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昼休み時間中の社員をどこまで指導・管理するか

何をしてもいいわけではない!
 

労働者は労基法で義務づけられた休憩時間を自由に利用できるが、それはあくまでも原則であって、制約はある。昼休みの社員の悩ましい行動についてどう指導・管理すればよいかを考える。

目次

労働基準法で定められた休憩時間とは

休憩時間とは、労働者が権利として労働から離れることが保障されている時間のことです。
労働から離れているので賃金を支払う必要はありません。
単に作業が中断されているだけで、いつでも次の作業にとりかかれるように待機しているような時間(手持ち時間)は休憩時間ではなく労働時間であり、賃金支払いが必要になります。

労基法34条では、休憩時間について3つの原則を定めています。

ひとつめは休憩時間の長さと時期で、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は同じく1時間の休憩を労働時間の途中で与えなければなりません。
たとえば1時間の休憩時間を昼休みに50分、午後3時に10分というように分割して与えることもできます。

2つめは、休憩時間は原則として一斉に与える必要があります、運送、販売、金融、飲食など、業務の都合上、一斉に休憩時間を与えることが困難な事業はこの限りではありません。
それ以外の事業についても、その事業所の従業員の過半数を組織する労働組合、それがない場合は従業員の過半数を代表する者との間で協定を結ぶことにより、一斉休憩の適用を除外されます。

そして3つめが、休憩時間を自由に利用させることです。

休憩時間中の労務管理の原則

休憩時間は労働時間ではないので、従業員に命令したり管理下に置くことはできません。

ただ、休憩時間は始業から終業までの、いわゆる拘束時間の一部で、終了後は再び労働に復帰することになっている時間ですから、休憩時間中の行動についても規律保持上必要な制限を加えることも「休憩の目的を損なわない限り差し支えない」(昭和22・9・13発基17号)とされています。

また、事業所の施設・設備については休憩時間であろうとなかろうと、企業に管理権がありますから、その範囲内で利用を制限することができます。
なんの制限もなく自由に行動させなければならないわけではありません。

休憩時間に関して起こりそうな問題と対策

社内で休憩する場合に予想されるケース

会社のパソコンでゲームをすることを禁止してもよいか

パソコンは会社が業務に使用するために設置している設備ですから、業務以外の目的での使用を禁ずることができます。
オンラインゲームからウィルスに感染し、その結果、業務に大きな支障が出たり、企業情報が漏洩・流出するおそれも皆無ではありません。

会社のパソコンの私的な使用は就業規則で禁止し、違反者は懲戒処分の対象とするくらいの厳しい姿勢で臨むことが必要です。

休憩時間中の会議室の利用について制限や禁止はできるか

施設管理上、会議室等の会社施設を許可なく使用させる必要はありません。
他に適当な場所がなければ、休憩や食事などに利用するのを一概に禁止するのも問題ですが、急な用事で使用しなければならないこともあるので、休憩時間中の利用に関しては届出制や許可制としておけばよいでしょう。

趣味のサークル活動に使用する場合も同様です。楽器の練習など大きな音を出すものは、他の業務や従業員の休憩の妨げになることがあるので、特別な理由のない限り使用を許可しなくても問題ありません。

来客などの手前、デスクで弁当を食べることや昼寝をすることは、見た目が悪いので禁止してもよいか

これも施設管理上問題があるとして、デスクで食事や休憩をしないように求めてもかまいません。

しかし、社内に休憩に適した場所がほかになければ、しかたない面もあります。
休憩のための施設について、労働安全衛生規則では快適な職場環境を形成するために休憩室を設けるように事業主に求めています。

また、常時従業員50名以上、女性30名以上を使用する事業所では、労働者が体を横たえられる施設を男女別に設けなければならないと定めています。

休憩室の設置は努力義務規定ですので、必ず設置しなければならないというものではありませんが、休憩時間を実効のあるリフレッシュの時間とし、作業能率の向上をはかるという点からは、できるだけ設けることが望ましいといえます。
休憩のためのスペース確保が優先されるべきでしょう。

