役員・社員が海外出張をしたときの間違いのない経理処理
国内とは異なる点に注意海外出張は、国外で業務がなされることから、会社のコントロールが効きにくくなるだけでなく、支出の管理や会計処理について注意を要します。
海外出張にかかる税務について解説します。
海外出張と海外赴任の区別の基準として、厚生労働省は、海外出張者を“単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、国内の事業場に所属し、その国内の事業場の使用者の指揮に従って勤務する人”と定義し、労災保険の適用範囲を明確にしています。
すなわち、社員の所属、およびどこの指揮下にあるのかで判断することとされています。
一方で税務上は、各経費の損金経理の可否や、日本法人と海外子会社のどちらが負担すべき経費なのか等について、あくまで個々の状況に応じて判断することとしています。つまり、海外出張か海外赴任かが判定を左右することはあまりないように考えられます。
目次
旅費交通費は損金計上できるが国内か国外かに注意
役員や社員が海外出張をした場合は、その旅費、宿泊費、出張手当などは、通常必要と認められる範囲において、旅費交通費等として損金計上できます。
これらは旅費交通費等の支給のため所得税法上は非課税であり、給与と一緒に支給したとしても源泉徴収の対象には含まれません。
旅費交通費のうち、国内における移動にかかった分については消費税法上の課税取引となります。その他の現地への飛行機代や宿泊費、出張手当については課税取引に該当しません。
また、手土産等の購入費用は交際費に該当しますが、日本国内で購入した場合は課税仕入れに該当し、空港内の免税店や機内販売、現地で購入した場合は課税仕入れに該当しません。
消費税においては、物品の購入や役務の提供がどこでなされているのかで課税取引か否かの判断を行ないます。
日当は海外への出張においてなされる業務への対価であることから、その役務の提供は海外であると考えられ、消費税の処理上は課税仕入れに該当しません。
海外出張手当については、一般的に、その支給の名目は海外への渡航準備のための支度金であり、その消費は日本でなされることが多いと考えられますが、これはそもそも給与の一部を構成する加給金の1つです。
よって、海外出張手当は消費税の処理上、課税仕入れには該当しません。
これらの税務上の原則的な取扱いをまとめたのが図表1です。
ただし、旅費や出張手当等について、通常必要と認められる範囲を逸脱して支給された場合には、その逸脱した部分は給与と判断される可能性があります。
支給が役員に対するものであった場合には、当該役員報酬は定期同額給与の要件を満たさないため、損金計上が認められません。
支給が社員に対するものであった場合には、法人税法上の所得の計算上は大きな違いは生じないと考えられますが、旅費交通費が給与であると認定されるため、社員の所得税が増える可能性があります。
また、後で給与であると判断された場合は、会社に源泉徴収義務違反があったと判断され、修正申告が必要となり、追徴課税されてしまう可能性があります。
さらに、交通費ではなく給与と認定された場合には、仕入税額控除に含めることができないため、消費税の納税額も変わってしまう可能性があります。
この場合も納付すべき税額が増えます。
「通常必要と認められる範囲」を旅費規程に定める
旅費交通費の会計処理が否認されてしまうことについては様々なリスクがあります。
あらかじめ旅費規程を整備し、出張者の職位や業務内容等に応じて支給・補助をする費用の額や範囲を、「通常必要と認められる範囲」で具体的に定めておく必要があります。
旅費規程には、旅費や宿泊費を実費精算とするのか、それともあらかじめ定めた一定額を支給するのか、といったことについてもルール化しておく必要があります。
なお、通常必要と認められる範囲について、法規等で具体的な金額は示されていません。
法人税基本通達9-7-6の注書きには「社会通念上合理的な基準によって計算されている等不当に多額でないと認められる限り、その全額を旅費として経理することができる」と記載されています。
同業他社の海外出張手当の支給実態を参考にして決めるなど、一般的に適切と思われる範囲に抑えて規定すれば、通常は損金計上が認められると考えられます。
海外子会社に起因する海外出張に注意
海外子会社に起因して海外出張の必要が生じ、その旅費等の経費は海外子会社が負担すべきと判断されるような場合には、当該経費は親会社の経費とは認められず、親会社の負担は海外子会社への寄附や利益移転とみなされる可能性があります。
そうしたケースでは、海外出張費はどちらが負担すべきものかについて適切な判断をする必要があります。
親会社から海外子会社への寄附金と判断された場合には税務上の寄附金の処理が必要になり、また海外子会社への利益移転であると判断された場合にも親会社の損金計上が否認され、修正申告となる可能性があります。
「海外子会社の監査等」を目的として海外出張をする場合には、親会社が費用を負担することも可能と考えられます。
一方、海外子会社の商談に同行してサポートするために親会社の社員が海外出張をするような場合には、当該旅費を負担すべきなのは海外子会社の側だと判断されるでしょう。
そうしたケースでは、子会社に海外出張費用を後で請求する、などの実務が生じます。
