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国税庁のQ&Aに学ぶ消費税「95%ルール」見直しに伴う処理の変更点

 

消費税の益税問題を改善する観点から、売上5億円を超える会社は、「95%ルール」の適用除外となります。ここでは具体的な処理の方法についてみていきます。

平成23年度の税制改正により、平成24年4月1日以後に開始する事業年度から、課税売上高が5億円を超える会社は95%ルールの適用対象外となります。
これを受けて、平成24年3月、国税庁は「95%ルールの適用要件の見直しを踏まえた仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A」を公表しました。
これには、個別対応方式を適用する場合の課税仕入の用途区分の考え方と具体事例のQ&Aが掲載されています。
本稿では、輸出・輸入をせずに国内取引のみを行なっている一般的な会社を前提として、売上高5億円超の会社の経理が具体的にどう変わるのか、国税庁のQ&Aの事例のうち重要なものを取り上げて説明します。

消費税の累積を排除する仕入税額控除

消費税は、生産、流通の各段階で二重、三重に税が課されることのないよう、売上に対する消費税額から仕入に含まれている消費税額を控除し、税が累積しない仕組みになっています。

これを「仕入税額控除」といい、会社は、「預かった消費税(=課税売上に対する消費税)」から「支払った消費税(=課税仕入に係る消費税)」を控除して差額を納税することが認められています。

課税仕入とは、消費税が課されている物品やサービスの購入をいいます。
具体的には、商品の仕入、事務所の賃借や業務委託のほか、備品、消耗品の購入や自動車、建物などの固定資産の購入が含まれますが、非課税や免税、不課税とされる取引は含まれません。

ただし、会社は支払った消費税、すなわち、課税仕入に係る消費税の全額をいつでも控除できるわけではありません。
消費税の累積がない場合には、仕入税額控除をする必要がないからです。

すなわち、非課税売上取引については、「預かった消費税」がなく、たとえ「支払った消費税」があっても、税の累積が生じないので、この分を控除することはできません。

では、実際に控除できる金額はどのように計算するのでしょうか。この計算方法の振り分けを定めているのが、「95%ルール」です。

95%ルールにおける計算方法とは

95%ルールとは、その課税期間中の課税売上割合が95%以上であるか、95%未満であるかによって、課税仕入に係る消費税額から実際に控除できる税額(=控除仕入税額)を計算する方法を変更するルールをいいます。
課税売上割合とは、その課税期間中の総売上高に占める課税売上高の割合をいい、算式1により計算されます。

全額控除できる場合

課税売上割合が95%以上の会社については、課税仕入の税額の全額が仕入税額控除の対象となります。

仕入税額控除は、本来、税の累積が生じる課税仕入、すなわち、会社が課税売上を計上するための課税仕入について、その消費税額を控除するものですが、課税売上割合が95%以上の場合は、会社の売上のなかに占める非課税売上の割合が僅少(=5%以下)であることから、会社の事務負担を軽減するために複雑な仕入控除税額の計算をしなくても済むようにされています。

全額を控除できない場合

課税売上割合が95%未満の会社は、課税仕入の税額の全額を控除することはできず、課税売上のための課税仕入の税額についてのみ控除の対象となります。この場合の計算方法には「個別対応方式」と「一括比例配分方式」の2つの方法があり、会社は有利なほうを選択することができます。

個別対応方式

個別対応方式とは、その課税期間中において行なった課税仕入の消費税額を、(1)課税売上対応分、(2)非課税売上対応分、(3)共通対応分に区分し、算式2により計算した金額を仕入控除税額とする方式です(図表1)。

一括比例配分方式

一括比例配分方式とは、個別対応方式を適用する前提となる区分が明らかにされていない場合や、区分が明らかでも会社が選択した場合の仕入控除税額の計算方式となり、仕入控除税額は算式3により算出されます(図表2)。

95%ルール改正の影響とは

改正前は、課税売上割合が95%以上である場合、課税売上高の大小にかかわらず全額仕入税額控除の対象とすることができましたが、改正後は、その課税期間の課税売上高が年間5億円を超える場合、課税売上割合が95%以上であっても、仕入に係る消費税の一部を控除することができないこととされました。