昼休みに同僚に物品を売ろうとしたり、昼休みに親戚の選挙活動をする社員がいるがやめさせることはできるか(副業禁止規定や政治活動禁止規定なし)

休憩時間中の同僚への物品の販売や、たとえ親戚のためであろうと選挙活動については、副業禁止規定や政治活動禁止規定の有無にかかわらず、他の従業員の休憩を妨害する恐れのある迷惑行為ですから、施設の管理者として禁止して問題ありません。

労働時間の解釈等で問題がありそうなケース

昼休み終了5分前の着席を義務づけてもよいか

休憩時間中、従業員には労働義務はなく、会社にも指揮命令権はありません。
5分前に着席を義務づけることは、実際に仕事をしていなくても、その時点で労働時間に入ったとみなされる可能性がないとはいえません。
労働時間が増えたことを理由に、場合によっては割増賃金を請求される恐れもあります。

電話や来客への対応を、そのとき社内にいる従業員になんとなく任せているが問題ないか

明確な命令や指示がなくとも、休憩時間中の従業員が電話や来客の応対をしているのを黙認している場合、これは労働時間であり、休憩時間とはみなされず、別途休憩を与えなければなりません。

また、電話や来客の応対のために待機することが必要とされている場合は、実際に電話に応対する時間だけが労働時間となるのではなく、待機している時間(手持ち時間といわれます)も含めて労働時間となります。

結果的に電話や来客がなく応対が必要でなかった場合も、休憩時間とはみなされません。
電話や来客に応対する必要があれば、輪番制で昼休み当番を決めて電話や来客に対応するなどの措置をとることです。

なお、交代で休憩をとる場合、一斉休憩の適用除外事業に該当していない事業については、労使協定が必要になります。

派遣社員やパートに対して正社員と異なる扱いをしても問題ないか

労働者派遣法では労基法などの一部について、派遣先事業主を使用者とみなす規定が置かれています。
このため、派遣社員にも自社の社員同様に休憩を与える必要があります。一斉休憩の適用を除外する協定がある場合、派遣労働者もそれに従うことになります。

パートタイマーに関しては、労働時間によって休憩時間が必要ない場合がありますが、休憩時間を与える必要がある場合は、一斉休憩や自由利用の原則は社員と区別なく適用されます。
休憩時間を与える必要がないとされている労働時間が6時間以下のパートタイマーについても、昼をはさんでの勤務となる場合は、作業能率の点からも昼食をとる時間を与えるようにしたほうがよいでしょう。

また、業務繁忙などで6時間を超えて労働させようとすると、45分の休憩時間を与えることが必要となり、たとえ30分の残業でも休憩時間を含めると終業時刻は1時間15分遅くなりますので、最初から休憩を与えておいたほうがよい場合もあります。

なお、パートタイム労働法や派遣先指針により、休憩施設や食堂などの福利施設は社員と区別なく利用できるように努めることが求められています。

休憩時間も休みなく働くので、そのぶん早帰りさせてほしいという要求があるが…

休憩をとらずに働いて、そのぶんだけ早帰りしたいという要望があった場合、これを認めてよいのは、法律上休憩時間を与える必要がない、労働時間が6時間以下の者だけです。
労働時間が6時間を超える者には労基法34条で「休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」とされています。
休憩時間を労働時間の後先につけて早帰りや遅出をすることは、たとえ本人の要望があっても認められません。
これを認めると、会社は労基法34条違反(罰則あり)となってしまいます。

社外で過ごす場合に問題となりそうなケース

車を運転する可能性のない社員が昼食時に飲酒するのを禁止できるか

飲酒運転は論外ですが、車を運転することがない業務に就いている者であっても、昼食後は酒気を帯びた状態で勤務することになります。
いくら休憩時間が自由に利用できるからといっても、社会通念上も職場の規律維持の観点からも許されることではありません。
休憩時間中の飲酒は厳に禁止し、就業規則に該当する規定があれば違反者を懲戒処分の対象にしても問題ないと考えられます。

