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事例性と疾病性で考える 会社のメンタルヘルス不調者対応

 

はじめに

メンタルヘルス不調に関しては、当人がとてもつらい気持ちでいるのはもちろん、そのご家族も大変つらい思いをすることが多いものです。

ですから会社として、大切な従業員やそのご家族をケアしてあげたいと思い、必要な配慮をすることはとても重要なことです。

その一方で、メンタルヘルス不調者にどう対応してよいのかわからなくて困るということも経営者や人事担当者などからよく聞きます。

会社は医療機関でもボランティア組織でもありません。
少し冷たく聞こえてしまうかもしれませんが、治療をしたり、仕事ができない場合にいつまでも面倒を見たりすることはできないのです。

どこまでもその人に付き添うことができるのは家族だけです。

優しい気持ちはとても重要です。本当に重要です。

しかし、会社としては“ここまで”という線引きをする必要があります。
そうしないと、優しい担当者ほど苦しくなって、ご自身までメンタルヘルス不調になりかねません。

会社によって対応できる範囲は違いますが、メンタルヘルス不調者への基本的な対応の考え方を解説します。

事例性と疾病性からメンタルヘルス不調を判断する

メンタルヘルスについては、もう少し視点を広げると、産業保健という分野に含まれます。産業保健とは、組織での従業員の安全や健康を確保・増進し、ひいては生産性の向上を図ることを目的としたものです。

その産業保健という領域での重要な言葉に「事例性」「疾病性」という言葉があります。

事例性とは、職場で実際に起こっている困りごとを指します。

たとえば「欠勤や遅刻が多い」、「お客様からのクレームが多い」、「納期を守れない」、「他の社員とたびたびトラブルを起こす」などです。

一方、疾病性とは「どんな病気か」、「その重症度はどのくらいか」などを表します。

メンタルヘルス不調に対して、会社は基本的に事例性で判断してください。これは重要なポイントです。

というのも、疾病を理解し、可能な配慮などを行うこともとても重要ですが、会社が疾病性を元に対応に当たるとしばしばトラブルに発展するからです。

「あなたはおかしいから精神科の病院で診てもらいなさい」と指示したり、ご家族に対して「息子のAさんが精神的におかしいので、病院に連れて行ってください」などと話したりしたら、反発を招き衝突することが容易に想像できると思います。

ですから会社は、メンタルヘルス不調者ご本人(場合によってご家族)に対して、事例性でお話をすることが重要です。

たとえば「今まではこの作業でミスをすることがなかったのに、今週3回もしている」という感じで伝えます。
そのうえで「具合でも悪いの?悩みがあるなら聞くよ」と相談を促したり、「一度、産業医さんとお話してみたら?」と産業医面談を促したりします。

事例性に基づくメンタルヘルス不調のサイン

ポイントは「いつもと違う」ということです。

遅刻をしたことのない人がよく遅刻をするようになったり、穏やかだった人が感情的になり周りとトラブルを起こしたりするようになったという事例性で考えます。

なお、いつも遅刻をする人が今日も遅刻をしたからといって、メンタルヘルス不調という話にはなりません。
常態的に遅刻の多い人は注意・指導の対象となり、注意・指導をしても改善しない場合は、懲戒処分の対象となり得ます。

※フレックスタイム制度などでなければ、労働契約で所定労働時間は決まっており、始業時間に仕事を始められるということも契約の一部です。

以上のような、組織にとっての問題行動については、メンタルヘルス不調を原因とする精神疾患の周辺症状である場合とパーソナリティの偏りや発達障害に由来する行動特性による場合があります。

どちらが原因なのかは事例性ではなく疾病性に関わることなので、その判断は会社にできません。医師のアドバイスを求めてください。

そして、精神疾患を原因とする場合は療養のため基本的には休職することが必要であり、パーソナリティの偏りなどによる場合は、会社として配慮は必要ですが、一定以上の非違行為は本人の責任となります。

また、職場で業務上すぐさま困るということになっていなくても、声がけが必要なこともあります。

たとえば、いつもは清潔でアイロンのきいたパリッとしたワイシャツを着てくる人が、髪がぼさぼさでしわくちゃのワイシャツで来るようになった場合などには、早めに声がけをした方がよいでしょう。

メンタルヘルス不調と思われる社員への接し方

部下がいつもと違うなと感じたたら、上司は声がけをすることが重要です。

また、問題行動がある場合については、上司としてもイライラしてしまい感情的になりがちですが、そこは一息ついて、一方的に叱るのではなく「どうしたのか?」という問いかけから入るようにするとよいでしょう。

上司が相談に乗るということもひとつの方法ですが、上司が無理に相談に乗り続けようとすると、上司もつらくなりますし、本人のためにもよい結果になりません。

部下のメンタルヘルス不調を感じたら、早めに産業医や産業保健スタッフなどに繋ぐことが重要です。

医師への相談手順や社員への案内

上司が部下から相談を受けたり、部下のいつもと違う状況を見て不安に思ったりした場合、その部下の対応について上司が産業医へ相談をすることも考えられます。

部下のプライバシーに配慮する必要はありますが、上司も一人で抱え込まず、必要な支援を受けることも重要です。

健康相談等、社員が相談できる窓口の場所や利用できる時間等については、個別のカードを配布したり、社内のイントラネット上にわかりやすく掲示したりして、社員が相談しようと思ったときに、すぐに相談できるようにしておきましょう。
そうでないと、いざ相談したいと思ったときに機能しませんので注意してください。

また、相談内容については、プライバシーが守られることを明確にしておくと相談しやすくなります。

山本 喜一 氏(特定社会保険労務士、精神保健福祉士)

社会保険労務士法人日本人事代表。
大学院修了後、経済産業省所管の財団法人に入構。計測部門、法務部門を経て独立。社外取締役として上場も経験。上場支援、メンタルヘルス不調者、問題社員対応などを得意とする。
著書「労務管理の原則と例外」新日本法規、「就業規則の見直しと運用の実務」日本法令、「企業のうつ病対策ハンドブック」信山社等多数。

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