×

記事検索

商品検索

自己株式の取得・処分に関する会計と税務

中小企業でも増えている
 

自己株式の取得とは、会社が発行した自らの株式を取得することをいいます。
上場企業だけでなく中小企業やそのオーナーにとっても、上手に活用すれば大きな効果が得られます。
ここではその実務処理を紹介します。

自己株式を取得する意味とは

株式会社は、個人や法人からの出資を募って設立されます。
その出資金に応じて出資者に株式が交付され、出資された財産を事業等に運用して利益を生み出していくのが会社の目的です。

かつては、会社が自社の株式(自己株式といいます)を取得したり、保有することは制限されていました。
自己株式を取得することは、会社に株式が残る一方、会社の出資金等が減少するのですから、取引先、融資元などにとっては会社の安定が損なわれ、債権者の利益を害する恐れがあるわけです。
しかし、経済社会の変化などから会社法が改正され、一定の場合には会社が自己株式を持つ(取得や保有など)ことが可能になりました。

自己株式を利用すると、合併や会社分割といった企業再編の有力な方法になること、上場企業では持ち合い株の解消売りの受け皿にもなること、株式を敵対的買収者に取得される事態が防げること、などのメリットがあります。
また、通常は移動させにくい中小企業のオーナーの自社株を、会社が引き受けることなどをはじめとして、オーナーの相続税対策、中小企業の事業承継にも活用できます。

このように自己株式は、使い勝手のよいツールとして見直されつつあります。

取得する際の条件と権利の一部規制

有効に活用すればメリットが得られる自己株式ですが、実は、無条件で会社が取得できるわけではありません。
取得できるのは、図表1 に掲げる事由の場合のみとなっています。

そして、過度な財産の減少(自己株式の取得は資本の払戻しという面があるため)とならないよう、原則として分配可能額(簡単にいうと貸借対照表の資本の部のうち資本金、資本準備金、利益準備金以外のもの)を超過してはならないという財源規制もあります。

また、一般に株式の所有者がもつ権利には共益権(権利行使の結果が株主全体の利益につながるもの)、自益権(その株主個人の利益だけに関係する権利のこと)があるとされます。
しかし、自己株式とは株式会社が保有する自己の株式のことですから、このうちの共益権を行使できないことになっています。

たとえば、自己株式に共益権の1つである議決権がないのは、もしも議決権があれば株主総会で会社(経営執行部)が総会議案に賛成できてしまうので、経営幹部は他の株主の意向を無視して好きなように会社を運営できてしまうからです。
このように権利の一部を制限することで、経営の執行部や一部の者の利益になってしまう可能性を排除しているのです。これは、他の共益権についても同様です。

自己株式を取得する際の手続き

自己株式を取得する際の手続きは、譲渡人を定めない場合とあらかじめ譲渡人を定めた場合とで方法が異なります。

譲渡人を定めない場合では、株主総会の普通決議で、取得する株式の数(種類別、種類ごとの株数)、交換に交付する金銭等の内容と総額、取得することができる期間などを決定します。

一方、譲渡人を定める場合も株式の数(種類別、種類ごとの株数)、交換に交付する金銭等の内容と総額、取得することができる期間、譲渡人となる株主を定めるほか、こちらは株主総会での特別決議を必要とします。
ただし、譲渡人以外の株主から譲渡人に加わりたい旨の書面での申し出があれば、それに応じなければなりません。
いずれも、定時総会、臨時総会のどちらでも構いません。

自己株式を取得した際の会計処理と税務処理

自己株式の取引を記載する際、重要なのはその取得原価です。

会計上も税務上も自己株式の取得原価は付随費用(手数料や事務費など)を含まない対価の額になります。
そしてこれを貸借対照表の純資産の部、株主資本のなかの控除項目(資本等の減少)に記載します。

自己株式の取得は、過去に受けた出資を払い戻す行為であって資産の取得ではないので、貸借対照表の資産の部に記載するのではなく、資本の部に控除する形で記載することになります。

それでは、実際の処理についてみていきましょう。

会計上は、付随費用を含まない実際の取引金額が自己株式の価額です。
自己株式を有償で取得した場合は対価を支払うべき日(金銭以外の方法なら引き渡された日)に取得があったものとして株主資本から取得原価で控除します。
期末に保有する自己株式は、株主資本の末尾に控除形式で記載します(図表2)。

さて、法人税法上、減少分は現実に交付した金額なので、無償で自己株式を取得すれば減少する資本等の金額はゼロになります。
低廉での取得でも、減ったのは支払った低廉の金額分だけなので、その分だけが控除部分となります。
また、自己株式を取得するのは資本取引に当たりますので、発行会社に益金が発生せず、課税関係は生じません。

一方で、株式を会社に売却した売り主には、課税関係が生じます。
たとえ、自己株式を手放した側(売り主)に売却益などが生じない適正価格であっても、図表2のように、「利益積立金額の払戻し分」が生じ、これはみなし配当(図表2の*部分)となります。

みなし配当の取扱いは、売り主が個人か法人かで処理が異なります。
個人株主が売り主の場合はみなし配当は配当所得となり、みなし配当から源泉徴収されます。

また、売り主が法人であればみなし配当は益金となり、やはり利益として認識されますが、個人と異なり法人税法上は配当金の益金不算入となります。
もっとも、例外として益金不算入が適用されないこととなる、みなし配当の元本である株式もあります。
これは、当初から発行法人による自己株取得が予定されているものです。
これも、益金不算入にしてしまうと、利益剰余金が課税されないまま社外流出することになるからです。

