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組合がない会社も知っておきたい「不当労働行為」の知識

 

労働者や労働組合への使用者の行為が問題となる不当労働行為は、労働組合がない会社にとっても他人事ではありません。不当労働行為の類型や企業の対応について解説します。

労働組合がない会社でも注意が必要

機械部品の製造を行なっているA社は、典型的な中小企業です。
創業以来、社内に労働組合はなく、団体交渉などは無縁のものと考えています。

A社では、最近、遅刻や無断欠勤など問題行動を重ねていたことを理由として、従業員のBを解雇しました。

しばらくすると、Bを代表するという外部の労働組合Cから、「Bの解雇は無効である」として、解雇の撤回と解雇以降の賃金の支払いを求めて団体交渉を申し入れる文書が届きました。

A社としては、そのような労働組合は知らないし、よくわからないので無視していると、今度は、「団体交渉に応じないのは不当労働行為である」として、「労働委員会に申立てを行なう」という文書が届きました。

「不当労働行為」とは何を意味し、自社の行為はこれにあたるのだろうか、「労働委員会」とはいかなる組織で、今後、どのようなことになるのだろうか。A社の不安は尽きません。

このように、社内に労働組合がない中小企業においても、不当労働行為をめぐる紛争は、常に起こり得ます。
企業としては、不当労働行為と、紛争が起こった場合の対応について、理解を深めておくことが大切です。

不当労働行為の類型を確認しよう

不当労働行為とは、使用者が、労働組合活動に対して行なう妨害的行為として、法律上、禁止されているものをいいます。

不当労働行為として禁止される行為には、以下のような類型があります(労働組合法7条)。

(1)不利益取扱い

労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入したり、労働組合を結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことなどを理由として、その労働者に対して、解雇などの不利益な取扱いをすることをいいます。

(2)黄犬契約

黄犬契約(「おうけんけいやく」または「こうけんけいやく」)は、労働者が労働組合に加入しないことや、加入している労働組合からの脱退を雇用条件とすることをいいます。
黄犬契約は英語の「YellowDogContract」の訳です。
「YellowDog」には「いやしむべき者」「卑劣な裏切り者」等の意味があり、転じて、労働者の団結に反して使用者のいいなりになる者を指すようになったといわれています。

(3)団体交渉拒否

使用者が、雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを、正当な理由がなくて拒むことをいいます。

冒頭のA社の事例のように、従業員が解雇後に外部の労働組合に加入した場合にも、会社には、原則として、団体交渉に応じる義務があると解されており、A社の行為は不当労働行為に当たる可能性が高いといえます。

さらに、使用者には、誠実に交渉を行なう義務があるとされ、このような義務を尽くさないまま団体交渉を打ち切ったり、拒否することも不当労働行為にあたる点に注意が必要です。

(4)支配介入

使用者が、労働者が労働組合を結成したり、運営することを支配し、またはこれに介入することをいいます。

支配介入には、様々な行為が含まれ、組合結成に対する妨害行為や、組合活動を理由とする解雇・配転などが代表的です。

同一企業に複数の組合がある場合の一方の組合に対する差別的扱いや、労働組合の壊滅を目的とした会社の解散なども、支配介入にあたるとされた例があります。

(5)経費援助

使用者が、労働組合の運営のための経費の支払いについて経理上の援助を与えることをいいます。

使用者が労働組合に経費援助を行なうことは、労働者や労働組合の利益になるように思われるかもしれませんが、労働組合の自主性や独立性を侵害するという理由から禁止されています。

ただし、労働者が労働時間中に時間または賃金を失うことなく使用者と協議し、または交渉することを使用者が許すこと、労働組合の厚生資金または福利その他の基金に対する使用者の寄附および最小限の広さの事務所の供与は除くものとされています。

(6)報復的不利益取扱い

労働者が労働委員会に対し、使用者が不当労働行為の禁止に違反した旨の申立てをしたことや、労働委員会の調査または審問等において証拠を提示または発言をしたことなどを理由として、その労働者に対して解雇などの不利益な取扱いをすることをいいます。

救済手続きと使用者の対応

仮に企業が不当労働行為を行なった場合、企業は労働者等から次のような申立てを受けることがあります。

(1)民事訴訟

不当労働行為をめぐる紛争が発生した場合、労働者や労働組合がとり得る手段の1つに、裁判所への民事訴訟の提起があります。

たとえば、使用者が、労働者が労働組合の組合員であることを理由として解雇を行なった場合、その労働者は、不利益取扱いの禁止に違反し無効であるとして、裁判所に解雇の無効確認を求めることが考えられます。

使用者の行なった行為が民法上の不法行為にあたるとして、労働者や労働組合から損害賠償の請求を受ける場合もあります。

これらの訴訟が提起された場合、使用者としては裁判所において自己の法的な主張を行なうとともに、これを裏づける証拠を提出する必要があります。

そして、裁判所が証拠によって事実を認定し、当事者の請求が認められるかどうかを判断して、判決を言い渡すことになります。

なお、これらの訴訟は使用者と労働者の和解によって解決することも多くなっています。

(2)行政上の救済手続き

不当労働行為については民事訴訟のほかに、労働委員会による救済手続きが設けられています。

労働委員会とは、労働者が団結することを擁護し、労働関係の公正な調整を図ることを任務とする独立の行政機関です。
労働委員会は、使用者を代表する者(使用者委員)、労働者を代表する者(労働者委員)、公益を代表する者(公益委員)の各同数によって組織されます。
公益委員は大学教授や法律実務家が任命されることが多くなっています。

労働委員会には、厚生労働大臣の所轄の下に置かれる中央労働委員会と、都道府県知事の所轄の下に置かれる都道府県労働委員会があります。

月刊「企業実務」 2012年9月号
岡村優(弁護士)

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