「領収書をなくした」と言われたときの証拠書類はこう残す
目次
領収書はなぜ必要なのか?
領収書は、買い手と売り手が「買った(料金を支払った)」「売った(料金を受け取った)」ということを互いに確認するために売り手側が発行する書類です。
取引に関係のない第三者(主に税理士や税務署など)からすると「取引があった」ことを証明(確認)する書類でもあります(当事者においては、二重支払い・二重請求を防止する役割もあります)。
経理的には、領収書などの「取引があったことを証明する書類」を「原始証憑(げんししょうひょう)」といい、これらに基づいて最終的に「決算書」や「税務申告書」などが作成されることになります(図表1)。
今日の金融取引や税務行政の場では、決算書や税務申告書が重要な役割を果たしており、領収書などの原始証憑がないと、「取引自体があった」ことを証明できず、「決算書」や「税務申告書」の信用性が疑われてしまいます。
税務面から見た領収書
経理の現場では、「領収書がないと経費と認められない」という誤解が多いようですが、「取引自体があった」ということを証明できれば、税務上は「領収書でなければならない」ということではありません。
詳しくは後述しますが、領収書に代わる「取引があった」ことを証明する書類があれば、経費としては認められます。
また、領収書は経費の根拠としてだけでなく、消費税計算における仕入税額控除の根拠となる書類でもあります。法人税だけでなく、消費税の観点からも重要な書類なのです。
極端な言い方をすれば、領収書によって経費や仕入税額控除が変わるとすれば、領収書は金券であるともいえます。お金の管理と同じように、領収書もしっかりと管理することが重要です。
領収書の記載事項
領収書のフォーマットは、法律での取り決めは特にありませんが、次のとおり、これだけは最低限記載をしなければならないという事項があります(図表2)。
(1)日付
領収書は、金銭の授受があったことを証明する役割がありますので、トラブルを避けるためには、支払った日付で発行してもらうことが基本です。月日だけではなく「平成○○年」や「20XX年」と正しく記載しましょう。
売掛金の回収などで仮の領収書を発行し、経理処理を行なった後に正式な領収書を発行する場合も、実際に金銭の授受があった日付にしておくほうが安全です。
(2)宛名
本来は宛名が必須ですが、商習慣などから宛名を記載しない場合もあるため、例外として宛名がなくても認められます。また、領収書の発行側が「宛名」や「但書」などを書き忘れたり、書き間違えたりしても、内容が推定できれば認められます。
ただし、税務調査の際のリスクを考えれば、金額の大きな領収書は、なるべく上記の体裁を整えておいたほうがよいでしょう。会社名はマエカブかアトカブなどに注意し、正式名称を記載します。(株)と略した表記も避けましょう。
(3)金額
金額の改ざんを防ぐため、金額の前に「¥」「金」、金額の後に「ー」「也」「※」を書きます。さらに、3桁ごとに「,(カンマ)」を入れておけば、桁数を増やすなどの不正も防げます。
(4)但書(支出内容)
但書が「お品代として」などのように記載されていると、肝心の支出内容がわからず、会計の基本である勘定科目がわからなくなってしまいます。
経理処理をスムーズに行なうため、領収書を受け取った人間が、「具体的な物品名(購入商品名)」や「使用目的」、飲食代などであれば「参加者」「人数」などを残しておくよう、社内ルールを整備するとよいでしょう。
(5)会社名と所在地
領収書を発行する側の会社名も正式名称を記載します。必要に応じて、社判や認め印を押します。
(6)収入印紙と割印
5万円以上の領収書には収入印紙が必要です(印紙税法)。ただし、額面金額のうち、消費税額を明確に区分して記載されており、かつ税抜の金額が5万円未満の場合は不要です。
この印紙の貼付義務は、領収書の発行者側にありますので、印紙の貼付・割印がなくても、領収書としては認められます(ペナルティは発行者側が負います)。
レシートでも通用するの?
