成果の出る目標管理(MBO)制度運用のポイント
適切な評価と生産性向上に活かす目標管理のメリット・デメリット
ひとり1時間あたり3,119円収入が増える
目標管理の主要なメリットは3つあります。
まず労働生産性が上がることです。
目標管理に関する研究のメタ分析(いくつかの分析結果をさらに分析すること)によると、目標管理を実施した企業の97%で労働生産性が上がっています。
上昇率を数値で測定した研究では平均45%上がります。
OECDの2020年統計によると、日本の1時間あたり労働生産性は49.5ドルです。
1ドル140円で換算すると6,930円です。6,930円の45%は3,119円です。
目標管理は煩雑ですが、社員ひとりにつき1時間あたり3,119円の追加収入があるわけですから、煩雑さに耐える価値はじゅうぶんあります。
評価への公正感が増す
第二のメリットは評価への公正感が増すということです。
評価が公正に行われているという実感は、社員の、会社へのコミットメントを高めることがわかっています。
コミットメントが低下すると、離職が増えたり、会社へのサービス精神が低下したり、会社の価値観を共有しなくなったりと、さまざまな弊害が出ます。
では、どういう評価が公正であるかというと、次のようなことが条件です。
- 評価基準を公開できる
- 評価結果を本人に開示できる
- どうしてそういう評価結果になったのか、証拠をあげて説明できる
- 評価結果に対して異議申し立てができる
ところで、目標管理と並んで知られている評価手法に図式評定尺度法があります。
難しい名前ですが、評価と聞けば誰でも連想するような、「積極性があるか」「協調性があるか」というような、いくつかの問いに5点満点で採点する方法です。
この図式評定尺度法が評価の対象にする「○○力」「○○性」といったもののことをトレーツといいます。
トレーツによる評価は、組織への貢献度を正確に測定できるわけではないので、人事評価には使うべきでないと専門家の間で結論づけられています。
専門家ならずとも、このような方法で公正な評価がなされていると感じる人は少数派でしょう。
図式評定尺度法では、上記条件の①と②はともかく、③と④を実現することは困難です。
「あなたはこういう理由で積極性がない」などと、証拠をあげて説明するのは難しいでしょう。
異議申し立て窓口を設けても、どちらの主張が正しいかを判断することができません。
その点、目標管理は4つすべてを実現することが可能です。
上司と部下の葛藤が減る
三番目のメリットは、上司と部下の葛藤が減ることです。
上司と部下の葛藤の多くは、部下から見れば「指示がコロコロ変わる」とか「細かいところまで口出ししすぎ」とかいうことに、上司から見れば「言わなきゃやらない」とかいうことに起因します。
しかし目標を目標管理シートに書き、達成に向けての行動を本人に任せる目標管理を行うと、そういう葛藤が起こりにくくなります。
上司の負担は重い
反対にデメリットは、上司の負担が重いということです。
評価すること自体は煩雑ではありません。目標は明確なものを立てるので、達成できたかできなかったか、あるいは何%達成できたかは自明だからです。
難関は目標を立てることです。
特に全社目標は白紙の状態から立てなければならなりません。また目標設定、中間集計、最終評価という節目で面接しながら、ことを進めるのも重労働です。
これには解決策も代行してくれる業者やIT機器もありません。
スポーツの世界で、効果的なトレーニング法が苛酷な負荷を避けられないのと同じことです。