どんな行動がセクハラに当たるのか。事例から考えるセクハラ防止策
人事院規則のセクハラ防止運用指針を読んでみました2022年4月から中小企業でもハラスメント防止措置が義務化されます。
就業規則を改定したり社内研修を実施したりと、すでに手を打っている企業も多いでしょう。
とはいうものの、「ハラスメントは防ぐべきだけれど、具体的にどんなことに注意したらよいのか」と聞かれると、何と言ったらいいのか、回答に迷うこともあるかもしれません。
そこで参考にしたいのが人事院規則に掲げられた「セクハラ防止のために認識すべき事項」についての指針です。
この指針をもとに、セクハラを起こさないようにするには、どんなことに気を付ければよいのかを考えてみます。
目次
セクハラ防止で参考したい人事院規則とは?
そもそも人事院規則とは何でしょうか。
ざっくりいうと、人事院規則とは国家公務員の給与や勤務時間、育児休業について定められたもののことです。
一般企業の従業員に対しては就業規則や労働基準法での定めがあるように、国家公務員に対しては、この人事院規則が参照されることになります。
他企業のセクハラ防止規程を見せてもらうことは簡単ではないでしょ。
ですが、人事院規則であれば公開されているので、いつでも参照することができます。
国家公務員であれ、民間企業であれ、防止すべきハラスメントに違いはありません。
そこで、この人事院規則を参考にして、セクハラ防止措置について考えていきたいと思います。
人事院規則10-10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)を読んでみよう
人事院規則のなかでセクハラ防止について触れているのは、規則「10-10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)」です。
そして、この規則10-10に続いて掲げられている「人事院規則10-10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)の運用について」がポイントです。
こちらを読み進めていくと、最後に「別紙第1 セクシュアル・ハラスメントをなくするために職員が認識すべき事項についての指針」が掲載されています。
今回、注目したいのがこの指針です。
この指針に、どんな発言・行為がセクハラに当たるのか、事例で列挙されています。
かなりのボリュームになりますので、いくつかに区切って見ていくことにしましょう。
セクハラ防止のための指針:職場内外で起きやすいもの
まずは、職場の内外で起きやすいセクハラに対しての指針です。
その内容は、セクハラに当たる「発言」と「行為」の2種類に分けられます。
性的な内容の発言関係
セクハラに当たる発言もさらにふたつに分けられます。
一方は性的な関心に基づくもの、もう一方は性別の違いに対する意識によるものです。
性的な関心、欲求に基づくもの
まずは「性的な関心、欲求に基づくもの」として指針に挙げられているものを見てみましょう。
指針では、次の5つが指摘されています。
- スリーサイズを聞くなど身体的特徴を話題にすること。
- 聞くに耐えない卑猥な冗談を交わすこと。
- 体調が悪そうな女性に「今日は生理日か」、「もう更年期か」などと言うこと。
- 性的な経験や性生活について質問すること。
- 性的な噂を立てたり、性的なからかいの対象とすること。
セクハラ発言としては、イメージしやすいものばかりではないでしょうか。
気を付けたいのは、発言した当人は軽い冗談のつもりでも、聞き手は不快に思うこともあるということです。
「これぐらい、ただの冗談じゃないか」は通用しません。
それは男女間だけでなく、同性間であっても同じです。
男性同士であれ女性同士であれ、卑猥な冗談や性的なからかいなど、相手が不快に感じる発言であれば、それはセクハラです。
性別により差別しようとする意識等に基づくもの
こちらは「男性」「女性」などの性別に対する役割意識の思い込みなどです。
- 「男のくせに根性がない」、「女には仕事を任せられない」、「女性は職場の花でありさえすればいい」などと発言すること。
- 「男の子、女の子」、「僕、坊や、お嬢さん」、「おじさん、おばさん」などと人格を認めないような呼び方をすること。
