不要な機械設備を売却・破棄したときの手続き
正しい処理でトラブルを防ぐ使わなくなった機械や設備装置を売却・廃棄する際は、意外とトラブルになりやすいものです。そこで、経理処理や税務上の留意点などについて知っておきたいポイントをあげてみました。
実務上、不要になった機械や設備装置を売却もしくは廃棄するケースは少なくありませんが、その事務処理手続きは必ずしも容易ではありません。
そこで、機械設備等を売却したときと廃棄したときとに分けて、経理処理のポイントや税務上の留意点などについてみていくことにします。
機械設備等を売却したときの処理
機械設備等を売却した際、その売却価額が帳簿価額を超える場合は、その超える部分の金額が固定資産売却益となり、損益計算書の特別利益に計上します(図表1)。
逆に、その売却価額が帳簿価額に満たない場合には、その満たない部分の金額が固定資産売却損となり、特別損失に計上されることになります。
なお、売却のために直接要した費用がある場合には、その費用は売却価額から控除して固定資産売却損益を計算します。
機械設備等の売却損益の計上において留意すべき点は、以下のとおりです。
売却損益の計上時期
機械設備等の売却損益は売却したときに計上すべきですが、「売却したとき」とはいつかが問題になります。
民法では、売却したときを「売買契約締結の日」とする考え方もありますが、会計および税務では、その機械設備等の「引渡しのあった日」に売却損益を計上することになります。
帳簿価額について
帳簿価額は、会社が計算しているその資産の未償却残額(取得価額-減価償却累計額)です。
通常はこれで問題ありませんが、会計上(会社計算)の帳簿価額と税務上の帳簿価額とが異なる場合、つまり、売却した資産について償却超過または評価損の否認がある場合には、法人税申告書の別表四において減算調整する必要があるので注意してください。
なお、売却した資産に償却不足がある場合には、その償却不足額は帳簿価額に含めて損金算入され、その資産の売却により消滅するので、別表四での調整は特に必要ありません。
売却した年度の減価償却
機械設備等を売却したとき、会計上は、期首から売却時までの減価償却費を計上してその資産の帳簿価額を計算するのが原則です。
ただし、税務上は売却時までの減価償却費を計上しないで期首現在の帳簿価額により売却損益を計算してもかまいません。
当期分の減価償却費を計上すると、その分だけ帳簿価額が減少して売却益の増加(または売却損の減少)となりますが、減価償却費と相殺(または合計)すれば利益には何ら影響がないからです。
一括償却資産の売却
取得価額が20万円未満の減価償却資産は、通常の減価償却の方法によらないで、3年で均等償却することができます。
この3年で均等償却している資産を、一括償却資産といいます。
この一括償却資産の全部または一部を売却した場合に、売却した一括償却資産の帳簿価額を求めて、売却価額との差額を「売却損」または「売却益」とすることはできません。
売却価額を雑収入に計上し、一括償却資産についてはそのまま償却していくことになります。
税務調査対策
機械設備等を売却したときの税務調査のポイントは、売却損益の計上時期が適切かどうかという点にあります。
つまり、翌期に計上すべき売却損を今期に繰上げ計上していないか、また今期計上すべき売却益を翌期に繰延べ計上していないかということです。
したがって、売却した資産の受領書や引取書には、その引渡しの日付を必ず記載してもらって保管しておく必要があります。
機械設備等を廃棄したときの処理
一方、機械設備等を廃棄したときは、その資産の帳簿価額から廃材等の見積額を差し引いた金額を固定資産除却損として特別損失に計上します。
廃棄した機械設備等の除却損の計上にあたっての留意点は、次のとおりです。
帳簿価額および廃棄年度の減価償却
売却したときと同じく、帳簿価額は会社が計算しているその資産の未償却残額で、償却超過または評価損の否認がある場合には別表四で減算調整が必要になります。
期首から廃棄時までの減価償却費を計上するのが原則ですが、減価償却をしなくても差し支えありません。
一括償却資産の廃棄
