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金網中心に技術を深掘りし様々なオリジナル製品を開発(石川金網株式会社 社長 石川幸男)

キラリと光るスモールカンパニー

掲載内容は取材当時のものです。
現在の情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。


1922(大正11)年に現社長の祖父が創業した石川金網は、日本の金網産業の歴史とともに歩んできた老舗企業だ。

現在では、日用品としての金網にとどまらず、様々な工業機器に使われる金網製フィルターの製造から、高いデザイン性をもつ金網製パネル『パーフォアート』の開発まで、その活躍分野は多岐におよんでいる。

◇    ◇    ◇

金網というと、何を連想するだろうか。塀や柵などの建築資材、あるいはざるや焼き網などの厨房道具といったところか。もちろん、そうした日用品にも数多く使われているが、いまや金網は、素材や種類が驚くほど多様に進化し、様々な産業において必要不可欠なものになっている。

石川金網は1922(大正11)年創業の老舗企業。創業当初より金網の製造販売を手がけてきた。まさに金網一筋で、同社の歴史は金網の歴史そのものと言っても過言ではない。現在同社は、日用品や建築土木用など多くの金網製品を手がけているが、主力商品は産業用のフィルターである。

様々な工作機械や製造装置、自動車などには、歯車や機構の摩擦を減らすための油が不可欠だ。循環する油から不純物を取り除ききれいに保つために使われるのが、金網製のフィルターで、樹脂製品をつくる押し出し成形機用の樹脂材料から、不純物を濾しとる際にも金網製フィルターが使用されている。

金網は、網目の大きさを変えたり、網目の違う金網を組み合わせたりすることで、液体だけでなく、固体や気体も濾過したり、ふるい分けることができる便利な道具なのだ。同社三代目の石川幸男社長(54歳)は、こう語る(以下、発言は同氏)。

「金網業界は、原材料の高騰などマイナス要因はあるものの、全体的に好調といえるでしょう。金網は1人でもつくれるので、個人営業に近い零細企業が大半です。また少量多品種生産が求められるので、大手が参入するメリットは薄い。当社は業界では中堅どころですね」

金網の修整、検査用機械を自社で作成

金網はそのつくり方で、「織(おり)金網」と「パンチングメタル」の2種類に分かれる。

まず織金網は、金属の線材を織機を使って編み上げるもので、日本で初めて使われたのは、飛鳥時代の社寺建築と言われている。網目の大きさや素材を変えることで、用途に応じた多様な金網をつくることができる。精細なものでは網目がミクロン単位にもなり、これを精度よく織り上げて加工するには、高い技術力が必要とされる。

「最近ではモリブデンやタングステンといった特殊な原材料を使った金網のニーズもあり、原材料メーカーと共同で開発しています。これらは航空宇宙関係や耐熱用途などに用いられています」

金網は、線材の太さや材質ごとにすべて異なった織機が必要なため、あらゆる金網を一手に製造する企業は存在しない。そのため各社が得意な分野を受け持ち、互いに供給し合うのが業界の商習慣になっている。

石川金網も100軒ほどの協力工場をもち、そこで織り上げられた金網を仕入れて、同社で加工し納品するケースが多い。産業用の金網フィルターは、ほとんどがオーダーメイドであり、いわば元請けとして、協力工場に金網を発注しているのである。また、同社は商社機能ももち、必要な金網を仕入れて、卸販売も行なっている。売上のうち、製造販売が6割、卸売りが4割だ。ちなみに輸出も一部行なっており、売上の1割ほどを占めるようになった。

金網製品の製造において最も難しいのは、実は金網自体の「修整」である。編目が細かくなればなるほど、金網に反りやゆがみが生じやすくなる。これを修整して、平らにすることにかなりの技術を要するのだ。他社では職人が手作業で直すことが多いが、石川金網では職人のノウハウを研究して、誰でも短時間で修整できる専用の機械を開発した。

「ゆがみを修整するための市販の機械もありますが、金網は種類が多いので、すべての修整はできません。当社では、自社で装置・工具を開発しているので、他社より効率的に修整し生産することができます。また、最終検査用の機械も独自に研究、開発しました。たとえば、自動車用の製品では、編目のズレなど、一点でも不良品が見つかると全品検査になってしまうので、品質チェックは厳しく行なっています」

金網フィルターは、消耗品として1分ごとに交換されることもあるため、大量に納品する場合も多い。そのため、先方の生産現場に出向いて再検査となると、手間もかかるのだ。また、金網を織る工程で、網目のズレやキズなどの不良をゼロにすることは不可能に近い。そこで、加工後、納品前の検査が重要になる。

検査用の機械では、ゆがみ、網目のズレ、線材が飛び出るヒゲ、線材が丸まってしまうサル(尻尾に似ているため)、油汚れ、ゴミなどをチェックする。最終段階では、ベテラン社員が確認し、修整を加えるなど不良品が出ないよう細心の注意が図られている。

意匠性の高い金網パネル『パーフォアート』を開発

金網のもう1つの製法であるパンチングメタルは、その名の通り金属板を金型を使って打ち抜き、四角や丸、楕円などの穴を開けて、金網をつくるものだ。強度が高いため、フェンスやバルコニーのパネルなど建材としてよく使われる。石川金網では、織金網などを組み合わせてフィルターとしても製造しており、用途自体は織金網とさほど変わらないという。

同社は、この技術を応用してかつてない新製品を生み出した。それが『パーフォアート』である。開発したのはバブル末期の1991~92年。当時、建設業界では、より意匠性の高いフェンスやパネルを求める声が多かった。「ただ穴が開いているだけでは面白くない。何かできないか」と、建築デザイナーから同社に相談が持ちかけられた。

