履歴書の様式変更と公正な採用選考の注意点
性別欄が任意記載に!2021年4月、厚生労働省より発表された新様式公正な採用選考を確保する観点から、2021年4月、厚生労働省から履歴書の新様式が発表されました。
一見、大きく変わったようには見えないものの、ある項目については「書かなくてもよい」、ある項目については「削除する」といった措置が取られています。
その内容はいずれも、会社の採用選考において注意すべきものです。
ここでは労働政策審議会で提示された内容を参照しつつ
・厚生労働省は履歴書のどこを変えたのか
・どんな経緯で履歴書の様式を変えたのか
を紹介していきます。
そのうえで、公正な採用選考を進めるための注意点を考えてみます。
履歴書様式のどこが変わったのか
公正な採用選考を実現するために、厚生労働省が示している変更点は次のふたつです。
参照:厚生労働省 報道発表資料「新たな履歴書の様式例の作成について」
- 性別欄を「男・女」の選択ではなく任意記載欄に変更。
なお、未記載とすることも可能とする。 - 「配偶者」「扶養家族数」「配偶者の扶養義務」「通勤時間」の各欄を様式内に設けない(各欄を削除する)こととする。
従来のJIS規格様式と比べると、それぞれ下図の箇所が変更されています。
(第163回 労働政策審議会安定分科会資料より)
なぜ履歴書の様式変更があったのか
これまで厚生労働省はJIS規格の履歴書の様式例を推奨していました。
それが今回なぜ見直しを図ることになったのかというと
令和2年7月にLGBT当事者を支援する団体等から、厚生労働省、日本規格協会等に対しまして当該履歴書様式の検討、要するに性別欄の削除等を求める要請があった
第163回労働政策審議会職業安定分科会 議事録
ということだそうです。
これを機に公正な採用選考を進めるうえで参考となる様式を見直し、性別欄の記載方法をはじめとする、今回の履歴書様式例の変更に至ったとのことです。
ところで2022年4月からは中小企業においてもパワハラ防止措置が義務化されます。
このとき、いわゆるパワハラだけでなく、性自認等に対するハラスメント(SOGIハラ)も防止することが求められます※。
※性自認等に対するハラスメントも「精神的な攻撃」「個の侵害」といったパワハラの6類型に含まれています。
ハラスメント防止措置において、企業にはハラスメントを防ぐための教育・啓発が求められているわけですが、人事をはじめ採用面接に携わる方は、履歴書の新様式において性別欄が選択式でなくなった意味もよくよく理解しておきましょう。
履歴書の新様式に関する注意点
公正な採用選考を確保するためとはいえ、今回の発表はあくまで「様式例」であって、その変更内容に法的拘束力はありません。
厚生労働省が推奨する新様式の履歴書を使用するかどうかは、企業それぞれの判断にゆだねられています。
一般に流通している履歴書にはまだまだ、選択式の性別欄や扶養家族の有無・通勤時間等を記載する欄が設けられているようですので、引き続き従来型の履歴書が使用されることも予想されます。
とはいえ、すでに性別欄のない履歴書が販売されていることも、ご承知おきください。
<参考:コクヨ 性別欄のない履歴書を発売>
なお、第163回労働政策審議会職業安定分科会の議事録を見るかぎり、性別欄のありかたについては「記載がなかった場合にそれをもって企業が採用選考から落とす」ことへの懸念や、多様性の尊重または採用における性差別をなくすという観点からみた記載方法の提案もされていました。
したがって、履歴書の様式については今後引き続き議論されることがあるかもしれません。
また、これまでたびたび「公正な採用選考」という言葉を使用したように、応募者の
・基本的人権を尊重する
・適正・能力に基づいて行う
ことを配慮するのに変わりはありません。
この点で、履歴書に記載欄があるかどうかは別にしても、応募者の性別や扶養家族の有無を聞くときは注意した方がよいでしょう。
実際に採用選考において配慮すべき点について、次で整理してみます。
採用選考で配慮すべきこと
では、採用選考で注意すべき点をしっかり確認していきましょう。
採用選考において、厚生労働省では次のA・B・Cについての配慮を求めています。
これらA・B・Cに掲げるものは適性と能力に関係がない事項であり、応募用紙等に記載させたり、面接で尋ねたりすることは就職差別につながりうるものとして注意喚起されています。
- 本籍・出生地に関すること (注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)
- 家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)
- 住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
- 生活環境・家庭環境などに関すること
- 宗教に関すること
- 支持政党に関すること
- 人生観、生活信条に関すること
- 尊敬する人物に関すること
- 思想に関すること
- 労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
- 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
- 身元調査などの実施 (注:「現住所の略図」は生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があります)
- 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
以上、A・B・Cすべて 厚生労働省:公正な採用選考の基本より
A「本人に責任のない事項」に書かれているように、応募用紙等に記載させることが職業差別になりうるものとして、家族に関することが挙げられています。
この点、履歴書の新様式で配偶者の有無や扶養家族についての記載欄が削除されたのもうなずけることではないでしょうか。
しかしながら、家族についての質問は会社側からすると、会話の糸口になるのか、あるいは場を和ませやすいのか、ついつい質問してしまいがちのようです。
実際、不適切な採用選考として応募者から指摘のあったものの約半数が家族に関する質問だったということです。
Bについて余談ではありますが、「尊敬する人物は?と聞かれたときに、親を挙げるものではない」というのが面接の心得として紹介されていたのをかつて目にしたことがあります。
ということは、面接の想定質問として「尊敬する人物は?」が考えられていたわけです。
以前は気軽に質問できたことだったのかもしれませんが、少なくとも現在、尊敬する人物について質問することは差し控えた方がよさそうです。
採用面接の質問例を共有しよう
今回行われた履歴書の様式変更はLGBTへの配慮など、あえていえば、いまどきの配慮が織り込まれた公正な採用選考を実現するためのものといえます。
人事のご担当者様なら仕事柄、採用面接において何がOKで何がNGか、あれこれ気をつかうところですが、採用面接にはいろいろな部署の人々がかかわってきます。
そのため面接官のなかには、履歴書に性別が書かれていないことに違和感を覚える方もいらっしゃると思われます。
性差別の防止や多様性の尊重が求められる昨今、悪気はなくても不用意な言動は大きなトラブルになりかねません。
採用面接に関わる方であれば誰でも、応募者に適切な配慮ができるようにしましょう。
では、採用面接にはどのように臨んだらよいのでしょうか。
この点、大阪労働局が提示している採用選考における質問例が参考になります。
とくに「就職差別につながるおそれのある不適切な質問の例」では、どんな質問が不適切で、なぜいけないのかが具体的に示されています。
そのうえ、ハローワークが指導した不適切な質問事例も掲載されています。
たとえば以下のような事例が紹介されているので、とても参考になるでしょう。
会社:自宅は、○○市のどのへんですか。家の近くには、何がありますか。
就職差別につながるおそれのある不適切な質問事例:事例3
生徒:○○公園の近くです。
会社:通勤が不便だけど大丈夫ですか。
会社は、通勤方法について訪ねようとしているが、結果として住居環境について訪ねることとなっている。
履歴書の様式ひとつ取っても現代を反映しています。
公正な採用選考ができるよう、採用面接の関係者にはしっかり社内周知・共有していきましょう。
○厚生労働省でも事業者向けのリーフレットを発行しているので、こちらもご参照ください。
厚生労働省:新たな履歴書の様式例の作成について(PDF)
○「厚生労働省履歴書様式例」はこちらからダウンロードすることができます。
公正な採用選考の基本(2) 公正な採用選考を行うためには・・・・
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