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病気による休職… 職場復帰の可否はどのように判断する?

 
  • 職種・職務内容を特定した雇用契約の場合には、原則として元の職務に復帰できないかぎり、復職させる必要はありません。
  • 職種・職務内容を特定しない雇用契約の場合であって、軽減された業務への配置転換が可能な場合には、軽減された業務に復職させなければなりません。
  • 治療経過と疾患のコントロールの状況をもとにした総合的な判断が必要です。

復職の基本ルール

傷病休職の場合、休職期間中に疾患が治癒すれば復職し、休職期間が満了しても疾患が治癒しなければ、就業規則の規定に従って退職または解雇することになります。

そのため、どのような場合にメンタルヘルス疾患が「治癒」したと判断できるかが問題となります。

「治癒」したか否かは、雇用契約に定める労務提供義務を果たすことができるか否かによって決まります。

判例によると、雇用契約が職種・職務内容を特定したものであるか否かによって、その基準が異なります。

職種・職務内容を特定した雇用契約の場合

職種・職務内容を特定した雇用契約の場合には、原則として、従前の職務に復帰できなければ、雇用契約に定める労務提供義務を果たせる状態になったとはいえません。

そこで、この場合には原則として、「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したこと」が「治癒」の判断基準となります。

昭和電工事件(千葉地判昭60.5.31)

職種限定の雇用契約で働いていた社員が、交通事故で脳挫傷の障害を負い、就労不能となった。休職期間満了時に、主治医は、「軽作業であれば就労可能」と判断、社員は労働組合を通じて復職の意思表示をした。

会社は「就労できる状態にない」として復職を拒み、休職期間を1年半延長し、復職条件を労働組合と合意し決定した。休職期間満了時に、会社は復職条件を満たしていないとして拒否、社員を解雇した。

【裁判所の判断】

*前提問題として、休職期間満了による退職は解雇ではなく、雇用契約の自動終了事由とみるべきである。

*また軽減作業に復職させるべきかどうかについては、職種限定の雇用の場合、原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復帰しなければ復職させなくてよい。

ただし、職種・職務内容を特定した雇用契約であっても、就業規則に「他の職種への変更」も予定されている場合、当該他の職種での就労が可能であることが、「治癒」の判断基準となる場合もあります。

たとえば、長距離トラック運転手として、職種・職務内容を特定して採用された社員が傷病によって休業し、その後、短距離運転業務であれば復帰可能となった場合には、復職を認めるべきだと判断した判例があります。

カントラ事件(大阪高判平14.6.19)

一般区域貨物運送業の会社に、職種を運転手と特定して雇用されていた社員が、慢性腎不全に罹患し、会社は休職扱いとした。1年半ほど経過して、社員は主治医から「職場に復帰してよい」と告げられ、復職を希望して主治医の診断書を会社に提出。診断書には「疲労の残らない仕事量から開始し、検査を行いながら、どの程度の仕事量までなら腎機能をこれ以上悪化させないかを検討する必要がある」と記載されていた。一方、産業医は、「運転業務への就業は不可」と診断し、会社は復職を拒否した。

会社の求めに応じて産業医の診察を再度受けせたところ、「軽作業(デスクワーク)の就労なら可能」との診断だった。

しかし会社は復職に応じず、社員は復職を求めて訴えた。

【裁判所の判断】

*職種を特定して雇用された社員が従前の業務を遂行できなくなっても、ほかに担当できる業務が存在し、会社にとっても問題がないときは、当該社員の債務不履行とはいえず、会社が就労を拒否すれば、賃金支払義務を負う。

*産業医の一度目の診断を重視して一審原告の復職を認めなかったのは正当。

*産業医の二度目の診断によれば、時間を限定した近距離運転を中心とする運転業務であれば、復帰可能な健康状態にあった。したがって、その時点では会社は職場復帰を認めなければならなかった。

