勘定合って銭足らず…黒字倒産はなぜ起こるのか?

黒字なのに資金が足りないという事態を検討する
 

「黒字倒産」という言葉があります。

黒字なのに倒産するの?と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際に起こっていることです。
東京商工リサーチによる調査でも2020年に倒産した企業340社のうち170社が営業黒字企業とのことでした。

2020年「倒産企業の財務データ分析」調査

倒産企業の50.0%が黒字倒産であり、実は珍しいことではないことがわかります。

では黒字なのに倒産するというのは、どういうことなのでしょうか。
その理由の一端を検討してみます。

そもそも「倒産」とはどういう意味なのか

厳密な意味で「倒産」という言葉に法律上の定義はないようです。
ただ、一般的には「弁済すべき債務を弁済できなくなったとき」といわれます。

簡単にいうなら、買掛金を支払えなくなった、従業員給料を支払えなくなったときです。
つまり資金繰りに行き詰ったときに倒産に向かいます。
言い換えるなら「支払うべき費用を支払えなくなったとき」に倒産すると考えられるでしょう。

たとえば厚生労働省でも次のような説明が掲載されています。

質問.「企業が倒産したこと」とはどういうことですか。
回答.大きく分けて法律上の倒産の場合と事実上の倒産の場合の2つがあります。
法律上の倒産の場合には、破産・特別清算・民事再生・会社更生があります。事実上の倒産の場合は、中小企業について、事業活動が停止し、再開する見込みがなく、賃金支払能力がないとして労働基準監督署長が認定を行った場合を指します。

未払賃金の立替払制度に関するQ&A

これは未払賃金に関するQ&Aからの引用ですが、賃金に関してまさに「支払能力がない」と認められたときに倒産と考えられることがうかがわれます。

決算書上は赤字でも倒産しない?

支払能力の有無が問題なのであって、決算書上赤字だからといって倒産するというわけではありません。

損益計算書で考えてみましょう。
損益計算書は一定期間(通常1年間)の経営成績を表した書類であって、その時点で支払える資金がいくらあるかを示すものではありません。

その事業年度で当期純利益が赤字であったとしても、それまでの貯えとして資金に余裕があるのであれば、倒産ということにはならないのです。

たとえば個人でも家計簿を見ながら「今月は赤字だ」と嘆いたとして、それで即、破産ということにならないことは想像に難くないでしょう。

このとき家計簿から1か月の収支を計算して判断しているので、家賃や水道光熱費を支払えるだけの預貯金があれば当面、生活できるということはじゅうぶん考えられることです。

いささか乱暴な例えかもしれませんが、単純に「黒字だ」「赤字だ」ということだけで倒産を判断することはできないということは、おわかりいただけるのではないでしょうか。

もっとも赤字が続けば、金融機関も借入れを断るでしょうし、資金繰りも厳しくなるので倒産につながるとはいえます。

黒字でも倒産するというのは?

では「支払うべきものが支払えない」という前提に立ち戻って考えてみます。
黒字倒産という、黒字でも「支払うべきものが支払えない」事態とはどういうことでしょうか。

商取引において現金のやりとりしかしないということはほぼないでしょう。
どこの企業も掛け取引が一般的です。

それを踏まえたうえで、話を単純化して考えてみましょう。
売上が大きくてもその代金(売掛金)を回収できず、仕入等の費用の支払だけが先立つようでは、資金繰りにめどが立たなくなります。

売上1,000万円、仕入等諸経費600万円であれば、「1,000万円-600万円=400万円」で計算の上では黒字ですが、いつまでも1,000万円の売掛金を回収できず、その前に600万円の支払いが先立つ場合がそれに当たります。

この取引があったとして、このような仕訳をしたと仮定します。

借方貸方
売掛金 1,000万円売上 1,000万円
仕入 600万円当座預金 600万円

この仕訳だとたしかに売上は1,000万円なのですが、借方の売掛金はどうなるでしょう。
たとえば次のような仕訳が発生しないと、いつまでたっても現金化されません。

借方貸方
当座預金 1,000万円売掛金 1,000万円

売上の計上と実際の入出金の状況を比較すると、こうなります。

売上1,000万円
仕入600万円
利益400万円
入金0
出金600万円
手許現金△600万円

このように一見、利益が出ているとしても、キャッシュとして回収しているかどうかまではわかりません。
そのため、決算書上は黒字だが実態として資金不足であるということがありうるのです。

黒字倒産は「勘定合って銭足らず」

この状況を指して「勘定合って銭足らず」といわれます。
つまり決算書上は適切に計算して利益が出ている、つまり黒字であるにもかかわらず、手元に資金がないという事態です。

売掛金を莫大に抱えていたとしても、それを現金化できなければ支払いにあてられないわけですから、回収・入金も注視していなければいけないといえるでしょう。

ところで2008年のリーマンショックから立ち直りつつあった時期に、しばしば黒字倒産が話題に上ったのをご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。

景気回復期に受注が増えても、その代金を回収するまでのタイムラグに資金繰りの面で耐えられず、また長引く不景気で銀行借入もままならなかったために、ここぞというときに倒産せざるを得なかったというわけです。

まとめ

このように見てみると、普段使われるような意味での黒字や赤字が倒産の直接の原因ではないのがわかります。
決算書上は赤字でも余裕資金があれば、各種支払いや運転資金に使えるので倒産しません。

他方、決算書上は黒字であっても手元資金がなければ、事業は止まってしまいます。
給料が払えなければ従業員は離れていきますし、仕入もままなりません。

倒産するのは、単純に収入よりも出費が大きいため資金繰りが悪化し、結果的に資金ショートを起こすからです。

「資金は会社の血液である」といわれます。

資金ショートの原因はいろいろと考えられるところですが、いずれにせよ、血液である資金がなくなれば体である会社は倒れてしまいます。
つまり倒産してしまうということです。

コロナ禍にあって、特に飲食店において、「現預金を持っている会社が強い」と言われることがありましたが、財務の重要性があらためて見直されているのかもしれません。


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