取扱製商品に欠陥・不良があったときの初期対応の心得
いつでも起こり得る!どんなに品質管理を強化しても、欠陥・不良のある製商品が消費者や取引先に届くリスクをゼロにすることはできません。トラブルは起こり得るという前提で、いざというときの対応策を考えておくことが必要です。
目次
製商品の欠陥・不良と企業に課せられる責任
取扱製商品の欠陥・不良が発覚したとき、企業には様々な責任が問われます。
良品を引き渡す責任
第一に、製商品の売買契約が成立すると、製商品の売主には製商品の代金と引換えに、製商品の引渡し債務が発生します。
買主と合意した品質に達していない場合、その製商品は不良品であり、良品にして引き渡す責任が売主に発生します。
この不良品を良品にする責任は、売買契約のないところには発生しません。
「メーカーA→小売店B→消費者C」という流れで製商品が売買された場合、消費者Cに対してメーカーAが直接責任を負うわけではありません。
たとえば、小売店Bが店頭陳列時に製商品を落下させた結果、不良品となってしまった場合を考えるとわかりやすいでしょう。
その場合、製商品の品質を低下させたのは小売店Bであるわけです。
PL法による製造物責任
メーカーや輸入業者の場合、直接売買していない消費者に対して責任を負う場合もあります。
製造した製商品に欠陥があったとき、メーカー(輸入業者)は、製造物責任法(PL法)による損害賠償責任を負います。
PL法上の「製造物」とは、「製造・加工された動産」のことをいいます。
不法行為責任
一方、不法行為責任は製造物かどうかに関係なく発生します。
バスの運転手が居眠りをして事故を起こし、乗客がケガをした場合、仮にそのバス会社は乗客ではなく旅行代理店が契約したものだったとしても、乗客に対する不法行為による損害賠償責任がバス会社に発生することになります。
業界関連の法令を遵守する責任
製商品を売買する当事者の間で発生する責任以外にも、食品加工業における食品衛生法上の(添加物などの)表示義務など、それぞれの業界に関連する法令があります。
法令を遵守していない製商品を製造販売した場合は、広い意味での欠陥品・不良品を製造販売したことになり、民法上のみならず、場合によっては刑法上や行政上の責任を負うことがあります。
道義的な責任
法的に責任がなくとも道義的な責任が発生する場合もあります。
ゼリータイプのこんにゃくの安全性について争われた裁判で、第一審ではメーカーが勝訴しましたが、製品を喉に詰まらせる事故を防ぐ努力をメーカーがまったくしなくてよいかどうかは別の話です。
大規模な全品回収をせざるを得ないような不良品が発生しなくても、部分回収に至る品質事故や、個別にクレームのあった顧客に対して新品交換をせざるを得ないような不良品対応は、多少なりとも普段から発生しているものです。
品質管理の側面で捉えれば、重大事故の防止のためには、事故の発生が予測された段階すなわち不良に至らないクレームの件数を減らしていく必要があります。
つまり、欠陥・不良の発生情報について、設計や製造部門に常にフィードバックすることも求められます。
顧客対応における基本的な心構え
顧客対応の側面で捉えれば、大規模回収であろうが個別対応であろうが、常に同じ顧客対応ができる体制を整えておくことが大切です。
「迅速に対応する」「事実を確認する」「ウソをつかない」「負い目がない場合は毅然と対応する」などの基本的な行動は、普段からそういう対応を心がけることで、大規模回収や重大品質事故対応の予行演習を行なっていることになります。
迅速に事実を確認し、決してウソをつかない
特に「ウソをつかない」ことは重要です。「できないことをできると言う」「わからないことを断定的に言う」のはウソです。
一旦ついたウソは取り返しがつきません。できないことはできる限り代替案を提示すべきです。
また、自社に不備があったかどうかまだわからない段階で、非を認めて謝罪することも厳禁です。
わからないことは「わかりません」と認め、事実確認の方針と進捗状況を中間報告として伝えることが重要です。