この際の消費税額の具体的な計算は、先の「個別対応方式」または「一括比例配分方式」により行なうこととされています。
この2つの方式は会社が期末に選択できることから、実務的には、両者による納税額を比較検討することが必要になります。

また、一般に、個別対応方式のほうが「納税額が少なくなる」といわれていることから、この方式を選択するケースが増えると考えられます。
したがって、改正後の経理実務では、通常、個別対応方式の税額計算をするために、課税仕入を、(1)課税売上対応分、(2)非課税売上対応分、(3)共通対応分の3つに区分(=用途区分といいます)することが必要となり、その作業量は膨大になることが予想されます。

用途区分の意義と内容

用途区分とは、その課税期間における個々の課税仕入のすべてについて、前述の(1)~(3)に区分することをいいます。イメージとしては、請求書・領収書を(1)~(3)の名前をつけた3つの箱の中に仕分けしていく感じです。

(1)課税売上対応分

課税売上対応分とは、課税売上を行なうためにのみ必要な課税仕入をいいます。
ここに区分されるのは、課税資産の売上等だけを行なうために必要な仕入や費用です。
つまり、「課税売上だけに対応する課税仕入」がこの区分に仕分けされます。

非課税売上対応分

非課税売上対応分とは、非課税売上を行なうためにのみ必要な課税仕入をいいます。

土地の売却などは非課税売上になるので、この非課税売上だけを行なうために必要であった土地の造成費用の支出などは「非課税売上だけに対応する課税仕入」となり、この区分に分類されます。

(3)共通対応分

共通対応分とは、原則として課税売上と非課税売上とに共通して要する課税仕入が該当します。
たとえば、課税売上と非課税売上がある場合に、それらに共通して使用される資産の取得費用、販管費のなかの消耗品費、電話料金、電気料金などの管理費用や総務費用がこれに当たります。
実務的には、(1)(2)以外の課税仕入はすべてこの区分に仕分けされます。

用途区分の仕方~2つの判定ルール~

用途区分は次の2つの判定ルールに従って行ないます。

課税仕入ルール

仕入税額控除は、前述のとおり、消費税の累積を排除する制度ですから、会社が財・サービスを購入したときに消費税を支払っていなければ、すなわち、非課税仕入や課税対象外仕入を行なっている場合には、消費税の累積が起こらないため用途区分を行なう必要がありません。

よって、まず判断すべきなのは、消費税が課された財・サービスの取得が行なわれたかどうか、つまり、「課税仕入」が行なわれたかどうかとなります。

目的ルール

(1)の課税仕入該当性を確認した後に、課税仕入を(1)~(3)の3区分のどれかに必ず区分します。
この際の基本的な考え方は、「この課税仕入はどのような売上を獲得する目的として行なわれたのか」を判断することです。

つまり、ある特定の財・サービスを取得する目的が、(1)課税売上だけを得ることだったのか、(2)非課税売上だけを計上することだったのか、(3)それ以外であったのかを判定し、「売上」と「課税仕入」を1つひとつ対応させます。

これを目的ルールといい、用途区分の一番重要な判定ルールとなります。

判定単位と判定時期

用途区分の判定単位は、原則として、個々の課税仕入ごとです。
すなわち、個別取引の納品書や請求書1枚ごとに売上の判定を行ないます。
また、用途区分の判定時期は、原則として、財・サービスを購入した時です。

Q&A重要事例における用途区分の判定

用途区分の判定ルールは以上のとおりですが、国税庁Q&Aに記載されている事例をもとに、具体的な適用の仕方を説明します。

商品券の印刷費

商品券を得意先に販売した場合には、消費税法上、物品切手等の譲渡に該当し、この収入は非課税売上になるので、目的ルールを形式的に適用すると、商品券の印刷費は、非課税売上対応分として区分されるようにもみえます。