レシート(receipt)は領収書の英語ですから、本来「領収書」と「レシート」は同じものです。しかしながら、日本ではレジなどから打ち出された簡易的なものを「レシート」と呼び、手書きなどで一定の書式に作成されたものを「領収書」と呼び分けることが多いようです。
いわゆる「レシート」であっても、上述した領収書に記載すべき事項が記載されていればよく、むしろ手書きの「領収書」の場合、支出内容が不明瞭なことも多く、信頼度が低いこともあります。
したがって、多くの場合には手書きの領収書をもらう必要はなく、レシートで十分に事足るということです。ただし、レシートには宛名がありません。高額な取引の場合には、トラブルを避けるためにも、宛名を記入してもらうようにしたほうがよいでしょう。
もしも、領収書をなくしたら
領収書をなくした場合、「取引があった」ことを証明する次のような書類なら、代わりとして認められます。
(1)ATMの振込明細書や通帳の記録
銀行の入出金記録は、当然のことながら領収書ではありません。ただ、「取引があった」ということを証明するという観点からは、客観的な証拠といえます。
現金振込の場合は「振込明細書」、預金口座から振り込んだ場合は「通帳の記録」が支払いの事実を証明します。
(2)クレジットカードの利用明細
クレジットカードで支払いをすると、カード会社は、利用明細を発行してくれます。利用明細も領収書の証明事項とほぼ同じ内容を証明するものですから、領収書の代わりに使うことが可能です。
ただし、クレジットカードではいくつかの注意点があります。まず、請求明細書はなるべく使わないこと。請求明細書とは、カード会社から1か月ごとに送られてくる利用状況を記録した書類です。この請求明細書でも支払いの事実は証明できますが、「消費税における仕入税額控除」に係る請求書等に該当しないという国税庁の見解があります。経費として認められても、消費税の計算で不都合を及ぼすリスクが高いので、領収書の代わりとするならば利用明細としたほうがよさそうです。
また、経理的にはクレジットカードの支払いにおける領収書・利用明細・請求明細書は、ワンセットで保管しておくことをおすすめします。これら書類の管理が杜撰だと(経理担当者が把握できていればよいのですが)、経費を二重に計上してしまう恐れがあるからです。
(3)ネット通販の購入確認メール
ネット通販で物品を購入した際に送られてくる「購入確認メール」は、日付・金額・商品名・購入者名まで表示されるため、むしろ手書きの領収書よりも情報量は多いです。
ネット通販の場合に注意が必要なのは、「商品が送られてきた際に同梱されている納品書」です。納品書は「商品を納品した」という証明であって「代金を支払った」という証明ではないので領収書の代わりにはなりません。
(4)取引先等からのパーティーの招待状、香典袋等の表書きのコピーなど
取引先等が主催するパーティーの参加費や、お付き合いのある方の慶事・弔事での祝金・香典などは、一般に領収書をもらうことが難しいものです。
このような場合、「事実が存在し、お金の支払いがあった」ということを証明できるものがあれば大丈夫です。金額が明記してある招待状や、祝儀・不祝儀袋の表書きのコピーなどで支払いを証明することが可能です。単体での証明が難しければ、複数の証拠書類を残しておくとよいでしょう。
手書きのメモ・出金伝票は?
手書きのメモや出金伝票は本来、領収書を受け取ることが難しい支出に用いられるものです。たとえば、電車代の切符、会議用などに自動販売機でお茶を購入したり、慶弔に際して祝金や香典を渡したような場合です。
手書きのメモや出金伝票を領収書の代わりとして利用するのは、最終手段(領収書に記載すべき事項=日付・支出内容・金額・相手先などは必ず記載)であって、税務調査の際に、手書きのメモなどが大量に見つかった場合には、疑義をもたれる可能性もあります。そうしたリスクを考えても、なるべく「客観的な」書類を揃えておくことが望ましいのはいうまでもありません。
社内ルールを優先
税務的なルールや観点とは別に、社内においての経費精算などでは、より厳しい要件やルールを課している会社も少なくありません(「領収書がない場合は経費として認めない」など)。
経理担当者としては、そういった場合には、まずは社内ルールが優先となりますので、あらかじめ会社の中に経費精算のルールがあるかどうかを確認し、使い勝手が悪ければ、状況に即したものに改めていきましょう。
月刊「企業実務」2017年1月号
佐野匡司(税理士)