- 性的指向や性自認をからかいやいじめの対象としたり、性的指向や性自認を本人の承諾なしに第三者に漏らしたりすること。
たとえば女性を「~~ちゃん」と呼ぶのは親しみを込めてのことであって悪意はない、と考える人もいるかもしれません。
ですが意図はどうあれ、それを受け取る人がどう感じるかは別問題です。
そもそも“女性にだけ「~~ちゃん」付けで呼ぶ”のであれば「性別に対する役割意識の思い込み」に該当しうるものとして控えたほうがよいでしょう。
「男性だから」「女性だから」ではなく、性別に関係なく、一社会人として尊重して接することが求められます。
また近年、LGBTに注目が集まっているように、「男性」「女性」という枠に当てはめるべきでないという考え方もあります。
特に上記3の性的指向や性自認についてのハラスメントは「SOGIハラ」としても注意すべきでしょう。
性的な行動関係
こちらは行動が伴うセクハラについてです。
「性的な行動関係」についても、性的な関心に基づくものと性別に対する差別意識の2種類があります。
性的な関心、欲求に基づくもの
- ヌードポスター等を職場に貼ること。
- 雑誌等の卑猥な写真・記事等をわざと見せたり、読んだりすること。
- 身体を執拗に眺め回すこと。
- 食事やデートにしつこく誘うこと。
- 性的な内容の電話をかけたり、性的な内容の手紙・Eメールを送ること。
- 身体に不必要に接触すること。
- 浴室や更衣室等をのぞき見すること。
さすがに「ヌードポスターを職場に貼る」ということはないかもしれません。
ですが、パソコンの壁紙をお気に入りのアイドルやアニメキャラクターに変えている、というのはしばしば見聞きするところです。
最近はいろいろな自治体でアニメとのコラボを実施していますが、ポスターに使用するキャラクターが扇情的だとの苦情が届くことも少なくないようです。
その是非はともかく、職場でも周囲の目があることは意識しておいた方がよいでしょう。
どこでだれが目にするとも限りません。その視線がお客様のものだったら………。
そもそも、会社のパソコンは私物ではありません。
ただの風景写真ならさしつかえないのかもしれませんが、壁紙を不用意に変更させないという社内ルールも検討してみてはいかがでしょうか。
「4.食事やデートにしつこく誘うこと」というのも線引きが悩ましいようですが、“しつこく”というように何度も誘うのはよろしくありません。
とくに上司・部下の間柄だと、本心では嫌でも立場上、断り切れなかったという場合が考えられます。
どういうことかというと、上司の誘いを断ることで仕事に不利益を被るのではないかと恐れるあまり、承諾してしまうようなケースです。
この場合、承諾があったように見えても、セクハラに該当しないとは限りません。
実際のところ、仕事の慰労のために食事に誘うだけで他意はないのかもしれません。
ですが、異性間でふたりきりになるのであれば、相手が断りやすい状況を作るなどの配慮が求められます。
性別により差別しようとする意識等に基づくもの
- 女性であるというだけで職場でお茶くみ、掃除、私用等を強要すること。
こちらはセクハラだと考えずに、役割分担などと考えてしまうケースもあるかもしれません。
しかし、性別だけを理由に女性にお茶くみをさせるのは問題です。
業務の範囲内でお茶くみや掃除を指示することはありえます。
たとえば、総務部が会社の窓口として、来客時の応対をしたり、お茶をお出ししたりすることはあるでしょう。
ですが「女性だから」ではなく、性別に関係なく指示することが必要です。
来客時にお茶をお出しするのは男性であっても問題ないはずです。
セクハラ防止のための指針:主に職場外において起こるもの
セクハラは事務所の外に出たからといって、許されるというものではありません。
そもそもセクハラの定義上、事務所内に限らず、出張先であったり、社員同士の宴会の席も「職場」とみなされます。
「職場」とは
あかるい職場応援団「セクシュアルハラスメントの定義」
労働者が通常働いているところはもちろんのこと、出張先や実質的に職務の延長と考えられるような宴会なども職場に該当します。
したがって、「企業が職場のセクハラ防止を義務づけられる」のですが、事務所(いわゆる職場)を離れたら、会社は責任を負わなくてもよいということにはなりません。