ところで、株式の売買が適正価格ではなく適正価格より高額、または低額で行なわれる場合は事情が異なります。
これは、(1)適正な時価での資本取引(自己株式の取引は資本取引です)と、(2)時価と取得価額との差額が表わす損益取引、の混合取引が行なわれたと考えられます。

適正価格以下の価格で取得の取引が成立し、明らかに低額な価格であれば、取得した会社側には利益(受贈益)が発生します。
逆に、明らかに高額な価格で取引された場合は、時価との差額は個人に対する寄附金となります。
自己株式を売却した側の税金は、図表3のようになります。

個人の場合、みなし配当は配当所得となり、確定申告時に他の所得と合算して課税され、支払ったみなし配当に係る源泉所得税は支払うべき所得税から差し引かれることにより精算されます。
法人の受贈益は益金となり、課税所得を構成します。
寄附金は定められた損金算入限度額までしか損金になりませんので注意が必要です。
地方税や国税での特別なものはありません。

なお、自己株式の取得、処分あるいは消却に係る費用(付随費用)は、営業外費用として処理します。
資本の払戻しとして考える税法でも同様で、有価証券取得のための費用とはなりません。

次に、自己株式の取得や保有ではなく、会社が保有する自己株式を処分する際はどうなるでしょうか。
その場合には、処分対価と帳簿価額の差額が処分差益または処分差損となり、その差額分、その他資本剰余金を増減することになります。

企業再編と自己株式の活用

企業再編は必ずしも自己株式を利用しなくても実現可能ですが、自己株式の利用によって簡単に、また調達資金を小規模にできる可能性があります。

一方、吸収合併、株式交換、吸収分割は吸収型組織再編といわれますが、この場合にも新株の発行や金銭の提供だけでなく自己株式を対価として提供することができます。
かつてはこのケースでもインサイダー取引規制の対象になっていましたが、現在は規制対象外になっています。

自己株式を吸収合併の対価として消滅会社の株主に割り当てた場合は、次のようになります。
割り当てた存続会社では自己株の処分対価から自己株式の帳簿価額を控除した額を自己株式処分差額として、その分を払込資本の増加とします。
自己株式の処分対価とその帳簿価額の差額のみが払込資本の増加額になるという点は大きなメリットです。
これは、株式交換による事業再編でも同様です。
資本の部の内訳は合併契約の規定によりますが、差額が生じるケースもあります。
プラスになれば問題はありませんが、マイナスの際はその他資本剰余金から減額します。
さらに足りない場合があれば、その他利益剰余金の減少とします。

株式の分散防止と相続対策

株式の分散防止

中小企業で相続等が発生すると、株式が分散してしまって経営に支障をきたすこともあります。
株式を買い戻す際も、事業の継続に理解のある親族ばかりではなく、より高額な価格で換金したいと考える場合も想定されます。

このため、会社が自己株式を取得できることを活用し、株式を相続等した者に対して売渡請求ができる旨を定款で定めておけば、株の分散など不本意な事態を招かずに済みます。

相続対策

また、自己株式と切っても切れないものが中小企業オーナーの相続対策です。

中小企業ではオーナーが死亡して相続が発生した場合、一定の要件を満たせば、そのオーナーの所有するその会社の株式を後継者が受け継ぎ、事業承継する場合に相続税(贈与税)の納税猶予を受けることができます。
中小企業者で非上場会社かつ風俗営業でないこと、資産管理会社にも該当せず、従業員が1人以上という会社の要件、さらに、会社の代表者でその者を含む親族が議決権(株数ではない)の過半数を保有し、かつこれらの者のなかで筆頭株主であったという現経営者の要件を満たす必要があります。

また、後継者が親族で相続直前には会社役員、しかも相続開始から5か月後に代表者になっていること、相続開始時にその後継者を含む親族で議決権の過半数を保有し、しかも筆頭株主である後継者がいることが必要です。
そして申告期限後5年間、代表を務め筆頭株主である、雇用の8割以上維持、猶予対象株を継続保有、上場会社、風俗営業、資産管理会社でない場合に納税が猶予されます。
たとえば、相続税のケースで自社株7億円、その他財産3億円、合計10億円の相続財産で、相続人は事業承継者と非承継者各1名だけとすると、猶予額が約2億2,000万円になることがあります。
自社でも利用可能かどうか、検討しておくとよいでしょう。

また、自己株式を購入する時期(適正株価)次第では、オーナーの相続財産引下げ効果が生じる場合もあります。
さらに、個人が非上場会社の株式をその発行会社に買い取ってもらう場合、前述のように利益剰余金に相当する額はみなし配当として課税されますが、相続等の場合で相続税が発生するケースでは、相続開始の日の翌日から申告期限の翌日以後3年以内にその企業に株式を譲渡すると、みなし配当課税がありません。
一方、相続税額の一定割合を譲渡所得の計算上、取得費に加算できる特例もあります。

このように、自己株式には様々なメリットがあります。
上手に活用して、経営の安定に役立ててください。

月刊「企業実務」 2014年3月号
宮 政雄(税理士)

お買い物カゴに追加しました。