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有期労働契約の試用期間を設定・運用する際の留意点

厳密な労務管理が前提
 

正社員として雇用する前段階として、いったん有期雇用契約を結び、問題がなければ本採用するという手法がありますが、その運用には注意が必要です。想定される問題と対応策を解説します。

会社が社員を雇用する場合、適性や能力を判断するために「試用期間」を設けることが一般的です。

しかし実際は、試用期間中であるからといって簡単に社員を辞めさせることができるわけではありません。
そのため、まずは有期契約を締結して一定期間勤務してもらい、その期間中に労働者の適性や能力を判断したうえで、問題がなければ正社員として正式に採用するという方法を取っている中小企業も少なくありません。
会社としては採用後のリスクを少なくできるために都合がよい方法ですが、その設定や運用を間違えると大きな問題が生じる可能性があります。

試用期間の法的性格と有期契約の試用期間

試用期間とは

試用期間とは、採用後に会社が社員の適性や能力を判断・評価するために設ける一定の期間です。
法律に明文化されてはいませんが、判例により「解約権留保付き労働契約」であると定義されています。(三菱樹脂事件最大判昭48・12・12)。

つまり、試用期間中に採用前ではわからなかった問題が生じたり、社員に適性や能力がないと判断された場合には、会社は留保していた解約権を使い、試用期間中や満了時に雇用契約を終了(本採用拒否)することができるとされているのです。

ここで注意しなければならないのは、試用期間中や満了後に退職してもらうことは、本人の同意を得ない限りは「解雇」となることです。

そのため、客観的にみて合理的な理由があり、かつ社会通念上相当であると認められない場合には、解雇権の濫用として解雇そのものが無効と判断されてしまいます(労働契約法16条)。

試用期間中のほうが、通常の場合よりも広く解雇が認められるといわれます(図表1)

ただし、近年は解雇の正当性が認められる判断基準が厳しくなっている傾向があり、試用期間といえども簡単に本採用拒否をすることはむずかしいといえます。
たとえば試用期間中の解雇が無効と判断された判例として、ニュース証券事件(東京高判平21・9・15)があります。
この判例では、中途入社で6か月の試用期間を定めた正社員を、「営業担当としての資質に欠ける」という理由で入社から3か月強の時点で解雇しようとしたところ、その解雇は無効とされました。

有期契約の試用期間

正社員として採用した場合の雇用契約は、「期間の定めのない契約」に該当します。
試用期間を定めている場合でも、採用当初からのワンセットの契約であり、試用期間中や満了時に本採用拒否を行なう場合には、解雇に準じた基準により判断されますので、簡単に辞めさせることはできません。

そこで、中小企業を中心に、試用期間を「期間の定めのある契約(有期契約)」として結ぶケースがあります。

「試用期間=契約期間」であるため、その期間中の勤務状況や仕事ぶりをみて、適性や能力に問題があると判断した場合には契約満了にて終了とし、問題がなければ正社員として本採用を行なうというやり方です。
これは一見、会社が負うリスクがない方法に思えますが、実際の運用では注意しなければならないことがあります。

有期契約であっても、それが試用期間と解されると判断された場合には、通常の試用期間と同様の取扱いになるという判例があります(神戸弘陵学園事件最三小判平2・6・5)。

この判例では、形式として有期契約を締結していたとしても、それが労働者の適性を評価・判断する目的であれば、「契約期間満了によりその契約が当然に終了する」という明確な合意がなされているといった特別の事情が認められる場合を除き、試用期間として取り扱われるとしています。

つまり、こうしたケースに認定されれば、法律的には期間の定めのない契約を結んでいて、かつ、有期契約の期間は試用期間に該当するということになります。

そうなると、結果的に有期契約にしたとしても、通常の試用期間と同じ基準で本採用拒否が許される場合でない限り、期間満了という理由だけでは雇用契約を終了させることはできなくなってしまうのです。

試用期間の代わりとなる有期契約の性質

適性や能力をみる意味合いから設けるが、試用期間と判断されない有期契約を表わす表現として、ここでは「試用期間の代わりとなる有期契約」という言葉で以降統一します。
そのメリットとデメリットは次のとおりです。

メリット

(1)解雇の問題が生じない

あらかじめ期間を定めて雇用しているので、勤務態度や成績が思わしくない場合はもちろん、会社の求めるスキル不足や適性が合わない場合には、契約期間が満了すれば更新せずに終了できるメリットがあります。

契約期間満了による退職であれば解雇にはあたらず、解雇権の濫用という問題がそもそも生じないからです。

ただし、前述のとおり、明らかに試用期間と同じものだと認められると、解雇に準じた判断をしなければなりません。
また、雇止めについては別途守るべき条件があります。

(2)社会保険に加入しなくてもよいケースがある

健康保険・厚生年金保険の加入条件として、「2か月以内の期間を定めて雇用される者」は適用除外とされています。
試用期間の代わりとなる有期契約を2か月以内とした場合、その期間については社会保険に加入の必要はないということです。

