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債務超過寸前から立て直した元気のよい営業出身社長アサヒ飲料・菊地史朗

トップリーダーたちのドラマ

掲載内容は取材当時のものです。
現在の情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。


東日本大震災は、産業界にも様々な影響を与えた。自動車、家電などではサプライチェーンが寸断され、商品供給が遅滞したし、食品や日用品関連業界では、店頭から商品が姿を消すといった状況まで起きた。

各産業、各企業明暗様々だが、さしずめアサヒグループホールディングス傘下のアサヒ飲料などは暗の部分もなきにしも非ずだが、それまでの経営戦略が震災という非常の危機の時期に生きて、明が割合くっきりと出たケースだと言っていいだろう。

「今上期、主要な商品分野で前年度をクリアできなかったのは、サイダー類だけ。あとはコーヒー、ブレンド茶などすべての分野で対前年度比プラスになった。一番大きかったのはミネラルウォーター分野で、昨年五月にハウス食品から買収した『六甲のおいしい水』が今年上半期丸々売上に貢献。『富士山のバナジウム天然水』と合わせ業界シェアもおよそ倍の10%の大台に乗せることができたことだ」

就任して一年半余の菊地史朗社長は温顔を、こう言ってほころばせる。

もっとも最主力のサイダー『三ツ矢サイダー』のみは上期前年度割れとなった。暗の部分ということになるが、これにしても、三月の震災で茨城の工場倉庫に備蓄してあった100万箱が一挙に壊滅したことが主因で、最需要期の夏場以降、盛り返しにかかっている。

そうしたこともあり、この上期、アサヒ飲料はライバル、キリンビバレッジを抜き飲料業界四位へと一つランクアップした。昨年、キリンビバレッジを抜いて三位に躍進した伊藤園をも、瞬間風速では抜いたという情報もあり、三位の座も指呼(しこ)の間(かん)と言って間違いなかろう。

「弊社の業界シェアが10%であるのに対して、トップのコカ・コーラさんは30%近くあるし、二位のサントリーさんにしても倍の20%。かつてアサヒビールが『スーパードライ』で大逆転劇を演じたことがあるからといって、飲料でもというわけにはいかない。これまでもそうだが、今後も基幹商品を中心に着実に各分野で力を蓄えつつ、革新的な新商品を投入して数字を積み上げて行きたいと考えている」

菊地は、あくまでも堅実経営を志向する。

七年連続売上増『三ツ矢サイダー』の復活

菊地は02年に、アサヒビール福島支店長から執行役員常務・営業本部長として飲料に来たのだが、記者はその少し前にたまたま福島へ出張があり、旧知の菊地を訪ねたことがあった。そのおり、菊地が同じフロアにある飲料の支店のほうを振り向いて、こう話したことをなぜか覚えている。

「うちの支店はみな元気にやっているのだが、飲料の社員に元気のないのが気になるんだ」と。もちろん、その時点で菊地が飲料へ移る話などあるはずがない。

飲料の社員に元気がなかったのも無理はない。この当時、飲料は赤字が続き、「私が来たとき、もう一期赤字だと債務超過になるところだった」と言う。

菊地はいかにも道産子らしくおおらかで元気のよいタイプで、名門北海高校の野球部に誘われたくらいのスポーツマンであり、馬力もある。営業の責任者としてはもってこいのタイプ。

飲料に移ると、「商品戦略では『三ツ矢サイダー』『ワンダ』『十六茶』の三本柱を核として、ぶれずにやっていこうと。また赤字脱却まで当面は、本社がリーダーシップをとる形の営業体制をとるぞと宣言、それで突っ走ってきた」のである。

菊地は、1974年にアサヒビールに入社。以来、主として営業、あるいはマーケティング部門を歩いてきた。スーパードライが大ブレークした時期、マーケティング部門にあってその躍進を支えた。飲料では多少のぎくしゃくが当初あったようだが、そうした自信と経験とが上記の方針を貫徹させたのだと言ってよかろう。

なかでも光るのが、1884(明治17)年「平野水(ひらのすい)」の名前で発売された「三ツ矢サイダー」の健闘、躍進である。

「10年前、『三ツ矢サイダー』も炭酸飲料は肥満のもとだ、健康に良くないなどと言われて、売上が減少傾向を辿(たど)っていた。しかしわれわれにとっては大きな財産であり、このブランドの復活なしに弊社の復活はないと考えていた。ではどうしたらいいのか。で、味も、デザインも全部変えよう。また炭酸の濃度を変え、さらには糖分やカロリーをゼロにしようと。やがて、世間では炭酸の見直しが進み、健康にいい、認知症の予防に効果があると言われるようになった。そうしたことから、昨年まで七年連続売上増を記録し、ここ数年、炭酸飲料市場が伸びる牽引車になってきた」

コーヒーの「ワンダ」も、ブレンド茶の「十六茶」も、「朝」をキーワードにした商品を投入、再度の上昇軌道を描くことに成功する。加えて「六甲のおいしい水」の買収。

「水だが、国産と輸入ブランドのうち、ここ数年輸入ものは伸び悩んでいる。震災後、急激に需要が伸びたのも国産ブランド。というのも乳児用粉ミルクを溶くにしても、お茶を入れるにしても国産の軟水が適しているからだ。うちの場合、主力ブランドがともに国産。その点で、多くの消費者に支持された」

『主役は社員だ』をキャッチフレーズに

さて、今後である。
「商品的には、基幹の三本柱をさらに積み増すと同時に、ボリュームの大きなお茶分野などで革新的商品を出していきたい。また『三ツ矢』とともに弊社の大事なブランドである果汁飲料『バヤリースオレンジ』を、なんとか復活させたいと思っている。この復活ができた時に初めて弊社が本当の意味で復活できたと言える」

アサヒ飲料が業界第三位の座を奪取し、その座を確実に維持していくには、やはり緑茶、ウーロン茶、紅茶などでの躍進が必須だ。紅茶ではヒットの芽が膨らみつつあるようだが、何と言っても緑茶がもっとも眼目となろう。またシェアアップだけでなく、利益率の向上も大きなテーマである。

ビール系飲料の市場がシュリンク気味にあるなか、ビール各社は、海外展開とともに国内飲料事業に注力している。アサヒグループにおいても。それは同様であり、菊地に寄せられる期待は大きい。

「来年は第四次中期経営計画の最終年。『主役は社員だ』をキャッチフレーズに、数字的にも次代のアサヒ飲料の基盤を確立したいと考えている」

月刊「ニュートップL.」 2011年12月号
清丸惠三郎(ジャーナリスト)


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