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遅刻・早退・欠勤が目立つ社員の取扱いQ&A

叱るだけでは改善しない
 

遅刻・早退・欠勤の目立つ社員を放置すれば周囲にまで悪影響を及ぼしますが、社員の側にやむを得ない事情があるケースもあります。
そうした社員への実務対応についてQ&Aで解説します。

遅刻・早退・欠勤は一般に特定の社員に偏る傾向があり、その社員の労務管理をする上司には気苦労があると思います。
ルーズな勤務状況を放置すれば周囲の社員にまで悪影響を及ぼしますし、普段から正しい形で指導をしていないと、いざというとき懲戒などの制裁を加えることがむずかしくなります。
一方で、頭ごなしに問題社員として対応するのも、家族の介護など様々な事情があるケースも多く、反発を招く恐れがあります。
まずは社員に対し、遅刻・早退・欠勤が発生したときの手続きやペナルティなどの説明を徹底することです。
また、会社側でも事情に応じた適切な対応とはどうあるべきかを確認しておくことが大切です。

行動の原因に着目する

公共交通機関(電車、バス)の遅延、寝坊、本人や家族の体調不良、事故や怪我など、遅刻・早退・欠勤の事由には様々なものが考えられますが、本人に責任があるものとないものの2種類に大別できます(図表1)

電車遅延による遅刻など、本人に責任がないもの

公共交通機関の遅れによる遅刻は、本人にはどうしようもできないことなので、懲戒等を行なうことは妥当ではありません。
法律的には、本人に責任がなくともノーワーク・ノーペイ(働かなかった時間に関して、賃金は発生しない)の原則どおり、遅刻をした時間分の賃金カットを行なうことは可能です。

時給制でもないかぎり、一般的には賃金カットまで行なう会社は少ないでしょう。

ただし、もし仮によく止まってしまう交通機関などを使用していて、たびたび遅刻をするようならば、「あなたの通勤経路は遅れが生じやすいようなので、それを見込んで始業時刻に間に合うように来てください」といった注意を促すことも必要です。

寝坊など本人の責任によるもの

「所定労働時間」は使用者へ労務提供を約束した時間です。
その時間を守らず遅刻を繰り返したり、常識の範囲を超えて喫煙のために離席する、などといった行為があれば、誠実な勤務態度とはいえず、労働契約上の労務提供義務違反となります。

また、そうした行動を繰り返すことで他の社員への悪影響も与えかねず、職場秩序を乱す一因ともなりますから、注意・指導が求められます。


【Q】遅刻・早退・欠勤理由の正当性の有無の判断と、その確認はどのようにすればよいでしょうか?

【A】まずは頭ごなしに叱るのではなく、どうしてそうなったのか、事情や理由を聞くことからはじめます。

ヒアリングをするなかで、「体調がすぐれないので病院に行ってきました」など同じ理由で遅刻を繰り返したり、理由に虚偽の可能性を感じたりした場合は、病院の領収書を確認するなど、裏付けをとることも考えるべきでしょう。

【Q】子どもの発熱=病気がち、というのは「本人に責任がない理由」だと思いますが、そのための遅刻や早退、欠勤が目立って職場の同僚の顰蹙を買うケースがあります。そうした社員に対しては、どのように指導すればよいでしょうか。

A】子どもの事情による遅刻や早退、欠勤を職場でこころよく受け入れてもらえるかどうかは、本人の周囲との“普段からの”コミュニケーションが重要です。

日頃の行動として、本人が手の空いているときに同僚の仕事を積極的に手伝うなど、ある意味“貸し”をつくっておくとか、いつ遅刻・早退しても迷惑をかけないように書類や情報を整理・共有しておく等をしておけば、突然の遅刻・早退や欠勤にも悪印象をもたれずに、スムーズに対応してもらえる可能性が高いです。

ところが、そうした行動をとっていない社員が頻繁に自分の事情を通そうとすると、結果的にその仕事をカバーすることになる社員の不満につながりがちです。

遅刻や早退、突然の欠勤は、原則、どのようなケースでも勤怠不良に当たることを自覚してもらいます。

これは、当事者の「自分に責任のある理由ではないので、会社が対応するのは当たり前」という態度を防ぐためです。

権利を振り回すような社員がいる場合、勤怠不良が2、3度繰り返された時点で面談の場を設けるようにします。

そこで、「やむを得ない事情は会社も理解しているが、その分他の社員がカバーしてくれていることを自覚してほしい」と伝えましょう。

【Q】ちょっとした遅刻をする際に連絡をしてこない社員はどうしたらよいですか。

【A】通勤途中で事故に巻き込まれるなど、やむを得ない事情があったときでも、速やかに連絡をすることは社会人としての当然のルールです。

そうした社会人としての当然のルールを理解していない社員には、「いちいちそんなことまで言わないといけないのか」と思われるかもしれませんが、あるべき行動について、1つひとつ丁寧に指導をしていきましょう。

一方で様子がおかしい場合は、丁寧にヒアリングを行ないます。たとえば遅刻がちなのは単に意思が弱いからではなく、うつ病や起立性調節障害などの病気が背景にあることも考えられるからです。