売却したときと同様に、一括償却資産の3年均等償却の適用を受けている場合には、その後にその一括償却資産を廃棄したとしても、除却損を計上することはできません。
一括償却資産の全部または一部を廃棄した場合であっても、そのまま3年で均等償却することになります。
スクラップの売却収入
固定資産除却損は、帳簿価額から廃材等の見積額を差し引いた金額です。
廃棄した機械設備等によっては貴金属が含まれていることからスクラップの売却収入が発生することもあるので、スクラップ代の収入計上漏れがないかどうか、確認しておく必要があります。
たとえば、機械装置等を期末に除却して、スクラップの売却が翌期になったような場合、スクラップの売却収入を計上するのは翌期ではありません。
スクラップの売却額(または売却見積額)を廃棄した機械設備等の帳簿価額から差し引いて除却損を計上することになるので注意してください。
税務調査対策
機械設備等の廃棄があったときの税務調査のポイントは、廃棄の事実と廃棄の時期です。
廃棄の稟議書を作成しておくことは当然ですが、廃棄した機械設備等の写真を撮影しておくと事実の証明に役立ちます。
廃棄前の写真と廃棄後の写真を日付入りで撮影しておくと、その事実だけでなく廃棄の時期も証明できます。
機械設備等の解体を業者に依頼している場合には、その事実と時期が明記された見積書・請求書などの、廃棄した資産を社外で処分しているときは、廃材の運送業者の配送の控などの証憑書類があれば、税務調査の際のトラブルは避けられるものと思われます。
機械設備等の有姿除却
減価償却資産の除却損が認められるのは、現実にその資産を廃棄処分したときが原則ですが、その資産の使用価値が尽きていることが明確なものについては、原状有姿のまま除却損を計上できることになっています。
これを有姿除却といいます。
これは、たとえば、企業の次のような実情と必要性に配慮し、現実にその資産を廃棄処分していない場合でも除却損の計上を認めるものです。
- その資産の解撤、破砕等に多額の費用を要することが見込まれるため、当面、解撤、破砕等をせずにそのまま放置しておく
- すでに固定資産としての使用は廃止しているものの、将来ごくわずかでも再使用の可能性があるため、当分の間はそのまま解撤、破砕等をせずにそのまま保有しておく
企業のこのような実情から、その資産が固定資産としての使用価値を失ったことが客観的に証明されれば、有姿除却することが認められています。
法人税基本通達7-7-2では、有姿除却が認められるケースとして2つの事例(図表2)を掲げています。
有姿除却にあたって注意すべき事項は、次のとおりです。
取壊費用の見積額
有姿除却にあたり、その資産の取壊費用の額をあらかじめ見積もり、その金額を費用に計上したり、その資産の処分見込額から控除して除却損を計上できるかどうかはポイントになるところです。
会計上は発生主義の原則により、この取壊費用の見積額を未払費用に計上することになります。
しかし、税務上は債務確定基準が適用されることから、取壊費用の見積額を未払費用に計上することは認められません。
税務調査対策
有姿除却をめぐっては税務当局とトラブルが発生することも多く、税務調査への対策が欠かせません。
有姿除却が認められるためには、その資産が固定資産としての使用価値を失ったことを客観的に証明する必要があります。
製造ラインなどの大型の資産を有姿除却する場合には、役員が承認した企業の経営計画にその資産の除却が織り込まれていて、その資産の運用担当者の配置転換等が済んでいる必要があります。
書類としては、その資産を有姿除却する理由を具体的かつ詳細に記載した稟議書、役員会での決定を記載した議事録などを作成しておく必要があります。
金型や小型の機械などを有姿除却する場合には、個々の生産対象となる製品ごとに、今後製造しないことを立証できるようにしておく必要があります。
書類としては、その製品が会社の販売品目から外されたことを証明する稟議書、その金型や機械が他の製品の生産には転用できないことを証明する説明書(現場の技術者等によるもの)などを作成しておくとよいでしょう。
総合償却資産の売却または廃棄