領収書の持ち帰りが必要となる場合などもありますので、これらの判断と取扱いについて、出張者に事前に通知しておくことが望まれます。
業務と業務外の区分をどのように判断するか
海外出張の準備や海外出張中の出費の損金計上については、当該経費が業務上の必要性に応じて出費されたものと立証できるか否かで判断が分かれます。
一般的には、支出の日付、金額、支払先、内容などについて記録を残しておく必要があります。
個人的な土産代や業務に関係のない飲食費等、内容が業務に関連していない場合には、会社の事業のために要した支出とは認められません。
業務外の経費を出張者に支給した場合には、当該費用は出張者への給与と判断されます。
そのため、役員や社員の海外出張が、個人的な観光等、業務に関係のない旅行と併せてなされたものである場合には、出張旅費について業務期間と業務外の期間に応じて按分し、業務期間に該当する部分の費用についてのみ損金計上する必要があります。
業務外の期間も含めて旅費交通費を支給した場合には、業務外の期間に対応する支給額は役員や社員への給与と判断されます。
ただし、業界団体の主催する視察旅行のスケジュールに組み込まれているなど、現地における観光があくまで海外出張に付随して行なわれるものであり、海外渡航の直接の動機が会社の業務によるものである場合には、観光部分の期間についても海外出張として扱うことが可能です。
業務上の経費として損金計上した場合には、その出費が業務上の経費に該当するものであることを示す証憑を残しておく必要があります。
海外出張に付随して発生した費用のうち、会社の経費として計上したものは、支出の証跡、その内容等について記録が必要です。
出張から帰ってきた社員には、図表2のような出張報告書の提出を義務付けるとともに、経費精算書に現地で入手した訪問先の名刺、パンフレットなどの資料も添付し、まとめて保管しておくとよいでしょう。
この場合の保存期間は、他の一般的な帳簿書類と同じく7年間となります。
家族等の同伴者はどう取り扱われるか
海外出張に家族を同伴させた場合、その旅費や宿泊費等は、当該家族が会社の役員や社員ではない限り、業務上の経費としては認められません。
海外赴任は赴任者の選択により家族を同伴することもあると思いますが、一般的に海外出張には家族は同伴させないためです。
家族同伴が必要になるほど長期になることが予想される場合は海外赴任として扱い、家族同伴の要否についての検討を要します。
以上のように、海外出張には通常、会社の役員や社員ではない家族を同伴させることはないと考えられます。そのため、当該家族についての旅費等は、会社の経費としては認められず、海外出張者への給与とみなされる可能性があります。
出張者が役員であった場合には、役員報酬否認による税務上の加算処理がなされます。
家族が会社の役員や社員ではない場合、海外出張における業務の担当者として適切かどうかの検討をしたうえで、適切と判断された場合には、当該家族に対する出張経費も会社の費用として計上することが認められると考えられます。
ちなみに、
- 海外出張者が健康上の問題を有しており、常時家族からの生活の補助を必要とする
- 語学や専門知識の観点から業務補佐のための同行者が必要なものの、社内に適切な人材がいないために家族に当該補佐を委嘱する
といったケースでは、海外出張に同伴した家族が役員や社員に該当しないような場合でも、通常必要と認められる範囲で出張旅費の損金計上が認められます。
そうした事情があるのなら、それを証明する資料を作成し、保存しておくことが求められます。
社員の給与の所得税はどう取り扱われるか
海外出張の期間は通常、数日から数週間にとどまるものと考えられることから、海外出張者の給与に海外で所得税が課税されるケースは少ないと考えられます。
一般的には183日ルールと呼ばれる「短期滞在者免税」という制度があります。
これは、外国と日本との間で租税条約を締結し、183日を超えない出張期間に対応する給与所得については、お互いに所得税を課さない(自国内での給与課税の対象とする)という規定を設けているものです(図表3)。
ただし、次の場合は海外出張者に対して日本で支給する給与についても、海外における所得税の対象となる可能性があり、注意が必要です。
- 海外出張先の国と日本との間で短期滞在者免税を規定した租税条約が締結されていない場合
- 海外出張が長期にわたるなどの場合
出張先の国が日本との間で短期滞在者免税を規定した租税条約を締結していない場合、給与のうち当該国において行なった業務に対応する部分は、現地における所得税の対象となってしまいます。
このとき、日本における所得税の納税の際に現地ですでに納めた税額を控除する仕組み(外国税額控除)はありますが、確定申告が必要となります。
2014年10月1日現在、日本が租税条約を締結している国は63か国ですので、出張先の国が日本と租税条約を締結していない可能性があります。
また、短期滞在者免税の基準がたとえばタイでは183日ではなく180日とされています。183日と定められていても、そのカウント方法が連続する12か月間でのカウントなのか、暦年単位で「その年の滞在期間」が183日を超えていなければ適用されるのかが租税条約により異なっていたりします。
したがって、実務においては各国との租税条約の内容を確認する必要があります。
月刊「企業実務」 2014年12月号
檜田和毅(公認会計士・税理士)