タレットパンチプレスという、NC制御で自由な形状に穴を開ける機械はあったが、加工に時間がかかるため、ある程度、ロットの求められる建材には向かない。そこで、同社は300トンの大型プレス機を導入し、独自の金型とソフトを開発する。金型には200本の針がついており、幅広い面積を一度に加工してデザインパネルをつくることが可能になった。タレットパンチプレスで1時間かかっていたものが、数分で加工できるようになった。

こうして完成したパーフォアート技術で特許を3件、実用新案を2件取得。現在、建物の外装、看板、マンションの手すりやフェンスなどに採用されている。大小2種類の穴を使って様々なパターンを表現したり、絵や写真などを再現することもできる。最初の導入例は、さいたま新都心の郵政庁舎で、屋上をカバーするフェンスに使用された。評判を呼び、その後、新築マンションに相次いで採用されたという。

また、従来のパンチングパネルは穴が等間隔で開いているために、取り付け位置によっては風が吹くと音が鳴る「笛吹き現象」が発生した。しかしパーフォアートは穴がランダムなので、笛吹き現象が発生しないという利点もあった。風洞実験でも確認され、建設業者やマンション住民に喜ばれた。

しかし、デザインには流行り廃りがある。現在は、マンションのフェンスなどにはガラス材が人気で、パーフォアートの需要は減っているという。

「今後は、内装やインテリアを中心に展開しようと考えています。いずれにしても当社にしかできない技術なので、問い合わせも多い。建築業界の方からも技術力を評価されて、会社の信用も上がりました」

曾祖父から受け継がれる「ものづくり」のDNA

石川社長の曾祖父・石川雷次郎氏は発明家として知られ、豊田佐吉と同じ時期に自動織機の開発などをしていたという。

雷次郎氏の影響だろうか、祖父の奉(ほう)氏も、ものづくりが好きで、金網のつくり方を研究し、1922年、荒川区三河島に石川金網製作所を創業した。

「曾祖父が織機をつくっていたからでしょうか、それを金網用に改造して、金網をつくり始めたんです。それ以前は輸入品が大半ですから、国産金網の企業としては、先駆け的存在だったと思います」

当初は自社でかなりの種類の織機を置いて金網を製造していたが、それでは効率が悪いし、コストも高くなる。そこで、次第に金網製造は協力工場に任せ、加工を専門に行なうようになっていった。

大阪万博が開催された70年には、6階建ての本社および本社工場を建設。77年に石川社長の父である賢省(けんしょう)氏が社長に就任。自動車用の金網フィルターも、このころから製造し始めた。
石川社長は、大学を卒業して1年間他社で修業した後、88年に入社した。

「そのころはバブル崩壊の前夜で、業績も好調でしたが、だんだん厳しくなり、従来通りの仕事のしかたでは通用しなくなっていきました。安定収入を得るために量産品の製造も行なう一方で、他社にはできない付加価値の高い仕事を追求しなければならなくなりました。新規開拓にも励みました。自分の目と耳でお客さんのニーズを掘り起こした結果、いくつかの新製品につながった。パーフォアートもその1つです」

現状に甘んじることなく挑戦を続ける

同社は金網以外の分野にも、事業の幅を広げようとしている。

09年ごろ、押し出し成形機用の金網フィルターを製造している関係で、再生樹脂事業者の組合と付き合いが生まれた。そこで相談を受けたのが、ペットボトルのフタのリサイクルだ。フタの原料にはポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の2種類があり、混在したまま再生すると、品質が落ちて安い値段でしか売れず、採算が取れないのが悩みだったという。

「この2つは性質が似ていて簡単には分離できないというのです。当社もフィルターというふるい分けの道具をつくっているので、やってやろうじゃないか、と開発に取り組みました」

ところが着手してみると、樹脂は畑違いで、どこから手を付けていいかわからない。悩んでいると、取引のある信用金庫の産学連携担当者が、「芝浦工業大学で、静電気を利用した樹脂の分別法を研究している教授がいる」と紹介してくれた。こうして同大学との共同研究が始まり、東京都の助成金も獲得した。

だが、PPとPEの分離は想像以上に難しかった。どの程度の静電気を与えて、帯電したり除電すればいいのか、4年間の試行錯誤を重ねたすえ、13年に試作機が完成した。

「開発当初は分別率が85~90%でいいという話だったのですが、研究中に状況も変わりました。現在では95~99%まで精度を上げてほしいということになり、さらに研究を続けています。性能が上がれば、他の用途にも使えるでしょうし、何より当社の開発能力が評価されるきっかけにもなりますからね」と、石川社長に残念がる様子はない。

本業でも、高付加価値製品への挑戦は続く。同社は東京都主催「13年度東京ビジネスアワード」の優秀賞・テーマ賞を受賞した。デザイナーたちと共同で研究した成果で、金属だけでなくプラスチックなど異素材も組み合わせて、装飾用金網として新素材を開発する提案だ。「KANAORI(カナオリ)」というブランド名をつけ、新たな金網の世界を切り拓こうとしている。

「いま、試作品をつくっているところで、自社ブランドとして来年には販売したいと思っています。まずは展示会に出して、反応を見たいですね」

「曾祖父の時代からの、人と違ったものづくりがしたい、新しいものをつくり出したい、というDNAがある」と石川社長。お話をうかがった応接室に、金網で折ったという折り紙が飾られていた。遊び心でつくったというが、これも石川金網のDNAなのだろう。

月刊「ニュートップL.」 2014年7月号
吉村克己(ルポライター)


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