病気が原因であれば、残業のない業務や負担の少ない業務への変更などの検討が必要になりますので、医師(産業医)の意見も求めたいところです。
このときも、医師の診断書を求める(内科の受診を勧める)場合、本人が「会社から疑われている」と捉えると、素直に応じてくれないかもしれません。

そこで「上司の立場として心配だし、あくまで会社の決まりで確認が必要だから、1度受診してください」というような態度で勧めます。

どのような対応をとるときも「言った・言わない」のトラブルに繋がる事例が多いので、問題となった勤務状況と、それぞれの時点でどう対応したかの記録は必ず残すようにします。

懲戒等の処分を下すときの留意点

【Q】指導しても改善がみられないときは、どのような処分を下すのがよいでしょうか。

【A】懲戒処分を行なうには、前提条件として、就業規則等で、遅刻や早退を繰り返した場合には懲戒処分を下す、という取扱いを定めておく必要があります。

誠実に業務に取り組んでいる社員が不公平感をもったり、モチベーションの低下につながらないようにすることが大切です。
そのためには、問題行動があると感じたときには早め早めに対応することです。
実際に遅刻・早退・欠勤が発生した場合には、次のことを原則として進めます。

  • 急な遅刻・早退・欠勤についても届出の提出を促す
  • 届出の際、その理由・原因をきちんと確認し、特に本人の責任の有無を明確に区別する
  • 届出の際に医師の診断書が必要になる場合があることを周知しておく

病気を理由に欠勤が断続的に続く社員や、遅刻・早退を繰り返す社員がいる場合については、その日数にかかわらず、「会社が必要と認めた場合、医師の診断書の提出を求める」という内容を就業規則に盛り込んでおくことも必要でしょう。

これらが会社で決めた必要な手続きであるということを周知していないがために、「診断書を突然求められたが、ズル休みをしていると思われているのではないか」と社員が受け取り、反発するケースがあります。

【Q】勤怠不良の社員への注意・指導はどのように進めていけばよいでしょうか。

【A】注意や指導には順番があり、いきなり重い処分をするとトラブルに発展することがあります。一般的には次の流れになるでしょう。

  1. 口頭注意
  2. 書面による注意(複数回行なう)
  3. 軽い懲戒処分
  4. 重い懲戒処分

度重なる勤怠不良を注意しなかった場合は、“日常的にその行動を黙認していた”とみなされる可能性があり、その状態で懲戒処分をすると、裁判や労働審判等の争いになったときにその処分が無効とされる可能性があります。

また、口頭注意だけでは証拠が残らないので、やはり争いになったときに「言った・言わない」という状態になり、主張として弱くなってしまいます。そのため指導は書面で通知し、記録を残します。

指導書のサンプルを図表2に示します。タイトルは「注意書」等、自社で使っている言葉に合わせてください。

【Q】たびたび注意しても改善がみられないとき、懲戒処分を下すとして、どの程度の処分が適切でしょうか。

A】就業規則の懲戒規定にその旨の規定がなければ、そもそも懲戒処分をすることは困難になります。

懲戒を行なったにもかかわらず、本人が反省して改善する見込みがなく、かつ、同じような行為を繰り返す場合には、上位の懲戒を科することを原則とします。

事情、本人の反省具合、業務への影響、1回当りの時間数等によって妥当な処分は変わるので、回数や頻度で明確な基準を定めるのは適切ではありません。
一番の要素は、業務(会社)にどのような支障をもたらしたかです。
たとえば、同じ寝坊でも、通常時に遅刻したのと、顧客との重要な会議の日に遅刻したのでは、事の重大さが違います。
そのあたりも勘案したペナルティを考えてください。

遅刻をした日の残業時間の取扱い

【Q】遅刻をした日の残業についてはどう考えるのが適切ですか。

【A】遅刻をした日に残業をする社員がいる場合も多いと思います。給与計算実務上、終業時刻を超えたら残業という取扱いをしているケースも多くみられますが、法律的に労働時間は、実労働時間で判断します。

遅刻と残業の関係について、給与計算上は別の問題であって、「遅刻をしたから残業代はなし」という考え方ではありません。
仮に1時間遅刻をして、1時間の残業をした場合、法律どおりの運用をするのであれば、遅刻した1時間はノーワーク・ノーペイの原則で賃金は発生しません。
そして、終業時刻を過ぎて残業をした分についても、法定労働時間の8時間勤務を超えるまでは、2割5分増の割増賃金は発生しないことになります。

このケースですと、遅刻をしたから残業が発生しなかったのではなく、実労働時間が法定労働時間を超えなかったため、結果として相殺したのと同じということです(ここでは、遅刻に対するペナルティは除外して考えています)。

ちなみに、賃金規程等において「終業時刻である午後○時以降の勤務については割増賃金を支給する」と規定されている場合は、当日遅刻した場合であっても、賃金規程等で定めた時間以降の勤務は割増賃金の支給が必要です。


遅刻・早退・欠勤に対しては、どのような処分を下すかより、注意・指導の意味を社員に納得させ、行動を改めさせることが重要です。

繰り返しになりますが、そのためにも丁寧にそれぞれの事情を聞くことが大切なのです。

月刊「企業実務」 2014年1月号
山本喜一(社会保険労務士)

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