取引先から締日・支払日変更の要請があったときの対処法
まずは“真意”の見極めから取引先から締日・支払日の変更要請を受けた場合、相手の経営悪化等に基づく要請の場合は無条件に応じられません。その基本的な対応と留意点について説明します。
取引条件の変更要請を受けた際は、まず、その変更の内容と理由をしっかりと確認してください。具体的に確認すべきポイントは次のとおりです。
(1)取引条件変更の内容
現状の支払条件と変更依頼の内容を明確にします。
毎月何日締めの何日払いか、現金か手形か、手形の場合は自己手形か回し手形かなどです。
すべての債権の状況、その条件が継続的か一時的なのか、全取引か案件単位なのかなども確認してください。
また、支払条件に関連するものとして、物流ルールや取引ルール等があります。
そうしたルールになっているものを把握し、負担割合等についても確認しましょう。
(2)取引条件変更の理由
自社の政策上の理由、売上が減少して資金が回らなくなった、関連会社が倒産をしてその連鎖で経営が行き詰まったなど、様々なことが考えられます。
取引条件の変更要請で押さえておくべき基本事項が図表1です。
変更の“真意”と有利・不利を見極める
取引条件の変更にあたっては、その“真意”を見極めて対応をしていく必要があります。
取引先が自社と取引を停止したいのか否か、より取引量を増やしていきたいかなどの意向を把握しておきたいところです。
それらを裏づける意味でも、取引先の経営状況を調べてください。
まず経営者の意向や経営の方向性(事業計画レベル)は、明確に押さえておきたいところです。
企業概要、市場動向、売上動向、取引先の顧客動向、資産状況、入手可能であれば決算書と資金繰り表、金融機関との取引状況など、日頃取引先と接している営業部門と連携し、タイムリーな情報を把握してください。
企業概要は、ホームページや有償の調査会社(帝国データバンクや東京商工リサーチなど)から入手できます。
登記簿謄本も有償になりますが、法務局で入手できます。
こうした情報源から、当該企業の債権・債務状況(抵当・根抵当等)が見えてきます。
取引条件変更が自社にとって有利か不利かを見極めることも大事です。
条件変更することで結果的に売上や利益が増えるのか、取引リスクはどうなるのかを判断します。
手形よりも売掛金、売掛金よりも現金のほうが、受け取る側とすれば資金繰りがよくなり、逆に、支払う側からみれば厳しくなります。
現金取引にすることに併せて値引き要請があれば、金利との比較も必要になります。
手形が現金入金になった場合、回し手形として使えなくなるなどの不具合が生じることも考えられます。
最悪のケースとしてその取引がなくなった場合、利害関係者はどういう状況になるのかも確認しておきましょう。
相手が親企業などで、下請取引関係にあり、力関係を盾に強引な取引条件を要請してくる場合もあります。そういう場合も、冷静に対応することが大切です。
立場の弱い中小企業を保護する法律として、「下請代金支払遅延等防止法」と「下請中小企業振興法」があります。
建設業では「建設業法令遵守ガイドライン」が策定されています。
もちろん法律どおりにいかない部分がないとは言い切れません。
最初に作成した見積りをもとに受注したものの、納品や代金回収の際に一方的な値引きや返品をされ、結局は赤字になった、というケースがあります。担当者の異動などでわからなくなることもあります。
「法律はどうあれ次から頼まないよ」となるのが怖い、という不安もあるでしょう。
ただし、経営層はコンプライアンスを守るという意識が強いのに、現場がそれを軽視してコストダウンに突っ走っているという可能性もあります。
今後の取引に不安を感じたならば、公的機関への相談を勧めます。中小企業庁の「下請かけこみ寺」や国土交通省の「駆け込みホットライン」などは、どこからの情報かわからない形で調査を行なうなど、通報者に不利益が生じないような対応をとっています。
ケース別の対応策
支払日程に関する変更要請
事務処理の統一・効率化という意味合いで締日・支払日・支払期日などを前方へ短縮することは自社にとってはプラスと判断ができます。
逆に、後方への延長はよくありません。相手の資金繰りが厳しくなっている可能性が高いといえます。
締日・支払日はわかりやすいのですが、支払期日の延長として代表的なものが手形ジャンプや手形サイトの延長、などです。
手形ジャンプ
手形ジャンプとは、当初予定していた期日に入金の目途が立たないために支払期日を延ばすことです。
主なやり方として、手形を書き換える方法と、手形の支払期日を訂正変更する方法があります。
倒産の前兆であり拒否するのが原則ですが、状況によっては手形ジャンプに応じつつ、債権の回収を図ることもあります。
手形サイトの変更
手形サイトが短くなるのであれば歓迎すべきでしょう。
逆に、通常取り決められた手形サイトより長い期間になれば資金繰りが厳しいことが予測できます。
この場合、受け取る側の承諾なしに延長されていく場合もあります。
そこで、経理部門が手形台帳などでしっかりと期日管理をしておく必要があります。
支払手段の変更の要請