顧客対応部門で事実確認ができないときは、設計や製造部門に調査を依頼できる体制を整えておくことも迅速な事実確認のためには必要です。
負い目がない場合は毅然と対応する
反社会的な組織や団体、悪質なクレーマーなどから不当な要求や脅迫をされた場合は、安易に応じてはいけません。
一旦、そうした要求に応じてしまうと、クレーマーなどが味をしめて、さらに次の要求を突きつけてくる可能性があります。
こちらに負い目がない場合は、毅然とした態度で断わり、必要に応じて法的対応を取る姿勢を示すことが重要です。
先方は自分に正当性がないことは百も承知ですから、こちらから「法的対応を取る」と言った途端に勝ち目がないことを自覚し、連絡を取ってこなくなります。
内容によっては、初期対応が済んだ後で法務部門や弁護士などの専門家に引き継げる体制も整えておくべきでしょう。
基本を押さえて、危機対応のマニュアルを策定する
以上のような基本を押さえたうえで、「ユーザーサポートのホームページに情報を掲載する」「営業部門とサービス部門で回収体制を整える」「社長会見を開催し、事態収拾のための専門部署を新設する」などの状況を設定してメニューを変えていくマニュアル(コンティンジェンシープラン)を策定し、定期的にリハーサルと見直しをしておくのが理想的です。
いずれにせよ、不良品が市場流出して、クレームになってから対応するのでは遅いので、先手を打つつもりで「いつも発生しているクレームに対する対応力を常日頃から組織として磨き上げる」ことが大切です。
第一報が電話、メール、FAXで届いたときの対応
ここから具体的な対応策について説明します。
クレーム元が、消費者であれ、販売店であれ、第一報は電話で届くことが多いと思います。
電話の場合は、クレーム品を見て確認はできないわけですから、不良の発生状況と発生内容を電話で聞き取る必要があります。
先方は憤慨して冷静さを欠いているかもしれませんし、そういう相手にこちらも慌てて対応しているかもしれません。
クレーム元の話を傾聴しつつ、いま起きていることを正確に電話で聞き取るために、聞き取り項目をあらかじめリストアップした「クレーム対応チェックシート」(下)を用意し、全社に配付しておくとよいでしょう。
メールの場合、文字情報でやりとりするのでたいした情報交換ができません。
先方がクレーム内容をうまく伝えられない可能性がありますし、返信ややりとりの回数が増えると、かえって話がこじれることもあります。
したがって、メールでクレームを受け取った際は先方のクレーム内容を「これだ」と決めつけてはいけません。
そして、できる限り1回の返信で済ませられるように、様々な側面から問題を解釈して、それぞれの回答を書いて返信します。
また、可能であれば、メール以外の連絡手段を聞いて、電話などで対応するようにします。
メールを受信したら受信確認メールを自動返信するように設定しておくのはよいことですが、その場合でも、1営業日中には必ず個別の一次回答を返信するようにします。
その際、第一報のメールに書かれてあったクレーム内容がよくわからなければ、先方の状況がよく掴めない旨を記述したうえで「詳しく状況を確認したいので、お電話番号をご連絡いただけないでしょうか?」という主旨の一次回答の返信でもかまいません。
クレームを放置すると先方は不審に思います。
それだけでその後の対応の難易度が上がるのです。
FAXでの第一報は、取扱説明書にあらかじめ印刷したFAX送信書式を使用している場合などが多いのではないかと思います。
その場合、クレーム元の心理状況は、不満を説明することよりも過不足なく書式の項目を埋めることに気を取られていることが多いので、書式自体が初期対応のために必要な情報をもれなく盛り込んだものになっているか確認する必要があります。
情報のヌケ・モレをなくすという意味では同じですから、先に述べた「クレーム対応チェックシート」の項目をFAX送信書式の参考にするとよいでしょう。
迅速・正確な事実確認のしかた