長引くコロナ禍にあって、就業後の飲み会などの機会もなくなりましたが、会社の外に出た場合であっても、セクハラに当たる言動をとらないよう注意しましょう。
性的な関心、欲求に基づくもの
- 性的な関係を強要すること。
当然、執務中ではないから、あるいはプライベートで誘うだけだからという理由で、問題にならないわけではありません。
繰り返しになりますが、相手の嫌がることはしてはなりません。
なお、職場恋愛が禁止されているというわけではありませんが、恋愛関係解消後にトラブルになることがあります。
とくに上司-部下のような上下関係がある場合は注意が必要です。
恋愛関係が解消したのちに「労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害される」ことがあったら、どうでしょうか。
そのせいで、立場の弱い部下の方が職場にいづらくなるようなら、セクハラ問題に発展しかねません。
早急に会社は対策を講じる必要があるでしょう。
性別により差別しようとする意識等に基づくもの
- カラオケでのデュエットを強要すること。
- 酒席で、上司の側に座席を指定したり、お酌やチークダンス等を強要すること。
デュエット曲はたいてい男女二人で歌っているものですが、だからといって「女性なんだから付き合え」と無理やりに歌わせてはなりません。
まして肩に手をまわして歌うようなことがあるなら問題です。
(かつては、しばしばあったと聞きますが……)
酒席での座席の指定についていうと、単純に参加メンバーのバランスをとって割り当てただけであれば、即セクハラということにはなりません。
ですが、女性だから上司の横について、お酌をしろというのであれば、性別による差別意識とみなされるでしょう。
上司にお酌をする、というのもお茶くみの例と同じで、女性特有の役割ではありません。
なお、往々にしてセクハラは男性から女性に対して行われることが多いのですが、もちろん逆の場合もあり得ます。
ところで「お酌やチークダンス等を強要すること」とありますが、チークダンスを踊る機会などあるのでしょうか。
筆者のまわりでも若い人だと、そもそもチークダンスを知らない人もいました。
皆様はいかがでしょうか。
と思いきや、現に行われており、ハラスメントの被害が出てもいるようです。
男女共同参画局
「令和3年度政治分野におけるハラスメント防止研修教材」等の作成に関する検討会(第1回)
「資料3:政治分野におけるハラスメント防止研修教材の作成について」参照
こちらの検討会(令和4年1月13日開催)の資料に言及がありました。
全国の地方議会議員を対象に実施した調査によるものですが、チークダンスを強要されたセクハラがあったようです。
・女性議員が同じ会派の男性議員に対して無理やり体を密着させる。
上記「資料3:政治分野におけるハラスメント防止研修教材の作成について」(PDF)
・酒席の大勢の前でチークダンスを強要し、胸などを触られる。
チークダンスかどうかにかかわらず、不用意に異性の体に触るとセクハラになりえます。
また、えてして行為者本人にセクハラの自覚がない場合もありますから、周囲の人が注意してあげることも大切です。
おわりに
「セクハラをしてはいけない」「ハラスメントを防止します」といっても「では、どうしたらいいの?」という投げかけが返ってくるかもしれません。
そのとき、ここまで見てきた人事院規則のような指針があると、説明がしやすいのではないでしょうか。
指針に書かれてあるようなセクハラの具体例があると、理解も深まります。
またセクハラの場合、パワハラと違って、業務との線引きに困ることもないはずです。
パワハラの場合、ハラスメントと指導・注意の線引きが難しいという声はよく聞くところです。
厳しく叱責することが必ずしもパワハラに該当するとは限りませんが、その境目を見極めるのは難しいかもしれません。
それに比べるとセクハラの場合、その発言や行為は業務にかかわるものではありません。
セクハラ防止に関しては、ここでご紹介した人事院規則なども参考に、ハラスメントの起きない職場環境づくりに取り組みましょう。
厚生労働省でも研修用動画を多数公開しています。
こちらも社員研修にご活用ください。
【あかるい職場応援団】(厚生労働省)
動画で学ぶハラスメント