休憩時間中の社外での行動を制限できるか

施設管理権なども及ばない、社外での休憩時間中の行動を制限するのは困難です。

職場内に十分な食事・休憩のとれる食堂や休憩室などの設備がある場合には、外出を届出制や許可制にすることは差し支えないとされていますが、禁止するのは合理的な理由がなければむずかしいと考えられます。
社外での食事や休憩を制限したり、従業員が自宅で食事をするために帰宅することを禁止するのは、特別な事情がない限り困難です。

事業の性質上、パチンコやゲームセンターなどへの出入りが好ましくない場合も、それ自体を禁止することは困難です。
ただし、会社名の入った作業服やネームプレートなど所属のわかるものを着用したままでの外出を禁止する程度であれば問題ないでしょう。

昼休みの時間を利用して軽い運動などを行なうことは、リフレッシュ効果も高く、午後からの労働にもよい影響を与えると考えられます。
もっとも、集中しすぎて疲労困憊し、仕事が手につかなくなるような過度の運動については、場合により禁止してもよいと考えられます。

そこまで過激な運動でない場合、単に事故の危険があるという程度では、事故に気をつけるよう本人に注意を喚起すること以上の対応はむずかしいでしょう。

ルール周知と悪習追放のポイント

休憩時間の管理については、会社の規模や設備などによって対応が異なる問題もありますが、コンプライアンスに沿った対応が必要になることは言うまでもありません。

最初に述べたように休憩時間に関しては、自由利用、一斉休憩、労働時間に応じた休憩時間を労働時間の途中で与えることの3点が重要なポイントになります。
自由利用に対して、会社側が休憩時間中の従業員に対して行なえるのは、施設管理権や職務専念義務、就業規則の服務規程などによる制限です。

しかし、休憩時間は従業員が食事をとるだけでなく、リフレッシュする時間でもありますから、必要以上に管理し、行動を制限することは作業能率の低下にもつながりかねず、会社にとっても好ましい結果を生み出さないことがあります。

休憩時間についてのルールを変更したり、新たに設ける場合は、パソコンの私的利用など直接会社に被害が発生する恐れがあるものや、昼休みの飲酒など社会通念上も問題のあるもの以外は、いきなり禁止するのではなく、会議や朝礼、社内報などを利用して現在の問題点とその対応策について、広報・周知という形で理解を求めるのがよいでしょう。

たとえば、昼休みが終了しても仕事が始められる体制になっていない者が多い場合には、チャイムや放送などで休憩時間の始まりと終わりを周知徹底するだけでも、午後の作業開始時を過ぎてもすぐに業務に復帰しない者を減らす効果はあります。

個人の問題行動についても、同様に個人を特定しないで周知して自覚を促す場合と、個人別に注意・指導する方法が考えられます。
いずれの方法をとるかは、問題行動の程度や個人の性格などを考慮して決めるべきでしょう。

就業規則の整備のしかた

休憩に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項とされているほか、雇入れ時に労働条件を明示する場合には、文書での明示が必要とされている重要な労働条件です。

休憩時間に関する規定としては、休憩時間の始期と終期の時刻、繰下げ繰上げに関する事項、一斉休憩の適用除外に関する事項(別途、左下のような労働者代表との労使協定の締結が必要です)自由利用に関する事項などがあります。

ほかに見直しや修正が必要になる可能性のあるものとしては、職務専念義務、誠実勤務義務、職場規律の維持など服務規程に関する事項、施設管理に関する事項などがあります。
規定の整備例を右下に示しましたが、こうした事項も必要に応じて修正することが大切です。

月刊「企業実務」 2012年2月号
小見山敏郎(社会保険労務士)

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