品質管理の原則のひとつに「三現主義」があります。
「現場で不具合の起きた現物を観察し、どのような状態であるのか現実を確認する」という、机上の空論で終わらせない、事実を正確に確認するための問題解決姿勢のことです。
市場で発覚した不良の場合は、すぐに現場に駆けつけることができないケースも多いでしょう。
そうしたとき、現場には行けなくても、製商品のみならず、その使用環境を含めた不良発生状況を可能な限り聞き出し、社内でその状況を再現することで、現場のシミュレーションを行なうことは可能です。
第一報のファースト・コンタクトの際にチェックシートで5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)をふまえた聞き取りをするのはもちろんです。さらに、実際に製商品を用意して確認することも、初動を迅速にすると同時に、間違えた判断をしないための基本原則です。
ソフトウェアなどでは、実際に不具合の起きたデータをクレーム元から送ってもらうこともあります。
どうしても同じ状況が再現できない場合は、先方の了解を得て、クレーム元で使用されている製商品を送ってもらい、検証することも検討しましょう(業務で使用している製商品などは、一時的に代替品を送ることが必要な場合があります)。
顧客対応の担当者を決めておく
体制整備の一環として、一次受付は営業や総務などのファースト・コンタクトのあった部門で対応し、事実確認以降の対応は、担当者を決めてその担当者に引き継ぐことも考えましょう。
担当者を決めて対応すると、同種や類似したクレームに対するマニュアル化やデータベース化が可能になり、ノウハウが蓄積され、対応を迅速化できます。
また、新製品で初期不良が大量に発生したような場合であっても、その担当者が一時的に情報が集中するコントロール・センターの役割を果たすなどのメリットもあります。
専任の担当者を置くことができない場合でも、兼務でかまわないので、必ず顧客対応担当者を決めるようにしましょう。担当者を明確にすることは、重大事故の初動をスムーズに行なうためにも重要です。
相手が一般消費者の場合の留意点
たとえば購入した薄型テレビが新品不良だった場合、「不良品をつかまされた」という「不満」はもちろんですが、その不満と同時に、「クレームを聴いてくれる相手は自分のクレーム内容を正確に理解してくれるだろうか」という「不安」のふたつの心理が消費者に働いているといえます。
人は「話を聴いてもらえた」ということだけでも不思議と安心するものです。
したがって、一般消費者を相手にしたときに、第一に留意すべきことは「クレーム元の話を傾聴し、正確にその状況を確認して不安を取り除き、手際よくトラブルを解決して不満を解消する」ことです。
クレーム元の話を傾聴し、先方の困っている状況に共感するというメンタルな側面に対応するだけでも、クレームの半分はおさまるといえるかもしれません。
対応を間違えて、不満を爆発させた消費者がインターネットなどにクレームを書き込むような状況にしてはなりません。
常に誠実さをもって、不安と不満を解消することを心がけていれば、そのような状況にはほとんどならないはずです。
パナソニック(旧松下電器産業)が、FF式石油暖房機の事故で対象機種について最後の1台まで回収しようとしている姿勢は、誠実な事故対応をした企業の模範例となっています。
このように、誠実なクレーム(事故)対応を行なうことで、むしろ消費者の安心感が醸成されることもあるのです。
また、クレーム元が企業であれば、「クレーム元の業務に及ぼす影響を最小限にするにはどうすればよいか」まで考慮する必要があります。
欠陥品や不良品の市場流出は、現実にはなかなかゼロにはできませんから、クレームといつも真摯に向き合いましょう。
不良品の流出は残念なことですが、「顧客との信頼関係を再構築する機会のひとつ」と捉えて、これまで述べてきたことを実践すれば、必ず高い信頼を得られる企業になれるはずです。
月刊「企業実務」 2011年3月号
中川照也(中小企業診断士)