職種・職務内容を特定しない雇用契約の場合

一方、職種・職務内容を特定しない雇用契約の場合には、従前の職務に復帰できない状態でも、「治癒」と判断される場合がありますから、注意が必要です。

たとえば、「片山組事件」(東京高判平7.3.16)では、「労働者の能力、経験、地位、企業の規模、企業における労働者の配置、異動の実情および難易などを総合考慮して、その労働者が配置される可能性のある他の業務が存在し、その労働者がこれを遂行することが可能で、かつ、労働者が当該他の業務に就くことを申し出ている場合には、その労働者は雇用契約に定める労務提供義務を果たしている」としています。

この場合、会社側は復職を拒否できないのです。

つまり、会社としては可能なかぎり、社内でその社員がこなすことのできるポジションを探す必要があるということです。

この義務を果たさずに復職を拒否することは許されません。

治療経過や症状のコントロール状況

復職可否の判断で最も重要な要素は「疾患の安定性」です。まず、疾患にともなうさまざまな症状が、ある程度安定していることが必要です。
もともとの症状の程度にもよりますが、たとえば、睡眠障害を主症状とした場合は、日常生活で安定した睡眠が得られているかが判断材料の1つとなります。

復職が可能との判断を主治医から得る際には、以下の点について明記してもらいます。

  • 受診時の状況や症状
  • 治療経過
  • 今後の見通し(症状と治療計画)

なお、主治医に連絡をとったり、情報提供を願う場合は、はじめに対象者本人の同意を得る必要があります。

これらの情報は、復職の準備をする際にも必要です。

たとえば、受診時の状況や症状からは、万が一、復職後に同様の状態に陥ったときは、かなり注意を要するというサインになります。

治療経過は、どのような事象が疾患の改善に関与したかを知ることで、業務に役立てることができるかもしれません。

今後の見通しについては、もし「減薬する」もしくは「内服薬の変更」が予定されていたならば、復職時期を少し延長させたほうがよい可能性もあります。

というのも、減薬等により調子を崩す可能性もあるからです。

このように、治療に関することは専門的でわからないことも多いのですが、業務に関与することも少なくありません。必要最小限の情報は確認する必要があります。

復職準備期

復職の準備が進み、実際に復職日や復職後の所属部署・担当業務などが具体性をおびてくると、かなり心の準備をしていても、調子が悪くなることが多くみられます。

どんなに健康で元気な人でも長期休暇(ゴールデンウィークや年末年始休暇)の終わり頃になると、「また、仕事か……」と気分が沈みがちになるのと同じようなことです。

ここで復職可能判断を撤回されるケースは少なく、多くはその状態を乗り越えての復職となります。
そもそも、そのような状態を乗り越えられそうにない場合は、復職の話が進む前に調子を崩すことが多いからです。

復職までの生活アドバイス

復職の準備段階では、睡眠や日中の過ごし方をチェックしてもらうといいでしょう。

まず、睡眠は、毎日ほぼ一定の睡眠時間を睡眠障害なくして安定して取れているかチェックする必要があります。
その際、睡眠に関する内服薬などがあっても、睡眠リズムがコントロールできていればよいという判断となります。また、昼寝が習慣化しているような場合は、復職は難しいと考えます。

次に日中の過ごし方は、はじめに最低限の日常生活(食事、入浴などの家事など、生きていく上で仕事よりも先に行われていなければならない日常生活)が営めているかを確認します。

次に、日中の活動性が、復職するに足る程度に高まっているかどうかの確認をします。

このときには、復職後の業務内容が、体を使う業務内容なのか、デスクワークなのか、人とのコミュニケーションがたくさん必要なのかなども踏まえて、それに足る活動性なのかを確認します。
最後にそれが、復職後の勤務時間に照らし合わせてみて、活動を継続することができるかどうか、確認します。

いずれも主治医や医療スタッフとの確認や連携が必要なことは言うまでもありません。

企業実務サポートクラブ
前田 陽司(弁護士)
田中 享子(弁護士)
河下 太志(産業医)

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