もっとも、試用期間後にほぼ例外なく正社員となることが予定されている場合などは、採用当初から社会保険の加入が必要と判断されることもあります。

デメリット

(1)採用そのものがむずかしくなる

試用期間の代わりとなる有期契約とする場合、当然に募集時の雇用形態は「契約社員」となり、雇用期間は入社時に定めた契約期間となります。

応募者の立場からすれば、安定性の高い正社員の募集を優先することは当然であり、契約社員でしかも契約期間が短く更新の確約がない募集となると敬遠される可能性が高くなります。

買い手市場であれば多少厳しい条件をつけても応募者が集まる可能性はありますが、リスクを避けてよい人材を採用するための有期契約の条件提示によってかえって誰も採用できない、という本末転倒の状況にもなりかねません。
このため、試用期間の代わりとなる有期契約は、市場のニーズと会社のリスクをみながら慎重に設定することが求められます。

(2)契約期間途中の解除が困難

有期契約は契約の終了時期があらかじめ決まっているため、契約期間の途中で解除するためには「やむを得ない事由」がなければならないとされています(民法628条、労働契約法17条1項)。

この「やむを得ない事由」とは、期間の定めのない契約において解雇の合理性が認められる事由(労働契約法16条)よりもさらに重大なものでなければならないとされています。

そのため、試用期間の代わりとなる有期契約を設定した場合、よほどの事情がない限り、期間途中での契約解除は認められないということになります。

有期契約の設定期間をどう考えるか

期間の定めのない契約の場合、試用期間は3か月~6か月の範囲で設定されるのが一般的です。
試用期間の代わりとなる有期契約を結ぶ場合にも、同様の期間を設定するのが妥当であると考えられます。

ただし、社会保険の加入について考慮するのであれば、2か月以内の期間を定めて設定するという方法もあります。
また、次の条件を満たしていなければ、試用期間の延長は原則としてできないとされています。

  • 試用期間の延長について就業規則等に規定されている
  • 本人の同意を得て行なっている
  • 本人の適性に疑問があり、その採否につき、なおしばらく、本人の勤務態度を観察する期間の必要性があるとの合理的な理由がある

ただし、当初の契約期間では適性の判断がどうしてもできないという場合にのみ、「本来であれば契約終了となるべきところを、ラストチャンスとして1回限り、有期契約を更新する」と説明し、本人の同意を得て再度契約を結ぶ形はあると思います。

雇止めが成立する要件と本採用時の注意点

期間の定めのない試用期間において本採用拒否が認められるためには、本採用拒否が客観的にみて合理的な理由があり、かつ、社会通念上相当であると認められることが必要です。

有期契約の場合は契約期間が決まっていますので、あらかじめ更新をしない旨の合意をしていれば、当然に契約期間終了で退職となります。

一方、契約更新が前提となっている場合には、更新の判断基準を明記する必要があります。

こうした部分を労働条件通知書や雇用契約書で明確にしつつ、自社の姿勢について、社員にも十分に説明しなければなりません。

一方で、適性・能力のある社員については、契約期間終了後に正社員として本採用することが制度の狙いです。
とはいえ、正社員登用が前提であると誤解する説明は避け、その可能性がまったくないわけではないが、勤務態度や能力、適性をしっかりとみて判断すると説明しておく必要があります。

その結果として正社員登用する社員については、本採用時に労働条件の明示や契約書の作成をあらためて行なうことが必要です。
事前に合意する内容(有期の雇用契約書に記載すべき内容)については、厚生労働省のHPから入手できる「モデル労働条件通知書」が参考になります。

特に『「契約期間」について「期間の定めあり」とした場合に記入』の項目において、自社の契約更新についての基準を明示しておくことが、非常に重要なポイントになります(図表2)

雇止めの際の留意点

本採用せず雇止めする際は、実情に応じて本採用に至らなかった理由や、本人の足らない部分を説明したほうがよいでしょう。
必ずしも説明する義務はないのですが、この部分をないがしろにすると、後々トラブルになる可能性が高くなります。

また、これは通常の有期契約にもいえることですが、契約期間満了だからといって、ぎりぎりに終了の意向を伝えるのは望ましくありません。
社員にとって、仕事が続けられるか契約満了で終了となるかは非常に重要な問題であり、契約終了となれば次の仕事を探す準備もしなければなりません。

退職後にスムーズな転職活動が行なえるよう、ある程度余裕をもって本採用の可否を伝えることが必要です。解雇予告の基準に合わせて、少なくとも契約期間終了の30日以上前に予告しておくのが望ましいといえます。

想定されるトラブルで一番多いと考えられるのは、契約期間満了での退職とした社員が、その取扱いに納得せずに、労働基準監督署などに駆け込むことです。
多くの場合は、有期契約終了後に正社員として本採用されると(思い込みも含めて)思っていたにもかかわらず、本採用されなかったと訴えるのです。

段階に応じてしっかりとした説明をすることにより、過剰な期待を抱かせず、トラブルのリスクを減らすことができると考えます。
図表3にそのポイントを挙げましたので、参考にしてください。

≪募集時≫
・採用当初は有期契約であることを明示する
≪契約締結時≫
・有期契約が試用期間であることは説明しない
・期間満了で契約終了が原則であり、正社員登用は可能性のひとつと説明する
≪契約期間満了時≫
・時間的に余裕をもって本採用の可否(本採用しない場合はその理由)を伝える
図表3 各ステップの対応ポイント

月刊「企業実務」 2013年4月号
多田正裕(社会保険労務士)

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