支払手段の変更には、回し手形から自己手形へ、現金(小切手)から手形(自己・回し)へ、現金払いから小切手へなどはマイナスと判断できます。
逆の場合はプラスととらえることができます。
回し手形から自己手形への変更
できれば避けたい取引条件の変更です。
回し手形は裏書があるので、発行元が不渡りの際、裏書人に債権を請求できリスク分散になります。
自己手形の場合、請求先は発行者のみですので、その事業者の信用度が重要になります。
現金(小切手)から手形(自己・回し)への変更
非常に避けたい取引条件の変更です。
ただし、資金繰りが厳しくなった以外に、取引規模が拡大して手形に変更するということもあります。
この場合も、その事業者の信用度が重要になってきます。
現金払いから小切手へ
現金と小切手はほぼ同様とみなされますので、判断のむずかしい変更です。
現金回収が理想ですが、取引頻度が増大するにつれ、小切手で一括のほうが事務処理の効率化につながるケースもあります。
その他のルールの変更
物流ルールや取引ルール等の変更を要請されることもあります。
いずれにしても、内容を把握し、取引先とその負担割合を交渉して変更していけば、コスト面に影響が出てきます。
取引条件変更手続きにあたってのポイント
要請を受けるか拒否するのかに関わらず、やるべきことがあります。
判断基準の第一は、自社にとって、どの方法が最もリスクが少ないかです。
他社の状況を確認する
取引条件変更の要請は自社に対してだけなのか、限られた数社なのか、全取引先なのか、それぞれの受入れ状況なども確認しておきたいところです。
書面で進める
得意先からの取引条件の変更要請は、総務部門に書面で来たり、営業を通じて回ってくる場合などがあります。
事前に打診があるのが普通ですが、たまに自社の承諾なしに変えられている場合もあります。
取引条件変更を口頭で依頼された場合は、必ず書面をもらってください。
その後のやり取りも議事録を作成するなど、証拠を残しておいたほうがよいでしょう。
売買契約書の締結・取引条件の明確化
取引条件を明確にして、売買契約書を締結・作成しておきたいところです。
売買契約書の雛形などはインターネットから入手できますし、市販の様式集なども参考になります。
売買契約書の締結にあたって、連帯保証人や抵当・根抵当の設定、「強制執行認諾」の文言入りの公正証書作成までもっていければ、いざという場合、心強い交渉材料となります。
変更要請に対するスタンス
変更要請に対するスタンスには、次の5パターンがあります。
無条件で受け入れる
得意先が政策として支払方法や支払日を一律にしたいときや、システムの変更などで取引条件の変更を希望することがあります。
すべての取引先が、その条件で受け入れており、自社にとって信用上の不安もなさそうで、単に事務的なものとして要請を受け入れる場合、その取引条件の変更点を明確にしたうえで進めればよいでしょう。
自社に不利があることを意識づけつつ受け入れる
将来成長が見込める取引先の場合など、政策として検討します。
取引先が自社との取引をなくしたくない状況ならば、その不利の状況を取引先にしっかりと理解させてから進めます。
取引先の希望に沿うことで、代替条件はつけないが「貸し」にしておくことができます。
代替条件を得る
一方的に取引先の条件をのむのではなく、図表2に掲げたような、何らかの交換条件を要求することを検討します。
検討すべき代表的な代替条件としては、取引量の拡大、値引・リベートの設定などです。
物流ルールや取引ルールの変更、これまで無料で図っていた便宜をとりやめるなどといったこともあります。
いったん断わったうえで交渉を継続する
決定事項ではなく、取引先が様子を確認する状況の場合は、いったん断わる方法もあります。
交渉ごとにおいて、1回ですべての結論が出ることはないと思ったほうがよいでしょう。
数回の交渉を重ねて様子をみつつ、緩い条件が出てくることを期待する、という発想です。
要請を拒否する
条件がまったく合わず、取引解消もやむなしとして断固断わるという判断もあります。
そうした場合、債権の早期回収に動くことも考えなければいけません。
その際に捨て台詞を吐いたり、人間関係を崩すような発言、態度は厳に慎むべきです。
企業関係は相対的で常に状況は変化しています。自社が有利な状況があれば逆の場合もあります。
相手に悪感情を抱かせることで、得るものはありません。
要請を断わる場合も、次につなげておけるよう、節度のある態度を取ってください。
また、自社との取引がなくなった場合、代わりとなる調達先はどこなのか、その取引先の仕入・販売先やエンドユーザー、利害関係者はどういう状況になるのかを踏まえた展開を考えておくことも大切です。
経営悪化のサインを見逃さないためにすべきこと
経営悪化の原因としては様々なものが考えられますが、企業が倒産する場合はたいてい、何らかの兆候があります。
取引先の危険兆候とみなすことのできる代表的な変化について、チェックリスト(図表3)を掲げました。
ここに挙げた項目に限らず、取引先が変だなと感じたときは、営業部門と連携して実態を確認することが大切です。
月刊「企業実務」 2013年4月号
高澤彰(中小企業診断士)