しかし、商品券を販売する実質的な目的は、商品券との引替えに商品を販売することにあります。
つまり、商品券は将来の課税売上を予定して発行するものなので、この印刷費支出は課税売上対応分として区分されます。

交際費

交際費に該当する課税仕入は、一般にその目的が課税売上や非課税売上を得るためではないため、目的ルールにより原則として共通対応分として区分されます。

ただし、さらに詳細に区分したい場合には、その交際費の支出の目的や相手方との取引の内容(課税取引であるか否か)に応じてより細分化して真の目的を判断することが認められています。

たとえば、課税売上のみを行なっている得意先に対する歳暮や中元に係る支出であることが特定できるものについては、課税売上対応分として区分できます。

また、工事の建設現場で支出する交際費は、工事請負売上という課税売上を獲得するためだけに要するものと特定できるため、課税売上対応分として区分できます。

寄附する目的で購入した物品

寄附金として金銭を支出した場合、まず課税仕入ルールで判定すると、反対給付がないことから不課税仕入となり、用途区分を行なう必要はありません。
他方、寄附する目的で購入した物品に係る支出は課税仕入に当たるため、個別対応方式の適用上、用途区分を行なう必要があります。

ただし、寄附として行なう物品の贈与からは対価を得ないので、その目的は課税売上のみとも非課税売上のみともいえません。
その結果、寄附する目的の課税仕入については、原則、共通対応分として区分することとなります。

社宅に関連する支出

従業員から家賃を受け取る場合には、社宅・従業員寮の取得費やその維持費は、住宅家賃収入という非課税売上のためだけに要するものであるため、目的ルールにより、非課税売上対応分に区分されます。従業員に無償で貸し付けている場合には、課税売上のみを得るためでもなく非課税売上のみを得るためでもないため、原則として共通対応分に該当します。

なお、他の第三者から借り上げて従業員に転貸している社宅や従業員寮の借上料は、住宅家賃として非課税仕入になりますから、課税仕入ルールにより、用途区分を行なう必要はありません。

作業効率化のためのポイントとは

経理実務を軽減する工夫として、次のものがあります。

一括比例配分方式を採用した場合

両方式による納税額の有利不利を検討することなく、一括比例配分方式を採用することを期首に決めている場合は、用途区分を行なう必要がないため、大幅に経理の作業量を減らすことが可能です。
ただし、一括比例配分方式を選択した会社は、2年間継続して適用した後でなければ、個別対応方式に変更することはできないので、次期の税額まで予想して選択することが必要です。

個別対応方式を採用した場合

個別対応方式を採用した場合、作業量を減らしたり、納税額をできるだけ少なくしたりするために、次の3つの特例の適用を検討することが考えられます。

事業部・勘定科目ごとの判定

判定単位の例外として、用途区分を、事業部門ごと、または勘定科目ごとに行なうことも一定の条件の下で認められているので、作業量を減らすことができます。

たとえば、課税売上だけを行なう営業部門の費用は課税売上対応分に区分できるほか、課税売上に対応する売上原価勘定や製造原価勘定に計上されたものは課税売上対応分に区分できます。

共通対応分の細分化

共通対応分に区分された「原材料、包装材料、倉庫料、電力料など」の課税仕入については、より合理的な基準により、課税売上対応分と非課税売上対応分とに区分できるとされています。

これら共通対応分については、課税品と非課税品の生産実績などの割合で、ギリギリまでさらに細分化し、課税売上対応分を増やすことができます。

課税売上割合に「準ずる割合」の採用

個別対応方式の共通対応分については、課税売上割合により控除税額を計算することが原則ですが、使用人の数または従事日数の割合、消費または使用する資産の価額、使用数量、使用面積の割合など、会社の実態をより反映した合理的な控除割合(準ずる割合)を採用することができます。

税務署長の承認を受けることを条件として、事業の種類ごと、販管費の費目ごと、事業場の単位ごとに有利な計算をすることが可能なので、「準ずる割合」の採用を検討してみるのも一考です。

月刊「企業実務」 2012年7月号
後宏治(公認会計士・税理士)

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