売却または廃棄(以下、除却等といいます)した資産が個別償却資産であれば帳簿価額が問題になることはありません。
個別償却資産は、個々の資産ごとに個別的に減価償却計算および記帳が行なわれているからです。
しかし、総合償却資産の一部だけの除却等となると帳簿価額の算定が面倒になってきます。
総合償却は、耐用年数が異なる異種資産または耐用年数の等しい同種資産や性質・用途などが共通性を有するいくつかの資産を1グループとした各グループにつき、平均耐用年数を用いて一括的に減価償却の計算および記帳を行なう方法です。
総合償却資産は総合耐用年数を適用するのが建前なので、除却等した個々の資産の耐用年数ではなく、総合耐用年数により未償却残額を計算するのが原則です。
なお、除却等した資産が実際に特別償却、割増償却または増加償却の適用を受けている場合には、これらの償却があったものとして未償却残額を計算します。
ただし、以下のような2つの特例が認められています。
未償却残額除却法(償却額の配賦がされていない場合の特例)
総合償却資産の一部について除却等があった場合、除却等の損益計算の基礎になる帳簿価額は、継続適用を条件として、個々の資産の個別耐用年数を基礎として計算される未償却残額によることができます。
特別償却等の適用があれば、それらの償却があったものとして未償却残額を計算します。
配賦簿価除却法(償却額の配賦がされている場合の特例)
総合償却資産の償却費を、それに含まれる個々の資産に合理的基準に基づいて配賦している場合は、その帳簿価額を基礎として個々の資産の除却等による損益を計算できることになっています。
「合理的基準に基づく配賦」とは、たとえば、総合償却資産の償却費を、総合耐用年数を基礎として計算される償却可能限度額に応じて個々の資産に配賦する場合などです。
なお、償却額の配賦がされていない場合であっても、その事業年度において個々の資産に合理的基準に基づいて償却費を配賦すれば、この特例を受けられます。
少額減価償却資産の売却または廃棄
個別償却資産は、個々の資産の個別耐用年数に応じて個別に償却が行なわれるので、除却等をしたときの帳簿価額は会社が記帳している帳簿価額によればよく、通常は税務調査でも問題になることはありません。
しかし、個別償却資産でも、資産の種類や構造、用途、細目または耐用年数が同一であれば償却限度額を通算して計算することになるので、通算された償却費を個々の資産に配賦していないような場合には、個々の資産の帳簿価額が明らかではありません。
このような場合は、除却等があった資産につき、その法定耐用年数を基礎として計算される除却等の時の未償却残額を計算することになります。
しかし、少額の減価償却資産では、個々の資産の取得価額等が明らかでない場合や個別管理が困難な場合もあるので、以下の2つのような例外的な方法も認められています。
取得価額等が明らかでない少額の減価償却資産
ここで少額の減価償却資産とは、取得価額が20万円未満の減価償却資産で少額減価償却資産の一時償却および一括償却資産の均等償却の適用を受けなかったものをいいます。
この少額の減価償却資産を除却等した場合、その除却等をした資産の取得時期および取得価額が明らかでないため、未償却残額を計算できないときは、原則として、その除却等をした資産の帳簿価額は1円とすることになります。
個別管理が困難な少額資産の簡便計算
取得価額がおおむね40万円未満の少額資産で、個別管理が困難な工具や器具備品については、償却計算と除却計算を一体とした簡便計算が認められています。
たとえば種類、構造または用途および細目、事業年度ならびに償却方法ごとの計算が可能で、その除却数量が明らかにされている工具等について、まずその種類等の区分を同じくするものごとに一括して償却費を計算します。
そして、その一部につき除却があった場合には、その取得の時期の古いものから順次除却するものとしたときの未償却残額により除却価額を計算します。
この簡便計算は、全体として数量管理が可能であれば認められますので、その適用範囲は広いものと思われます。
月刊「企業実務」 2011年10月号
高橋敏則(公認会計士・税理士)